新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.856、2009/4/9 14:48

【商事・会社法・監査役は必須の機関か】

質問:特例有限会社を経営しています。会社を株式会社にしようか検討中なのですが、新しい会社法の施行により必ずしも監査役を置く必要がなくなったと聞きました。どのような場合に必要となるのですか。その他監査役に関して変更された点はありますか。

回答:
1.監査役は、株式会社の役員であり機関の1つですが、原則として定款に定めがある場合に限り株主総会決議により選任されます(会社法326条2項、327条、329条)。即ち、例外的に監査役が必須の機関は、取締役会設置会社(但し、委員会設置会社、公開会社でない会計参与設置会社を除く。閉鎖会社で監督権を有する会計参与がいるからです。)と会計監査人設置会社(但し委員会設置会社を除く。監査機能を有する監査委員会、会計監査人が存在するからです。会社法327条5項。)です。
2.改正前商法(旧商法)下では、株式会社の機関として、取締役会および監査役あるいは監査役会は必須機関でした。しかし、会社法では、会社の規模・形態により、監査役の設置については原則任意として例外的に必須の機関としなければならない場合を規定しました。これは、会社の規模に応じ実情に即し、弾力的な会社運営・経営を可能にするためです。
3.また、権限の内容について、旧商法下では、小会社の監査役は、会計監査権のみを有するとされていましたが、会社法では、非公開会社の場合で、監査役会(公開の大会社では必須の機関、但し、委員会設置会社)または会計監査人(大会社及び委員会設置会社では必須の機関)を置く会社を除いて、定款で定めることにより、監査役の監査権限を会計に関する事項のみとすることができるとされました(会社法第381条1項、389条)。即ち、権限の内容も監査役をおく会社の自治、裁量を認めて会社の規模が小さい場合業務監査を省けるようにしました。
4.その他の機関設計については、当事務所相談データベースbT82をご参照下さい。以下、解説します。

解説:
(会社法における監査役の基本的考え方)

改正商法前、有限会社は、機関設計の自由を認めていましたが、株式会社において取締役会、代表取締役、監査役の設置は必要不可欠でした。しかし、会社法は、代表取締役、取締役会、監査役ないし監査役会等の設置もその会社の実情に則して設置するか否か、あるいは、どの機関を設置するかについて、一定の範囲内での裁量権を会社に与えています(会社法327条、362条3項。)。一方で、会社に機関設計の自由を大きく認めたかわりに、株主、会社債権者を保護するため会社規模、形態により必須機関としています。従って、会社法成立前より会社の機関設計は複雑なものとなりました。正確に理解しようとすると混乱するので、原則的に監査役は任意機関であり(定款で定めれば可能)、会社の規模が大きい場合には必要的機関になったと考えればいいと思います。会社の規模が大きいとは、以下のような場合です。まず大会社は、監査役会、会計監査人を必ず設置しなければいけないので(会社法328条1項)、監査役が必要です(327条1項2号、3項、例外委員会設置会社。)。公開会社は必ず取締役会を置かなければいけないので(会社法327条1項1号、)やはり監査役が必要です(会社法327条2項、例外委員会設置会社)。

どうしてこのような制度にしたのかというと、株式会社の実態に合致した機関構成にして適正な株式会社の運営を保障し、自由で公正な経済秩序を維持するためです。従来は、監査役、取締役会、代表取締役は必要不可欠な機関でした。株式会社の特質は所有と経営の分離にあり、巨大な営利を目的として細分化した社員の地位を示す株式により大衆から資金を集め、その資金を元に専門家である取締役、代表取締役に経営を委託する点にありますが、本来の所有者である株主は経営に興味を失い、取締役に権限が強化集中することから株主の利益保護する必要があり、又、会社の資産は資本金等会社の物的資金以外にありませんから、会社債権者の保護のため常に経営者の業務、会計の監査をする機関が必要になります。これが監査役です。しかし、株式会社といっても、閉鎖会社で個人経営の会社も多く、これらの会社においては、所有と経営は一致していますから経営者からの株主保護の必要性が薄く、人的保証(会社の経営者が取引の保証人になる)により会社債権者の保護の必要性が求められません。そこで、基本的に監査役は任意の機関として株主の利益保護、会社債権者保護の必要性が高い大会社、公開会社について監査役制度を必須の機関としたのです。唯、大会社等巨大企業については、監査役制度によるか、別個委員会制度を設け、監査委員会(会計監査人も必須の機関となります)による監査をさらに厳格にする方法も選択できるようにして、公正な監査制度により株式会社の健全な経済活動を保障し確保しているのです。

1.監査役とは
監査役の職務は、取締役(及び会計参与設置会社においては、取締役および会計参与)の職務執行を監査し、監査報告書を作成することです。具体的な監査権限は、@会計監査権限(計算書類、附属明細書、臨時計算書類、一定の会社では、連結計算書類を監査し、監査報告を作成)とA会計以外の業務監査権限(会社及びその子会社の取締役、会計参与、支配人、使用人に対して事業報告を求め、業務・財産の状況を調査することができる)の2つがあります。

2.監査権限
旧商法下では、会社はその規模により、以下の3つの会社に区分され、旧商法特例法により、小会社の監査役の監査権限は「会計監査」に限定されていました。
@大会社・・・資本金5億円以上 または 負債200億円以上
A中会社・・・資本金5億円未満 かつ  負債200億円未満
B小会社・・・資本金1億円以下 かつ  負債200億円未満

