新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 【質問】数日前、深夜の帰り道、自宅近くで、男性に襲われました。何とか振り切って逃げたのですが、着衣がひどい状態になるほど、かなり執拗に襲われたので、少なくとも、強制わいせつにはなりそうな被害を受けてしまいました。体もかなり強く打ったりして、けがをしたので、病院での診察も受けました。暗かったとはいえ、近かったので顔も見えました。知っている男性で、私の住んでいる大体の場所は知っていて、待ち伏せをしていたのだと思うのですが、それほど親しかったわけではありません。ただ、乱暴で怖そうな人で、同じような仲間も多いと聞いていましたので、警察に相談して、手続が進むと、私に関する個人的な情報も、相手やその関係者に知られてしまい、さらに何かされたりするのでは、と心配で、まだ警察には被害届が出せずにいます。あまり知らせずに手続をする方法はないでしょうか。また、慰謝料や治療費を請求するには、どうしたらいいでしょうか。 (解説) 2.刑事裁判に提出された証拠の中に、お話の内容をまとめた供述調書も提出されることになりますし、その調書には、住所や連絡先が記載される一般ですし、検察官は、被告人の弁護人に対しては、裁判での活動のため、提出予定の証拠として、その供述調書を開示することになります。しかし、このような犯罪(強姦罪、強制わいせつ罪等性的プライバシーが事件になっている事件)については被害者保護のため対策が取られています。 @証拠書類の開示において(刑訴40条)被害者の住所、連絡先は、抹消し抄本として告訴状、被害届、供述調書を提出するのが通常です。唯、弁護人が求めれば、弁護人の証拠に対する知悉権として住所は開示される可能性はありますが、後述のように検察官は被告人に漏れることないような処置を取ることができます(刑訴299条、299条の2,299条の3)。 Aこの点については、平成19年6月20日に成立し、同年12月26日に施行された、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法の一部を改正する法律」で、一定の措置が執られています。検察官は、被害者の方の特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項)が明らかにされることにより、被害者の方の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあるとき、また、被害者の方に危害を加える行為がなされるおそれがあるときには、その事項が被告人その他の者に知られないよう求めることができる、とされました(刑事訴訟法299条の3。法299上の2は平成12年改正。)。但し、起訴状に記載された事項は、開示しないように求めることはできないのですが(なお、起訴状は本人が受け取ることも多いと思います)、お伺いしたご事情で、起訴状に電話番号等の連絡先まで書かれる可能性はないと思います。正確な住所も、記載されないのが通常です。また、被告人の弁護人となった弁護士の方も、連絡先を弁護士自身で把握することは、被告人に、謝罪や弁償と言った責任を具体的にとらせるために、必要と申し上げざるを得ないのですが(もちろん、どうしてもお気持ちに添わなければ、連絡に対応しないことも可能です)、それを、被告人本人に知らせる必要までは、ほとんどないと思います。仮に、弁護士がそれを知らせてしまったことで、さらなる被害を招いた、等ということになれば、弁護士が何らかの責任を問われることになるでしょう。弁護士も、このような検察官からの求めがあるかどうかに関わらず、そのような情報には、十分慎重に対応するはずです(それでも、本人から電話があった、ということであれば、本人やその他の関係者が、以前から、別の方法で電話番号を知っていた可能性が高いでしょう)。 3.また、検察官に申し出ておけば、裁判の行われる法廷でも、被害者の方の特定事項を明らかにしない、具体的には、起訴状や証拠書類を朗読するときにその箇所を朗読しない、また、裁判での尋問や質問が、その内容に関わって来た場合には、証明に重大な支障が生じるおそれがあるときや、被告人の防御に不利益となる場合を除いて、尋問や質問を制限できる、という規定も設けられました(刑事訴訟法290条の2)。具体的には、被害者の苗字のみ、又は事件によってABCという記号で陳述が行われます。 4.仮に、被害者に対して、何らかの威圧等があれば刑事罰が科せられ大変な事態になります。証人威迫罪(刑法105条の2)、いわゆるお礼参りです。 5.被害届を出し、警察の捜査により証拠が集まり、相手が逮捕され起訴されれば、重い刑罰が科せられる犯罪ですので、相手も弁護人を選任して、謝罪と弁償を申し出てくる可能性も十分にあります。もちろん、受け入れがたい、というお気持ちだとは思いますが、損害の賠償を受け取るかどうか、という選択肢が生まれることにもなります。 6.相手がそのような対応さえせず、刑事の判決が出た場合(特に、相手が早期に釈放され、手続が進めやすい場合)には、こちらから、損害賠償(民法709、710条)の交渉、裁判をしていくことも考えられます。今の段階では、相手がこのような行動をしたという証拠を、自力で集めることは困難ですから、警察の捜査により集められ、裁判所に提出された証拠を利用した方が、賠償は円滑に受けられると思います。これまでは、この証拠を閲覧謄写して利用することは、「損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合その他正当な理由がある場合」に限って、認めることができるとされていましたが、今回の法改正で、閲覧謄写は原則として認められ、支障がある場合に制限をするだけ、という形になりました(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律3条)。 その他、刑事事件の審理を行う当該裁判所に、@民事上の損害賠償請求命令の申し立て(同法17条)ができます。任意的口頭弁論で、原則4回の審理で終了です(法23条、24条)。命令手続きなので異議の申し立てもできます(法27条以下)。A次に、当該裁判所被害賠償について和解の場合の裁判上の手続きも認められ(刑事事件の公判調書に記載された和解内容は民事上の和解と同一の効力が認められます。同法13条4項)請求が円滑に行われるようになっています(同法13条)。有罪になった、というだけではなく、状況も詳しく立証しないと、どれだけの損害を被ったか、主張立証がしにくくなってしまいますので、この制度で、刑事記録を証拠として活用し、有利な展開を図りやすくなると思います。いきなり裁判をするのではなく、交渉だけを弁護士に依頼する、という方法も考えられます。 7.お一人での手続は不安だと思いますので、ご心配なことは、お近くの法律事務所にご相談下さい。相談しながら手続を進めて、必要になった段階で依頼するという方法もあります。 ≪条文参照≫ 【刑法】 【刑事訴訟法】 【犯罪捜査規範】 【民法】
No.894、2009/6/25 10:43 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-higai.htm
【刑事・刑事事件被害者の告訴・刑事手続きにおける被害者の保護・損害賠償請求・犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法の一部を改正する法律の内容】
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【回答】
1.最寄りの交番か警察署で、強制わいせつ致傷の告訴(刑訴230条)、被害届(犯罪捜査規範61条)を出されることをお勧めします。情報の公開もかなり制限されると思われます。本件のような事件では、証拠書類の開示において被害者の住所、連絡先は、抹消し抄本として告訴状、被害届、供述調書を提出するのが通常です。唯、弁護人は開示請求があり、弁護人に対しては住所、連絡先は開示される可能性はあります(刑訴299条弁護人の知悉権)。
2.相手と示談にいたらないまま、刑罰についての判決が出た場合には、その刑事事件の証拠を利用して、刑事事件が継続する裁判所に損害賠償の裁判(命令)をこちらから起こすこともできます。まずは、捜査してもらった方がいいでしょう。
3.事例集886番参照。
1.大変な思いをされ、これからのことも心配だと思いますが、このまま被害届を出さなくても、安全が保障されるわけではありません。強制わいせつ致傷(刑法181条)の可能性が高いと思いますので、診断書その他の証拠を持って、被害届を出して、今後の見回りの強化もお願いした方がいいでしょう。交番では話しにくい、ということでしたら、警察署の方が、警察署等人目がないところで事情聴取を受けやすいでしょう。希望すれば女性警察官が事情聴取を担当することができる場合もあります。
