新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.932、2009/11/19 15:11

【親族法・養子縁組の有効性・節税目的の縁組・縁組意思のない無効な縁組の追認・自署がない縁組】

質問:資産家であった90歳の父が亡くなり、私は次男ですが遺産分割協議のため、除籍謄本を取り寄せました。すると、20年前に父と同居していた孫(長男の子、私の甥、現在43歳)が父の養子として縁組されておりました。おそらくは相続税対策のために養子縁組をしたのだとは思いますが、市役所に行って届出用紙を確認したところ、孫(甥)の署名は父が勝手に署名したものであり、このような届け出がなぜか受理されてしまい、孫(甥)は届け出での数年後 養子縁組の事実を知ったのですが特別反対の意思は表示しておらず黙認していたようです。このような養子縁組も有効なのでしょうか。有効だとすると、私の法定相続分は減ってしまうのでしょうか。

回答:
1.養子縁組を行う動機が相続対策のためであっても、当事者に養子縁組をする意思があれば有効になります。養子縁組の意思とは、実質意思すなわち当事者に親と嫡出子の法定血族の親子関係(実親子は自然血族の親子関係といいます)を設定する意思と、縁組届出の意思の二つをいいますが(民法802条1項1号、2号)、同居している孫を自分の子として直接の相続人にしたいという意思であり、単に名前を借りるような場合でないようですので有効となるでしょう。
2.養子縁組当時、養子に縁組意思がなければ縁組は成立しませんが、その養子が、縁組の事実を知り追認していた事実があれば、届け出意思の欠如という瑕疵は治癒され有効になる場合があります。これを法的に無効行為の転換といいます。
3.縁組の届け出には本人が署名、押印しなければなりませんから、本来、届け出は受理されませんが、受理されてしまうと縁組意思がある限り手続き上の形式的瑕疵は治癒され届け出は有効になってしまいます。すなわち、自署は受理の要件であり縁組の成立要件ではありません。
4.当事務所 法律相談事例集キーワード検索698番を参照してください。

解説:
1.本件は相続対策で養子縁組がなされていますので、養子縁組の成立要件である養子縁組の意思があるかどうか問題になります。養子縁組の基本的成立要件は、養子縁組を行う当事者の合意(実質的要件、802条1項1号)と戸籍法の届出(形式的要件すなわち要式行為です。802条1項2号は届出がないと無効と書いてあります。)ですが、条文802条1項1号には「人違いその他の事由によって当事者に縁組する意思がないときは無効である」と規定してありますから、「縁組をする意思」とはどのような内容であるかを解釈する必要があります。

2.養子縁組の意思とは、実質意思すなわち当事者に親と嫡出子の法定血族の親子関係(実親子は自然血族の親子関係といいます)を設定する意思と、縁組届出の意思の二つを意味します(事例集698番解説3.を参照)。養子縁組により財産相続のために相続人を生じせしめる動機があっても縁組意思は否定されません。

3.(理由)
@養子縁組の制度の本来の目的、存在理由は、未成年養子縁組といって親のいない未成年者のための教育、監護、福祉を養親が行うための制度にあるとされています。また、成人について養子が認められていますが、養子が成人の場合は人為的な家族関係の創設そして副次的に財産の承継、家庭内経済協力等にあるとされています。さらには、養親の側からみると子供を養育する人間としての喜びを享受しようとする幸福追及権(憲法12条)の一つととらえることも可能でしょう。このような身分関係である養子制度は、基本的には財産的契約と同様、私的法律関係であり私的自治の原則、契約自由の原則の適用を受けることになり、養子と養親となる人との間の合意で成立が基本であり、身分関係に関する私的契約の一つになります。すなわち、個人間の私的法律関係は、個人の尊厳を目的に各人に幸福追求権を認めており、いかなる内容においても当事者が希望し、合意契約すれば法的効果を認められることになります。ただ、経済的取引関係を規律する財産法と家族、親族間の適正な秩序を規律する家族法とでは、前者においてはいかに取引関係を適正、公平、安全、迅速に処理できるかという観点から法律が規定され、法律解釈もそのような視点から解釈されるのに対し、後者は個人の尊厳確保の核である家族、親族関係をどのようにして適正に維持し、保護していくかという点に違いがあり親子関係は婚姻と同じように、国家の構成員である国民の重要な身分関係であって、国家の社会秩序維持の基本であり、租税、福祉等の関係上公の秩序に関するものであり、戸籍により公示されることになっています。従って、縁組をする意思というのは、家族法が予定している親子関係を結ぶ意思とともに、縁組を届け出る意思が必要になります。以上、養子制度の趣旨から考えて、縁組の意思は、親子関係を生ぜしめる意思ということになりますが、相続による財産承継のために新たな相続人を作るという動機があったとしても、縁組意思を否定することにはなりません。唯公の秩序に関する制度ですので、勝手に自ら独自の理由により親子関係を作り出すことはできませんが、成年の養子制度が遺産の承継のために認められてきた沿革等を考えると、その理由だけで養子縁組意思を否定することはできないことになります。

