新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.950、2010/1/15 12:01

【民事・商法14条の類推適用・名義貸しとローン契約・権利外観理論・禁反言の法則 エストッペル】

質問:知り合いAから、絶対に迷惑をかけないからB(自動車販売会社)からローン(会社C)で車を買うのに名義を貸してくれと頼まれています。名義を貸して困ることって何かあるのでしょうか。もし車で交通事故が起こった場合や、乗り捨てられたらどうなるでしょうか。

回答:
1.名義を貸しただけでも、商法14条、名板貸しの責任(類推適用)により貴方が自動車購入者としてローン会社との間での支払義務者となります。したがって、その知り合いのAの支払いが滞り、破産してしまった場合には、貴方が支払いを続けなくてはなりません。
2.貴方は自動車の所有者ではありませんが、自動車に関する税金の請求は貴方のもとに来ます。それを知り合いのAにきちんと払ってもらわなくてはなりません。払ってもらえない分は貴方の税金滞納として処理されますので、最悪の場合、貴方の資産に強制執行されることになります。乗り捨てられた場合も同様です。
3.A及びその他の第三者が交通事故を起こした場合にも、運行供用者として(自賠責法3条)無過失責任を負うことになります。
4.もっと悪質な場合は、何らかの利益を貴方に与え保険金詐欺に利用される危険もありますから注意が必要です。
5.法律相談事例集キーワード検索905番553番参照。

解説:
1.回答1、について説明します。

2.(売買契約、ローン契約の当事者は誰か)車の売買契約の当事者は、BとAです。名義上は貴方になっていますが、契約当事者にはなりません。契約の当事者とは、売買契約(民法555条)という法律行為の意思表示をして売買の法律効果を受けようとする人を言いますので、Bと売買しようとする意思があるのはAだからです(私的自治の原則の基本内容)。貴方は名義を貸す意思はありますが、車を買う意思が全くないので当事者ではありません。もっと厳格に言うと、売買の効力が発生しないので貴方とBの契約は無効(不成立)ということになります。自動車ローン契約の当事者も同じ理論になりますので、ローン契約をする意思があるのはAとCですから、ローン契約当事者はAとCということになります。貴方は名義上契約者ですが、ローン契約をする意思がないので当事者ではありません。従って、当事者でない以上、車の所有権を取得することもできませんし、売買代金、ローン代金を支払う債務も発生しません。車の所有権を取得したのはAであり、BはAに対して売買代金請求権があり、代わりに支払ったローン会社CがAに対してローン代金(求償)請求権を有することになります。

3.(外観理論、名板貸しによる救済)しかし、Bは、Aにしか請求できないということになると、わざわざAを探し出し、Aが真の契約当事者であることを立証し請求しなければなりませんし、Aが無資産、行方不明等の理由により支払うことができない場合、結局誰にも請求できませんから不測の損害を被ることになります。むしろ、他人の名義を借りるというのはそのような場合が多いと思われます(通常Aは、自分に信用、資産がないから他人の名義を借り利用しようとするわけです。)。他方、名義を他人Aに貸与しておきながら法律行為をする意思がないという理論を盾に売買、ローン契約の債務を否認するのは信義則、公平の原則(民法1条)の一般原則から是認できません。他方、Bは もともと貴方を信頼し貴方と契約する意思があり、この信頼を法的に保護する必要性がありますし、これを保護しないと当事者について詳細な調査をしなければならず円滑な取引ができなくなります。そこで、B及びCの信頼を保護、救済するため権利外観理論(禁反言の法理、エストッペル)の一つである「名板貸しの責任」(商法14条、会社法9条)の適用が問題となります。

4.(権利外観理論、名板貸しの責任」とは何か)商法14条、会社法9条は商人(勿論会社は商人です。商法4条、会社法5条。)に関する規定であり、一般人である貴方に適用できるか問題ですが、類推適用が認められると思います。