(証人等威迫)
第百五条の二 自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条 第百七十六条若しくは第百七十八条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
二百三十七条 告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
○2 告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
第二百四十条 告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。
第二百四十一条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
○2 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
第二百四十二条 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
第二百四十三条 前二条の規定は、告訴又は告発の取消についてこれを準用する。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
第二百九十条の二 裁判所は、次に掲げる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
一 刑法第百七十六条 から第百七十八条の二 まで若しくは第百八十一条 の罪、同法第二百二十五条 若しくは第二百二十六条の二第三項 の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項 (第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項 (わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条 の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
二 児童福祉法第六十条第一項 の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号 に係る同法第六十条第二項 の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条 から第八条 までの罪に係る事件
三 前二号に掲げる事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
○2 前項の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
○3 裁判所は、第一項に定めるもののほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
第二百九十九条 検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
○2 裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
第二百九十九条の二 検察官又は弁護人は、前条第一項の規定により証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。
第二百九十九条の三 検察官は、第二百九十九条第一項の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。
<犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律>
(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
第三条 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
2 裁判所は、前項の規定により謄写をさせる場合において、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。
3 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は、閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。
第五章 民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解
(民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解)
第十三条 刑事被告事件の被告人と被害者等は、両者の間における民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る。)について合意が成立した場合には、当該被告事件の係属する第一審裁判所又は控訴裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
2 前項の合意が被告人の被害者等に対する金銭の支払を内容とする場合において、被告人以外の者が被害者等に対し当該債務について保証する旨又は連帯して責任を負う旨を約したときは、その者も、同項の申立てとともに、被告人及び被害者等と共同してその旨の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
3 前二項の規定による申立ては、弁論の終結までに、公判期日に出頭し、当該申立てに係る合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実を記載した書面を提出してしなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による申立てに係る合意を公判調書に記載したときは、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
(和解記録)
第十四条 前条第一項若しくは第二項の規定による申立てに基づき公判調書に記載された合意をした者又は利害関係を疎明した第三者は、第三章及び刑事訴訟法第四十九条 の規定にかかわらず、裁判所書記官に対し、当該公判調書(当該合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実が記載された部分に限る。)、当該申立てに係る前条第三項の書面その他の当該合意に関する記録(以下「和解記録」という。)の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付を請求することができる。ただし、和解記録の閲覧及び謄写の請求は、和解記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
2 前項に規定する和解記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付の請求に関する裁判所書記官の処分に対する異議の申立てについては民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第百二十一条 の例により、和解記録についての秘密保護のための閲覧等の制限の手続については同法第九十二条 の例による。
3 和解記録は、刑事被告事件の終結後は、当該被告事件の第一審裁判所において保管するものとする。
(民事訴訟法 の準用)
第十五条 前二条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に関する手続については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第一編第三章第一節 (選定当事者及び特別代理人に関する規定を除く。)及び第四節 (第六十条を除く。)の規定を準用する。
(執行文付与の訴え等の管轄の特則)
