マンション管理組合の法人化・組合と権利能力なき社団・共有、合有、総有
民事|登記|建物の区分所有等に関する法律|組合等登記令
目次
質問:
分譲マンションに住んでおり、今度、管理組合の理事長になりました。しかし、今までマンションの所有者から徴収した修繕積立金等の管理組合のお金が理事長の個人名義で預金されることに不安を感じています。住戸数が多いので、管理組合のお金はかなりの額になります。万一に備えて、私の個人財産と管理組合の財産とを明確に分けておきたいのですが、どうしたらいいでしょう。
回答:
1.理事長の個人名義で、管理組合のお金が預金されているとのことですので、管理組合が法人化されていないことになります。そこで、管理組合を「法人化(管理組合法人)」されてはいかがでしょうか。法人化することで、預金口座を管理組合名義で作れるので、管理組合の財産と理事長の個人財産とを分けることができます。また、今後の管理組合に関する法律関係や手続き等を明確かつ簡便にすることもできます。例えば、①大きな管理組合で理事長の個人財産と区別して組合財産(不動産)を所有することが可能になります。又、②積立金の預金口座を法人名で作れるので、理事等の交代ごとに作り直しが不要です。③理事の名義にすることを避けるため、積立金等を管理業者の名義にしておくと管理業者の債権者に強制執行される危険があり、これを回避できます。
2.一方で、法人化により発生するデメリットもあります。例えば、理事が交代する度に(数年で変わる交代する場合もあります)、管理組合法人の変更登記申請が必要になり費用もかかることになります。従って、メリットとデメリットを住民のみなさんで十分比較検討されることをお勧めします。
3.事例集818番参照。以下、詳細について解説します。
4.管理組合に関する関連事例集参照。
解説:
1.(管理組合)
管理組合とは、当該マンションの住戸を取得した人全員(所有権を有する人のことで、賃借人等は含まれません)が管理費等を負担し、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために管理規約を決めることにより成立する団体(社団)です(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」):第3条)。
2.(民法上組合の性格)
管理組合は、理論的に民法667条の組合に該当します。組合は、条文から明らかなように2人以上の人が、各自出資をして共同で事業を行うことを目的として組合契約を締結することにより成立するので、管理組合員各自が管理費等の負担し建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うマンション管理組合は契約関係、形態から言うと組合ということになります。
3.(組合の権利関係)
組合契約は共同の事業を営むこと合意して複数人が集まったにすぎませんから、組合自体に独立性はありませんし、組合の財産関係も組合員の独自性があり共同の目的により互いに制限を受けるだけです。従って、管理組合は、同じ団体(社団)である会社、一般社団法人(平成20年に設立が認められた)等のように法人格を有しませんので権利義務の主体になることもありませんし、独自に契約、取引当事者になることはできません。取引は組合員が他の組合員の代理人として行い、組合財産に対する持ち分権も認められます(民法668条。共有と書いてありますが後述するように特殊な共有関係である合有と言われています。)。法人格が与えられていないため、団体名で行動することに制限が加えられます。具体的には、その団体名で預金口座を開設し、不動産を取得した場合に団体名で登記をすることができません。但し、訴訟においては、団体名で訴訟を起こせるか否か(これを「当事者能力」といいます。)について、民事訴訟法第29条(法人でない社団等の当事者能力)の要件である「代表者又は管理人の定めのあるもの」を満たす限りは、民法上の組合についても、これを肯定する(団体の名前で訴え、または訴えられることができる)としています(最判昭和37.12.18)。つまり、管理規約があり、それにより理事長が選任されている管理組合は、「法人」ではなくとも民事訴訟法上の「当事者能力」が認められます。これは、民事訴訟法が、私的紛争を適正公平、迅速低廉に解決するために訴訟関係においてのみ例外的に紛争当事者となる能力を認めているのです。
4.(管理組合の権利能力なき社団の性格)
管理組合は、法人格を備えていないため、管理組合の名前で活動することに制限を受けますが、もう一つ別に大きな問題があります。それは、民法上の組合の場合には、組合の負債については、各組合員がその負債について無限の責任(組合員の分担割合に応じ)を負うという点です(民法657条。)。民法上の組合は当事者全員の契約関係に基づき成立し法的に独自の団体性がないため組合員全員が取引の相手方と直接契約している関係になるからです。そこで管理組合も同様に考えてよいか問題になります。マンション管理組合のようにいく分団体的性格が強いものに各組合員に無限責任を認めてもよいか疑問があるからです。
5.(法的問題点)