5.名板貸しとは、自己の商号、氏名を使用して営業をすることを他人に許可することをいい、その法的効果として相手方は名義人に対して取引上の債務の履行請求ができることになります。名義を借り法律行為をしたものに対しては当然債務を履行できますので、重畳的請求権を相手方は持つことになります。本来は、他人の商号で営業をしても契約当事者は、法律行為の原則から他人の商号を利用し意思表示をした者が契約の主体なのですが、営業は継続反復して行われるものであり、法理論の原則から言うと相手方は事実上誰にも請求できない危険があります。又、連続、多数の商行為の取引は停滞することになり、公正な商取引の秩序が形成されませんので、名義が表示された外観を信用した取引の相手方保護の制度です。名板貸しは、権利外観理論(ドイツ法に由来する法外観理論、英米法では禁反言の法理、エストッペルといいます。)を理論的基礎にしています。
 すなわち、真実に反する外観を作り出したものは、その外観を信用して取引した者に対してその外観に基づく責任を負わなければならないと言う原則です。この理論に基づき、商事法だけでなく(商号続用した営業譲受け人商法17条、会社法22条、表見支配人による営業主の責任商法24条、会社法13条等)、民法(民法109条以下、表見代理の規定、民法94条2項等)にも多くの規定が置かれています。
 従って、一般人の取引でも相手方の信頼保護、外観作出者の責任は求められ公正な取引秩序が必要ですので商法、会社法の名板貸しの責任は類推適用されることになります。尚、要件としては、以上の趣旨から、一般的には外観作出者の帰責事由と相手方の善意、無重過失(過失があっても保護されること。)が必要とされることになります。虚偽の外観作出に責任を認め、外観を信用した者を保護する必要があるからです。すなわち、商法14条の規定上、解釈上も無過失は必要とされていません。最高裁昭和41年1月27日判決は「重過失」の場合は外観を信用しても救われないとしています。

6.(本件における関係)本件では、自動車の買主Aと自動車販売店Bのほか、ローン会社Cが登場します。特に、今回の場合には買主としては名義を貸す貴方と、名義を借りて実際に車を買う知り合いの方Aが登場することになります。契約においては、形式上ですが、名義貸人である貴方と自動車販売店Bとの間で自動車売買契約を締結するとともに、貴方はローン会社Cとの間で立て替え払い契約を締結することになります。これらの契約によって、ローン会社Cが自動車販売店Bに対して自動車代金を支払い、ローン会社Cは後日購入者Aに対して立て替え金の支払いを請求することになります。このときに、立て替えた売買代金に利息や手数料を上乗せした金額の支払いを受けることでローン会社の利益となるわけです。貴方としてはAに名義を貸したにすぎないので、売買、ローンの契約当事者はAであり、たとえ知り合いの方Aの支払いが滞ったとしても形式上名義人になっただけなので「支払う義務はない、Aに請求してください。」といえるはずです。しかしながら、名板貸しの責任により、以下の理由からそれは極めて難しく、貴方が支払い義務を負うことになることはほぼ間違いありません。

(1)まず、貴方がAに名義を貸したにすぎないことをもってローン会社との立て替え払い契約の当事者ではないこと、つまりは名義を借りた知り合いの方Aが立て替え払い契約の当事者であるという主張が認められるかを検討します。今回、貴方は自動車販売店Bとの間でもまたローン会社Cとの間では、自分が契約上の当事者としてその法的効果の形式的な帰属主体となることを認めていますが、その実質的法的効果(自動車の所有者やローンの支払い義務者)の帰属主体はAであるという意思をもって名義を貸しているにすぎません。つまり、貴方はご自分の名義を貸す意思しかありませんので自動車を買い、そのローン支払い義務者になるという意思は持っていません。自動車の所有者とそのローン支払い義務者はAであることを前提に自分の名義をAに貸したという関係になります。すなわち、売買、ローン契約は、AB間に成立し、効果が発生していますが、貴方と、A、B間の法律関係は法律行為を吸う意思がないので成立しませんし、無効です。しかし、貴方は債務者ではありませんが、名板貸しの類推適用によりローン会社の請求に応じなければなりません。名義を単に貸したという貴方の事情を自動車販売店やローン会社が理解し、Aの支払いが滞った際に貴方ではなく実質的にはローンを負担すべき立場にある知り合いのAに請求してくれるか、と言えばそのようなことはありません。「立て替え払い契約書」などのローン契約書に貴方の名前がある以上、ローン会社としては、貴方を法的に正式な支払い義務者として扱うことになります。立て替え払い契約の効果が貴方に及ぶ以上、貴方も請求を拒絶することはできません。

(2)ただ、販売店において、貴方と知り合いの方双方がともに契約の際立ち会って販売店員に名義貸しすることを説明しておけば問題ないのではないか、とお考えかもしれません。しかしながら、この場合も、ローン会社は法的に貴方を立て替え金支払い義務者として扱うことができます。たしかに販売店の方に説明しているのですからBは悪意の相手方であり、名板貸しは適用になりませんから、車の売買契約の法的効果である、売買代金請求権はAにだけ発生し、名板貸しの責任を持って、貴方に売買代金請求をすることはできません。しかし、立て替え払いをするローン会社Cは依然として善意の第三者に該当しますので、ローン会社の貴方に代わって行った売買代金御立て替え払いは名板貸しの効果により貴方に対して有効になるので、貴方に対する関係ではローンの立て替え払いによる求償請求権の取得(又は貴方に対する金銭消費貸借による請求権の取得 。ローン契約の法的構成の問題で別の論点です。)を有効に行うことができるからです。名義を貸しただけで、貴方が責任を負わされるのは不合理だ、と言いたい気持はあるでしょうが、販売店が名義貸しの事実を知っていても、ローン会社が善意である限り、形式的な貴方とCとの間の立て替え金支払い契約には影響を及ぼしませんから、結果的に立て替え金支払い契約効果を貴方に主張することができることになります。