第十六条 第十三条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に係る執行文付与の訴え、執行文付与に対する異議の訴え及び請求異議の訴えは、民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第三十三条第二項 (同法第三十四条第三項 及び第三十五条第三項 において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、当該被告事件の第一審裁判所(第一審裁判所が簡易裁判所である場合において、その和解に係る請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)の管轄に専属する。
第六章 刑事訴訟手続に伴う犯罪被害者等の損害賠償請求に係る裁判手続の特例
第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第十七条 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2 損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3 前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。
(申立書の送達)
第十八条 裁判所は、前条第二項の書面の提出を受けたときは、第二十一条第一項第一号の規定により損害賠償命令の申立てを却下する場合を除き、遅滞なく、当該書面を申立ての相手方である被告人に送達しなければならない。
(管轄に関する決定の効力)
第十九条 刑事被告事件について刑事訴訟法第七条 、第八条、第十一条第二項若しくは第十九条第一項の決定又は同法第十七条 若しくは第十八条 の規定による管轄移転の請求に対する決定があったときは、これらの決定により当該被告事件の審判を行うこととなった裁判所が、損害賠償命令の申立てについての審理及び裁判を行う。
(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第二十条 損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第十三条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は、刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは、これを行わない。
2 裁判所は、前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間、申立人に、当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。
(申立ての却下)
第二十一条 裁判所は、次に掲げる場合には、決定で、損害賠償命令の申立てを却下しなければならない。
一 損害賠償命令の申立てが不適法であると認めるとき(刑事被告事件に係る罰条が撤回又は変更されたため、当該被告事件が第十七条第一項各号に掲げる罪に係るものに該当しなくなったときを除く。)。
二 刑事訴訟法第四条 、第五条又は第十条第二項の決定により、刑事被告事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することとなったとき。
三 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百二十九条 若しくは第三百三十六条 から第三百三十八条 までの判決若しくは同法第三百三十九条 の決定又は少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条 の決定があったとき。
四 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合において、当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当しないとき。
2 前項第一号に該当することを理由とする同項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3 前項の規定による場合のほか、第一項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(時効の中断)
第二十二条 損害賠償命令の申立ては、前条第一項の決定(同項第一号に該当することを理由とするものを除く。)の告知を受けたときは、当該告知を受けた時から六月以内に、その申立てに係る請求について、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第二十三条 損害賠償命令の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2 前項の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
(審理)
第二十四条 刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には、裁判所は、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし、直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは、裁判長は、速やかに、最初の審理期日を定めなければならない。
2 審理期日には、当事者を呼び出さなければならない。
3 損害賠償命令の申立てについては、特別の事情がある場合を除き、四回以内の審理期日において、審理を終結しなければならない。
4 裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならない。
(審理の終結)
第二十五条 裁判所は、審理を終結するときは、審理期日においてその旨を宣言しなければならない。
(損害賠償命令)
第二十六条 損害賠償命令の申立てについての裁判(第二十一条第一項の決定を除く。以下この条から第二十八条までにおいて同じ。)は、次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。
一 主文
二 請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三 理由の要旨
四 審理の終結の日
五 当事者及び法定代理人
六 裁判所
2 損害賠償命令については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3 第一項の決定書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
4 裁判所は、相当と認めるときは、第一項の規定にかかわらず、決定書の作成に代えて、当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては、当該裁判の効力は、その告知がされた時に生ずる。
5 裁判所は、前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には、裁判所書記官に、第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
第三節 異議等
(異議の申立て等)
第二十七条 当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
4 適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
5 適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する。
6 民事訴訟法第三百五十八条 及び第三百六十条 の規定は、第一項の異議について準用する。
(訴え提起の擬制等)
第二十八条 損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てに係る請求については、その目的の価額に従い、当該申立ての時に、当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは、当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、第十七条第二項の書面を訴状と、第十八条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
3 第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は、その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、決定で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4 前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(記録の送付等)
