新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:結婚して家を出ていた子供から、私と同居して老後の面倒をみるから、財産を生前贈与して欲しいと言ってきました。既に妻を亡くした私としては、同居はとても嬉しいのですが、何か注意する点はありますか。 解説: イ 定期贈与契約(民法第552条) ウ 贈与契約の撤回(民法第550条) 2.税金(租税) (贈与税に関する課税方法の選択) 一 暦年課税(相続税法 21条以下) イ 税金の計算方法 [平成19年4月1日現在] (EX)贈与財産の価額の合計が400万円の場合 二 相続時精算課税(相続税法21条の9以下) イ (税金の計算方法) ウ (留意点) 3.(最後に) 【参照条文】 憲法 相続税法 二百万円以下の金額 二百万円を超え三百万円以下の金額 三百万円を超え四百万円以下の金額 四百万円を超え六百万円以下の金額 六百万円を超え千万円以下の金額 千万円を超える金額 第三節 相続時精算課税
No.866、2009/5/13 16:16
【家事・負担付遺贈・負担付内容が履行されない時・租税・贈与税の趣旨・内容】
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回答:
1.お子さんからの申し出は、「老後の面倒をみること」を条件とする民法533条「負担付贈与契約」に該当します。負担付贈与契約は、将来、約束したはずの老後の面倒をみてもらえなくなった場合には、お子さんの債務不履行を理由に当該契約を解除して、財産の返還を求めることができます。もし、お子さんが約束を反故にするのではとの不安があれば、民法522条「負担付定期贈与契約」とされるのも宜しいかと思います。これは、毎月一定額ずつを贈与するとする契約で、万一、途中でお子さんが面倒を見てくれなくなった場合には、契約を解除し、贈与を止めることが出来ます。
2.一方で、生前贈与に関しては、相続税が適用される遺贈とは異なり、贈与税が課税されます。贈与税は課税価格が1000万円を超えると税率が50パーセントと大変高率になりますので、十分な注意を払う必要があります。現在、贈与税については、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」が設けられていますが、それぞれメリットデメリットがありますので、念入りな検討が必要ですし、特に、贈与される予定の財産の中にご自身の経営する会社の持ち株や不動産が含まれる場合には、どちらの制度を利用するか、あるいは、贈与ではなく遺贈とするか等について、税理士や弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
3.また、財産の全部を生前に贈与するような場合には、税金や法律的な問題はもちろんですが、贈与後の当事者間のトラブル、あるいは、他に相続人となるべき人がいる場合には、推定相続人間の感情のもつれ等からトラブルが発生する可能性も考えられますので、贈与をされる前に、様々な方向から十分な検討をされることをお勧めします。事例集679番参照。
1.負担付贈与契約
ア 負担付贈与契約(民法第553条、549条)
「負担付贈与契約」では、受贈者がある一定の負担を負うことから、負担のない贈与契約と異なり、民法上、売買契約等と同様の規定が適用されるとされています(民法第553条)。
ご相談の場合ですと、受贈者であるお子さんが「老後の面倒を見ること」が「負担」となります。万一、お子さんが負担の履行をしない=老後の面倒をみない場合においても、当該負担付贈与契約の効力は発生することになりますが、この場合には、貴方は当該贈与契約を解除して、財産を取り戻すことができます(民法第541条準用)。どの範囲で取り戻せるかという問題が残りますが、民法545条1項の解釈により、解除には遡及効(最初から契約がなかったことになる)がありますので理論的には互いに受け取ったものを全部返還することになります。しかし、解除後は互いに不当利得している状態なので、公平の原則から定められた不当利得による返還義務の民法703条、704条から、利得について法律上の原因がない事を知っているもの(息子さん)は全額、知らない人(あなた)は利益が現存する範囲で返還すればいいことになります。
ただ、条件不履行により「財産を取り戻すことができる」とはされていますが、贈与した財産が現金・預貯金であって既に消費されていたり、不動産の場合には第三者へ売却等されていますと、取り戻すことが難しい、あるいは不可能(不動産の場合で、買主である第三者に既に登記名義が変更されている場合)となる可能性があります(民法第545条1項但し書き。不当利得の特則として規定されています。)。この危険を回避するためには、贈与する予定の財産を一度に贈与するのではなく、年毎あるいは月毎に分割して贈与する負担付の「定期贈与契約」にされるとよいでしょう。「定期贈与契約」は、原則として、お子さん(受贈者)あるいは貴方(贈与者)のどちらかが亡くなった場合には、その効力を失いますが、そのメリットとしては、分割して贈与するため、お子さんに「負担(=面倒をみる)」の履行を促す効果も期待できることにあります。なお、定期贈与契約の形式で、毎年、贈与税の非課税限度額110万円の範囲内の贈与を繰り返す手段も考えられますが、この場合は、最初の契約締結時に、全額の贈与契約があったものと解釈され、全額について贈与税が課税される恐れもありますので、ご注意下さい。
