不動産・権利証の紛失
民事|登記|権利証の盗難|識別情報の盗難|紛失の場合の手続き
目次
質問:
①権利証が盗まれてしまいました。どうしたらいいですか。②登記識別情報を見られてしまいました。どうしたらいいですか。
回答:
①権利証が盗まれたり、強奪されたりした場合には、早急に警察に被害届2通を受理して貰い、そのうち1通に受領印をもらいます。そして、受領印が押印された被害届、実印及び印鑑証明書を持って法務局に行って下さい。不動産登記法の改正により、24条で登記官の本人確認制度が創設され、その本人確認調査の契機とするため、「不正登記防止申出制度」が新設されました(準則第35条)。この申し出を行ったからといって、必ず登記申請が却下されるわけではありませんが、登記官が、申請人となるべき者でない者が申請していると疑う相当な理由があると、この申し出から判断した場合には、権限の有無が調査されることになります。
②従来の権利証に変わり、平成17年3月から登記識別情報(不動産登記法2条1項14号。登記識別情報の詳細については、当事務所HPデータベース№391をご参照下さい)という制度がつくられました。登記識別情報を他人に知られてしまった、あるいは、知られている可能性があることが判明した場合(「登記識別情報」は、その情報を所持している人(知っている人)を真正な名義人と判断しますので、登記識別情報を知られる・見られたということは、権利証を盗まれたことと同じということになります。)には、「登記識別情報の失効制度」を利用することで対応することも可能です。そもそも、失効制度は、本来、登記識別情報を管理することに不安があるような場合に利用することを目的として設けられた制度です。なお、登記識別情報を失効させると、後日、登記識別情報の再発行をしてもらうことはできませんので、後日、その不動産を売却する場合や、その不動産に抵当権を設定する場合には、資格者代理人による本人確認情報を提供する必要があります。
4 登記関連事務所事例集 1971番、1492番、1492番、905番、857番、712番、554番参照。
5 不動産登記に関する関連事例集参照。
解説:
(権利証と登記識別情報の制度趣旨)
我が国は私有財産制度(憲法29条)を採用しますので、財産的価値が高い不動産の取引の安全確保は必要不可欠のものです。不動産取引の安全を確保するため不動産の権利者が誰であるかを公に公示して、取引をする者が不測の損害を被らないようにしています。この公示制度が不動産登記制度であり、法務局の登記簿に権利者が記載されています。唯、私的自治の原則、契約自由の原則から不動産の権利移転は当事者の合意により生じ(民法176条)、登記は単なる対抗要件になっています(民法177条)。従って、不動産の権利取得を安全確実にするためには、取引の当事者が自ら不動産権利変動の登記申請をしなければならないのです。登記の申請は、売買でいえば、売主と買主が共同して法務局に行って、権利移転等があったという手続きするのですが(通常は司法書士先生が両名の代理人となります)、法務局の窓口の人は誰が権利者か分かりませんので、申請書には売主が登記簿上の権利者であることを証明する文書、すなわち登記済書(権利証)と権利移転により不利益を被るので意思確認のため印鑑証明書等が必要です。権利書とは売主が、当該不動産を以前に取得した時に法務局から権利者であると認証された証明書(単なる証明書です。)で、売買契約書又は登記申請書の副本(売買契約書を提出しない場合)を言います。しかし、自由主義経済の拡大発展にともない、無数の不動産取引を円滑で安全迅速な不動産取引を可能にして、自由で公正な経済社会秩序を保障するため、書面による申請・届出をやめてインターネットを利用するオンラインシステムによる届け出に変える必要性が求められるようになりました(郵送による方式も可能)。これは日本国政府のIT戦略、電子政府の一環として位置づけられています(平成13年の政府e-Japan戦略。後記参照)。
しかし、従来の権利証は文書ですから、登記申請の場合法務局としては書類の確認、写し保管に煩雑ですし、無数にある不動産取引の大量処理、オンラインシステムに馴染みません。そこで、この権利書という文書をアラビア数字その他の符号の組合せにより構成された識別情報に変えることになりました(不動産登記規則61条)。これが登記識別情報です。すなわち、識別情報という符号化はオンラインシステムでは当然要請される方式なのです。オンラインシステムの利用により、法務局の窓口に出向くことなく、事務所などからインターネットによる申請・届出が可能となり不動産取引はさらに安全確実で迅速に行われることになります。実務的には現在権利証と識別情報が併存する形になっています。識別情報は権利証の代わりになるものであり、他に書面申請の場合は印鑑、印鑑証明書、(オンライン申請の場合は電子署名、電子証明書)等の書類は勿論必要となります。このような権利証、識別情報が何らかの理由で紛失盗難にあった場合、これらの文書、情報を悪用し形式的審査権がない登記官を詐称して虚偽の登記を行う危険がありますし、安全、迅速な不動産取引も確保しなければなりません。そのような事態に対応するため「不正登記防止申出制度」「登記識別情報の失効制度」が用意されています。以下その手続きについて説明します。
(登記識別情報)
尚、登記識別情報が通知される際は、不動産所在事項及び不動産番号・申請の受付の年月日及び受付番号又は順位番号等・登記の目的・登記名義人の氏名又は名称及び住所も明らかにして通知される(不動産登記準則37条1項)。又、登記識別情報を書面で通知する場合、記載した部分が見えないようにするシールをはり付けなければならない(不動産登記準則37条2項)。他人に盗み見られると権利書の盗難と同じような危険があるからです。*添付書式参照