Aかつて昭和63年に相続税法が改正される以前には、法定相続人1名について400万円の相続税控除が基礎控除2000万円に上乗せして認められておりました。この恩恵を受けるべく、バブル期には相続人を増やすために被相続人の孫を養子にするという事象が多く見られました。いわゆる節税養子、相続税養子です。しかし、昭和63年の相続税法の改正により、現在では節税養子のメリットはほとんどないといっても過言ではなくなりました。というのも、基礎控除額が現在は5000万円に(改正当時は4000万円)、かつ相続人一名あたりの控除額が1000万円に(改正当時は800万円)上げられた反面、被相続人に実子がいる場合の基礎控除対象となる養子の人数を1名までに、実子がいない場合でも2名までに限定されたからです。したがって、今後は節税養子が問題となる事例は減少していくものと思われます。又、この養子縁組の目的は別にあり、被相続人が、養子となった孫(相談者から見た甥、姪)に対してとくに遺産を与えることを目的としていたということも考えられます。この場合には、被相続人から孫の代に遺産相続が生じることにより間の代(被相続人の子、養子となった孫の親)における相続をスキップさせることで、相続税の発生を1度にとどめられるという効果があるといわれています。以上のような沿革的理由からも有効と考えられます。

4.(判例@)東京高裁平成12年7月14日決定(特別代理人選任申立却下審判に対する抗告事件)傍論ながら節税のための養子縁組を有効と認めています。決定内容。「原審判は、本件養子縁組が相続税の負担を軽減する目的で行われたとするが(なお、太郎の遺産である不動産について、相続税に関する小規模宅地の特例が適用された場合には、未成年者を除く三名のみが法定相続人であっても、遺産総額が非課税の範囲内にとどまる余地がある。)、当該養子縁組がそのような動機のもとに行われたとしても、直ちにそのような養子縁組が無効となるものではないうえ、本件記録によっても、本件養子縁組が養親子関係を設定する効果意思を欠くものであるとはいい難く,本件養子縁組をもって無効であるということはできない。」
(判例A)東京高裁平成11年9月30日決定(後見人選任申立却下審判に対する抗告事件)も同様の判断です。決定内容「原審判は、太郎と未成年者らとの本件各養子縁組は、専ら相続税の負担を軽減させる目的を達するためにされたもので、真に太郎と未成年者らとの間に社会観念上養親子であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有するものでなかったことが明らかであるから、本件各養子縁組は無効であり、未成年者らは、抗告人と松子の親権に服しているから、後見人選任の必要はないとして、本件各後見人選任申立てを却下した。しかしながら、相続税の負担の軽減を目的として養子縁組をしたとしても、直ちにその養子縁組が無効となるものではないし、本件記録によっても、本件各養子縁組が養親子関係を設定する効果意思を欠くものであるとはいい難く、本件各養子縁組をもって当然無効ということはできない。」
(判例B)浦和家裁熊谷支部平成9年5月7日審判(養親死後離縁許可申立事件)この事案では、相続税対策の縁組を無効としている。縁組と被相続人死亡の時期が接近しており(約7年)縁組意思が認定されませんでした。やむをえない判断でしょう。
「上記認定の事実によれば,本件の養子縁組の届出は,当事者間に真に社会観念上養親子と認められる関係の設定を欲する効果意思を有していたわけではなく,明らかに単に亡久弥と申立人の各戸籍に養子縁組の届出がされた事実を記載する方法で相続税の負担を減少させる目的を達成するための便法として仮託されたに過ぎないものと考えざるを得ない。即ち,本件各養子縁組の届出がされた昭和60年当時は,資産家の老人について,相続の開始が近いと思われるような時期になって,老人とその子供達の配偶者や孫達との養子縁組の届出をして戸籍上何人も養子がいるということにしておく方法で,相続税の総額を減少させて(相続人の数が多くなると,基礎控除の額が増加するだけでなく,相続税の総額の計算の基礎となる相続人1人当たりの遺産の取得価額が減少する結果相続税の税率を減少させることができるため,相続税の総額が減少することになる。),相続税の負担を不当に免れる(前記○○弁護士の上申書には「節税」と記載されているが,これは単なる節税ではなく,明らかに脱税である。)