捜査機関に対する供述と職場での説明

刑事|起訴前|国家(地方)公務員が被疑者になった場合の注意点|被疑者国選

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は40歳の国家公務員で、役職にもついています。先日、朝の満員電車の中で傍にいた若い女性に「あなたでしょう!この人痴漢です。」といわれて突然ネクタイをつかまれました。私は混んでいたので押されて寄りかかってきた女性の腰の部分を何度か鞄を持っていた手で押し返しただけなのですが、どうしても聞いてくれません。駅の交番に行き、その後所轄の警察署で本当のことを説明したのですが、担当の警察官から「このまま容疑を認めないと、検察庁に送検し10日間勾留されます。認めるのであれば家に帰れますよ。」というので職場のこともあり、拘束されてニュースでもなったら困るので、調べに対しては容疑を認めてしまい翌日職場の上司に身元引受人になってもらい釈放してもらいました。私は警察署、検察庁ではいまさら否認は出来ないと考えているのですが、少なくとも職場では事情を聞かれたとき本当のことを言いたいのですができるでしょうか。真実のことを言うと再び警察でも逮捕されるでしょうか。どうしたらいいでしょう。

回答:

1.捜査機関で意思に反して罪を認めてしまっても、職場で真実すなわち犯罪行為を否認することは問題ありません。しかし、それが原因で再度捜査機関の処分に影響が出る可能性はありますので慎重な対応が望まれます。

2.職場の人に身元引受に来てもらっていますから、被疑事実を認めたことが職場の上司にほぼ判明していると思いますが、釈放後、直ちに職場における事情調査が行われても検察庁の最終処分が決まるまで回答は保留すべきです。この場合、弁護人に依頼中であれば「自分は無実と思いますが(・・・無実ですが)、ただ今捜査中であり、弁護人に依頼していますので捜査機関の判断が出てからご回答したいと思います」と説明する必要があります。万が一勾留された場合でも、接見に来た職場の関係者に安易に罪を認めてはいけません(辞職、謝罪の手紙等も書いてはいけません)。釈放後懲戒等公務員としての分限(国家公務員法76条、38条、82条)について不利益に働く場合がありうるからです(被害者側の対応に応じてどのような刑事処分になるかまだ明らかではなく、事件が意外な方向に展開する場合があります)。

3.国家公務員の地位ですが、基本的に公判請求(懲役、禁固刑を請求されることを意味します。懲役、禁固刑の判決があると執行猶予付きでも失職することになるでしょう。)されなければ失職することはないと思いますので、万が一新聞、ニュース等になっても諦めないことです。

4.以上の対応を迅速に行うため、逮捕、勾留された場合は、直ちに経験ある弁護士(当番弁護士でもいいですが、本件は長期1年の懲役刑であり、且勾留されていませんので被疑者国選は認められません。)に相談することが大切でしょう。裁判所の勾留決定後認められる被疑者国選については後記参照。

5.この事例集は、事務所事例集555番の修正、改訂版で一部内容を変更してあります。他に 事例集817番563番参照。公務員の刑事事件に関する関連事例集参照。

解説:

1.(犯罪の性質)先ずあなたは寄りかかって来た女性の腰の部分を押し返したわけであり、容疑として考えられるのは、各都道府県制定のいわゆる迷惑防止条例の迷惑行為(盗撮もこの一態様です)です。すなわち女性に対する卑猥な性的嫌がらせ行為を処罰するものであり、本件ではそのような意思がありませんから犯罪は成立しません(難しい言葉になりますが刑法上本件は傾向犯といわれており卑猥なことをしようとする主観的意思が犯罪成立に必要とされています)。