1.不正登記防止申出(以下「申出」)の方法
①申出は、通常の登記申請と異なり、オンラインや郵送ではできません。直接、本人が法務局に出頭して、申し出をする必要があります。共有不動産の場合は、各持分についてのみ申出をすることができます。
②申出の際には、申出人が登記名義人本人であることに加え、申出に至った経緯や申出理由に対応した措置を執っていることの確認がなされます(新準則第35条第4項)。申出人が本人であるかどうかは、不動産登記法規則第72条2項に定める方法により行います。運転免許証、旅券等の顔写真付の書類については、1種類、健康保険証、母子健康保険証等顔写真のない書類については、2種類が本人確認資料として必要となります。なお、登記簿上の住所氏名と本人確認資料の住所氏名が異なる場合には、その変更を証明する資料として、住民票や戸籍謄本が必要になります。申出に至った経緯や申出理由に対応した措置とは権利証、実印、印鑑カード等が盗まれた場合には、警察への被害届、第三者による不正な印鑑証明書の交付の場合には、市役所等での印鑑証明書の無効手続、勝手に不動産の取引がされていた場合には、警察への相談や告発が該当します。これらの対応措置を行っていないときには、申出は受理されないことになります。
③申出書の添付書類は以下のとおりです。
(1)印鑑証明書
(2)登記名義人が会社等の法人の場合には、代表者の資格証明書
(3)代理人により申出をするときは、委任状
印鑑証明書、資格証明書は発行日から、3ヵ月以内のものであることを要します。なお、会社等法人の登記がされている法務局と、申出を行う法務局が同一の場合には、これらの書面を省略することが可能な場合もあります。なお、法務省の通達によれば、緊急を要する場合は、いったん申出を受け付けた上で、その後直ちに措置を執るよう求めることができる場合もあります。この場合には、申出を受け付けた後、当該措置を執ったかどうか(被害届の提出の確認の有無等)を確認することとなっています。しかしながら、この本人確認制度や不正登記防止申出制度自体、まだ新しい制度であり、運用が定まっていないというのが実状ですから、この緊急措置がどの程度認められるかについても、今後の運用を待たざるを得ません。ご心配の場合は、これら手続を弁護士や司法書士などの専門家と相談しながら行うと良いでしょう。
2.申出に対する対応可能期間
申出に対する法務局の対応期間は3ヵ月です。もしこの間に憂慮する事態が解消されていなければ、再度申出を行う必要があります。この場合には、改めて、申出書、印鑑証明書等を提出することになります。
3.その他
もし、実印や印鑑証明書がすぐに用意できない場合には、被害届だけでも法務局に持っていって、不正登記防止申出制度を使わずに、本人確認調査を促すという方法も考えられます。申出制度を使えば、申出書類が保管されますし、要調査の扱いになる場合もありますので(新準則第35条第5項)、その方が確実だとは思われますが、急を要する場合も多いと思います。まだ新しい制度ですので、状況判断に迷った場合には、迅速な対応を行ってくれる専門家と相談することをお勧めします。
【法務省民二第457号 平成17年2月25日 通達】の内容、不正登記防止申出の取扱いについて、
(1)登記官の本人確認調査の契機とするため、不正登記防止申出の取扱いが定められた(準則第35条)。申出を受ける場合は、申出人に、当該申出があったことのみにより申出に係る登記の申請を却下するものではないこと等不正登記防止申出の取扱いの趣旨を十分に説明することを要する。
(2)不正登記防止申出があった場合には、当該申出人が申出に係る登記の登記名義人本人であることのほか、当該申出人が申出をするに至った経緯及び申出が必要となった理由に対応する措置を採っていることを確認しなければならないとされた(準則第35条第4項)。
この措置とは、印章又は印鑑証明書の盗難を理由とする場合には警察等の捜査機関に被害届を提出したこと、第三者が不正に印鑑証明書の交付を受けたことを理由とする場合には交付をした市町村長に当該印鑑証明書を無効とする手続を依頼したこと、本人の知らない間に当該不動産の取引がされている等の情報を得たことによる場合には警察等の捜査機関又は関係機関への防犯の相談又は告発等がこれに当たる。
申出の内容が緊急を要するものである場合には、あらかじめこれらの措置を採っていないときであっても、申出を受け付けて差し支えない。この場合には、直ちに、当該措置を採ることを求めるものとする。
4.登記識別情報の失効制度の場合
登記識別情報の失効制度を利用する場合には、不正登記防止申出制度と同様、登記官に対して通知された登記識別情報を失効する旨を申し出ることにより、失効させることができます(不動産登記規則第65条)。
①失効制度は不正登記防止申出制度と異なり、書面申請でもオンライン申請でもすることができまし、郵送での申出も可能となっています。
②申出人の必要書類は以下のとおりです。
(1)印鑑証明書
(2)登記簿上の住所氏名と現在の住所氏名が一致しない場合には、その変更を証する住民票、戸籍謄本等
(3)相続人から申し出る場合には、相続関係を証明する戸籍謄本等
(4)申出人が法人の場合には、代表者の資格証明書
(5)代理人から申出をする場合には、委任状
なお、印鑑証明書、代表者の資格証明書は、発行日から3ヵ月以内のものであることが必要です。
以上