ということが横行し,税務署では個々の養子縁組の実態の把握及びその効力についての検討を逐一行うわけにもいかないため,こうした不当な相続税逃れができないようにするための相続税法の改正が検討されていた時期で,新聞や雑誌等でも取上げられていた。そして,後に相続税法が改正されて,相続税の総額の計算において養子の数に制限が加えられたのであり,以上の事実は公知の事実といえるものである。3 かつて最高裁判所は,婚姻の届出についての判断ではあるが,その昭和44年10月31日第二小法廷判決(民集23巻10号1894頁)において,民法742条にいう「『当事者間に婚姻をする意思がないとき』とは,当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべきであり,したがって,たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があり,ひいて当事者間に,一応,所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても,それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたにすぎないものであって,前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には,婚姻はその効力を生じないと解すべきである。」と判示した。こうした考え方は,養子縁組の届出についても当てはまるものである。4 以上のことから,当裁判所は,本件各養子縁組の届出は,単に他の目的即ち相続税の負担の軽減を図るための便法として仮託されたに過ぎないもので,亡久弥と申立人との間に,真に社会観念上養親子と認められる関係の設定を欲する効果意思は全くなかったと考えるほかないものであるから,無効(養子縁組の効力は生じない)と判断するほかないものであって,本件離縁の申立てはその対象を欠くものとして,不適法と判断せざるを得ない(申立人があくまでも亡久弥との戸籍上の養親子関係の記載を抹消させたいと考えるのであれば,検察官を被告として養子縁組無効確認の訴えを提起して,その勝訴判決を得る方法で戸籍上の身分関係の是正を図るほかないものと思料される。)ものである。5 よって,本件申立てを却下することとし,主文のとおり審判する。」

5.(本件について)確かに相続税の節税、遺産の孫に対する贈与の動機があったのでしょうが、被相続人と同居もしており、被相続人(貴方の父)はお孫さんと法定親子関係を生ぜしめる意思があったと思われ、縁組は有効となるでしょう。

6.次に、養子縁組届出当時、お孫さん(あなたの甥)は養子縁組の意思がないので、縁組の合意は成立していませんから縁組は無効(不成立)であるといわざるを得ません。しかし、お孫さんは、その後まもなく縁組の事実を知り黙認し、現在は縁組の有効性を認めているように思われます。そこで、この無効な縁組の効力が問題になります。結論から言うと、この無効な縁組は、当事者であるお孫さんの追認により有効になるものと考えられます。法的に言うと「無効行為の追認」といいます。当事者の合意により契約の効果が認められる根拠は、私的自治の原則、契約自由の原則に根拠があり、私的自治の原則の目的は、適正な社会秩序の形成維持にあります。従って、契約当時当事者の合意がなくても、その後、契約時の瑕疵を知りこれを主張することなく当事者が瑕疵ある契約関係を是認し社会生活を維持し、事実上正当な関係を存続せしめる合意がある以上、これを是認し法的関係として評価することが適正な身分関係における社会秩序の形成に役立つからです。以上から、無権代理の追認(民法116条)、無効行為の追認(民法119条但し書き)、取り消しうべき縁組の追認の規定(民法804条、805条、806条)の制度趣旨も類推されることになります。

