新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.853、2009/3/10 13:33 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【利息制限法違反と質屋営業法の金利】

質問:最近、弁護士に依頼して貸金業者から過払い金の返還を受けることができました。しかし、私にはもう一つ債務があります。それは、質屋に宝石を預けている、というものです。しかし、その質屋に対して返済が必要なお金を調べてみると、過払い金返還の根拠である利息制限法をはるかに超えていました。それどころか、出資法で業者を規制している年29.2パーセントも超えた、年107パーセントというものでした。質屋にはこれらの法律の適用は無いのですか?質屋に過払い金の返還を請求することはできませんか?

回答:
質屋については、質屋営業法という法律で、出資法が定める制限利率に修正が加えられていますので、質問の利息は出資法に違反しません。しかし、地裁判例では、質屋にも利息制限法の適用を認め、過払い金の返還を命じた判決がありますので、過払い金返還を請求できる可能性はあると考えられます。

解説:
1.貸金業者に対する過払い金請求については、出資法と、利息制限法で、規制する金利が異なることにより、いわゆるグレーゾーン金利というものが発生し、この差が「過払い金」というものを生んでいます。すなわち、出資法では、業として金銭の貸付を行うものがとってよい利息は、年29.2パーセントまでであり、それを超える利息を設定することは刑事罰の対象となる、となっていますが、一方で、利息制限法では、15〜20パーセントを超える利息は無効、とされています。つまり、利息制限法を越える金利をとった場合、無効だが、罰則はない、とされているのです。

出資法
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
第5条2
前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3 前2項に規定する割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者は、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
4 前3項の規定の適用については、貸付けの期間が15日未満であるときは、これを15日として利息を計算するものとする。

さらにここに、いわゆる「みなし弁済」という制度が関与してきます。みなし弁済とは、利息の支払を受けるときに、一定の要件をみたしていれば、その利息は債務者が任意に支払ったと「みなされる」ことにより、返還の必要がない、というものです。貸金業者は、過払い金返還請求が増えてきた当初は、この「みなし弁済」を主張し、受け取った利息は任意に支払われたものであるから返還の必要はないと主張しました。しかし、裁判所はみなし弁済の適用を限定的に解し、みなし弁済が成立することは事実上ほとんどなくなりました、それにより、過払い金返還請求は数年前に比べ比較的容易になったといえるでしょう。

2.では、質屋について、これらの理論は当てはまるのでしょうか。まず、設問の質屋が年107パーセントという高金利を取っていることについて、出資法の罰則の適用は無いのでしょうか。この点、質屋については、質屋営業法という法律があり、以下のように規定しています。

質屋営業法
第36条 質屋に対する出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和29年法律第195号)第5条第2項の規定の適用については、同項中「29.2パーセント」とあるのは「109.5パーセント」と、「29.28パーセント」とあるのは「109.8パーセント」と、「0.08パーセント」とあるのは「0.3パーセント」と、同条第4項中「貸付けの期間が15日未満であるときは、これを15日として利息を計算するものとする。」とあるのは、「月の初日から末日までの期間(当該期間の日数は、その月の暦日の数にかかわらず、30日とする。)を一期として利息を計算するものとする。この場合において、貸付けの期間が一期に満たないときは一期とし、2以上の月にわたるときは、そのわたる月の数を期の数とする。」とする。

これによれば、質屋については、109.8パーセントまで利息をとっても処罰されないことになります。また、この条文によると、前述の出資法と異なり、利息の計算に当たって、歴月計算をすることも許されています。すなわち、借入から返済までが15日以下でも、一か月分の利息を計算してよい、とされています。これは、法律の改正、整備にあたって、これまで伝統的に存在し、問題なく営業していた質屋については、伝統的な営業形態を保護する必要があったこと、また、質屋は質物の保管について善管注意義務が課せられ、負担が大きいことなどが理由にあると思われます。以上から、設問の質屋も、処罰の対象になることはありません。

3.では、利息制限法の適用はどうでしょうか。過払い金返還請求の根拠となる利息制限法では、以下のように規定されています。

利息制限法
第1条 金銭を目的とする消費貸借上の利息の契約は、その利息が左の利率により計算した金額をこえるときは、その超過部分につき無効とする。
元本が10万円未満の場合
年2割
元本が10万円以上100万円未満の場合
年1割8分
元本が100万円以上の場合
年1割5分
2 債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。

