新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.907、2009/9/1 11:00 https://www.shinginza.com/cooling.htm

【民事・平成20年6月割賦販売法改正・販売契約の瑕疵によるクレジット契約の解消とその効果】

質問:私には遠方に祖母が居ます。一人で年金生活をしており、家族もなかなか会いに行けません。最近悪質なセールスに狙われているようで、電話がかかってきたり、自宅に来られたりしているようです。祖母も人がいいので、つい家に上げてしまい、なかなか帰らせることができないようです。数千円程度の物を買ったりもしてしまっています。その場で払える、そう高くない物であれば、仕方ないとは思うのですが、今後、クレジット契約を次々とさせられたりして、使い切れないほどのものを購入し、支払えないような多額の負債を抱えてしまったら、と思うと心配です。かなり判断力が落ちてしまったら、こちらに来てもらったり、後見人をたてたり、ということも考えざるを得ないと思いますが、しばらくそこまではないと思いますし、その間は、祖母も今の暮らしを望むと思います。何かいい方法があれば、今のうちに知りたいと思います。

回答:
1.現行法上は、貴方の祖母のように契約の瑕疵を主張する方がその原因や経過を主張立証しようとしても困難なことが多く、個別の契約を無効としていくことが難しく、破産をせざるを得ないケースも多くあります。しかし、平成20年6月から1年6ヶ月以内とされている、改正割賦販売法施行後は、契約に瑕疵があれば販売契約やクレジット契約を取消しやすくなり、未払い分の支払義務を消すだけでなく、既に引き落とされた分も返すよう主張しやすくなると思われます。

2.事務所事例集bW85bV67bV51bV19bT90bR50bR27bR02bQ62bQ28bQ27bP49bP40bP20も参考にしてください。

解説:
1.(問題点の指摘)ご本人様が、意思能力が完全にないという状態になった場合には、意思に基づかない契約として商品販売契約の無効を主張することも考えられますが、ご指摘の通り、そこまでは行かないが断りきれなかった、という場合も多くあると思います。そのような高齢者の心理状態につけ込んで、契約をするという売り方にも問題があることを理由に、公序良俗に反するとして無効を主張することも考えられますが(民法90条)、次々と数多くの契約が存在する場合には、ご高齢の方ご自身が、その個々の契約に関してどのようなやりとりをしたのか、ご記憶にない場合も多いことから、具体的にどの点で売り方が問題だったのか、結局主張立証できないケースも多々あります。法的な無効等の主張が難しく、既に負債が多額で、返済の資力もない、という場合には、本来は不本意な形であっても、破産手続によって、全ての負債の支払義務について免責を受ける(ただ、資産は一部を除き返済に充てられてしまいます)、という形をとるのが現実的だ、ということも多くあります。本件は、業者が自宅まで訪ねてきて商品等を販売するので消費者契約法を背景に制定された特定商取引である訪問販売に該当します。しかし訪問販売は売買契約の当事者を規制するもので、契約に付随するクレジット契約まで解消することまで規定されていません。訪問販売契約により、売買契約が解消されて、割賦販売法による原契約の抗弁権承継としてクレジット会社に今後の支払いを主張できるとしても、すでに支払った分の取り戻しは困難です。そこで、このような不都合をどう是正するか問題となりました。

2.(割賦販売法の趣旨)この様な割賦販売法の改正の趣旨は、法の理想に基づく公正、公平な契約の実現による社会経済秩序の維持です(割賦販売法1条)。割賦販売法は消費者が購入を容易にするものでそれ自体違法性があるわけではありませんが、分割払いという消費者の誘惑を誘う売買形態、利息手数料の上乗せ、クレジット会社の介在による抗弁権主張の制限(支払った分は返還が困難)、クレジット会社という第三者機関による消費者の支払いの事実的強制等により消費者を実質的に保護することが求められます。もともとクレジット会社は、業者が販売を迅速にして代金回収を容易にするために考え出した手段であり法的に別個の存在でも全体的にみれば業者と一体をなし利益を分け合う関係にあります。従って、法の理想である実質的契約の公平を守り契約自由の原則に内在する信義則を維持するために、業者の契約上の責任は、実態的に同一の存在としてあるクレジット会社にも責任分担を負わせなくてはならないのです。そのような視点から割賦販売法、の解釈、改正は行われることになります。