7.(判例)最高裁昭和27年10月3日判決(養子縁組無効確認請求事件)判決内容。「原判決は、右の事実関係に基き、緒方松次郎夫婦には、旧民法八四三条により前記養子縁組につき、上告人慧に代つて承諾する権利はないのであるから、右養子縁組は無効であると判示したのであるが、上告人慧代理人は、原審において、(一)養子となる者が十五歳未満である場合の縁組の代諾は一種の法定代理と認むべきである。されば無権利者の代諾は無権代理の一場合として追認によつて有効となすことができるものと信ずる。しかして、上告人慧は三歳のとき前記縁組により田熊家に養子として引取られて養育され、同上告人も亦爾来上告人権平夫婦に対して、真の父母に対すると同様の心情をもつて仕え、今日に至つたものであつて、その間大正九年中上告人慧が八歳の頃上告人権平が亡鶴田ユキを後妻として迎えるとき、上告人慧の実父母は右権平に対して、同人に将来実子ができれば後日紛争等のことが起りお互の不幸であるから離縁しては如何と申出でたところ、上告人権平はこの縁組は先代権平夫婦の懇望もあつたことであるから、実子は他家へ遣つても田熊家は慧に相続させるといつてその離縁の申出を拒絶した事実があり、又昭和一八年一〇月上告人慧が出征する際にも、上告人権平夫婦は、上告人慧に対しその実子に対すると同様の愛情をもつてその首途を祝し、なお昭和二一年九月二八日上告人慧がその妻小波と婚姻の届出をするときも、上告人権平は戸主としてこれに同意を与えている事実があるので、これ等の事実に徴するときは本件当事者間には訴外緒方松次郎夫婦のなした前記縁組の代諾について追認があつたものと認むべきであるばかりでなく、上告人慧は昭和二二年一二月二三日上告人権平に対し書面をもつて追認の意思表示を明確にしているのである。(二)仮りに右代諾が追認によつて有効となり得ないとしても上告人慧が養子年令に達した後同上告人と上告人権平との間には前記のように本件縁組を追認した事実があるので民法一一九条但書の規定にそつてその時に新たに養子縁組が成立したものと看做されるから本件縁組の無効原因は解消されたのである。と陳述したことは、記録上明らかである。しかるに、原判決はこれに対し、要式行為である養子縁組について、無権代理の追認の法理、並びに民法一一九条但書の規定は適用の余地のないものとして、右抗弁を排斥したものである。 しかしながら、民法が養子縁組を要式行為としていることは明瞭であるけれども、民法は一面において取消し得べき養子縁組について、追認によつて、その縁組の効力を確定せしめることを認めていることは、明文上明らか(旧民法八五三条、八五五条、新民法八〇四条、八〇六条、八〇七条)であつて、しかも、民法、戸籍法を通じてこの追認に関してその方式を規定したものは見当らないのであるから、この追認は、口頭によると、書面によると、明示たると、黙示たるとを問わないものと解するの外はないのであつて、わが民法上、養子縁組が要式行為であるからといつて、追認が、これと全く相容れないものの如く解することはあやまりである。(民法が追認を認めているのは、取消し得べき縁組についてであるけれども、前示各場合は、いずれも、縁組の成立の要件に違法のある場合であつて、その本質は無効と見るべき場合なのであるが、民法は、その結果の重大性に鑑み、又、多くは事実上の縁組関係が既成している事実関係に着目し、これを無効原因とせず、取消の原因とした上、その追認又は時の経過により、その違法を払拭する途を拓いたのであつて、追認を以て縁組と本質的に相容れないものとは、民法は考えていないのである。)