これに対し、会社法では、
@大会社・・・資本金5億円以上 または 負債200億円以上(会社法第2条1項6号)
A小会社・・・資本金5億円以下 かつ  負債200億円未満

の2種類に分類され、原則として、小会社の監査役にも業務監査権を認め、例外として、定款をもって、監査役会や会計監査人を設置していない譲渡制限会社(非公開会社)については、監査権限を会計に関する事項に限定することができるものとしました(会社法第381条1項、389条)。

3.旧小会社(商法下での小会社)、特例有限会社の監査役の権限と会社法の施行
旧小会社及び特例有限会社の監査役の権限は、会社法の施行にあたり、以下のような取り扱いがされました。

@特例有限会社
特例有限会社の監査役の権限は、旧小会社と同様、会計監査に限定されていました。これは、会社法が施行された後も、整備法第24条により、会計監査に限定するものとみなされているため、監査役の権限に変更は生じません。なお、定款を変更して、業務監査権を与えることも可能です。

A旧小会社
旧小会社の監査役は、会社法施行により以下のように分けて取り扱われました。
ア 非公開会社(株式譲渡制限会社)の場合
整備法53条により、会社法施行時に、定款に監査権限を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされ、その監査権限に変更はありません。
イ 公開会社(株式譲渡制限規定のない会社)の場合
公開会社の場合には、定款で監査権限を限定することができないので、会社法の施行と同時に監査役の監査権限は、業務監査にまで拡大することになり、これにより、会社法施行と同時に従来の監査役は任期満了退任し、新たな監査役の選任が必要(会社法第336条4項3号)とされました。

4.業務監査権と義務等
一方で、業務監査権を認められた監査役は、その趣旨から取締役会への出席し、必要があるときには意見を述べる義務が課されます(会社法第383条)。また、取締役会議事録への署名押印義務(会社法第369条第3項)や、取締役が不正な行為等を発見したら、取締役(取締役会設置会社では、取締役会)に報告する義務(会社法第382条)、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類等を調査する義務(会社法第384条/会計監査権のみの場合には、会計に関する議案、書類等の調査で足ります(会社法第389条3項))なども課されます。もし、取締役の不正行為等により、会社に著しい損害が生ずるおそれがあることを発見したときには、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求する権限(会社法第385条)や、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含みます)に対して、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する(会社法第386条第1項)権限も与えられることになります。

5.監査役の設置
最後にまとめますと、監査役を必ず置かなければならない会社形態は、会社法327条を分析すると以下のようになります。
@「取締役会を設置した会社」です。ただし、「委員会を設置した会社」又は「公開会社でない会計参与設置会社」は例外です。法令又は定款により取締役会を設置した会社は、会社の規模が大きくなるので原則必ず監査役をおかなければ行けません。委員会設置会社が別個の監査機関がるので不要ですし、閉鎖会社で規模がさほど大きくなく会計参与により会計の公正がはかられているので任意的にしています。

次に
A「会計監査人を設置した会社」です。但し、「委員会を設置した会社」は例外となります。会計監査人設置会社は大企業等規模が大きいので株主、会社債権者保護のため委員会設置をしない限り監査役を置かなければいけません。以上、個人経営の色彩が強く、一人だけ取締役を置いている会社等の場合には、監査役を置く必要はないということになります。

商法下での株式会社では、名目的な監査役を置いている会社も多く見られました。しかし、会社の登記事項証明書に「監査役」として広く一般に公示される以上、その監査役は、会社が何らかの不祥事等を起こし、対外的な責任を負うこととなった場合には、当然、名目的(名前を貸しただけ)な監査役であることを主張して、その義務を免れることはできません。もし、名目的な監査役を置いているのであれば、この機会にその設置について、ご検討されることをお薦めします。

<参照条文>

(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一〜五(略)
六  大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
七〜三十四(略)
(株主総会以外の機関の設置)
第326条  株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2  株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる。
(取締役会等の設置義務等)
第327条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
一  公開会社
二  監査役会設置会社
三  委員会設置会社
2  取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3  会計監査人設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4  委員会設置会社は、監査役を置いてはならない。
5  委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
(選任)
第329条  役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
2  前項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
(監査役の任期)
第336条 1〜3(略)
4  前三項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、監査役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。
一・二(略)
三  監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更
四(略)
第362条  取締役会は、すべての取締役で組織する。
2  取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一  取締役会設置会社の業務執行の決定
二  取締役の職務の執行の監督
三  代表取締役の選定及び解職
3  取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
(取締役会の決議)
第369条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
5 取締役会の決議に参加した取締役であって第三項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。
(監査役の権限)
第381条 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
2〜4(略)
(取締役への報告義務)
第382条 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。
(取締役会への出席義務等)
第383条 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第373条第1項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。
2 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第366条第1項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。
3 前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。
4 前2項の規定は、第373条第2項の取締役会については、適用しない。
(株主総会に対する報告義務)
第384条 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。
(監査役による取締役の行為の差止め)
第385条 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
2 前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。
(監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表)
第386条 第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する。
2 (略)
(定款の定めによる監査範囲の限定)
第389条 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第381条第1項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
2 前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。
3 前項の監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。
4 第二項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの
5 第二項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。
6 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の規定による報告又は調査を拒むことができる。
7 第381条から第386条までの規定は、第一項の規定による定款の定めがある株式会社については、適用しない。

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