3.(改正の内容)しかし、このような実情を踏まえて成立した、平成20年6月から1年6ヶ月以内とされる改正割賦販売法施行後は、商品の販売価格、代金支払時期や支払方法、引渡時期について、不実の告知や、故意に事実を告げないことを行ったり、顧客がその契約を必要とする事情について、不実の告知を行ったり(例えば、本来必要な量をはるかに超えた量が必要だと告げたりする等)した場合には、申込みの撤回、契約の解除ができるという規定により(同法35条の3の12)、販売契約だけでなく、クレジット契約(改正法では個別信用購入あっせん関係受領契約といいます。)についても、効力を失わせることができるようになります。こういった重要事項については、書面を交付するように、法律、政令、省令で定められていることも多いですし、明らかに多量の購入の場合には、上記のような不当な説明があったと考えられることが多いことから、この規定によって、支払を免れることができる可能性が出てきます。また、この規定は、クレジット会社が既に受け取った金額を返還する義務も定めていますので、既にある程度の支払を行ってしまった場合、その返還を請求することもできます。

4.(まとめ)ただし、契約締結の時から1年以内に行使する必要がありますから、あまり長期間、次々と契約している状態が継続してしまうと、当初の契約については、この主張ができなくなるおそれもありますので、早期発見が大事であることに変わりはありません。このような契約の効力について争うには、早期の発見、対応が何よりも大事です。できるだけ注意してご様子を見ていただき、もし、少しでも不審な商品や書類等が出てきたら、すぐに、お近くの法律事務所にご相談下さい。

≪条文参照≫

以下条文中、「改正」とあるのは、平成20年6月11日成立改正です。
<割賦販売法>
第一章 総則
(目的及び運用上の配慮)
第1条  この法律は、割賦販売等に係る取引を公正にし、その健全な発達を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を円滑にし、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。
2  この法律の運用にあたつては、割賦販売等を行なう中小商業者の事業の安定及び振興に留意しなければならない。

《改正法》
(通常必要とされる分量を著しく超える商品の販売契約等に係る個別信用購入あっせん関係受領契約の申込みの撤回等)
第35条の3の12 第35条の3の10第1項第1号、第2号、第4号又は第5号に掲げる場合において、当該各号に定める者(以下この条において「申込者等」という。)は、当該各号の個別信用購入あっせん関係販売契約又は個別信用購入あっせん関係役務提供契約であって特定商取引に関する法律第9条の2第1項各号に掲げる契約に該当するもの(以下この条において「特定契約」という。)に係る個別信用購入あっせん関係受領契約の申込みの撤回又は特定契約に係る個別信用購入あっせん関係受領契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者に当該特定契約の締結を必要とする特別の事情があったときは、この限りでない。
2 前項の規定による権利は、当該個別信用購入あっせん関係受領契約の締結の時から1年以内に行使しなければならない。
3 申込みの撤回等があった場合においては、個別信用購入あっせん業者は、当該申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
(略)
5 個別信用購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提供事業者は、申込みの撤回等があった場合において、個別信用購入あっせん業者から既に商品若しくは権利の代金又は役務の対価の全部又は一部に相当する金額の交付を受けたときは、当該個別信用購入あっせん業者において、当該交付を受けた商品若しくは権利の代金又は役務の対価の全部又は一部に相当する金額を返還しなければならない。ただし、申込みの撤回等があった事前に特定商取引に関する法律第9条第1項又は第9条の2第1項の規定により当該特定契約の申込みが撤回され、又は当該特定契約が解除された場合は、この限りでない。
6 個別信用購入あっせん業者は、申込みの撤回等があった場合において、申込者等から当該個別信用購入あっせん関係受領契約に関連して金銭を受領しているときは、当該申込者などにたいし、速やかにこれを返還しなければならない。
(略)
第35条の3の10 (略)
1 個別購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提供授業者が営業所等以外の場所において個別信用購入あっせん関係販売契約又は個別信用購入あっせん関係役務提供契約の申込みを受けた場合 当該申込みをした者
(略)
4 個別購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提供授業者が営業所等以外の場所において個別信用購入あっせん関係販売契約又は個別信用購入あっせん関係役務提供契約を締結した場合(個別信用購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提供事業者の営業所等において当該契約の申込みを受けた場合を除く) 当該契約の相手方
(略)
<特定商取引法>
(訪問販売における契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第九条の二  申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  第六条第一項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二  第六条第二項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
(以下略)
第六条  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、次の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
一  商品の種類及びその性能若しくは品質又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして経済産業省令で定める事項
二  商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
三  商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
四  商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
五  当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込みの撤回又は当該売買契約若しくは当該役務提供契約の解除に関する事項(第九条第一項から第七項までの規定に関する事項を含む。)
六  顧客が当該売買契約又は当該役務提供契約の締結を必要とする事情に関する事項
七  前各号に掲げるもののほか、当該売買契約又は当該役務提供契約に関する事項であつて、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、前項第一号から第五号までに掲げる事項につき、故意に事実を告げない行為をしてはならない。

<民法>
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

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