(3)したがって、知り合いの方が「今月は苦しくて、ローンの支払いが厳しい。」と貴方に言ったとしても、ローン会社はその知り合いの方の事情を聞く必要も義務もなく、形式的に貴方に対して請求することができます。支払いを複数回滞納すればローン全額を請求できるといういわゆる「期限の利益喪失約款」が付いているのが通常なので、知り合いの方が滞納していることを教えてくれない場合には、いきなり貴方の財産に強制執行がかけられるおそれさえあります。また、極端な話をすれば、知り合いの方が破産した場合でも、貴方はその自動車ローンを払い続けなければなりません。破産者は、破産宣告とともに免責手続きを行い、債務の棒引きを得られます(破産手続については当事務所ホームページ法律相談事例集キーワード検索「破産」などを参照ください。)。
 もちろん、事実上、そのような事態に陥った時にはその車を貴方が使うことにし、場合によっては売却することになるとは思いますが(車の所有者は依然としてAですから理論的には売却できません。ただ、売却してもAは異議を申し立てないという結果は予想されますが、正確に言えば、Aの名義を変更し差し押さえ競売する必要があります。) 、他人のローンを背負わされるということに変わりはありません。結果的に貴方の債務になってしまった以上、このような結論になりますし、この支払の免責を受けるには今度は貴方が破産しなくてはなりません。

7.回答2、について説明します。(1)自動車所有者に対しては、自動車重量税と自動車税・軽自動車税が課せられます。自動車重量税であれば車検時に車検有効期間分を支払うことになりますので、車検を行う際に貴方からきちんと払ってもらい、払わないなら車検手続をしないなどの手段を採ることでその回収は可能かと思います。これも名板貸しの法的効果です。(2) 問題は自動車税・軽自動車税です。これらの請求は形式的に自動車所有者である貴方の住所へ来ます。これを知り合いの方Aが所有者である限り払う義務があるのですが、その際に「お金がない」「立て替えておいてくれ」などと言われた場合には、事実上貴方が支払わなくてはならない状況におかれてしまいます。というのも、知り合いの方Aは、この税金を納めないでいても特に困ることはありません(貴方から強硬に鍵を取り上げられ、乗れなくなるということはありますが。)。税金を滞納しているのは都道府県から見れば名板貸しの責任の効果として、自動車の所有者である貴方なのですから、財産や給料の差し押さえの対象は貴方なのであって、名義貸しの事実をいくら主張しても、それによって差し押さえを回避することは極めて難しいです。

8.回答3、4について(その他の責任、犯罪への悪用等)(1)A及びその他の第三者が交通事故を起こした場合にも運行供用者として(自賠責法3条)無過失責任を負うことになります。人身事故では無保険の場合、莫大な請求が予想されます。(2)公正証書原本不実記載罪の適用(刑法157条)。車両の登録は登録簿という公的公示文書により行われますが、登録簿に真実と異なる登録(所有者がAなのに貴方を記載する)を行うと刑事事件となり処罰されます。貴方は幇助犯(刑法62条)の可能性が出てきます。(3)もっと悪質な場合は、何らかの利益を貴方に与え保険金詐欺に利用される危険もありますから注意が必要です。虚偽の交通事故による保険金詐欺を行う場合、後に車両の名義人から捜査、逮捕される危険があります。そのリスクを回避するため、一時的に対価を支払い、名義貸しを利用し、保険金を取得したら行方をくらまし逃走することが行われているようです。貴方に犯罪幇助の可能性もあります。Aが素性の知れない単なる知り合いであればその危険は大きいでしょう。