定期贈与契約にするにしても、一度に財産を贈与するにしても、贈与契約は、書面によらない場合には、履行の終わった部分を除いては、いつでも撤回することができます。本来契約は契約自由の原則(方式自由の原則)から意思表示のみでできるのですが(民法176条等)、口頭による贈与は深い思慮なくして行われることがあり、後日の紛争を防止するために書面による証拠を要求しています。従って、履行が終了すれば撤回はできないのは条文の趣旨から当然のことになります。「履行の終わった部分」とは、例えば「あげる」といって、金銭を手渡した場合には、当然履行は終わっていますし、不動産の場合には、引渡しがなくても登記がされ、あるいは、引渡しがあれば登記名義が変更されてなくても、履行が終わったと解され、撤回して、贈与した財産を取り戻すことはできなくなります。一方で、この撤回については、下級審での判決になりますが、医学部の学生であった娘婿が舅の金銭的援助を受けて医師になったにもかかわらず、援助の必要がなくなると、他の女性との間に子供をつくり、その娘との離婚を申し出たため、舅が娘婿に今まで贈与した金銭の返還を求めた裁判で、「贈与が親族間の情誼関係に基づきなされたにもかかわらず、右情誼関係が贈与者の責に帰すべき事由によらずして破綻消滅し、右贈与の効果をそのまま維持存続させることが諸般の事情からみて信義則上不当と認められる場合には、贈与の撤回ができると解するのが相当である。」(大阪地方裁判所平成1.4.20判決)として、既に履行が終了していた贈与について、その撤回を認め、舅からの金銭の返還請求を可能としたものもあります。契約自由の原則はすべて、信義誠実の原則、公平の理念(民法1条)により支配されていますので妥当な解釈でしょう。贈与契約(特に負担付贈与契約においては)を撤回することは、贈与者である貴方だけでなく、受贈者であるお子さんもすることができると解されています。ただし、お子さんが既に貴方と同居し、貴方の面倒をみているがまだ財産を受けとっていない(負担のみが履行されている状態)場合には、撤回は許されないと考えられています。相手方の履行により贈与契約の互いの意思は明確になったと考えられるからです。
(租税制度 贈与税の趣旨)
我が国の社会的基本制度は自由主義に基づく私有財産制度(憲法29条)と私的自治の原則です。従って、国家は基本的に国民の経済活動に介入し利益を得ようとしません。しかし、自由主義、私有財産制度、私的自治の原則を保障するためには国民が委託した国家権力(司法、立法、行政)の公的機関、人的給付(サービス)が不可欠であり、その目的を実現するため法律を根拠に財政面から国民に対し強制的に課せられる金銭給付が租税です。租税は国民が自由、公正な社会経済生活を維持するための必要経費であり、その根拠は国民の意思に基づくことになり、法律に基づくことが必ず求められます。これを租税法律主義といいます(憲法84条、「代表なければ課税なし」)。すなわち、国民に求められる納税の義務は(憲法30条)は、法の理想(個人の尊厳保障と自由、公正な社会秩序維持という法の支配の理念)から理論的に導かれるものです。国民の自由な社会経済活動についてどのような租税を課するかは、最終的に法の理想から具体的に判断することなになりますが、課税の対象となる国民の社会経済活動に着目して、各々の必要経費である租税の根拠は4つに分けられています。国民の収入を得る経済活動を対象とする収得税(所得税等)、財産を保持している面に着目する財産税(相続税、贈与税、地方税の固定資産税等)、財産を消費する活動に対する消費税、取引行為等にかける流通税(印紙税、登録免許税)です。贈与税は、相続税と同じく財産を新たに保有するようになったという意味での財産税に該当します。私有財産制を実質的に保障するには租税、すなわち維持経費がかかるということでしょう。ではどうして、後述のように贈与税は高率なのでしょうか。同じ財産税である相続税は、控除を除き相続額3億円以上が税率50%ですが、贈与税は、基本的に控除を除き1000万以上はすべて贈与額の50%です。これは、相続税納付を逃れるために贈与が使われることを防止しています。相続税は、私有財産制がとられていても遺産相続による財産の集中、富の偏在化を防ぎ最終的に公正な社会秩序を常に保持しようとする思想に立っています。しかし贈与の自由を認め税率を抑えると、契約自由の原則から財産の分散化が容易になり、事実上相続税が骨抜きになってしまい、法の理想が実現できません。そのため、課税価格1000万円でも、高額な税率を課しています。そういう意味から贈与税は相続税法の中に規定されています。ところが、贈与税が高額なため高齢な財産所有者の財産の活用が事実上凍結される弊害が生じてきました。これは自由な経済活動を阻害するもので相続税、贈与税の本来の目的である公正な社会経済秩序維持の趣旨を達成することができません。そこで、この弊害をなくすため平成15年に制定されたのが相続時精算課税の制度(相続税法21条の9以下)です。すなわち、贈与の自由を認め財産の活用を促進しながら、最終的に相続発生時に相続税も確保し公正、公平な租税国家社会を実現しようとしています。以上の目的を達成するため後述の要件が決められています。
上述のとおり、遺贈の場合は相続税が適用されますが、生前贈与の場合は贈与税が適用されます。贈与税の課税方法は、以下に記述するとおり、課税方法を選択することができますが、贈与税が高率であることからも、贈与契約を結ぶ際には、税理士等の専門家に相談されることをお勧めします。
(1)贈与税の課税方法
贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。一定の要件に該当する場合に「相続時精算課税」を選択することができます。
ア 制度の概要
この制度は、一人の人が1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を控除した残額に対して贈与税を課税するものです。二人の人から110万円ずつを貰った場合にも基礎控除額は110万円となり、110万円を超える部分については、贈与税が課されます。暦年課税の場合は、後述する相続時課税制度を選択して場合と異なり、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりませんので、贈与税の申告は不要となります。但し、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下でも贈与税がかかる場合がありますので、注意が必要です(※)
(※)贈与税を受けた年の前年以前4年以内に父母等から住宅取得資金等の贈与を受け、住宅取得資金等の特例(平成17年12月31日までの贈与に適用がありました。)の適用を受けていた場合。
まず、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた財産の価格を合計します(但し、後述する相続時精算課税の適用を受ける財産については、除外して計算します)。
@の合計額から基礎控除額である110万円を引きます。
Aで算出された金額に以下の税率を乗じます。
更に控除額がある場合には、Bの金額から控除します。
これで、贈与税額が算出されます。
【基礎控除後の課税価格/Aで算出された金額】【税率】 【控除額】
200万円以下 10% ―
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,000万円超 50% 225万円
贈与税額=(400万円(贈与財産の合計額)−110万円(基礎控除額))
×15%−10万円(控除額)=33.5万円
ア (制度の概要)
この制度は、
「贈与者」:贈与する年の1月1日現在、65歳以上の親。
「受贈者」:贈与を受ける年の1月1日現在、贈与者の推定相続人で、かつ、20歳以上である子(相続税法21条の9第1項、代襲相続人を含む 、)。
の条件を満たす受贈者間の贈与について、
@「相続時精算課税」を選択し、
A当該贈与者から、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計金額から、特別控除額である2,500万円を控除した残額に対して、贈与税を課税する制度です。その後、その贈与者が亡くなった時には、Aで課税を受けた贈与財産と相続財産(贈与者が死亡時に有している財産)の価格を合計した金額を基にして相続税額を計算し、これにより算出された相続税額から、Aで支払済みの贈与税額を控除した残額を納める制度です。
(1)贈与税
当該制度を利用して、お子さんが貴方から受け取った財産は、この制度を選択した年以後は、貴方以外の人から贈与を受けた場合にはその財産とは区別して、贈与税の額を計算します。贈与税の額は、貴方から1年間に贈与を受けた財産の価格の合計から、特別控除額を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。通常の贈与においては、その財産の価格が1000万円を超えると50%の税率になりますので、それと比べるとかなり低率といえると思います。なお、お子さんが、貴方以外の人から贈与を受けた財産については、暦年課税の適用を受けますので、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額である110万円を控除した額に、定められた税率を乗じて贈与税額を計算します。
(2)相続税
相続時精算課税を選択した者に係る相続税額は、相続時精算課税に係る贈与者の相続時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。なお、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額とされています。
この制度を利用することができる財産の種類に制限はありません。但し、利用するためには、お子さんが、相続時精算課税制度を選択してから最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで(贈与税の申告書の提出期限、確定申告書の提出期限と同じです)に、贈与税の申告書に受贈者の戸籍謄本等の所定の書類を添えて納税地の税務署に提出することが、要件となります。また、当該年以前にこの制度を利用したことがある場合には、「特別控除額2,500万円」から「その際に控除を受けた金額」を控除した「残額」が今回の特別控除額の限度額となります。「相続時精算課税制度」を選択するかどうかは、受贈者が各々、贈与者である父あるいは母ごとに決定することができます。但し、一旦選択すると、最初の贈与の際の届出から、当該贈与者が亡くなる時(相続が発生する時)まで継続して適用され、途中で暦年課税に変更することができないので、注意が必要です。平成19年12月31日までに、住宅取得等資金の贈与を受けた場合には2,500万円の特別控除額のほかに1,000万円までの住宅資金特別控除額を控除することができます。毎年、仮に貴方からの一年間の贈与財産の価格が暦年課税の基礎控除額である110万円を下回る場合でも、お子さんは必ず贈与税の申告をする必要があります。これは、貴方からの贈与については、相続時精算課税制度を選択している以上、暦年課税制度を利用できない(暦年課税の基礎控除額110万円を控除することができない)からです。