旧民法八四三条の場合につき民法は追認に関する規定を設けていないし、民法総則の規定は、直接には親族法上の行為に適用を見ないと解すべきであるが、十五歳未満の子の養子縁組に関する、家に在る父母の代諾は、法定代理に基くものであり、その代理権の欠缺した場合は一種の無権代理と解するを相当とするのであるから、民法総則の無権代理の追認に関する規定、及び前叙養子縁組の追認に関する規定の趣旨を類推して、旧民法八四三条の場合においても、養子は満十五歳に達した後は、父母にあらざるものの自己のために代諾した養子縁組を有効に追認することができるものと解するを相当とする。しかし、この追認は、前示追認と同じく何らその方式についての規定はないのであるから、明示若しくは黙示をもつてすることができる。その意思表示は、満十五歳に達した養子から、養親の双方に対してなすべきであり、養親の一方の死亡の後は、他の一方に対してすれば足るものであり、適法に追認がなされたときは、縁組は、これによつて、はじめから、有効となるものと解しなければならない。しかして、前述のごとく、上告人慧代理人の原審において主張するところによれば、上告人慧は大正四年六月本件養子縁組の届出以後(当時同人は三歳)上告人権平並びにその妻サメとの間に事実上の養子としての関係をつづけ、権平が後妻ユキを迎えても、同人夫妻との間に事実上の養親子関係を継続して本訴提起前既に三十年を経過したというのであつて、上告人慧が独立して養子縁組をすることのできる年令(満十五歳)に達して後も、まさに二十年に垂んとするのである。(その間何人からも本件縁組の無効を主張する訴の提起された形迹もみとめられない。)その上、上告人慧は昭和二二年一二月二三日上告人権平に対し書面をもつて右追認の意思表示をしたというのであるから、如上慧代理人が原審において主張するような事実関係が存在するならば、同上告人は少くとも上告人権平に対して、本件縁組を追認したものと解すべきであるから原審としては、如上事実関係につき、存否を審理し、果して、上告人慧が本件養子縁組を適法に追認したかどうかを確定しなければならない。しかるに、原審は、たゞ、養子縁組が要式行為であるとの理由により、追認の法理を容れる余地なしと即断して、如上事実関係について、何ら審理するところなく上告人慧の抗弁を排斥したのは、法令の解釈を誤つたものと云わなければならない。よつて、原判決は、この点において破毀を免れないものとし、その余の論旨についての判断を省略し、民訴四〇七条を適用し全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。」妥当な判決です。

8.さらに、縁組の届け出は、本人の自署によることが必要とされていますが(戸籍法29条、同法施行規則第62条、民法第802条第2号)、本件では、勝手に父親が署名しており縁組の有効性が問題となります。しかし、この瑕疵も縁組届出が受理された以上治癒され有効になります。すなわち、自署は縁組届出受理の有効要件であり、成立有効要件ではないので受理された以上縁組の効力に影響はないからです。養子縁組の成立は、法定の親子関係を生ぜしめる意思と、届け出る意思により成立するものであり、本人が直接自署したかどうかは養子縁組の実質的要件を失わせるものではないからです。一旦縁組が受理されれば、手続き上の瑕疵は、縁組の実質的要件により治癒されることになります。公正な親族身分関係を維持するためには実質に着目せざるを得ないからです。

9.(判例)東京高裁 昭和39年9月16日判決(養子縁組無効確認請求控訴事件)判決内容。「被控訴人名下の捺印が被控訴人の自捺したものでないことが認められるところ、戸籍法第二九条、同法施行規則第六二条、民法第八〇二条第二号によれば、届出人が自署自捺できるのに他人をして代署代捺せしめることは違法ではあるが、かゝる届書であつてもそれが届出人の意思に基くものであれば、一旦受理された以上、それによつて養子縁組は有効に成立し、何人も無効を主張し得ないものと解すべきところ、本件届書が源吉及び被控訴人の意思に基づいて作成されたものであることは既に認定したとおりであり,かつ既に受理されたものであるから、本件届書の署名捺印が自署自捺でないことを理由として、本件養子縁組の効力を争うことはできないものといわなければならない。」当然の判決です。

10.(無効主張の訴訟手続き)仮に、貴方が、被相続人と養子となった孫との養子縁組について実際には両名に意思の合致がなかったことを主張して、養子縁組無効確認の訴えを提起するには、人事訴訟法2条3号、12条2項により、家庭裁判所に対し、養子である甥、姪を被告として手続を行います。特に、今回の相談者は養子縁組については当事者ではありませんから、「人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者以外の者」であり、また、養親が亡くなっていることから、「その一方が死亡した後は、他の一方を被告とする」という条文が根拠になります。仮に養親の生前であれば養親と養子両方を被告とし、養親のみでなく養子も亡くなっているのであれば検察官を被告とすることになります。実際に訴訟を提起した後は、養子縁組の無効原因である前述の養子縁組の意思がないことを養子縁組の無効の確認を求める者(本事例における相談者)が主張立証する必要がありますので、縁組の当時の事情を知っている親族等に話を聞き、養子縁組届出書の写しを役所で手に入れるなどして、その証拠を収集することになります。縁組無効訴訟で勝訴の見込みが少ないようであれば、相手方の譲歩を得るため訴訟の途中からでも和解交渉の材料として縁組無効の理由を主張することも必要です。前記判例Bもあり思わぬ譲歩を引き出すことができるかもしれませんので和戦両様の対応が必要です。弁護士を代理人としているようであれば一度相談してみましょう