理論的には、判例上認められてきた「権利能力なき社団」と同様に考えられないかという問題です。「権利能力なき社団」とは営利や公益を目的としない団体で、かつ、法人格が与えられていないものの、その団体としての独立性を認められ、民法上の社団(民法第33条)に準じた扱いを受けている団体を指します。具体的には、町内会、学術団体、クラブなどが該当します。権利能力なき社団は、法人格はなくとも団体の独立性が強くその団体の負債について、団体の有する財産のみをその引き当てとする(最判昭和48.10.9)とされていますので、各組合員は個人では負債を負うことはありません。社会生活上、法人格が認められない団体にも独立性の程度に差異がありその程度に応じ実務上権利能力なき社団という概念が認められ定着しています。
6.(権利能力なき社団の要件)
「権利能力なき社団」であるための要件として、判例(最判昭和30.10.15)は、『団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしその組織によって代表者の選出方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない』としています。これを管理組合で考えると①団体としての組織(管理組合)、②多数決の原則(管理規約)③構成員の変更にかかわらず団体が存続、④その組織における、代表者の選出、総会の運営、財産管理等の団体としての主要な事項が確定していること(管理規約)、以上の要件が備わっていますので、結局、管理組合は、理論上民法上の「組合」でありながら、「権利能力なき社団」として法的に取り扱われることになります。
7.(組合と権利能力なき社団の違い)
せっかくですからここで、民法上の組合と「権利能力なき社団」の違いを説明しておきます。ともに団体でありながら、法人格がない点で一致するのですが、組織、団体の独立性の強弱により民法上の「組合」と判例、学説上認められてきた「権利能力なき社団」とでは次のような違いが存在します。
①(団体性について)
組合:構成員の個性が濃厚で少人数。構成員=団体で、団体として独立していないし、法人格はない。権利能力なき社団(以下権利なき社団といいます):構成員が多数で個性は希薄、団体として独立性があるが、法人格はない。
②(構成員について)組合:構成員の変動はほとんどないが通常です。権能なき社団:構成員の変動が予定されていいます。管理組合、町内会等。
③(財産関係)組合:合有。財産を複数人で所有する共有より、事業遂行という色彩があり権利の内容が制限された形態です。従って、構成員一人一人が財産の具体的持分を有し脱退払い戻しはできるが(民法681条))、処分はできず分割を請求することはできません。権能なき社団:総有。合有よりさらに団体の独立性が強く、理論上全員で所有し、構成員に具体的持分は一切認められない関係です。説明すると長くなりますのでこの程度にします。
④(負債関係)組合:単なる契約関係であり構成員が無限責任を負います。権能なき社団:団体の財産を限度とする有限責任です(但し、構成員に対しても二次的責任を認めるべきとする説が出てきている)。
8.(法人化しない管理組合の不都合)
ところで、貴方が理事長を務められる管理組合は、法人化されていませんが、上述のとおり、訴訟を起こす、あるいは起こされた場合や、管理組合の負債については、法人化された場合とされない場合での差異はありません。しかし、一方で、法人化しない場合には、ご相談にありますとおり、管理費等の管理組合の預金は、理事長の個人名義でしかできませんし、もし、管理組合が、当該マンションの一室を購入することとなった場合には、理事長の個人名義(あるいは、あまり現実的ではありませんが組合員全員の名義)で登記するしかありません。理事長の個人名義で財産を管理・保有するということは、理事長が変わった場合には、その都度、名義変更の手続きを要するということですし、万が一、理事長がその在任中に亡くなって相続が発生し、自己破産をする必要に迫られた時には、相続手続き、破産手続きを複雑にすることになります。また、組合の大事な財産を、理事長が個人の財産であるとして売却等の処分をしてしまった場合には、取り戻すことは相当困難になるでしょうし、理事長の債権者が理事長個人の財産と誤認して、組合の財産に強制執行する可能性がないともいえません。なお、理事長の個人名義でなく、マンションの管理業者名義の口座で管理費等を管理している場合にも、同じようにその業者の財産であるとして、強制執行を受ける可能性や、銀行債務の担保として弁済に充当されてしまう(なお、東京高判平成12.12.14では、管理業者名義でされた管理組合の預金について、管理組合名義の預金であると判断しています)可能性もあります。これらの事態を避けるという点から、管理組合を法人化して財産関係を明確にされる必要性が生じます。
9.(管理組合の法人化)
そこで、以上のような不都合を避けるため管理組合を法人化する方法が区分所有法によって認められています。マンション管理組合は、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)47条以下の手続きを踏めば法人化することができますし、区分所有法により認められる非営利中間的法人(会社の様に営利を目的としないが、不特定多数の利益すなわち公益を目的としてもいませんので中間的性格を有する法人です。)の性格を有しています。管理組合の法人化は区分所有法によりかなり前から認められており、平成14年改正により30人という区分所有者の人数の制限もなくなりました。さほど、多人数でもない団体に法人化を認めた理由は、団体設立自由の原則に基づきマンション管理組合に関する種々の法律関係を適正、公平迅速に規律し公正な社会秩序を維持するために用意されています。