贈与税の概略については、上記のとおりとなりますが、現金、預貯金以外の場合(不動産、同族経営の会社の未上場株式、骨董品等)には、贈与する財産の具体的な評価額の算出方法や具体的な贈与税の額については、専門的な知識を有していないと難しくなります。ご相談の場合、納税義務者はお子さんになりますが、仮に、お子さんの希望どおり、一度に贈与をした結果、高額な贈与税が課税されて、贈与を受けた財産を処分して納税しなければならないなどの事態になりますと、双方共心残りとなり、今後の同居生活にしこりを生じさせないとも言えません。また、暦年課税制度とするか、相続時精算課税制度とするかについては、贈与を受ける財産の種類と今後の経済情勢等も踏まえて(例えば、土地の贈与を受ける場合、土地の価格がしばらく下降局面だと予想される場合には、一度に贈与を受けるより、毎年110万円以下ずつ贈与を受けたほうが納税額の総額をおさえられる可能性が高くなります。)選択したほうが納税額を抑えられる可能性も考えられます。いずれにせよ、年間110万円を超えるような贈与をされる場合には、事前に税理士や弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
(基本原則)
第1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(解釈の基準)
第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
(履行遅滞等による解除権)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
(解除の効果)
第544条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
(贈与)
第549条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
(書面によらない贈与の撤回)
第550条 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
(定期贈与)
第552条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。
(負担付贈与)
第553条 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(贈与税の課税)
第二十一条 贈与税は、この節及び次節に定めるところにより、贈与により財産を取得した者に係る贈与税額として計算した金額により、課する。
(贈与税の課税価格)
第二十一条の二 贈与により財産を取得した者がその年中における贈与による財産の取得について第一条の四第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、その者については、その年中において贈与により取得した財産の価額の合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。
2 贈与により財産を取得した者がその年中における贈与による財産の取得について第一条の四第三号の規定に該当する者である場合においては、その者については、その年中において贈与により取得した財産でこの法律の施行地にあるものの価額の合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。
3 贈与により財産を取得した者がその年中における贈与による財産の取得について第一条の四第一号の規定に該当し、かつ、同条第三号の規定に該当する者又は同条第二号の規定に該当し、かつ、同条第三号の規定に該当する者である場合においては、その者については、その者がこの法律の施行地に住所を有していた期間内に贈与により取得した財産の価額及びこの法律の施行地に住所を有していなかつた期間内に贈与により取得した財産で政令で定めるものの価額の合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。
4 相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年において当該相続に係る被相続人から受けた贈与により取得した財産の価額で第十九条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、前三項の規定にかかわらず、贈与税の課税価格に算入しない。
(贈与税の非課税財産)
第二十一条の三 次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
一 法人からの贈与により取得した財産
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
三 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが贈与により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの
四 所得税法 (昭和四十年法律第三十三号)第七十八条第三項(寄附金控除)に規定する特定公益信託(以下この号において「特定公益信託」という。)で学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして、若しくは顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして財務大臣の指定するものから交付される金品で財務大臣の指定するもの又は学生若しくは生徒に対する学資の支給を行うことを目的とする特定公益信託から交付される金品
五 条例の規定により地方公共団体が精神又は身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利
六 公職選挙法 (昭和二十五年法律第百号)の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し贈与により取得した金銭、物品その他の財産上の利益で同法第百八十九条(選挙運動に関する収入及び支出の報告書の提出)の規定による報告がなされたもの
2 第十二条第二項の規定は、前項第三号に掲げる財産について準用する。
(贈与税の基礎控除)
第二十一条の五 贈与税については、課税価格から六十万円を控除する。
(贈与税の配偶者控除)
第二十一条の六 その年において贈与によりその者との婚姻期間が二十年以上である配偶者から専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋でこの法律の施行地にあるもの(以下この条において「居住用不動産」という。)又は金銭を取得した者(その年の前年以前のいずれかの年において贈与により当該配偶者から取得した財産に係る贈与税につきこの条の規定の適用を受けた者を除く。)が、当該取得の日の属する年の翌年三月十五日までに当該居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合又は同日までに当該金銭をもつて居住用不動産を取得して、これをその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合においては、その年分の贈与税については、課税価格から二千万円(当該贈与により取得した居住用不動産の価額に相当する金額と当該贈与により取得した金銭のうち居住用不動産の取得に充てられた部分の金額との合計額が二千万円に満たない場合には、当該合計額)を控除する。
2 前項の規定は、第二十八条第一項に規定する申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)に、前項の規定により控除を受ける金額その他その控除に関する事項及びその控除を受けようとする年の前年以前の各年分の贈与税につき同項の規定の適用を受けていない旨の記載があり、かつ、同項の婚姻期間が二十年以上である旨を証する書類その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
3 税務署長は、前項の申告書の提出がなかつた場合又は同項の記載若しくは添付がない申告書の提出があつた場合においても、その提出がなかつたこと又はその記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。
4 前二項に定めるもののほか、贈与をした者が第一項に規定する婚姻期間が二十年以上である配偶者に該当するか否かの判定その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
(贈与税の税率)
第二十一条の七 贈与税の額は、前二条の規定による控除後の課税価格を次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額を合計した金額とする。
百分の十
百分の十五
百分の二十
百分の三十
百分の四十
百分の五十
(相続時精算課税の選択)
第二十一条の九 贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年一月一日において二十歳以上であるものに限る。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において六十五歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、この節の規定の適用を受けることができる。
2 前項の規定の適用を受けようとする者は、政令で定めるところにより、第二十八条第一項の期間内に前項に規定する贈与をした者からのその年中における贈与により取得した財産について同項の規定の適用を受けようとする旨その他財務省令で定める事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
3 前項の届出書に係る贈与をした者からの贈与により取得する財産については、当該届出書に係る年分以後、前節及びこの節の規定により、贈与税額を計算する。
4 その年一月一日において二十歳以上の者が同日において六十五歳以上の者からの贈与により財産を取得した場合にその年の中途においてその者の養子となつたことその他の事由によりその者の推定相続人となつたとき(配偶者となつたときを除く。)には、推定相続人となつた時前にその者からの贈与により取得した財産については、第一項の規定の適用はないものとする。