9.(判例)大阪高等裁判所昭44年10月28日判決(約束手形金請求控訴事件)妻が事実上、夫の経営する会社の営業等手形振り出しに名義使用を許し黙認していたのであれば、旧商法23条(現商法14条)の類推適用により、その後裏書された現手形所持人に対して手形条の責任を負うというものです。妥当な判決です。判決内容参照。
「二、そこで、控訴人ふく子が甲第一号証の本件手形を振出したかどうかについて判断すると、みぎ甲第一号証と原審における控訴人正雄および同ふく子の各本人尋問の結果(但し、いずれも後記措信しない供述部分を除く。)や当審における鑑定の結果を総合すると、控訴人正雄は控訴会社の代表者として同会社の経営を独断専行していた者であつて、控訴人正雄の営業上の活動はすべて控訴会社の代表者としての資格におけるものであつて、控訴人正雄個人の資格におけるものではないと推定される(有限会社法二九条参照)こと、控訴人正雄は、控訴会社を経営するために銀行に当座取引口座を開設する必要に迫られたが、控訴会社も控訴人正雄個人も、共に、過去において不渡り処分を受けたことがあつたために同人らの名義で銀行取引を開始することができなかつたので、控訴人正雄の妻である控訴人ふく子名義で訴外株式会社幸福相互銀行堺支店に当座取引口座を開設し、みぎ口座による取引専用の樋口と表示した印判も、新たに、控訴人ふく子が日常使用しているものとは別個のものを作り、みぎ口座を利用して控訴人ふく子名義で控訴会社の銀行取引をしていたのであつて、控訴人ふく子を代理して、同人のために銀行取引をしていたのではないこと、および、本件手形は、控訴人正雄が、みぎ銀行口座を利用する控訴会社の金融取引の一つとして、控訴会社の銀行取引口座の通称である樋口ふく子なる名称を用いて振り出したものであつて、控訴人ふく子を代理して同人のために同人名義の手形の振出しを代行したものではないことを認めることができる。
 みぎ認定の事実関係によると、本件手形は控訴会社振出しの手形に該当し、控訴人ふく子振出しの手形ではないから、みぎ手形の振出人としての責任は、控訴会社において負うべきものであつて(大審院大正一〇年七月一三日判決、民録二七輯一三一八頁)、後述のように、控訴人ふく子がみぎ銀行取引について明示または黙示の承認を与えた場合を除いて、控訴人ふく子はみぎ手形振出しによる責任を負わない。
 
