新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:先日、振り込め詐欺の被害に遭ってしまいました。知らない個人名の口座に300万円振り込んでしまいました。何とか取り返すことはできませんか? 解説: 2.この法律は、三段階に分けて被害者の救済をはかります。まず、口座の凍結、次に預金債権の消滅、そして配分、という手順です。 3.具体的には、凍結した講座について、消滅手続に入っていることを「公告」します(現在はインターネットで行われています。期間は60日間)。公告期間中に、口座の名義人から申出があった場合、消滅手続は終了します。本法律が、他人名義の口座を利用し、口座の名義人も知らないうちに犯罪が行われている、という事案を想定しているからです。逆に、仮に犯罪に利用されているとしても、犯人が、自己名義の銀行口座を使用していれば、この手続きによる消滅はさせられないことになります。それでよいのか、と思ってしまいますが、相手方の実在がはっきりすれば、その本人に対して、改めて損害賠償を請求すれば良い(既存の法制度による解決が可能)ので、必要以上の保護は与えていないと考えることができます(実際上、口座の名義人から申出があることはないといえるでしょう。自分の犯罪を認めることになるからです)。 4.公告期間中に申出が無かった場合、当該預金債権は消滅し、被害者に金銭が分配されます(8条)。この申し出の方法等については公告に具体的に記載されることになっています。このとき、被害者は必ずしも1人ではない場合があります。例えば質問のケースで、質問者が300万円振り込んでいたとして、口座にその300万円がそのまま入っていたとしても、他の人がこの口座に送金している場合は分配手続となり、被害者が3人いれば、その300万円は3人で分けることになるのです。各被害者に対する分配額は、総被害額に対する各被害者の被害金額の割合に応じて分配されることになります(16条2項)。 5.この法律がこれまでと異なり画期的といえるのは、そのスピードです。弁護士がヤミ金や振り込め詐欺に関する事件を受任した場合、警察に比べ権限が少ない弁護士は、交渉、裁判という方法しかありませんでした。裁判では、損害賠償を求めることになりますが、通常、このような犯罪では、相手方の素性が一切わからない、ということが多く、警察が動いてくれるまでは弁護士は手出しができない、というケースも多く見られました。しかし、この法律により、金融機関に対し同法の措置を促すことができ、以前よりも格段に早く口座をストップさせることができるのです。これにより、被害金を取り戻すチャンスが増えたといえるでしょう。 6.なお、解説のとおり、同法は、口座が犯罪に利用されたことに加えて、公告期間内に口座名義人が名乗り出ないことが要件となっています。すなわち、他人の名義を使用している、または、本人だが、犯罪であることを自覚しているので名乗り出られない、というケースのみであり、口座名義人が名乗り出た場合には、同法の救済は終了しますので、その名義人に対して別途損害賠償を請求する必要があることに注意が必要です。 ≪参考条文≫ 第二章 拾得者の義務及び警察署長等の措置 民法
No.952、2010/1/21 14:35
【民事・平成20年10月1日施行「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」・いわゆる振り込め詐欺救済法について】
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回答:
1.先日施行された振り込め詐欺防止法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)を利用することにより、犯行に使われた銀行口座をすばやく停止させ、被害金を取り返せる可能性があります。至急弁護士等専門家に相談してください。
2. 法律相談事例集キーワード検索で745番、694番を参照してください。
1.振り込め詐欺は、銀行振り込みを利用した新種の犯罪です。他人名義の口座を利用し、ATMからの引き出しも他人を使う(「出し子」などと呼ばれます)ことにより、犯人追跡を非常に困難にする悪質な手口です。従来の法律では、銀行口座を仮に差し押さえるという方法が考えられましたが、時間も手間もかかってしまい実際の被害者の救済には適していませんでした。そこで、振り込め詐欺を少しでも防止しまた被害者を救済するために、平成20年10月1日から新しい法律が施行されました。それが、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律、俗に振り込め詐欺防止法、と呼ばれるものです。この法律は銀行口座を利用した犯罪に非常に強い効果を発揮する可能性を秘めています。