2.(公務員の職場での分限、懲戒手続き)しかし、警察署で容疑を認めてしまっていますから、このまま何の反論もせずにいれば最終的に30万円から50万円の罰金になってしまいます。後日所轄の検察庁から呼びだしがあり、略式手続きという方法で簡易裁判所から罰金を払いなさいという命令が来て、検察庁の窓口で納付することになります。そして本件は身元引受人になってもらった関係上職場にも判明しているため何らかの処分、場合によっては懲戒手続き等による休職、解雇等になってしまうでしょう(国家公務員法76条、38条、82条)。国家公務員(地方公務員も)の場合は、新聞報道等ニュースになる場合が多く、自主退職を事実上迫られる可能性があります。 但し、免職、失職等解雇は基本的に禁固以上の罪に処せられることが必要ですので、安易に退職を申し出るのは問題です。

3.(捜査機関に対する主張)そこで、先ずあなたは罪を犯していないわけですから、今からでも遅くありませんから直ちに捜査機関に対して身の潔白を証明するため再度警察官、検察官の取調べにおいて迷惑行為をする意思がなかったことを積極的に説明立証していく必要があります。無実を立証するためには逮捕捜査段階から首尾一貫して詳細に根拠をあげ書面にて意見書を提出するなどして主張の証拠を残し、公判に備えなければなりません。通常否認に転じても身元がしっかりしている限り再逮捕はないでしょう。あなたは身柄が拘束されていませんからまだ時間的余裕があると思いますし、無実が立証できて被害者側も納得できればもちろん嫌疑なしで不起訴処分になりますし、職場での処分も行われません。しかし、被害者側がこれを不服として納得せず捜査官も被害者側の言い分を認め、他に目撃者等状況証拠がある場合には略式手続きは行われず、正式な公開裁判により白か黒かの決着をつけることになるでしょう。しかし、正式裁判になった場合あなたは被害者の体を何度か押し返したとのことであり、迷惑行為をする意思があったのかなかったのか微妙な点があり、無罪の可能性も確実とはいえないような気がします。事例集817番を参照してください。

4.(無実を争う場合の問題点)さらに裁判の期間も長期間が予想されますし、弁護費用も考慮しなければなりません。公開裁判の精神的負担もかなりのものになるかもしれません。勿論有罪となれば前科となり、職場で分限に関する懲戒処分等を受けることになります。そこで、このような場合すなわち、正式裁判も希望しないし、罰金でも処罰されることを避け最終的に職場での処分についても無実を主張出来ないかどうか対策を考えてみます。

5.(否認のまま被害者との話し合い)先ず、弁護士を依頼し捜査機関に対して一旦は認めたものの卑猥な行為を行おうとする意思がないことを詳細に説明し、被疑事実不明なまま被害者側と話し合い被害者側に納得して貰い告訴、被害届けを取り下げてもらうことです。このような方法については当ホームページ事例集563番等に詳しく説明されていますから参照してください。

この結果、話し合いがまとまれば犯罪事実は不明となり不起訴すなわち処罰はされないと思われますし、職場に対しても犯罪事実はなかった旨説明することが可能になりますから職場での処分は回避できるでしょう。しかし、この方法は、犯罪事実をはっきりと認めないまま示談を行うので、被害者側が十分納得しないことが多いでしょうし、一旦認めたものを検察官が被疑事実なしとして不起訴処分にするか微妙です。このような事件の場合被害者の身元は判明していませんから、被害者側との連絡は捜査官を通じて行わざるをえないわけですが、そもそも犯罪を認めていない以上謝罪等の必要性がないとして被害者側に示談の話し合いの連絡をしてもらえない場合が多いでしょう。ただ、有罪無罪が微妙であり、起訴(略式手続を含めて)するかどうか検察官が迷っている事案であれば、公正に事件処理をするため積極的に被害者側に働きかけてくれる場合がありますので簡単に諦めることもありません。これは、実際に捜査している警察署の刑事さんも同様であり、検察官と警察官の2つのルートで必要書類(ホームページ事務所の 書式集を参照してください。)を準備して打診することが肝要です。

