新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.839、2009/1/23 18:39 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【債務整理・過払い請求とブラックリスト】

質問:20年以上の間、年利約29%の金利でCMをよくしている金融業者から借り入れをしています。過払い金が発生している可能性が高いケースと聞きましたが、過払い請求をすると、ブラックリストに載ってしまい、今後借り入れができなくなるというようにも聞きました。将来銀行からの借り入れも予定しているので、全く借りられなくなってしまうのでは困ります。実際どうなのでしょうか。

回答:
1.断言はできないものの、過払い金が発生している可能性は高く、また、今後の銀行からの借り入れにも影響しないで過払い金を取り返せる可能性は高いと思われます。
2.事例集711番も参照して下さい。

解説:
1.近時、最高裁の判例で、利息制限法1条1項に定める利息を超えて利息を支払った場合の過払い金の返還について明確に認めたことで、平成18年12月20日に貸金業法が改正、公布され、遅くとも平成22年までには、みなし弁済規定の廃止、出資法の上限も20%に引き下げられることになりました。これを受け、金融業者も、貸し出す際の利息の引下げを行い、また、過払い金の返還に任意に応じることも少なくありません。過払い金がどれだけ発生しているかは、実際の取引の履歴をもとに利息制限法に基づいて引き直しの計算をしますが、通常全ての取引を示す領収書等を保管している方は多くないので、業者に取引履歴の開示を求めます。実際に過払い金がどのくらいの金額になるかについては、上記の計算をしてみないとわからないというのが正直なところですが、20年の取引ということであれば、過払い金が発生している可能性は極めて高いと思われます。

2.さて、弁護士が以上のような手続きを踏む場合に、過払い金を請求したことでいわゆるブラックリストに載ってしまうのでしょうか。そもそもブラックリストにというのは俗称で、信用情報機関に滞納したことや、破産などの情報が登録されることを指します。各金融機関は、この信用情報をもとに貸付を行なうかどうかを判断(与信審査)します。そして、信用情報機関には、@消費者金融を主な会員とする全国信用情報センター連合会(全情連)、A銀行系の全国銀行個人情報センター、B信販会社系のシーアイシー、業界を横断してカバーするシーシービーがあり、シーシービー以外は、お互いに一部のデータを交換しているといわれています。

3.平成19年6月6日付け朝日新聞が報道したところによると、全情連は、同年9月3日からは、引き直し計算の結果過払いとなり、その結果完済となった場合を、従来の「債務整理」としての登録から、「契約見直し」として登録すると発表したそうです。また、同記事によれば、その他の情報機関においては、上記のような引き直し計算の結果、過払いとなった場合「完済」として登録しているとのこと、また、上記情報機関内での情報交換について、「債務整理」や「契約見直し」は含まれないとも報道されています。以上を踏まえて考えた場合、例えば、あなたの借入先が信販会社とすると、シーシービーとシーアイシーに何らかの情報が登録される可能性が高いですが、過払い金が発生して、残債がなくなるような場合には、「完済」と登録されるので、その後の与信審査に影響を与える可能性は低いといえます。また、借入先が金融系の会社の場合、全情連には「契約見直し」として登録されるとのことですので、金融系の会社の与信審査に影響を及ぼす可能性はありますが、その情報は他の情報機関との間では交換されないので、お尋ねの銀行の与信審査には影響を与えない可能性が高いとは一応いえると思います(シーシービーには、やはり、「完済」として登録されるので、大丈夫ということです。)。もっとも、上記は、絶対そのような扱いであるという保証があるものではありませんので、実際に過払い請求をする場合には、過払い請求という正当な権利行使に対して、不利な情報を登録した場合には、損害賠償を請求する旨添えて、内容証明を出した方が良いと思われますし、また、そもそも実際に過払いになっているかどうかは、20年だから絶対というものではないのでご注意ください(途中で取引期間が空いていたりするケースでは、取引途中発生した過払い金の一部について時効消滅の主張を受けるケースもあります。本当に過払いになっているかは、実際に引き直し計算を行なうまで断言できるものではありません。)。さらにいえば、金融機関が貸し出しを行なうかどうかは、さまざまな情報をもとに金融機関が独自に行なうのであって、ブラックリストのみが与信審査の対象となるものではありません。

4.(ブラックリスト、誤認情報に関する判例参照)

@東京高裁平成10・2・26第八民事部判決。(情報提供差止等請求控訴事件)。
全国銀行協会連合会が設置している全国銀行個人信用情報センター(いわゆるブラックリスト)に会員である金融機関が原告債務者との事前同意に基づき延滞情報を登録したところ、延滞した債務者が、登録制度自体が、憲法13条、14条(プライバシー権の侵害)、公序良俗違反(民法90条)、独占禁止法違反3条(不当な取引)、銀行法21条違反を理由に損害賠償を求めたものである。第一審と同様に請求は棄却されました。情報の登録は、判例が示すように主に経済的破綻の原因となる多重債務者の抑制防止を目的として公益性があり債務者の経済活動を不当に制限するものとはいえず妥当な判断と思われます。