まず、金融機関は、通報、調査等により、自己が提供する口座が犯罪のように供されていると判断したときは、「適切な措置」を講じることとされています(同法第3条)。これは、具体的には、預金口座の「凍結」です。引き出し、入金ともにできなくなります。金融機関の独自の調査でも凍結は可能とされていますが、通常は警察に被害届け出をして、警察から金融機関に連絡があり、凍結となる場合がほとんどでしょう。その理論的根拠は預金者と金融機関の預金契約の内容です。本来であれば、他人の預金口座の取引停止を求めるためには法的手続きである保全手続すなわち仮差押手続が必要なはずです。しかし、各銀行の預金規定、規定集に法的手続きによらず銀行が独自の判断で自発的に預金者の取引を停止する処置が定められています。
某都市銀行預金規定10条、11条には、「預金、預金契約上の地位その他この取引に関わる一切の権利及び通帳は、譲渡、担保、第三者に利用させる事はできないのでこれに違反した場合」「預金が、法令、公序良俗に違反する行為に利用されるか、利用される恐れあると認められた場合」以上の場合には、預金取引を停止することが出来る旨明確に定められています。一般の金融機関に同様の規定が置かれています。銀行規定集にも同様の定めがあります。預金取引は、金融業の基本的取引であり、金融業が、経済秩序の適正な運営を目的として遂行されなければならないことは言うまでもありませんから、以上のような違法取引が許されず、凍結を明確にした妥当な規定です。振り込め 詐欺は、預金口座の譲渡等犯罪行為を行っていますので、この規定により凍結することが出来ます。本法律(同法3条)の凍結手続きもこのような銀行規定をもとにしています。
ここまでは、以前から約款の条項などで対応できた可能性がありますが、本法律では、この預金口座を「消滅」させることができる点に意義があります。預金口座は、利用者が銀行に対して有する「預金債権」ですから、債権者に無断でこれを消滅させることなどは、原則としてできません。しかし、本法律では、しかるべき手続を経て、預金口座(債権)を消滅させ、そこに入金されていた金銭を被害者に対する分配金として配当できるようにしていることに意義があります。尚、預金債権の消滅について、違法な金員といえども、自力救済禁止の原則から保全手続き等の適正な法的手続きを取らず預金債権者の請求権を本法律により勝手に消滅させることができるかという問題がありますが、権利者が申し出ない以上、遺失物と同様に扱っても権利者を不当に扱っているということはできないと考えることができます。民法240条は遺失物について公告後3カ月(平成18年の改正前は6カ月)で権利消滅を規定していますのでこれに準じて考えることができます。又金銭請求権は物ではありませんが、遺失物法2条1項、準遺失物(誤って占有した他人の物、他人の置き去った物及び逸走した家畜をいう)に類似しており考え方、趣旨を援用できると思います。又、短期消滅時効(民法174条は1年です。)の考え方も類推されると思います。いずれにしろ消滅規定は適正な立法と考えられます。
この法律による預金口座の凍結・権利消滅・分配は、従来は、民法・民事訴訟法・民事執行法の規定を通じて行われる民事手続(仮差押・民事訴訟確定判決・債権執行による配当手続)により被害回復が行われていたものです。勿論、この法律施行後でも従来の手続で被害回復を試みても構いませんが、権利関係の確定・実現を公平・確実に行うために定められた民事訴訟法や民事執行法に基づかずに被害回復を行うことは、法治主義・法の支配の観点から恣意的な運用による法治主義・法の支配の後退が懸念されうると思います。 しかし、この法律は、民事訴訟法と民事執行法の例外を規定したものではありません。この法律の位置づけとしては、民法の特別法である実体法の一部に分類されます。従来の手続では被害救済に不足があるので、実質的に回復できるように、実体法に修正を加えたと考える事ができます。実体法であっても、法律の名宛人である銀行などの金融機関は法律の規定を遵守することが期待されているために、事実上、民事訴訟や民事執行手続が不要になっているということです。また、この法律による分配が行われたとしても、裁判所の判決を経て行われたものではありませんので、金融機関が行う被害額や分配額の決定には既判力はありませんので、万一、被害額の届出に誤認があった場合などには、本来受け取るべき金額を請求する民事訴訟を提起することができます。不正受領があった場合の金融機関の協力義務についても規定がなされています(24条)。従って、この法律による分配手続は、法治主義や法の支配に対する懸念事項というよりは、法治主義や法の支配の理念をより実質的に実現・補完するための制度であると考える事が出来ると思います。
また、被害金は「分配」されるので、全額の取戻しができない場合があることも注意が必要です。勿論、犯罪者組織側は、この法律に対応すべく、役割分担により預金引き出しの準備を整えており振り込みを確認次第直ちに引き出すことが予想されますので時間との戦いになると思われます。ともあれ、同法を上手く利用すれば、振り込め詐欺やヤミ金融の撲滅に役に立つことが期待できます。このような被害にあっても、泣き寝入りすることなく、一刻も早く弁護士や警察に相談されることをお薦めいたします。
犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、預金口座等への振込みを利用して行われた詐欺等の犯罪行為により被害を受けた者に対する被害回復分配金の支払等のため、預金等に係る債権の消滅手続及び被害回復分配金の支払手続等を定め、もって当該犯罪行為により被害を受けた者の財産的被害の迅速な回復等に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「金融機関」とは、次に掲げるものをいう。
一 銀行
二 信用金庫
三 信用金庫連合会
四 労働金庫
五 労働金庫連合会
六 信用協同組合
七 信用協同組合連合会
八 農業協同組合
九 農業協同組合連合会
十 漁業協同組合
十一 漁業協同組合連合会
十二 水産加工業協同組合
十三 水産加工業協同組合連合会
十四 農林中央金庫
十五 商工組合中央金庫
十五 株式会社商工組合中央金庫
2 この法律において「預金口座等」とは、預金口座又は貯金口座(金融機関により、預金口座又は貯金口座が犯罪行為に利用されたこと等を理由として、これらの口座に係る契約を解約しその資金を別段預金等により管理する措置がとられている場合におけるこれらの口座であったものを含む。)をいう。
3 この法律において「振込利用犯罪行為」とは、詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたものをいう。
4 この法律において「犯罪利用預金口座等」とは、次に掲げる預金口座等をいう。
一 振込利用犯罪行為において、前項に規定する振込みの振込先となった預金口座等
二 専ら前号に掲げる預金口座等に係る資金を移転する目的で利用された預金口座等であって、当該預金口座等に係る資金が同号の振込みに係る資金と実質的に同じであると認められるもの
5 この法律において「被害回復分配金」とは、第七条の規定により消滅した預金又は貯金(以下「預金等」という。)に係る債権の額に相当する額の金銭を原資として金融機関により支払われる金銭であって、振込利用犯罪行為により失われた財産の価額を基礎として第四章の規定によりその金額が算出されるものをいう。
第二章 預金口座等に係る取引の停止等の措置
第三条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。
2 金融機関は、前項の場合において、同項の預金口座等に係る取引の状況その他の事情を勘案して当該預金口座等に係る資金を移転する目的で利用された疑いがある他の金融機関の預金口座等があると認めるときは、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供するものとする。
第三章 預金等に係る債権の消滅手続
(公告の求め)
第四条 金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、次に掲げる事由その他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、速やかに、当該預金口座等について現に取引の停止等の措置が講じられていない場合においては当該措置を講ずるとともに、主務省令で定めるところにより、預金保険機構に対し、当該預金口座等に係る預金等に係る債権について、主務省令で定める書類を添えて、当該債権の消滅手続の開始に係る公告をすることを求めなければならない。
一 捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があったこと。
二 前号の情報その他の情報に基づいて当該預金口座等に係る振込利用犯罪行為による被害の状況について行った調査の結果
三 金融機関が有する資料により知ることができる当該預金口座等の名義人の住所への連絡その他の方法による当該名義人の所在その他の状況について行った調査の結果
四 当該預金口座等に係る取引の状況
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
一 前項に規定する預金口座等についてこれに係る預金等の払戻しを求める訴え(以下この章において「払戻しの訴え」という。)が提起されているとき又は当該預金等に係る債権について強制執行、仮差押え若しくは仮処分の手続その他主務省令で定める手続(以下この章において「強制執行等」という。)が行われているとき。
二 振込利用犯罪行為により被害を受けたと認められる者の状況その他の事情を勘案して、この法律に規定する手続を実施することが適当でないと認められる場合として、主務省令で定める場合に該当するとき。
3 金融機関は、第一項の預金口座等に係る取引の状況その他の事情を勘案して当該預金口座等に係る資金を移転する目的で利用されたと疑うに足りる相当な理由がある他の金融機関の預金口座等があると認めるときは、当該他の金融機関に対し、同項の預金口座等に係る主務省令で定める事項を通知しなければならない。
(公告等)