通常、警察官の方を打診しない弁護人もいますが、どちらか一方のルートが功を奏する場合がありますから、検察官にのみ打診することは得策ではありません。検察官と警察署の関係は地域により異なります。捜査機関の被害者側に対する対応により、微妙な示談関係は大きく影響を受けることがありますので、弁護人としても不誠実な弁護活動は命取りになりかねませんので誠意をもって慎重に準備、応対する必要があります。尚、勾留されている場合は時間的余裕(原則、勾留請求から10日間しかありません。刑訴207条、208条、60条。刑訴207条により刑訴60条以下の被告人の法廷への出頭,刑の執行確保のための勾留が被疑者の捜査取り調べ確保のために準用されています。裁判所または裁判長と同一の権限を有するという文言は解釈上準用の意味です。)がありませんのでなおさらです。

6.(被疑事実を認める方法)そこで、次に不本意ですがあなたの最初の供述どおり犯罪事実を認めたまま弁護士に依頼し被害者側と話し合い示談、告訴、被害届けの取下げを行う方法も考えられます。この方法は、犯罪事実を認めている以上、捜査官も被害者側に連絡せざるをえず、誠実に謝罪すれば話し合いの結果示談になる可能性は高いと思います。その結果話し合いがまとめれば起訴便宜主義(刑訴248条)の観点から初犯であり不起訴処分になると思います。しかし、職場ではその示談内容を明確に説明すれば、やはりなんらかの処分をされる可能性は大きいと思います。何故なら不起訴処分になったとはいえ刑事手続上は犯罪事実を事実上認めることになっているからです。 唯、不起訴処分の内容は検察官から第三者である職場には開示されませんので、ここでも慎重な対応が必要です。この方法は、事実を認めてしまいますので本件では理論的にできない方法ですが、あなたが無実と思っていても、要は裁判で勝訴できるかどうかという視点が重要です。刑事裁判は被害者の供述、現場の状況等も重要な証拠となるのです。弁護人との協議が大切です。

7.(問題点の指摘)それではこのような場合、職場の釈明において犯罪事実がなかったことを積極的に説明し主張することは出来るか、次に問題となります。

8.(結論)結論から申し上げると、あなたは職場における処分の釈明の場において無実であること主張する権利をいまだ有していると考えられます。

9.(理由)理由は以下のことが考えられます。

(1)先ず、刑事手続きの法的効力は当該手続きにしか及ばないと考えられます。すなわち刑事手続きとあなたの職場での身分上の懲戒手続きは別個のものですから、その法的効果は公務員(会社員)としての処分手続きには及びません。一方で認めて、他方で否認するのはおかしいように思いますが、刑事上の処分はあくまで一定の期間内に捜査官により刑事手続上集められた証拠に基づきその範囲で認められた処分に過ぎません。通常、逮捕されてから処分を受けるまで早ければ数週間、遅くとも1-2ヶ月です。あなたのように被疑者はいろんな事情により罪を認めてしまう場合もあるわけですから、それを証拠に刑事処分(犯罪を認めて情状により不起訴訴分になったこと)を受けたとしてもそれは刑事手続上の判断で、その効果は刑事手続にしか及ばないわけです。その他の手続は又新しい主張立証により判断することは可能です。特に今回は不起訴になった関係上厳格な意味の裁判手続の過程を経ずしてあなたの犯罪事実を認定したことになっていますから、当該犯罪事実は裁判上確定されたものではありません。新たな証拠を提出し争うことは許されるはずです。

(2)たとえば、捜査段階で罪を認めたとしても、被疑者が後の刑事上の裁判、民事上の裁判で捜査段階と異なる意見を述べ争う事はよくあることです。少年事件ですが山形のマット死事件では少年が捜査段階では自白し罪を認めていたのですが、刑事事件としての家庭裁判所の審判手続きでは一転して否認し、その結果数人が不処分となり犯罪事実は認められませんでした。後の民事訴訟でも捜査段階と異なり犯行を認めませんでしたが、裁判所は不処分となった少年の犯罪事実を事実上認め、慰謝料等損害賠償請求を是認しています(仙台高等裁判所平成16年5月28日判決)。すなわち、少年が捜査段階と異なる意見を家庭裁判所、民事訴訟で述べることはなんら問題ないわけですし、各手続き上の証拠により判断も分かれてしまうこともあるわけです。