10.(管理組合法人の性格)
自然人は個人の尊厳保障の理念(憲法13条)から当然に権利義務の主体になることはできますが(民法3条)、自然人以外に権利主体となることができるのは団体(社団)、財団で民法、その他の法律で公に公示(登記)して法人格を取得する必要があります(法人法定主義、民法33条、36条)。言うまでもなく自由主義社会、私的自治の原則が支配する社会においては、個人の他に、団体、財産の集合体(財団)に取引当事者を認めなければ自由で公正な社会秩序を維持発展させることはできません。しかし法人は、その有形的に実体を有しませんので取引の安全のため法が団体の実情、必要性に応じてその要件を定め公示を条件としています。法人格を与えるか否かの基準は、法律によって判断されるということです。例えば、会社は会社法に基づいて設立されますし、学校法人は私立学校法、医療法人は医療法に基づいて設立されています。民法上は相続財産法人(民法第951条)が規定されています。どのような手続きを踏めば法人格を与えるかという基準については、国がその法人の活動について、どの程度、監督・関与する必要性があるのかという点から対応が異なります。その設立の際の手続きにより、
①準則主義(平成20から認められた一般社団、財団法人、会社など、法律上の一定の要件を満たしていれば自由に設立できるものです。)、
②認証主義(宗教法人等、主務官庁の確認である認証を要するもの。)、
③認可主義(学校法人等、要件がそろえば所轄庁の認可がでる手続きです)、
④許可主義(改正前民法の公益法人、主務官庁の裁量による許可が必要なものです)、
⑤法律成立主義(日銀、特殊銀行等、その設立が各根拠法により特別に定められているもの)に分かれます。
11.(社団設立の自由)
平成20年の一般社団、財団法人法施行前は、営利性のない社団、財団法人の設立には消極的で原則的に公益法人は許可主義とされ、特別法で中間法人について準則主義が取られていましたが(平成13年成立の中間の法人法。現在廃止。)、このような体制は、団体設立自由の原則(自由主義経済、契約自由の原則から導かれます。)からみて適切ではなく、適正な社会生活秩序維持のため非営利法人である社団、団体、財団の社会的存在意義を認め、原則的に一般社団、財団法人(非営利法人)を準則主義として、公益法人は官庁の認定(公益法人認定法。事実上認可、又は許可に相当)によることになっています。区分所有法の管理組合法人は、性格は中間法人であり、準則主義が取られていることになります。以上から、理屈を説明することなく、管理組合として、法人化により法人の名前で契約をしたり、借り入れを行ったり、訴訟において原告や被告になることが当然できることになります。
12.(法人化の効果)
以上のように、法人化して「法人格」を取得すれば、権利義務の主体となりえますので、例えば、金融機関から、管理組合の預金を担保にして、管理組合名義で大規模修繕の融資を受けられる可能性も出てくることになります。更に、古いマンションにはよく見られるのですが、マンションの駐車場や集会所について、所有者全員の共有名義で登記されていることがあります。この場合には、専有部分(住戸)が売買されたり、相続が発生したりして、所有者が変わる度に、その駐車場や集会場の持分についても所有権移転の登記をする必要に迫られるのですが、これらについて管理組合法人名義で登記をすることが可能になりますと、持分移転の登記が不要とすることができ、手間とコストを削減できることになります。
13.(具体的手続き)
具体的な手続きは以下のとおりです(区分所有法第47条から第56条)。区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成で、法人化する旨を決議します。理事(数人の理事を選任した場合には、その中から代表理事を選ぶことも可能)・監事を決めます。名称、事務所、目的及び業務等、法人の設立登記に必要な事項を決定します(組合等登記令第2条)。設立登記の申請を行います。管理組合法人は、登記により成立します。法人化された後は、登記された事項に変更が生じた場合(理事の変更など)には、登記をしなければ第三者にその変更を対抗することができません。
14.(まとめ)
以上が設立までの簡単な流れですが、実際、これらの手続きをすすめていくには、現在の規約について再度見直さなければなりませんし、登記申請に必要な書類(組合等登記令第25条4項)や、登記所に届ける印鑑を用意し、細細とした手続きが必要になります。また、設立の手続きにおいて、弁護士等に依頼した場合にはその報酬などの費用(5万円ー10万円程度)も発生します。更に、設立後は、既にある預金口座の名義の変更や税務署への届出(法人化しても税務上の取扱いに大きな差異はありません)、理事に変更があった場合にはその都度、当該変更から2週間以内に、理事の変更登記を申請する必要があるなど、法人化したことにより発生する手続き(デメリットとして捉えられる部分)もあります。これらのデメリットも踏まえて、管理組合を法人化するかどうか、管理組合において、十分に検討され、あるいは、弁護士、マンション管理士(マンションの管理・管理組合の運営等に関する国家資格者)等に相談されることをお勧めします。
以上