第五条 預金保険機構は、前条第一項の規定による求めがあったときは、遅滞なく、当該求めに係る書面又は同項に規定する主務省令で定める書類の内容に基づき、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一 前条第一項の規定による求めに係る預金口座等(以下この章において「対象預金口座等」という。)に係る預金等に係る債権(以下この章において「対象預金等債権」という。)についてこの章の規定に基づく消滅手続が開始された旨
二 対象預金口座等に係る金融機関及びその店舗並びに預金等の種別及び口座番号
三 対象預金口座等の名義人の氏名又は名称
四 対象預金等債権の額
五 対象預金口座等に係る名義人その他の対象預金等債権に係る債権者による当該対象預金等債権についての金融機関への権利行使の届出又は払戻しの訴えの提起若しくは強制執行等(以下「権利行使の届出等」という。)に係る期間
六 前号の権利行使の届出の方法
七 払戻しの訴えの提起又は強制執行等に関し参考となるべき事項として主務省令で定めるもの(当該事項を公告することが困難である旨の金融機関の通知がある事項を除く。)
八 第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等がないときは、対象預金等債権が消滅する旨
九 その他主務省令で定める事項
2 前項第五号に掲げる期間は、同項の規定による公告があった日の翌日から起算して六十日以上でなければならない。
3 預金保険機構は、前条第一項の規定による求めに係る書面又は同項に規定する主務省令で定める書類に形式上の不備があると認めるときは、金融機関に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。
4 金融機関は、第一項第五号に掲げる期間内に対象預金口座等に係る振込利用犯罪行為により被害を受けた旨の申出をした者があるときは、その者に対し、被害回復分配金の支払の申請に関し利便を図るための措置を適切に講ずるものとする。
5 第一項から第三項までに規定するもののほか、第一項の規定による公告に関し必要な事項は、主務省令で定める。
(権利行使の届出等の通知等)
第六条 金融機関は、前条第一項第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等があったときは、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
2 金融機関は、前条第一項第五号に掲げる期間内に対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことが明らかになったときは、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
3 預金保険機構は、前二項の規定による通知を受けたときは、預金等に係る債権の消滅手続が終了した旨を公告しなければならない。
(預金等に係る債権の消滅)
第七条 対象預金等債権について、第五条第一項第五号に掲げる期間内に権利行使の届出等がなく、かつ、前条第二項の規定による通知がないときは、当該対象預金等債権は、消滅する。この場合において、預金保険機構は、その旨を公告しなければならない。
第四章 被害回復分配金の支払手続
第一節 通則
(被害回復分配金の支払)
第八条 金融機関は、前条の規定により消滅した預金等に係る債権(以下この章及び第三十七条第二項において「消滅預金等債権」という。)の額に相当する額の金銭を原資として、この章の定めるところにより、消滅預金等債権に係る預金口座等(以下この章において「対象預金口座等」という。)に係る振込利用犯罪行為(対象預金口座等が第二条第四項第二号に掲げる預金口座等である場合にあっては、当該預金口座等に係る資金の移転元となった同項第一号に掲げる預金口座等に係る振込利用犯罪行為。以下この章において「対象犯罪行為」という。)により被害を受けた者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)であってこれにより財産を失ったもの(以下この章において「対象被害者」という。)に対し、被害回復分配金を支払わなければならない。
2 金融機関は、対象被害者について相続その他の一般承継があったときは、この章の定めるところにより、その相続人その他の一般承継人に対し、被害回復分配金を支払わなければならない。
3 前二項の規定は、消滅預金等債権の額が千円未満である場合は、適用しない。この場合において、預金保険機構は、その旨を公告しなければならない。
(被害回復分配金の支払を受けることができない者)
第九条 前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、被害回復分配金の支払を受けることができない。
一 対象犯罪行為により失われた財産の価額に相当する損害の全部について、そのてん補又は賠償がされた場合(当該対象犯罪行為により当該財産を失った対象被害者又はその一般承継人以外の者により当該てん補又は賠償がされた場合に限る。)における当該対象犯罪行為により当該財産を失った対象被害者又はその一般承継人