5 第二項の届出書を提出した者(以下「相続時精算課税適用者」という。)が、その届出書に係る第一項の贈与をした者(以下「特定贈与者」という。)の推定相続人でなくなつた場合においても、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第三項の規定の適用があるものとする。
6 相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない。
(相続時精算課税に係る贈与税の課税価格)
第二十一条の十 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、特定贈与者ごとにその年中において贈与により取得した財産の価額を合計し、それぞれの合計額をもつて、贈与税の課税価格とする。
(適用除外)
第二十一条の十一 相続時精算課税適用者が特定贈与者からの贈与により取得した財産については、第二十一条の五から第二十一条の七までの規定は、適用しない。
(相続時精算課税に係る贈与税の特別控除)
第二十一条の十二 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 二千五百万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格
2 前項の規定は、期限内申告書に同項の規定により控除を受ける金額、既に同項の規定の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。
3 税務署長は、第一項の財産について前項の記載がない期限内申告書の提出があつた場合において、その記載がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載をした書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。
(相続時精算課税に係る贈与税の税率)
第二十一条の十三 相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税の額は、特定贈与者ごとに、第二十一条の十の規定により計算された贈与税の課税価格(前条第一項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除後の金額)にそれぞれ百分の二十の税率を乗じて計算した金額とする。
(相続時精算課税に係る相続税額)
第二十一条の十四 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した者及び当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者の相続税の計算についての第十五条の規定の適用については、同条第一項中「(第十九条」とあるのは「(第十九条、第二十一条の十五又は第二十一条の十六」と、「同条」とあるのは「これら」とする。
第二十一条の十五 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者については、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるもの(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三、第二十一条の四及び第二十一条の十の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限る。)の価額を相続税の課税価格に加算した価額をもつて、相続税の課税価格とする。
2 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者及び他の者に係る相続税の計算についての第十三条、第十八条、第十九条、第十九条の三及び第二十条の規定の適用については、第十三条第一項中「取得した財産」とあるのは「取得した財産及び被相続人が第二十一条の九第五項に規定する特定贈与者である場合の当該被相続人からの贈与により取得した同条第三項の規定の適用を受ける財産」と、同条第二項中「あるもの」とあるのは「あるもの及び被相続人が第二十一条の九第五項に規定する特定贈与者である場合の当該被相続人からの贈与により取得した同条第三項の規定の適用を受ける財産」と、第十八条第一項中「とする」とあるのは「とする。ただし、贈与により財産を取得した時において当該被相続人の当該一親等の血族であつた場合には、当該被相続人から取得した当該財産に対応する相続税額として政令で定めるものについては、この限りでない」と、第十九条第一項中「特定贈与財産」とあるのは「特定贈与財産及び第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産」と、第十九条の三第三項中「財産」とあるのは「財産(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを含む。)」と、第二十条第一号中「事由により取得した財産」とあるのは「事由により取得した財産(当該被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを含む。)」と、同条第二号中「財産の価額」とあるのは「財産(当該被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを含む。)の価額」とする。
