新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:任期中に株式会社の取締役を辞めたいのですが、会社が応じてくれません。取締役の登記を抹消したいのですがどうしたらいいでしょうか。 解説: 2.(委任契約の性質) 3.(判例) 4.(権利義務取締役の場合の例外) 5.(辞任と登記の問題について) 6.結論から言うと、辞任登記の請求、交渉をしても、会社側が応じないようであれば最終的に辞任登記請求訴訟を会社側に対して提起することになります。但し、権利義務取締役の場合はこの訴訟は認められません。判例も同趣旨です。又、このような場合一時取締役制度がありますが「必要性」という要件が欠けるので利用できません。理由を説明します。 7.辞任により、取締役の地位を喪失した以上、当然登記手続きの権限を有する会社は、実体関係に適合するよう辞任登記を行う法的義務を負うことになり、辞任取締役はその義務の履行を請求できるからです。念のため「配達証明書付き内容証明郵便」を用いて通知し、会社側が自発的にその義務を履行することを求めることになります。それでも、なお、会社が登記申請してくれない場合には、最終的に会社に対し、その義務履行を求め辞任登記請求の訴訟を提起し、その勝訴判決書を添付して、貴方ご自身(辞任取締役本人)で辞任登記を申請することができます。 8.「権利義務取締役」の場合は、辞任の意思表示をしている以上、会社側に新たな取締役選任のため臨時株主総会(会社法329条、296条2項)開催を求め、新取締役の選任を求めていくことになります。次に、辞任登記請求ができるか問題です。なぜなら、権利義務取締役は、必要上依然として取締役の資格、地位はありますが、辞任自体が不成立無効になったわけではないからです。この点、会社側の辞任登記義務はないと解釈せざるを得ないと思います。株式会社が、株主、出資、機関の確定に基づく設立登記により成立し(会社法49条、25条以下)、重要事項について実態に適合する公示の原則が徹底されている理由は法人自体無形のものであり、経済社会において無数の取引、営業活動を行うため取引の安全、経済秩序の安定のためにあります。そうであれば、法的には辞任はしても実質上取締役の資格を有し活動するのですから登記、公示自体もその実態に沿い表示するのが取引の安全、取引秩序の安定につながり商業登記の目的趣旨に合致するからです。 9.判例も(最判昭和43.12.24。株式会社変更登記申請却下処分取消請求事件)同様に解釈しています。その判決内容です。会社法成立前の判決であり商法の規定は現在廃止されています。「商法一八八条二項、三項(設立の登記)、六七条(変更の登記)によれば、株式会社の取締役または監査役の辞任は登記事項の変更にあたり、会社はその登記をしなければならないことはいうまでもない。しかし、商法二五八条一項(取締役欠員の処置)、二八〇条(監査役への準用)によれば、法律または定款に定めた取締役または監査役の員数を欠くに至つた場合においては、任期満了または辞任によつて退任した取締役または監査役は、新たに選任された取締役または監査役の就職するまでなお取締役または監査役の権利義務を有するのであるから、このような者については、退任による変更登記をしたままにしておくことは取引の安全の見地からみて適当なことではなく、退任者がなお取締役または監査役の権利義務を有することを登記公示することが必要であると解せられる。しかるに、法律においては、この特別な場合に関する登記公示について明文の規定を欠いているので、このような場合には、取締役または監査役の権利義務を有する退任者につき、登記簿上なお取締役または監査役の登記を存続させておくべきものと解することは前叙の見地からして合理的理由があるというべきである。従つて、取締役または監査役の任期満了または辞任による退任があつても、商法二五八条一項の適用または準用をみる場合においては、いまだ同法六七条に定める登記事項の変更を生じないと解するのが相当である。そして、以上のように解することは、利害関係人や一般公衆に対し取引上重要な事項を知らしめて不測の損害を防止することを目的とする商業登記制度の趣旨にもとるものではない。ところで、商業登記制度は登記事項についての法律関係当事者の利益のためにも存するものであることは所論のとおりであるが、前記二五八条一項所定の権利義務関係は退任による登記の有無に関係なく存続するものであること、そのような地位にある者について登記公示する必要があること等を併せ考えれば、上告人らがいま直ちに辞任による登記を受けることができないとしても、現行商業登記制度上やむをえないところである。原判決の確定したところによれば、訴外株式会社高橋商店においては、上告人らの同時の辞任により、取締役、監査役とも法律に定める員数を欠き、後任者の選任がされていない、というのであるから、前記商法二五八条一項の適用または準用がある場合にあたり、従つて、いまだ登記事項に変更がないと解し、本件登記申請を却下するのが相当であるとした原判決の判断は正当として首肯することができる。」 10.以上より、権利義務取締役の場合は、強制手段がなく他に定款変更により取締役の人数の変更などを求めることも可能ですが、辞任登記、新たな取締役選任について協力しない会社側に決議要件がさらに厳しい(会社法309条2項11号、出席株主の3分の2の決議)定款変更求めること自体難しいと思います。 11.次に、取締役に欠員が生じているのですから、会社法346条2項の一時取締役の制度をできないかどうか問題になります。条文上は、選任の「必要性」があるかどうかですが、この必要性とは株式会社が自ら欠けた取締役に代わる新取締役の選任ができない場合に限られものと解釈すべきです。例えば、取締役全員が死亡した場合等です。なぜなら、会社設立行為は、私的契約自由の原則(私的自治の原則)に支配されており会社内部で欠員が生じても残された役員により新たに新しい取締役を選任していくことが出来れば、国家はこれに介入すべきではないからです。権利義務取締役がいる以上株主総会開催は可能であり一時取締役選任の必要性はありません。通常の取締役欠員も同様です。 12.以上のように権利義務取締役の場合、強制的に辞任登記請求はできませんので、就任には十分注意が必要であり安易な了承はできないわけです。 13.次に、辞任したのに登記が残された取締役の法的責任について検討しておきます。 14.結論から言うと、単に取締役の登記が会社側の理由により残されたというだけで責任を負うことはありません。