二 対象犯罪行為を実行した者若しくはこれに共犯として加功した者、当該対象犯罪行為に関連して不正な利益を得た者、当該対象犯罪行為により財産を失ったことについて自己に不法な原因がある者その他被害回復分配金の支払を受けることが社会通念上適切でない者又は対象被害者がこれらの者のいずれかに該当する場合におけるその一般承継人
第二節 手続の開始等
(公告の求め)
第十条 金融機関は、第七条の規定により預金等に係る債権が消滅したとき(第八条第三項に規定する場合を除く。)は、速やかに、主務省令で定めるところにより、預金保険機構に対し、その消滅に係る消滅預金等債権について、主務省令で定める書類を添えて、被害回復分配金の支払手続の開始に係る公告をすることを求めなければならない。
2 前項の規定は、対象預金口座等に係るすべての対象被害者又はその一般承継人が明らかであり、かつ、これらの対象被害者又はその一般承継人のすべてから被害回復分配金の支払を求める旨の申出があるときは、適用しない。この場合において、金融機関は、預金保険機構にその旨を通知しなければならない。
(公告等)
第十一条 預金保険機構は、前条第一項の規定による求めがあったときは、遅滞なく、当該求めに係る書面又は同項に規定する主務省令で定める書類の内容に基づき、次に掲げる事項を公告しなければならない。
一 前条第一項の規定による求めに係る消滅預金等債権についてこの章の規定に基づく被害回復分配金の支払手続が開始された旨
二 対象預金口座等(対象預金口座等が第二条第四項第二号に掲げる預金口座等である場合における当該対象預金口座等に係る資金の移転元となった同項第一号に掲げる預金口座等を含む。次号において同じ。)に係る金融機関及びその店舗並びに預金等の種別及び口座番号
三 対象預金口座等の名義人の氏名又は名称
四 消滅預金等債権の額
五 支払申請期間
六 被害回復分配金の支払の申請方法
七 被害回復分配金の支払の申請に関し参考となるべき事項として主務省令で定めるもの(当該事項を公告することが困難である旨の金融機関の通知がある事項を除く。)
八 その他主務省令で定める事項
2 前項第五号に掲げる支払申請期間(以下この章において単に「支払申請期間」という。)は、同項の規定による公告があった日の翌日から起算して三十日以上でなければならない。
3 預金保険機構は、前条第一項の規定による求めに係る書面又は同項に規定する主務省令で定める書類に形式上の不備があると認めるときは、金融機関に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。
4 金融機関は、対象犯罪行為による被害を受けたことが疑われる者に対し被害回復分配金の支払手続の実施等について周知するため、必要な情報の提供その他の措置を適切に講ずるものとする。
5 第一項から第三項までに規定するもののほか、第一項の規定による公告に関し必要な事項は、主務省令で定める。
第三節 支払の申請及び決定等
(支払の申請)
第十二条 被害回復分配金の支払を受けようとする者は、支払申請期間(第十条第二項の規定による通知があった場合においては、金融機関が定める相当の期間。以下同じ。)内に、主務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書に第一号及び第二号に掲げる事項を疎明するに足りる資料を添付して、対象預金口座等に係る金融機関に申請をしなければならない。
一 申請人が対象被害者又はその一般承継人であることの基礎となる事実
二 対象犯罪行為により失われた財産の価額
三 控除対象額(対象犯罪行為により失われた財産の価額に相当する損害について、そのてん補又は賠償がされた場合(当該対象犯罪行為により当該財産を失った対象被害者又はその一般承継人以外の者により当該てん補又は賠償がされた場合に限る。)における当該てん補額及び賠償額を合算した額をいう。以下同じ。)
四 その他主務省令で定める事項
2 前項の規定による申請をした対象被害者又はその一般承継人(以下この項において「対象被害者等」という。)について、当該申請に対する次条の規定による決定が行われるまでの間に一般承継があったときは、当該対象被害者等の一般承継人は、支払申請期間が経過した後であっても、当該一般承継があった日から六十日以内に限り、被害回復分配金の支払の申請をすることができる。この場合において、当該一般承継人は、主務省令で定めるところにより、前項に規定する申請書に同項第一号及び第二号に掲げる事項を疎明するに足りる資料を添付して、これを対象預金口座等に係る金融機関に提出しなければならない。
3 前二項の規定による申請は、対象犯罪行為に係る第二条第三項に規定する振込みの依頼をした金融機関を経由して、行うことができる。
(支払の決定)