(3)職場の懲戒手続きは勿論刑事処分を参考にしてなされることになるでしょうが、不起訴処分の場合は第三者に正当な理由なく不起訴処分の理由を公表、開示することは通常有りませんし、不起訴になったことを証明する文書(不起訴処分と書かれています)は検察庁に申し出れば交付して貰えますが、そこには不起訴処分の理由を記載しないのが通常です。その点ご心配ならば弁護人を通じて確認してみましょう。そして職場から処分の結果を証明する文書の提出を求められたら交付された書面を提出するといいでしょう。従って、何らかの懲戒処分をする場合はあなたの供述か、被害者側の供述が証拠となるわけですが、通常職場の方で被害者側の供述を証拠として再度聴取することはないと思いますし権限もありませんから、あなた自身で思っていることそして犯罪行為がなかったことを示す状況証拠を新たに提出することは何ら差し支えないわけです。

(4)事実上無理かも知れませんが、被害者側と新たに話し合って当時の状況について弁明を聞いて貰い理解して貰う書面を作成して、職場で提出することが出来れば尚真実を明らかにすることが出来るでしょう。

(5)公務員の分限、懲戒処分手続きは働いている人の身分を制限剥奪するものですから、これとて厳格な証拠に基づかなければならず明確な証拠がない以上処分は出来ないはずですし(国家公務員法75条)、その証拠とは本件の場合あなたの提出する証拠になると考えられその内容は刑事手続き上の内容に拘束されませんし、あなたの自由な証言を参考にしなければならないはずです。違法な処分が下された場合当該処分を訴訟にて争う事も可能ですし、心配であれば事前に弁護士に委任して会社に対して事件の状況を詳しく説明してもらう事もひとつの方法です。

(6)但し、あなたの職場での主張が何らかの原因で、捜査機関に伝わった場合反省の態度がないとして不起訴処分にするかどうか判断に影響が出る場合がありますので、捜査が継続中は職場での主張は差し控えたほうがいいかもしれません。

10.本件では、職場の人に身元引受に来てもらっていますから、被疑事実を認めたことが職場の上司にほぼ判明していると思いますが、釈放後直ちに事情調査が行われても最終処分が決まるまで回答は保留すべきです。この場合、弁護人に依頼中であれば「自分は無実と思いますが、ただ今捜査中であり、弁護人に依頼していますので捜査機関の判断が出てからご回答したいと思います」と説明する必要があります。万が一勾留された場合でも接見に来た職場の上司、関係者に安易に罪を認めてはいけません(辞職、謝罪の手紙等も書いてはいけません)。釈放後懲戒等公務員としての分限(国家公務員法76条、38条、82条)について不利益に働く場合があり、前記のごとく被害者側の対応に応じてどのような刑事処分になるかまだ明らかでないからです。事件が意外な方向に展開する場合があります。弁護活動の結果を待って対応することが肝要です。

11.以上の方法により、あなたは弁護士を依頼し先ず刑事事件手続に決着をつけた後、自分の無実を職場での処分手続で主張される事をお勧めします。 尚、主張の手順・方法については公務員の分限に関する問題であり、慎重を期して専門の弁護士のアドヴァイスを受けてください。

本件のような事案では、職場からの退職勧奨を受け「依願退職」として処理されるケースが多いと思います。あきらめて、用意された退職届にサインしてしまう人も多いと思います。しかし、あなたは昔、公務員を志した時の初心を思い出し、最大限、仕事を継続する努力をすべきと思います。事件によって成長し、良き公僕(全体の奉仕者)として社会に貢献できるかもしれないからです。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文