念のため、辞任したが場合は、取引先等に辞任の連絡をしておく方がいいと思います。以下説明します。 15.(会社法429条の関係の責任) 16.(会社法266条の関係の責任) 17.尚、前述した「一時取締役」と類似の制度に「職務代行者」の制度(会社法352条1項)がありますが、これは、選任手続きの違背、虚偽の登記等により本来取締役の地位にないものが外形上取締役として存在する場合に、会社の著しい損害又は急迫の危険を回避する必要性から裁判所が民事保全法に基づいて仮の地位を定める仮処分として新たな仮の取締役を選任するもので、従来の正当な取締役が辞任後も必要上引き続き職務を行う「一時取締役」とは、全く異なる制度です。一番の大きな違いとしては、「職務代行者」は仮の取締役なので会社の常務に属さない業務(取締役の解任を目的とした臨時株主総会の招集:最判昭50.6.27、募集株式の発行、事業譲渡等)を行う場合には、裁判所の許可が必要とされているのに対し、「一時取締役」は、通常の取締役と同じ資格があるのでそのような制限はありません。 【参照条文:民法】 (株主総会の決議)
No.878、2009/5/28 14:52
[商事・取締役の辞任・登記との関係・権利義務取締役]
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回答:
1.会社法においては、役員と会社との関係は、民法の規定する委任契約が準用されています。委任契約は、いつでも解除できますので、貴方の辞任する旨の意思表示が会社に到達したときに、辞任の効力が発生し、原則として、貴方は取締役の地位から解放されることになります。但し、貴方の辞任により、定められた取締役の員数を欠く場合等の事情がある場合には、貴方は、権利義務取締役として引き続き取締役としての責任を負うことになります。
2.手続き的には、まず、会社に対して取締役登記抹消の請求を内容証明で行い交渉し、応じなければ取締役の辞任登記をせよとの請求訴訟を提起して判決を取得して当該判決に基づき法務局で辞任登記手続きを申請することになります。
3.貴方が、「権利義務取締役」の場合は、会社が応じない以上辞任取締役登記請求訴訟を提起することはできませんので事実上無理かも知れませんが、株主総会を開き定款を変更するか、新たな取締役を選任するよう請求するしかありません。取締役の就任はそういう意味で安易に承諾できないわけです。
4.尚、いずれの場合も「取締役選任の必要性」という要件が欠けますので、裁判所に対して「一時取締役」選任を請求はできません(会社法346条2項)。私的自治の原則から、会社内部の手続きで新たな取締役の選任が可能だからです。
5.辞任後の取締役の法的責任ですが、取締役を装うような行為をしなければ責任はありません。念のため、取引先にも辞任の連絡をしておくといいでしょう。権利義務取締役の場合は、辞任前の取締役と同様の責任を負うことになります。
6.以下詳細に解説します。
1.(問題点の指摘)
取締役の任期中(会社法332条、原則2年以内、公開会社でなければ10年以内も可能です。)ですので勝手に辞任できるか問題になりますが、結論から言うと辞任は可能です。但し、貴方が権利義務取締役(会社法346条)に該当する場合は、辞任後引き続き取締役の地位にとどまることになります。以下理由をご説明します。
会社法では、会社と取締役を含む役員、会計監査人との関係は、民法第643条から656条(執行役の場合会社法402条3項)に規定される委任契約に基づくとされています(会社法330条)。委任契約の解除は、委任者(会社)及び受任者(取締役)の各当事者から、いつでも申し出ることができ(民法651条1項)、但し、やむを得ない事由がある場合を除き、相手方の不利益な時期に解除した場合には、その損害を賠償しなければならないという制限があるだけです(同条2項)。両者合意の上で契約しているのに途中で正当な理由もなく契約解除ができるというのはおかしいように思いますが、その根拠は委任契約の特殊性、すなわち委任契約は当事者の信頼関係を基礎にしているところに求められます。委任契約とは、法律上の効果が生じる行為(事務)の代理(処理)を委託する契約(民法643条)です。これは、委託を受けた人は、委任の趣旨に沿って自分の労務を提供するので、労働雇用契約と似ていますが、雇用契約は使用者の指示に従って働きますので働く人に裁量権はありませんが、委任の場合は、受任者が委託された業務について裁量権が認められるところに雇用との違い特色があります。ですから当事者に信頼関係がなければ成り立ちませんし、信頼関係が失われた以上当事者の意思、利益を尊重し保護するため正当な理由がなくとも、解除を認めその後の損害賠償という形で利益を調整しています。委任契約解除の効果は、(取締役を辞任する)旨の『意思表示』が会社に到達した時に生じます。従って、本来、取締役の辞任について、会社が「応じる・応じない」といったことは本来問題にはならないのです。
判例(大阪地判昭和63.11.30)も 会社との間で委任契約の自由な解除(取締役の辞任)を制限する特約が結ばれているケースであっても、そのような特約は無効であり、取締役から辞任の申出によりその効果が生じていると判断しています。判決理由は以下のとおりです。平成17年会社法成立前の判決ですので会社法の規定に従い注釈します。
@会社と取締役との間の関係は、民法の委任に関する規定に従い、民法651条1項に基づき、委任は当事者間において何時でもこれを解除することができるのであるから、取締役は何時でも自由に辞任することができると解すべきである。
A会社側も、株主総会の決議をもってすれば、いつでも取締役を解任することができること(旧商法257条1項本文:会社法339条1項)。
B取締役が会社に対して重い責任を負わされていること。旧商法266条1項(取締役の特別責任):会社法120条4項。同法462条1項6号、2項等。但し、会社法では原則過失責任になっています。すなわち旧商法では、取締役の会社に対する責任については、個別に過失責任あるいは無過失責任とされてきましたが、会社法においては、会社法120条4項但し書(株主の権利行使に関する利益の供与。)で定める当該利益供与をした取締役、及び会社法423条(取締役が自己のためにした取引に関する特則)の利益相反取引をした取締役を除いては、原則「過失責任」である旨が明文化されました。