第十三条 金融機関は、前条第一項の規定による申請があった場合において、支払申請期間が経過したときは、遅滞なく、同条第一項又は第二項に規定する申請書及び資料等に基づき、その申請人が被害回復分配金の支払を受けることができる者に該当するか否かの決定をしなければならない。同条第二項の規定による申請があった場合において、当該申請に係る一般承継があった日から六十日が経過したときも、同様とする。
2 金融機関は、被害回復分配金の支払を受けることができる者に該当する旨の決定(以下「支払該当者決定」という。)をするに当たっては、その犯罪被害額(対象犯罪行為により失われた財産の価額から控除対象額を控除した額をいう。以下同じ。)を定めなければならない。この場合において、支払該当者決定を受ける者で同一の対象被害者の一般承継人であるものが二人以上ある場合におけるその者に係る犯罪被害額は、当該対象被害者に係る対象犯罪行為により失われた財産の価額から控除対象額を控除した額を当該一般承継人の数で除して得た額とする。
3 前項後段に規定する場合において、当該支払該当者決定を受ける者のうちに各人が支払を受けるべき被害回復分配金の額の割合について合意をした者があるときは、同項後段の規定にかかわらず、当該合意をした者に係る犯罪被害額は、同項後段の規定により算出された額のうちこれらの者に係るものを合算した額に当該合意において定められた各人が支払を受けるべき被害回復分配金の額の割合を乗じて得た額とする。
4 前二項に定めるもののほか、犯罪被害額の認定の方法については、主務省令で定める。
(書面の送付等)
第十四条 金融機関は、前条の規定による決定を行ったときは、速やかに、その内容を記載した書面を申請人に送付しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、申請人の所在が知れないときその他同項の書面を送付することができないときは、金融機関において当該書面を保管し、いつでも申請人に交付すべき旨を明らかにする措置として主務省令で定める措置をとることをもって同項の規定による送付に代えることができる。
(決定表の作成等)
第十五条 金融機関は、第十三条の規定による決定を行ったときは、次に掲げる事項を記載した決定表を作成し、申請人の閲覧に供するため、これを主務省令で定める場所に備え置かなければならない。
一 支払該当者決定を受けた者の氏名又は名称及び当該支払該当者決定において定められた犯罪被害額(支払該当者決定を受けた者がないときは、その旨)
二 その他主務省令で定める事項
第四節 支払の実施等
(支払の実施等)
第十六条 金融機関は、すべての申請に対する第十三条の規定による決定を行ったときは、遅滞なく、支払該当者決定を受けた者に対し、被害回復分配金を支払わなければならない。
2 前項の規定により支払う被害回復分配金の額は、支払該当者決定により定めた犯罪被害額の総額(以下この項において「総被害額」という。)が消滅預金等債権の額を超えるときは、この額に当該支払該当者決定を受けた者に係る犯罪被害額の総被害額に対する割合を乗じて得た額(その額に一円未満の端数があるときは、これを切り捨てた額)とし、その他のときは、当該犯罪被害額とする。
3 金融機関は、第一項の規定により支払う被害回復分配金の額を決定表に記載し、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
4 預金保険機構は、前項の規定による通知を受けたときは、第一項の規定により支払う被害回復分配金の額を金融機関が決定表に記載した旨を公告しなければならない。
(支払該当者決定後の一般承継人に対する被害回復分配金の支払)
第十七条 金融機関は、支払該当者決定が行われた者について一般承継があった場合において、その者に支払うべき被害回復分配金でまだ支払っていないものがあるときは、その者の一般承継人であって当該一般承継があった日から六十日以内に届出をしたものに対し、未払の被害回復分配金を支払わなければならない。この場合において、当該一般承継人は、主務省令で定めるところにより、届出書を金融機関に提出しなければならない。
2 前項の規定により届出をした一般承継人が二人以上ある場合における当該一般承継人に支払う被害回復分配金の額は、同項に規定する未払の被害回復分配金の額を当該一般承継人の数で除して得た額(その額に一円未満の端数があるときは、これを切り捨てた額)とする。ただし、当該一般承継人のうちに各人が支払を受けるべき被害回復分配金の額の割合について合意をした者があるときは、当該合意をした者に支払う被害回復分配金の額は、この項本文の規定により算出された額のうちこれらの者に係るものを合算した額に当該合意において定められた各人が支払を受けるべき被害回復分配金の額の割合を乗じて得た額(その額に一円未満の端数があるときは、これを切り捨てた額)とする。
第五節 手続の終了等
(公告)
第十八条 金融機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、速やかに、預金保険機構に対し、被害回復分配金の支払手続の終了に係る公告をすることを求めなければならない。
一 第十二条第一項又は第二項の規定による申請がないとき。