3 第一項の場合において、第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産につき課せられた贈与税があるときは、相続税額から当該贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)に相当する金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。
第二十一条の十六 特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しなかつた相続時精算課税適用者については、当該特定贈与者からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを当該特定贈与者から相続(当該相続時精算課税適用者が当該特定贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により取得したものとみなして第一節の規定を適用する。
2 前項の場合において、特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しなかつた相続時精算課税適用者及び当該特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税の計算についての第十八条、第十九条、第十九条の三及び第十九条の四の規定の適用については、第十八条第一項中「とする」とあるのは「とする。ただし、贈与により財産を取得した時において当該被相続人の当該一親等の血族であつた場合には、当該被相続人から取得した当該財産に対応する相続税額として政令で定めるものについては、この限りでない」と、第十九条第一項中「特定贈与財産」とあるのは「特定贈与財産及び第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産」と、第十九条の三第三項中「財産」とあるのは「財産(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものを含む。)」と、第十九条の四第一項中「該当する者」とあるのは「該当する者及び同条第四号の規定に該当する者(当該相続に係る被相続人の相続開始の時においてこの法律の施行地に住所を有しない者に限る。)」とする。
3 第一項の規定により特定贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税価格に算入される財産の価額は、同項の贈与の時における価額による。
4 第一項の場合において、第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産につき課せられた贈与税があるときは、相続税額から当該贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)に相当する金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。
(相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等)
第二十一条の十七 特定贈与者の死亡以前に当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、当該相続時精算課税適用者の相続人(包括受遺者を含む。以下この条及び次条において同じ。)は、当該相続時精算課税適用者が有していたこの節の規定の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する。ただし、当該相続人のうちに当該特定贈与者がある場合には、当該特定贈与者は、当該納税に係る権利又は義務については、これを承継しない。
2 前項本文の場合において、相続時精算課税適用者の相続人が限定承認をしたときは、当該相続人は、相続により取得した財産(当該相続時精算課税適用者からの遺贈又は贈与により取得した財産を含む。)の限度においてのみ同項の納税に係る権利又は義務を承継する。
3 国税通則法第五条第二項 及び第三項 (相続による国税の納付義務の承継)の規定は、この条の規定により相続時精算課税適用者の相続人が有することとなる第一項の納税に係る権利又は義務について、準用する。
4 前三項の規定は、第一項の権利又は義務を承継した者が死亡した場合について、準用する。
第二十一条の十八 贈与により財産を取得した者(以下この条において「被相続人」という。)が第二十一条の九第一項の規定の適用を受けることができる場合に、当該被相続人が同条第二項の規定による同項の届出書の提出期限前に当該届出書を提出しないで死亡したときは、当該被相続人の相続人(当該贈与をした者を除く。以下この条において同じ。)は、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内(相続人が国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に、政令で定めるところにより、当該届出書を当該被相続人の納税地の所轄税務署長に共同して提出することができる。
2 前項の規定により第二十一条の九第二項の届出書を提出した相続人は、被相続人が有することとなる同条第一項の規定の適用を受けることに伴う納税に係る権利又は義務を承継する。この場合において、前条第二項及び第三項の規定を準用する。
3 第一項の規定により第二十一条の九第二項の届出書を提出することができる被相続人の相続人が当該届出書を提出しないで死亡した場合には、前二項の規定を準用する。