第二十九条 前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、第二十四条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2 裁判所書記官は、前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。
(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第三十条 第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は、民事訴訟法第二百十九条 の規定にかかわらず、書証とすべきものを特定することによりすることができる。
(異議後の判決)
第三十一条 仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において、当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは、その判決において、損害賠償命令を認可しなければならない。ただし、損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては、損害賠償命令を取り消さなければならない。
3 民事訴訟法第三百六十三条 の規定は、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において、同法第三百六十三条第一項 中「異議を却下し、又は手形訴訟」とあるのは、「損害賠償命令」と読み替えるものとする。
第四節 民事訴訟手続への移行
第三十二条 裁判所は、最初の審理期日を開いた後、審理に日時を要するため第二十四条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは、申立てにより又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2 次に掲げる場合には、裁判所は、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一 刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに、申立人から、損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二 損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに、当事者から、当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり、かつ、これについて相手方の同意があったとき。
3 前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4 第二十八条から第三十条までの規定は、第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。
第五節 補則
(損害賠償命令事件の記録の閲覧等)
第三十三条 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は損害賠償命令事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
2 前項の規定は、損害賠償命令事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、これらの物について当事者又は利害関係を疎明した第三者の請求があるときは、裁判所書記官は、その複製を許さなければならない。
3 前二項の規定にかかわらず、刑事関係記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下この条において「閲覧等」という。)の請求については、裁判所が許可したときに限り、することができる。
4 裁判所は、当事者から刑事関係記録の閲覧等の許可の申立てがあったときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、不当な目的によるものと認める場合、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認める場合、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認める場合その他相当でないと認める場合を除き、その閲覧等を許可しなければならない。
5 裁判所は、利害関係を疎明した第三者から刑事関係記録の閲覧等の許可の申立てがあったときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、正当な理由がある場合であって、関係者の名誉又は生活の平穏を害するおそれの有無、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれの有無その他の事情を考慮して相当と認めるときは、その閲覧等を許可することができる。
6 損害賠償命令事件の記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、当該記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
7 第四項の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
8 第五項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(民事訴訟法 の準用)
第三十四条 特別の定めがある場合を除き、損害賠償命令事件に関する手続については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第二条 、第十四条、第一編第二章第二節、第三章(第四十七条から第五十一条までを除く。)、第四章、第五章(第八十七条、第九十一条、第二節第二款、第百十六条及び第百十八条を除く。)、第六章及び第七章、第二編第一章(第百三十三条、第百三十四条、第百三十七条第二項及び第三項、第百三十八条第一項、第百三十九条、第百四十条、第百四十五条並びに第百四十六条を除く。)、第三章(第百五十六条の二、第百五十七条の二、第百五十八条、第百五十九条第三項、第百六十一条第三項及び第三節を除く。)、第四章(第二百三十五条第一項ただし書及び第二百三十六条を除く。)、第五章(第二百四十九条から第二百五十五条まで並びに第二百五十九条第一項及び第二項を除く。)及び第六章(第二百六十二条第二項、第二百六十三条及び第二百六十六条第二項を除く。)、第三編第三章、第四編並びに第八編(第四百三条第一項第一号、第二号及び第四号から第六号までを除く。)の規定を準用する。
(昭和三十二年七月十一日国家公安委員会規則第二号)
第一章 総則
第一節 捜査の心構え
(この規則の目的)
第一条 この規則は、警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(捜査の基本)
第二条 捜査は、事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。
2 捜査を行うに当つては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。
(法令等の厳守)
第三条 捜査を行うに当たっては、警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号)、刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号。以下「刑訴法」という。)その他の法令および規則を厳守し、個人の自由及び権利を不当に侵害することのないように注意しなければならない。
(被害届の受理)
第六十一条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
(犯罪事件受理簿)
第六十二条 犯罪事件を受理したときは、警察庁長官(以下「長官」という。)が定める様式の犯罪事件受理簿に登載しなければならない。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。