C取締役に一定の行為をなすことを制約されていること。旧商法264条(競業避止義務):会社法356条1項1号。旧商法265条1項(自己取引の禁止):会社法356条1項2号・3号。
権利義務取締役とは、取締役の辞任により、残された取締役の員数が定款または法律(取締役会非設置会社である場合には1名以上、取締役会設置会社である場合には3名以上、会社法331条4項。)に定めた定足数を欠くことになる場合には、後任者が選任される等により取締役の員数を満たすまでは、依然として、取締役としての責任を負う、とされるものです(会社法346条。補欠取締役がいれば別です。会社法329条2項)。権利義務取締役の規定は、既に取締役としての任期が切れているにもかかわらず、会社が次の取締役を選任しないような場合にも該当します。条文上は、「役員としての権利義務を有する」と規定してありますが、辞任しても、取締役としての権利だけでなく義務も有するのですから辞任前の取締役と法的に同一の資格、地位にあり実質的に辞任の効果は生じないことになります。どうしてこのような例外を認めたのかというと、株式会社における取締役(役員)地位の重要性にあります。自由主義、資本主義経済体制を採用するわが国の経済発展、成長は株式会社制度により支えられ国民の生活権、労働権の確保も密接に関連しているのですが、株式会社の本質は所有と経営の分離にあり、企業の成長に伴い本来の所有者である株主は経営に興味を失いつつあり、反面経営を委託された取締役の地位、権限が強化され会社の運営かじ取り、さらには社会経済の動向は経営者たる取締役(役員)の判断如何にかかわることになりかねません。従って、会社法は、取締役等役員の地位権限について厳格な規定を置き、会社の規模に応じて任期、人数も法定しており、万が一法定の取締役が欠けた場合は、会社、株主の保護、ひいては社会経済安定のため取締役の欠員を認めず、従来の取締役は引き続きその責務を果たさなければならないのです。これが権利義務取締役です。従って、貴方の意思にかかわらず、後任が選任されるまで依然として取締役の地位にとどまることになります。このように取締役の地位は厳格ですから、依頼されても安易な就任はできないわけです。
次に、会社と取締役間で委任契約が解除されて辞任できる場合でも、取締役の辞任登記が当然に行われるとは限りません。辞任登記は法人登記の内容変更であり、会社側が申請しなければならないからです。そこで、会社側が辞任登記に協力してくれない場合に辞任した取締役がどのような手段をとりうるか問題となります。というのは、後述のように取締役登記が残されていると取締役の法的責任が生じる可能性があるからです。
会社に対して、取締役を辞任する旨の意思表示をし、それが会社に到達したことによって、正式に辞任の効果を生じているにもかかわらず、会社が取締役を辞任した旨の登記を申請しないでいるため、登記簿上、未だに貴方の名前が取締役として登記簿上に残されたままである、という場合には、その登記簿の記載を信じて取引した善意の第三者に対し責任(会社法429条)を負うかどうか問題になりますが、本来、辞任の登記がされたか否かに関わらず、辞任の意思表示により「取締役」でなくなった者は会社法429条にいう「取締役」に該当しませんから責任を負うことはありません。本条は、取締役の地位の重要性にかんがみて法が特別に取引主体である会社以外に責任を認めた規定であり辞任により取締役の実体がないような場合まで責任を負わせる表見責任の規定ではないからです。勿論、会社法346条1項に規定する取締役(「権利義務取締役」)に該当する場合には、通常の取締役と同様に責任を負うことになります。
判例の見解を紹介します。「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの、以下同じ。)266条ノ3第1項前段(会社法429条)に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである(最高裁昭和33年(オ)第370号同37年8月28日第三小法廷判決・裁判集民事62号273頁参照)が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法14条(会社法第908条)の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法266条ノ3第1項前段(会社法429条)にいう取締役として所定の責任を免れることはできない。」と判例(昭62・4・16一小法廷判決)は説明しています。すなわち、辞任しているにもかかわらず、取締役としての登記が残存している場合、事実と異なった登記=不実の登記が存在していることとなり、辞任してもなお積極的に取締役として対外的・内部的行為をあえて行い、その不実の登記を抹消しないことについて、本人が明示的な承諾を与えた等の特段の事情がある場合には、「表見取締役(=名目的取締役)」と類似の責任を負わざるを得ないということです。制度上妥当な見解です。
(委任)
第643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第646条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(受任者による報告)
第645条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(受任者による受取物の引渡し等)
第646条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
(受任者の金銭の消費についての責任)
第647条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(受任者の報酬)
第548条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
3 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
(受任者による費用の前払請求)
第649条 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
(受任者による費用等の償還請求等)
第650条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
(委任の解除)