A大阪地裁平2・7・23民一九部判決(損害賠償事件)。
以前クレジット契約(ビデオデッキ)をして、延滞がないにもかかわらず延滞があったとの誤認情報を信用情報センターに登録され新たなクレジット契約(電子カーペット)をできなかった者が損害賠償請求した事件です。誤認情報を登録した信用情報センターには法的責任を認めず、クレジット契約を結んだファイナンス会社に慰謝料10万円を認めた事案。判旨「近年、消費者信用が著しく普及、拡大してきたため、過剰与信を予防するため、消費者信用情報機関の統合・連携が進められ、販売信用の分野においては被告信用情報センターが昭和五九年九月二七日に設立されて昭和六〇年四月から営業を開始し、消費者金融の分野においては全国銀行協会連合会(以下「全銀協」という。)の個人信用情報センター、全国信用情報センター連合会、株式会社セントラルコミュニケーションビューローが運営されており、販売信用と消費者金融との間の消費者信用情報の相互交流も行われていること、被告信用情報センターは、昭和六二年一〇月末で三一〇〇万件、このうち事故情報は約四〇〇万件保有していること、毎月消費者に約七五〇件情報開示するうちの約三パーセントが誤情報であること、昭和六〇年四月に経済企画庁の消費者信用適正化研究会が、消費者信用情報保護のために報告された消費者信用情報のうち消費者にとって不利益なものについて、機関等が登録後直ちに消費者にその旨通知すべきである旨の報告をしたこと、全銀協個人信用情報センターでは昭和五六年から事故情報が登録された時に消費者に通知していること、昭和六一年三月四日に通商産業省産業政策局長と大蔵省銀行局長がそれぞれ事故情報が登録される場合は何らかの方法により、消費者がこれを知り得るよう、機関と会員との間で、その業務運営の実情に配慮しつつ検討を進める必要がある旨の内容が含まれている通達を発したこと、被告信用情報センターは、通産省通達を受けて、通知制度の採用を検討したところ、会員から通知するという会員の声があり、会員から通知する場合、払わなければ被告信用情報センターに通知する旨の文面が脅迫と受け取られないかという問題もあって、会員の全面的な協力を得られるような通知制度を採用するためになお検討中であること、通知の対象となる事故情報が全銀協では、月三〇〇〇件であるのに対し、被告信用情報センターの場合は月三万から八万件と予想されること、被告信用情報センターは、情報の正確性を確保するために、(一)会員から報告される情報を任意に抽出して被告信用情報センターの定める登録基準に合致しているか確認し、合致しない情報がある揚合は一緒に報告された情報すべてを会員に返還して確認させること、(二)一年に一回長期間登録されている情報を、被告した会員に調査させること、(三)情報の開示という方法をとっていることが認められる。以上の事実を総合しても、消費者信用情報について消費者に不利益な情報を登録した場合、被告信用情報センターが当該消費者にその旨通知すべき義務があったとはいえず、他にこの通知義務の存在を認めるに足りる証拠はないから、不法行為責任の主張は理由がない。
2 民法七一九条一項の連帯責任
 右1で検討したところによると、被告信用情報センターに消費者に対する情報登録通知義務があるとは認められず、他に、被告信用情報センターの原告に対する不法行為の成立について何らの主張立証がないから、右連帯責任の主張も理由がない。
3 システム責任について
《証拠略》によれば、信販会社は、消費者から与信の申込があった場合、被告信用情報センターからの信用情報の提供を受けることにより、個々に与信申込者の信用情報を調査する費用と時間を省略でき、しかも正確な情報の入手が可能となることが認められ、《証拠略》によれば、シャープクレジット契約書の裏面に記載されている預金口座振替契約条項の中に当該クレジット契約から発生した信用情報を、機関へ登録することに同意する旨の条項が存し、クレジット契約の申込をする消費者からみれば、被告シャープファイナンスと被告信用情報センターが一体のものと受け取られやすいことが認められ、《証拠略》によれば、被告信用情報センターの一部の取締役等には会員の取締役等が就任していることが認められる。しかしながら、過失責任を原則とする民法の下では、特別の法律の規定がなければ過失のない者が損害賠償等の責任を負うことがないのであり、本件においても、被告信用情報センターに責任を認める特別の規定がないので、右認定の事実が認められるからといって、本件誤情報を登録したことについて損害賠償義務を負わねばならない謂がなく、システム責任の主張も、採用することができない。」経済的破綻の危険性がある多重債務者防止という公益性を有する情報センターに業務上過失の認定は困難でありやむを得ない判断でしょう。

《参考条文》

利息制限法
(利息の最高限)
第1条 金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が10万円未満の場合
年2割
元本が10万円以上100万円未満の場合
年1割8分
元本が100万円以上の場合
年1割5分

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締まりに関する法律
(高金利の処罰)
第5条 金銭の貸付けを行う者が、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前2項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
4 前3項の規定の適用については、貸付けの期間が15日未満であるときは、これを15日として利息を計算するものとする。
5 第1項から第3項までの規定の適用については、利息を天引する方法による金銭の貸付けにあつては、その交付額を元本額として利息を計算するものとする。
6 1年分に満たない利息を元本に組み入れる契約がある場合においては、元利金のうち当初の元本を超える金額を利息とみなして第1項から第3項までの規定を適用する。
7 金銭の貸付けを行う者がその貸付けに関し受ける金銭は、礼金、割引料、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなして第1項前段、第2項前段及び第3項前段の規定を適用する。貸し付けられた金銭について支払を受領し、又は要求する者が、その受領又は要求に関し受ける元本以外の金銭についても、同様に利息とみなして第1項後段、第2項後段及び第3項後段の規定を適用する。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第三条  事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

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