11.尚、具体的相続分ですが、これまでの話から、被相続人とその孫の方との養子縁組が有効と認められる限りでは、孫の方は被相続人の養子として法定相続人となり、相談者の方の相続分はその割合の限度で減少することになります。また、本事例からは逸脱しますけれども、仮に、養子となった孫の親(被相続人から見た息子)がすでに亡くなっている場合には、すでに亡くなっている親の分についても、代襲相続ができることになりますので、養子の方は自分の固有の相続分のほか、父の相続分の代襲相続分も併せて二重に相続できることになります(ただし、代襲相続権者が複数いる場合には人数で分割されます。)。これは、祖父、父の順で亡くなったのであれば順々に孫まで相続財産が相続されるのであって、父、祖父の順で亡くなったという偶然により孫の相続財産が左右されるべきではないという価値判断による運用です。

≪参照条文≫

民法
(無権代理行為の追認)
第百十六条  追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
(無効な行為の追認)
第百十九条  無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。(養親が未成年者である場合の縁組の取消し)
第八百四条  第七百九十二条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(後見人と被後見人との間の無許可縁組の取消し)
第八百六条  第七百九十四条の規定に違反した縁組は、養子又はその実方の親族から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、管理の計算が終わった後、養子が追認をし、又は六箇月を経過したときは、この限りでない。
(配偶者の同意のない縁組等の取消し)
第八百六条の二  第七百九十六条の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が、縁組を知った後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
2  詐欺又は強迫によって第七百九十六条の同意をした者は、その縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(子の監護をすべき者の同意のない縁組等の取消し)
第八百六条の三  第七百九十七条第二項の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が追認をしたとき、又は養子が十五歳に達した後六箇月を経過し、若しくは追認をしたときは、この限りでない。
(養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し)
第八百七条  第七百九十八条の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養子が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
第八百二条  縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一  人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二  当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
相続税法
第十五条  相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格(第十九条の規定の適用がある場合には、同条の規定により相続税の課税価格とみなされた金額。次条から第十八条まで及び第十九条の二において同じ。)の合計額から、五千万円と千万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて得た金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。
2  前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章 (相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
一  当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
二  当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
3  前項の規定の適用については、次に掲げる者は実子とみなす。
一  民法第八百十七条の二第一項 (特別養子縁組の成立)に規定する特別養子縁組による養子となつた者、当該被相続人の配偶者の実子で当該被相続人の養子となつた者その他これらに準ずる者として政令で定める者
二  実子若しくは養子又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため民法第五編第二章 の規定による相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)となつたその者の直系卑属
人事訴訟法
第二条  この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一  婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
二  嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法 )第七百七十三条 の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三  養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え
第十二条  人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者の一方が提起するものにおいては、特別の定めがある場合を除き、他の一方を被告とする。
2  人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者以外の者が提起するものにおいては、特別の定めがある場合を除き、当該身分関係の当事者の双方を被告とし、その一方が死亡した後は、他の一方を被告とする。
3  前二項の規定により当該訴えの被告とすべき者が死亡し、被告とすべき者がないときは、検察官を被告とする。

戸籍法
第二十九条  届書には、左の事項を記載し、届出人が、これに署名し、印をおさなければならない。
一  届出事件
二  届出の年月日
三  届出人の出生の年月日、住所及び戸籍の表示
四  届出人と届出事件の本人と異なるときは、届出事件の本人の氏名、出生の年月日、住所、戸籍の表示及び届出人の資格

戸籍法施行規則
第六十二条  届出人、申請人その他の者が、署名し、印をおすべき場合に、印を有しないときは、署名するだけで足りる。署名することができないときは、氏名を代書させ、印をおすだけで足りる。署名することができず、且つ、印を有しないときは、氏名を代書させ、ぼ印するだけで足りる。
○2  前項の場合には、書面にその事由を記載しなければならない。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る