 三、つぎに、控訴人ふく子が同人の名義をもつてする前記控訴会社の銀行取引について承認を与えたかどうか、および、みぎ承認を与えた場合には、どのような法理によつて、控訴人ふく子は本件手形について振出しによる責任を負わねばならないかについて判断する。原、当審における控訴人正雄および同ふく子の各本人尋問の結果(但し、後記措信しない供述部分を除く。)によると、控訴会社の営業は比較的小規模で従業員八名で運営されていたが、肥料飼料の製造販売という業種の性質上必ずしも控訴人ふく子の関与を必要としていなかつた反面、控訴人正雄と控訴人ふく子とは夫婦であつて控訴会社の唯一の店舗に隣接する家屋に日常起居していた上に、控訴人ら夫婦の生活費は専ら控訴人正雄の控訴会社経営による収益をもつて賄われていたことを認めることができる。
 みぎ認定事実に徴すると、控訴人ふく子は、控訴会社の営業活動に直接の関与こそしていなかつたものの、控訴会社との取引のために控訴会社の店舗を訪れた来客の接待、控訴人正雄不在の際の控訴会社の店舗の留守番、不在中に店舗にかかつて来た電話の応答等のためにみぎ店舗に出入りし、客の来訪の目的、控訴人正雄の外出の目的、電話をかけて来た用件等に関する見聞を通じて控訴会社の営業状態、資金繰り等を知る機会に恵まれていて、みぎ営業上の資金繰りの必要上控訴人ふく子の名義で銀行口座が開かれ、控訴人正雄がみぎ口座を利用して控訴会社の銀行取引をしていた事実を本件手形の振出しの時以前から知悉していたにもかかわらず、控訴会社にみぎ営業活動上の便宜を供与する意思でみぎ銀行取引を黙認していたと認めるのが相当である。
 原、当審における控訴人正雄および同ふく子の各本人尋問の結果中みぎ認定に反する供述部分は措信しない。そのほかにはみぎ認定を覆すに足りる証拠はない。前認定のように、控訴人正雄は控訴会社代表者の資格において同会社のために本件手形を振り出したのであつて、控訴人ふく子を代理して同人のために本件手形の振出しを代行したのではないから、控訴人ふく子が、控訴人ふく子名義をもつてする控訴会社の銀行取引を黙認し、同会社に対し控訴人ふく子名義で手形行為をする包括的な権限を与えていたとしても、本件手形の振出しに関する控訴人ふく子の責任については手形代理の法理の直接の適用はない。
 しかしながら、自己の氏名を使用して営業を為すことを他人に許諾した者は、自己を営業主なりと誤信して取引を為した者に対し、その取引によつて生じた債務について、その他人と連帯して弁済の責に任ずべきものであり(商法二三条)、且つ、みぎの許諾を与えた者はみぎ営業に関して振り出された(または裏書された)手形について、手形行為の性質上、たとえ手形上の権利者がみぎ手形の授受を伴う取引についてみぎ手形行為者の直接の取引の相手方ではない等、手形の原因関係に基づいてみぎ手形行為者の責任を問うことができない立場にあり、したがつて手形行為の名義人に対しても商法二三条により手形の原因関係に基づく連帯責任を問うことができない場合でも、手形上の権利者に対し、前記法条の準用により、当然に手形行為者と合同して責任を負わねばならないわけであるから、同様の法理によつて、自己の氏名を用いて銀行取引をすることを他人に許諾した者は、その者をみぎ銀行取引の当事者であると誤信してみぎ銀行取引の一つとして振り出された手形上の権利を取得した者に対し、(たとえ手形代理の法理によつては手形行為名義人の手形上の責任を問うことができない場合であつても、みぎ自己名義で銀行取引をすることに許諾を与えたこと自体によつて、)手形上の責任を負わねばならないと解するのが相当であるところ(この場合にも、手形行為の名義人が取引の相手方に対し、商法二三条の類推適用により、手形行為者と連帯して手形の原因関係に基づく責任を負わねばならないこともあり得るが、本件では被控訴人はこのような手形の原因関係に基づいて責任を問う請求をしていない。)、本件手形は控訴会社が控訴人ふく子名義でする銀行取引の一つとして振り出したものであるから、控訴人ふく子名義で銀行取引をすることを控訴会社に黙許した控訴人ふく子は、被控訴人が本件手形の振出人を控訴人ふく子であると誤信して本件手形の譲渡を受けた場合には、被控訴人に対し本件手形の振出人としての責任を負わねばならない筋合である。
 そして、原審における控訴人正雄および被控訴人の各本人尋問の結果とによると、被控訴人は、本件手形を訴外倉橋春雄から取得したが、その際みぎ手形の振出事情の説明がなかつたので、被控訴人は手形面の記載によつてみぎ手形が控訴人ふく子振出にかかるものと誤信してみぎ手形の譲渡を受けたものであることを認めることができる。そのうえ、被控訴人が、このように信じたことについて重大な過失のあつたことを、控訴人ふく子は主張立証をしない。 以上の理由により、控訴人ふく子に対し同控訴人の本件手形の振出人としての責任を原因として本件手形債務の支払いを求める被控訴人の請求は、結局において、正当として認容することができる。」

10.(まとめ)以上からわかるとおり、自動車の名義貸しという行為には特に慎重を期し、できる限り断るべきです。そもそも、自ら自動車ローンを組めない方には基本的な支払い能力に問題があると考えて間違いはないでしょう。

≪参照条文≫

民法
(心裡留保)
第93条  意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
(虚偽表示)
第94条  相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2  前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(代理権授与の表示による表見代理)
第109条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(権限外の行為の表見代理)
第110条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

自賠責法
(自動車損害賠償責任)
第3条  自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

商法
(定義)
第四条  この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。
2  店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者又は鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、これを商人とみなす。
(登記の効力)
第九条  この編の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2  故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)
第14条  自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
(譲渡人の商号を使用した譲受人の責任等)
第十七条  営業を譲り受けた商人(以下この章において「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
(表見支配人)
第二十四条  商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

会社法
(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)
第九条  自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
(表見支配人)
第13条  会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第22条  事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
(譲受会社による債務の引受け)
第23条  譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができる。
破産法
(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条  裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一  債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二  破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三  特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一  租税等の請求権

地方税法
(自動車税の納税義務者等)
第百四十五条  自動車税は、自動車(軽自動車税の課税客体である自動車その他政令で定める自動車を除く。以下自動車税について同じ。)に対し、主たる定置場所在の道府県において、その所有者に課する。
2  自動車の売買があつた場合において、売主が当該自動車の所有権を留保しているときは、自動車税の賦課徴収については、買主を当該自動車の所有者とみなす。
(自動車税の徴収の方法)
第百五十一条  自動車税の徴収については、普通徴収の方法によらなければならない。 2  自動車税を普通徴収の方法によつて徴収しようとする場合において納税者に交付すべき納税通知書は、遅くとも、その納期限前十日までに納税者に交付しなければならない。
刑法
(公正証書原本不実記載等)
第157条  公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
3  前二項の罪の未遂は、罰する。

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