4.質屋にもこの法律の適用があるとすれば、設問のケースでも、質屋に対して過払い金の返還を請求できることになります。これについて、大阪地裁平成15年11月27日判決は、質屋にも利息制限法の適用があると判断しました(カギカッコ内は判例の要旨)。「質屋営業法によれば、『「質屋営業」とは、物品を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもってその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう。』(同1条1項)ものとされており、質屋を営む被告が、原告に金銭を貸し付ける行為も、「金銭を目的とする消費貸借」(利息制限法1条1項)であることは明らかであって、その利息の契約が利息制限法の適用を受けることには疑いがない。」 

この裁判では、被告である質屋は、質屋が貸金業者と異なる点を挙げ、利息制限法の適用がないと主張しています。「まず、被告は、質屋は、質物をとって金銭を貸し付けるものではあるが、貸し付けた金員の返還を受けられなかった場合、当該質物をその弁済に充てるものとされ、貸し付けた金員の回収ができなかったとしても回収不能となった額の返還を借受人に求めることはできないという特殊性があるから、質屋営業では利息制限法の適用が排除されると主張する。しかしながら、前述のとおり、質屋営業は、「質物をもってその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける」ものであるから、たとえ質物によって貸金全額の回収ができなかったとしても、利息、遅延損害金を含む貸金債権に対する弁済として質物の所有権を移転させることによって貸金債権はすべて消滅するのであるから、その余の請求が不可能となることは当然であって、それが、利息制限法の適用を排除する理由とはならない。」いわゆる質流れは、質物の所有権を失うだけであり、それ以上の金銭の返還を請求できるものではありません。しかし、このことは契約の当初から定められた特約(約款)に過ぎず、利息制限法の適用を排除しない、としています。

次に、「また、被告は、質屋営業には出資法の適用が排除されているとか、質屋には質物の保管義務が課されているなどと主張するが、質屋営業法36条は、高金利の貸付をした場合の刑事罰を規定している出資法5条2項の制限利率の緩和、利息算定方法の特則を定めたにすぎず、利息契約についての私法上の効力を定めた利息制限法の適用とは何ら関係がないし、質物保管義務、保管設備設置義務(質屋営業法7条1項)、危険負担(同法20条2項)などについても、恒常的に他人の所有物を保管する質屋営業の業務態様や質置主保護の観点から要請されるものであって、利息制限法の適用排除とは無関係である。」先ほど述べたように、質屋営業法は出資法における金利を書き換えていますが、利息制限法には何ら触れていません。また、質屋が質物を預かることについて課せられる様々な義務についても、このことが利息制限法の適用を排除するものではない、と判断しています。

「なお、質屋営業法19条1項ただし書には、「質屋は、当該流質物を処分するまでは、質置主が元金及び流質期限までの利子並びに流質期限経過の時に質契約を更新したとすれば支払うことを要する利子に相当する金額を支払ったときは、質物を返還するように努めるものとする。」との規定があるが、同規定は、流質期限の経過によって質物の所有権が質屋に移転するところ(同条項本文)、流質期限の経過後であっても、質物の返還が可能である場合に、質屋にその返還を努力すべき義務を課すものにすぎず、同条項の「利子」を利息制限法所定の利率を上回る約定利息であると解すべき根拠もない。その他、質屋営業法の各規定を精査しても、質屋営業について利息制限法の適用が排除されるとの明文規定やその趣旨をうかがわせるような規定は見あたらない。」以上のように、同判例は質屋に対しても利息制限法の適用を認め、過払い金の返還を命じたようです。しかし、この裁判例には異論もあり、今後最高裁の判断が待たれます。

5.ここからは私見ですが、そもそも過払い金返還請求自体が、出資法と利息制限法の間隙により発生するものです。法律は時代によって移り変わりますから、多少は止むを得ないと思いますが、近時の過払い金返還請求の増加、グレーゾーン金利の撤廃、それに伴う中小貸金業者の相次ぐ倒産は、法律の不備が引き起こしたものです。消費者は、返還を受ける権利があるとしても、高い金利を払わされることは生活を圧迫します。また、いわゆる「ブラックリスト」を恐れて、返還請求を躊躇することもよくあります。また、貸金業者も、無効な金利を取っていたことの是非はともかくとして、破綻が相次いでいます。そして、貸金業者におけるいわゆる「グレーゾーン」は、約29と18の差であるのに対し、質屋におけるグレーゾーンは109と18の差です。これは、あまりに大きな差であり、単純に返還請求を認めると、業界に混乱を招きかねません。もちろん、問題とされている貸金業者は、与信審査に問題があること、質屋は最終的には流質で利益を回収しているので、貸金業界のように「過払い」が大きな影響を与えることはないかもしれません。しかしいずれにせよ、法律の不備が招く市場の混乱はできるだけ避けるべきであり、一刻も早い法整備が待たれるところでしょう。

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