新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:昨年、夫との離婚届を提出し、その際、子供の親権者を私にしました。育児にもお金がかかるので、結婚後間もなく加入した、子供の学資保険を解約して使おうかと思ったのですが、保険契約者の名義人は夫になっています。保険証券は手元にあるのですが、私が親権者であっても、子供の学資保険は解約できないでしょうか。この学資保険を使うために、今からできることはありますか。 解説: 2.(解約による返金を夫に対して親権者は全額請求できるか)では、仮に、保険会社からは、契約名義人である、父親しか受け取れないとしても、学資保険なので、ご夫婦の間では、親権者である母親が、父親に対して、受け取った金銭全額の受け取りを請求する、という法的権利はあるのでしょうか。確かに、お子様のために加入した保険である以上、お子様の資産であって、親権者が管理できるのでは、という気もしますが、その一方で、学資保険であっても、その解約返戻金は、やはり、保険料の支払いによって形成された財産となります。具体的事例にもよるとは思いますが、子供のための出費に備えて、親の資産として形成されている、という面は否定できず、契約名義人として親の名前が残る点でも、お子様の資産とはいいきれません。したがって、少なくとも、そのような請求は、判決で、確実に認められるものではないと思います。 3.(離婚に際しての取り決めの重要性)この点、協議離婚の際の合意書や、調停離婚の際の調停調書では、親権者としてお子様を監護する側の、現実の負担も考えて、学資保険を、親権者に名義変更する、という条項を設ける例も、多く見られます。しかし、それはあくまでも、話し合いの結果ですので、訴訟で、そのような結論が得られるとは限りません。また、そのような条項があった場合でも、保険会社との関係で、別途の名義変更書類が必要な場合もあります(できるだけ成立と同時に取得しておくべきです)。 4.(財産分与との関係)もちろん、学資保険の保険料は、対外的な仕事からの金銭収入だけでなく、家庭内の家事ややりくりによる、資産の維持形成(内助の功)によって、支払いを継続できた、という面もありますから、夫婦のうち、契約名義人になった方だけの資産ではなく、夫婦共同の資産です。つまり、離婚に際して精算すべき、財産分与の対象資産になります。財産分与は、離婚成立後であっても、2年間は請求できます(民法768条2項)。ただ、財産分与については、一切の事情を考慮して判断をすることになっていますので、他にも、精算の対象となる資産があれば、それも含めて判断される想定をしておく必要があります。つまり、ご主人が、婚姻時からの資産を、他にも保有しているという根拠資料等がこちらにあれば、それも含めた金額を請求した方が有利ですし、その受け取りの方法として、金銭を受け取るのではなく、学資保険の名義変更を、提案して話し合う方法もあると思います。逆に、こちらの保有資産も精算として支払うよう請求されてしまうと、結果として、経済的損失になるおそれもありますので、その見極めが必要です。 5.(養育費としての取り扱い)もし、財産分与として、学資保険の2分の1か、それ以下しか取得できず、それでは、お子様の養育がどうしてもできない、ということになれば、学資保険の解約等は財産分与として解決し、別途、養育費(民法766条、877条)を請求していくことが考えられます。ただ、養育費は毎月の月額での支払が基本になりますので、その他にまとまった金銭を請求するのは、通常は難航します。少なくとも、特別な事情を主張することが必要だと思います。 6.(判例の検討)神戸家庭裁判所尼崎支部平成18年5月10日判決、平成16年(家ホ)第60号離婚等請求事件、平成17年(家ホ)第46号離婚等反訴請求事件。夫婦双方が離婚と慰謝料を求め、妻(被告)が反訴として提起した請求に学資保険解約金は財産分与の内容をして請求し認められています。又、本件は、5年後に退職する退職手当金を現存する積極財産として公平上(離婚後2年しか財産分与はできないので)財産分与の内容とした点に特色があります。(判例2)大阪高等裁判所平成19年1月23日第4民事部判決離婚等,離婚等反訴請求控訴事件,同附帯控訴事件でも、学資保険返還金は財産分与として扱われています。将来の退職金についても判断されています。 7.このような財産分与や養育費の問題については、離婚成立時に行った方が、円滑に進むという面は否定できませんが、成立後であっても、検討の余地は残されています。ある程度具体的な作戦を立て、手順を追って行う必要がありますので、どうしても自分でできないようであれば弁護士に相談しながら進めた方がいいと思います。 ≪参照条文≫ <民法>
No.912、2009/9/4 16:55 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
【親族・離婚・財産分与・学資保険】
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回答:
1.学資保険であっても、保険の契約者が解約する権利や解約返戻金を受け取る権利を有していますから、契約名義人であるご主人しか解約はできません。被保険者の親権者であっても、解約して返戻金を受け取ることはできません。夫婦共有の資産として、財産分与を求めることは考えられますが、全部こちらが取得することができない場合もありますし、名義変更書類がないと、手続ができない場合もあります。あとは、養育費の問題として解決を図る方法もあります。
2.離婚訴訟、養育費請求の手続き、書式については、 法の支配と民事訴訟実務入門各論5、養育費請求を自分でやる。、 各論6、離婚訴訟を自分でやる。を参考にしてください。他事例集846番、757番、763番、681番、676番、496番も参照してください。
1.(学資保険途中解約の権利者は誰か)通常、保険契約の保険料の支払い義務を負うのは、契約名義人となりますので、その契約を解約した場合、その保険料から積み立てられた、解約返戻金を受け取る権利も、保険会社との関係では、契約名義人にあることになります。確かに、学資保険は、お子様の教育等にかかる費用のために加入する保険ではありますが、一定の要件を満たした場合の給付金の受取人、であればともかく、途中で契約を解約した場合の解約返戻金の受取人は、契約時に、特段の指定もしていないことが通常ですから、保険会社との関係では、原則の通り、契約名義人になる、と申し上げざるを得ません。
第766条 (離婚後の子の監護に関する事項の定め等)父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
第768条 (財産分与) 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。第818条 (親権者) 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
第819条 (離婚又は認知の場合の親権者) 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
第824条 (財産の管理及び代表) 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
第877条 (扶養義務者) 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
第879条 (扶養の程度又は方法) 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。