二 第十二条第一項又は第二項の規定による申請のすべてについて第十三条の規定による決定があった場合において、支払該当者決定を受けた者がないとき。
三 前節又は第二十二条第二項の規定により支払うべき被害回復分配金のすべてについて、同節の規定によりこれを支払い、又は同項に規定する措置をとったとき。
四 対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことが明らかになったとき。
2 預金保険機構は、前項の規定による求めがあったときは、遅滞なく、被害回復分配金の支払手続が終了した旨を公告しなければならない。
(預金保険機構への納付)
第十九条 金融機関は、第八条第三項又は前条第二項の規定による公告があった場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、当該各号に定める額に相当する額の金銭を、預金保険機構に納付しなければならない。
一 第八条第三項の規定による公告があったとき又は前条第二項の規定による公告があった場合において被害回復分配金の支払を行わなかったとき。 消滅預金等債権の額
二 前条第二項の規定による公告があった場合において、当該公告に係る対象預金口座等について支払った被害回復分配金の額の合計額が消滅預金等債権の額に満たないとき。 消滅預金等債権の額から当該被害回復分配金の額の合計額を控除した額
(犯罪被害者等の支援の充実等)
第二十条 預金保険機構は、前条(第二十四条第三項の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の規定により金銭の納付を受けたときは、当該納付を受けた金銭の額から当該金銭の額に第二十五条第四項の規定による支払に要する費用の額を考慮して主務省令で定める割合を乗じて得た額を控除した額の金銭を、主務省令で定めるところにより、犯罪被害者等の支援の充実のために支出するものとする。
2 預金保険機構は、前項の主務省令で定める割合を乗じて得た額の金銭について、その全部又は一部が第二十五条第四項の規定による支払のため必要がなくなったときは、前項の主務省令で定めるところにより、これを犯罪被害者等の支援の充実のために支出するものとする。
(損害賠償請求権等との関係)
第二十一条 被害回復分配金を支払ったときは、その支払を受けた者が有する当該被害回復分配金に係る対象犯罪行為に係る損害賠償請求権その他の請求権は、その支払を受けた額の限度において消滅する。
2 金融機関が第二十五条第一項又は第二項の規定による支払を行った場合において、その支払を受けた者が第四条第一項の規定の適用その他の前章又はこの章に規定する手続の実施に関し損害賠償請求権その他の請求権を有するときは、当該請求権は、その支払を受けた額の限度において消滅する。
(被害回復分配金の支払を受ける権利の消滅等)
第二十二条 被害回復分配金の支払手続において、被害回復分配金の支払を受ける権利は、第十六条第四項(次項又は第二十四条第二項の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の規定による公告があった時から六月間行使しないときは、消滅する。
2 金融機関は、前項の規定により被害回復分配金の支払を受ける権利が消滅した場合において、同一の対象預金口座等に係る被害回復分配金の支払について他に支払該当者決定を受けた者(被害回復分配金の支払を受ける権利が消滅した者を除く。以下「他の支払該当者」という。)があり、かつ、他の支払該当者について既に支払った被害回復分配金の額が犯罪被害額に満たないときは、遅滞なく、同項の規定により消滅した権利に係る被害回復分配金の額に相当する額の金銭を原資として、前節の規定の例により、他の支払該当者又はその一般承継人に対し、被害回復分配金の支払をしなければならない。ただし、同項の規定により消滅した権利に係る被害回復分配金の額が千円未満である場合は、この限りでない。
(被害回復分配金の支払を受ける権利の保護)
第二十三条 被害回復分配金の支払を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。
(不正の手段により支払を受けた場合の返還等)
第二十四条 金融機関は、偽りその他不正の手段により被害回復分配金の支払を受けた者があるときは、その者からの被害回復分配金の返還に係る措置を適切に講ずるものとする。
2 金融機関は、前項に規定する者から被害回復分配金の返還を受けた場合において、他の支払該当者があり、かつ、他の支払該当者について既に支払った被害回復分配金の額が犯罪被害額に満たないときは、遅滞なく、返還を受けた額に相当する額の金銭を原資として、前節の規定の例により、他の支払該当者又はその一般承継人に対し、被害回復分配金の支払をしなければならない。ただし、同項に規定する者から返還を受けた額が千円未満である場合は、この限りでない。
3 第一項に規定する者から返還を受けた金銭の預金保険機構への納付については、第十九条の規定の例による。
(犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合における支払の請求等)
第二十五条 対象預金口座等に係る名義人その他の消滅預金等債権に係る債権者(以下この条において「名義人等」という。)は、第八条第三項又は第十八条第二項の規定による公告があった後において、対象預金口座等に係る金融機関に対し第五条第一項第五号に掲げる期間内に同号の権利行使の届出を行わなかったことについてのやむを得ない事情その他の事情、当該対象預金口座等の利用の状況及び当該対象預金口座等への主要な入金の原因について必要な説明が行われたこと等により、当該対象預金口座等が犯罪利用預金口座等でないことについて相当な理由があると認められる場合には、当該金融機関に対し、消滅預金等債権の額に相当する額の支払を請求することができる。
2 名義人等は、対象預金口座等について、当該対象預金口座等に係る金融機関に対し第五条第一項第五号に掲げる期間内に同号の権利行使の届出を行わなかったことについてのやむを得ない事情その他の事情について必要な説明を行った場合において、対象犯罪行為による被害に係る財産以外の財産をもって当該対象預金口座等への振込みその他の方法による入金が行われているときは、第八条第三項又は第十八条第二項の規定による公告があった後において、当該対象預金口座等に係る金融機関に対し、消滅預金等債権の額から当該入金以外の当該対象預金口座等へのすべての入金の合計額を控除した額の支払を請求することができる。ただし、当該消滅預金等債権の額が当該合計額以下であるときは、この限りでない。
3 金融機関は、前二項の規定による支払を行おうとする場合において、第四条第一項の規定の適用その他の前章に規定する手続の実施に関し過失がないと思料するときは、その旨を預金保険機構に通知しなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による支払を行った金融機関は、主務省令で定めるところにより、第四条第一項の規定の適用その他の前章に規定する手続の実施に関し過失がないことについて相当な理由があると認められるときは、預金保険機構に対し、第一項又は第二項の規定により支払った額に相当する額の支払を請求することができる。ただし、当該支払に係る預金口座等について被害回復分配金が支払われている場合において、この章に規定する手続の実施に関し金融機関に過失があるときは、その請求することができる額は、第一項又は第二項の規定により支払った額から金融機関の過失により支払った被害回復分配金の額の合計額を控除した額とする。
5 金融機関は、第一項又は第二項の規定による支払に係る預金口座等が犯罪利用預金口座等その他不正に利用された預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該支払を停止する措置を講ずることができる。
第五章 預金保険機構の業務の特例等
(預金保険機構の業務の特例)
第二十六条 以下第三十条まで略
第六章 雑則
(預金保険法の適用)
第三十一条 以下略。
遺失物法
(趣旨)
第一条 この法律は、遺失物、埋蔵物その他の占有を離れた物の拾得及び返還に係る手続その他その取扱いに関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において「物件」とは、遺失物及び埋蔵物並びに準遺失物(誤って占有した他人の物、他人の置き去った物及び逸走した家畜をいう。次条において同じ。)をいう。
2 この法律において「拾得」とは、物件の占有を始めること(埋蔵物及び他人の置き去った物にあっては、これを発見すること)をいう。
3 この法律において「拾得者」とは、物件の拾得をした者をいう。
4 この法律において「遺失者」とは、物件の占有をしていた者(他に所有者その他の当該物件の回復の請求権を有する者があるときは、その者を含む。)をいう。
5 この法律において「施設」とは、建築物その他の施設(車両、船舶、航空機その他の移動施設を含む。)であって、その管理に当たる者が常駐するものをいう。
6 この法律において「施設占有者」とは、施設の占有者をいう。
(準遺失物に関する民法の規定の準用)
第三条 準遺失物については、民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百四十条の規定を準用する。この場合において、同条中「これを拾得した」とあるのは、「同法第二条第二項に規定する拾得をした」と読み替えるものとする。
(三年の短期消滅時効)
第百七十条 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
(三年の短期消滅時効)
第百七十条 次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
(遺失物の拾得)
第二百四十条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。