【公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例】

第五条

一 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。

第八条

一 次の各号の一に該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

1 第2条の規定に違反した者

2 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者

3 第5条の2第1項の規定に違反した者

刑事訴訟法

第三十七条の二 死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。

○2 前項の請求は、同項に規定する事件について勾留を請求された被疑者も、これをすることができる。

第三十七条の三 前条第一項の請求をするには、資力申告書を提出しなければならない。

○2 その資力が基準額以上である被疑者が前条第一項の請求をするには、あらかじめ、その勾留の請求を受けた裁判官の所属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に第三十一条の二第一項の申出をしていなければならない。

○3 前項の規定により第三十一条の二第一項の申出を受けた弁護士会は、同条第三項の規定による通知をしたときは、前項の地方裁判所に対し、その旨を通知しなければならない。

第三十七条の四 裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について被疑者に対して勾留状が発せられ、かつ、これに弁護人がない場合において、精神上の障害その他の事由により弁護人を必要とするかどうかを判断することが困難である疑いがある被疑者について必要があると認めるときは、職権で弁護人を付することができる。ただし、被疑者が釈放された場合は、この限りでない。

第三十七条の五 裁判官は、死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる事件について第三十七条の二第一項又は前条の規定により弁護人を付する場合又は付した場合において、特に必要があると認めるときは、職権で更に弁護人一人を付することができる。ただし、被疑者が釈放された場合は、この限りでない。

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 被告人が定まつた住居を有しないとき。

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

○3 三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

○2 前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。

○3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。

4 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

第四百六十一条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

第四百六十一条の二 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。

○2 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。

第四百六十二条 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。

○2 前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。

第四百六十三条 前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。

○2 検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。

○3 裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。

○4 第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。

第四百六十三条の二 前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。

○2 前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。

○3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

第四百六十四条 略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。

第四百六十五条 略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。

○2 正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。

第四百六十六条 正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。

第四百六十七条 第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。

第四百六十八条 正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。

○2 正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。

○3 前項の場合においては、略式命令に拘束されない。

第四百六十九条 正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。

第四百七十条 略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。

国家公務員法

第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則の定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。

一 成年被後見人又は被保佐人

二 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者

三 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者

四 人事院の人事官又は事務総長の職にあつて、第百九条から第百十二条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者

五 日本国憲法 施行の日以後において、日本国憲法 又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

(身分保障)

第七十五条 職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。

○2 職員は、人事院規則の定める事由に該当するときは、降給されるものとする。

(欠格による失職)

第七十六条 職員が第三十八条各号の一に該当するに至つたときは、人事院規則に定める場合を除いては、当然失職する。

*被疑者国選制度について

起訴前の被疑者の国選弁護の制度は、平成16年の刑事訴訟法改正により、2006年平成18年10月2日から施行されています。ただし、一定の罪が重い事件で、かつ、勾留すなわち身柄の拘束を受けている被疑者に限られています(逮捕により留置されている状態の被疑者は対象になっていません。)。その他要件として資力申告書の提出が必要です。すなわち、法定刑が死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮に当たる事件について、被疑者に対して勾留状が発せられている場合で、被疑者が貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができないときは、裁判官に対し、国選弁護人の選任の請求をすることができる(刑事訴訟法37条の2)。なお、裁判員制度施行前の2009年5月20日までは、被疑者国選の対象について、法定刑が死刑又は無期若しくは短期1年以上に限定されていました。被疑者が国選弁護人の選任を請求するためには、資力申告書を提出しなければならない。資力が基準額(50万円)以上の場合には、弁護士会に対し私選弁護人選任申出の手続をすることになります。(同法37条の3)。このほか、被疑者に対して勾留状が発せられ、かつ、これに弁護人がない場合において、精神上の障害その他の事由により弁護人の必要性を判断することが困難である疑いがある被疑者について、必要があると認めるときは、裁判官は、職権で国選弁護人を付することができます(同法37条の4)。尚、被疑者国選に該当しなくても1回だけ無料で接見してもらえる当番弁護士は要請することができます。