第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
(委任の解除の効力)
第652条 第620条の規定は、委任について準用する。
(委任の終了事由)
第653条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
(委任の終了後の処分)
第654条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
(委任の終了の対抗要件)
第655条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。
(準委任)
第656条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
【参照条文:会社法】
(株主の権利の行使に関する利益の供与)
第120条1〜3(略)
4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(委員会設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5(略)
(株主総会の招集)
第296条 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
2 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
3 株主総会は、次条第四項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。
第309条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一〜十(略)
十一 第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
十二(略)
4・5(略)
(選任)
第329条 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第371条第4四項及び第394条第3項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
2 前項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
(株式会社と役員等との関係)
第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(取締役の資格等)
第331条1〜3(略)
4 取締役会設置会社においては、取締役は、三人以上でなければならない。
(取締役の任期)
第332条 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(委員会設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
3 委員会設置会社の取締役についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。
4 前三項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。
一 委員会を置く旨の定款の変更
二 委員会を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更
三 その発行する株式の全部の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更(委員会設置会社がするものを除く。)
(解任)
第339条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2(略)
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第346条 役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができる。
3〜7(略)
(取締役の職務を代行する者の権限)
第352条 民事保全法(平成元年法律第九十一号)第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役又は代表取締役の職務を代行する者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、株式会社の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
(競業及び利益相反取引の制限)
第356条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2(略)
(執行役の選任等)
第402条1・2(略)
3 委員会設置会社と執行役との関係は、委任に関する規定に従う。
4〜8(略)
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第429条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
(剰余金の配当等に関する責任)
第462条 前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(委員会設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。
一〜五(略)
六 前条第一項第八号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 第454条第一項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役
ロ 第454条第一項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役
2 前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。
3(略)
第466条 株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。
(登記の効力)
第908条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。