新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース Q:民事訴訟はどのようにして進められるのですか?どのような構造になっているのですか。 A: 解説: 2. そこで民事訴訟法は、この矛盾する要求を調和して実現するために、紛争の内容に関しては当事者主義と訴訟の進行については職権主義を採用しています。 3. 当事者主義とは、民事訴訟の主導権を原告被告の両当事者に認めるものであり紛争の内容についてこの考え方を貫いています。先ず、紛争を裁判所で判断してもらうため訴訟の開始(訴えの提起、民訴 133条)、終了(訴えの取り下げ、和解、民訴261条、民訴267条)、紛争内容の範囲、限度の特定(訴訟物といいます)、判断の基礎となる事実、判断するための証拠(証人、証拠書類)の収集提出は一切両当事者に決めさせるのです。裁判所は紛争には係わり合いのない中立的立場に立ち(スポーツゲームの審判と考えましょう)出された資料を判断するために不明な点を釈明し確認するだけで余計な口出しを一切しません。これを専門用語で処分権主義、弁論主義といいます。貴方が友人に本当は500万円貸したのに訴訟で200万円しか請求しなければ500万円の領収書の証拠が出ていても判決では200万円しか認めてくれませんしどうして500万円請求しないのですかという心配も一切してくれません。勿論貴方が聞いても教えてくれませんし、優しい裁判官なら弁護士さんと相談してはいかがですかというアドヴァイスが限界になります。 4. 裁判所はもっと親切でもいいと思うかもしれませんがこれには本質的理由があります。その理由は、わが国が自由主義体制をとっているところに求められます。自由主義は社会経済の発展の源を国民個人の自主性、自発的な活動に求めますから政治的には民主主義、経済的には資本主義を背景として社会体制の基本を私有財産制(憲法29条)と私的自治の原則(契約自由の原則、過失責任主義、権利濫用禁止の原則、憲法12条、民法1条、民法709条)にして最終的に適正、公平は社会秩序を建設し個人の尊厳(憲法13条)を確保保障しようとしているのです(法の支配の究極的目的)。国家は、権利の濫用があった場合、最終目的たる個人の尊厳が脅かされる場合に例外的に出動するのです。国民は、自由に自ら考え契約し働き財産権が保障され豊かな生活を目指し自ら模索しなければなりません。国家が自ら計画を立て国民を強制する方策は結果的に社会的発展を遅らせるという思想です。この考え方は個人間の揉め事を解決する民事訴訟でも同じです。500万円の訴訟で勝訴するためには自ら訴えを提起し(訴えなければ裁判無しの格言)自ら500万円の額を提示し、500万円を何時どこで貸し渡したのかを説明し、自らその証人、領収書等を証拠として提出しなければ国家機関である裁判所は何もしてくれませんし、当事者の公平上、制度上することも出来ないのです。紛争内容についてはその事情をよく知る当事者の自主性自発性に任せる事が民事訴訟の理想である真実にあった適正な解決、そして両当事者の公平な紛争解決につながると考えているのです。 5. ところが、紛争の内容に関するものではなく、訴訟手続をどうゆう順序、速さで進めていくかという面では一転して裁判所が主導権をとります。職権進行主義です。従って裁判所に訴訟進行についての指揮権が認められます(訴訟指揮権といいます)。 6. 国家は、法の支配の具現として自力救済を禁止して個人間の紛争権限をあずかり判断権(判決)を独占していますから責任を持って迅速に解決することが制度的に当然要請されるのです。判決までの順序(提出された主張、争点の整理、準備手続、証拠調べそして判決、そのため釈明権が随時裁判所に認められています。民訴149条)、期日指定、変更(民訴93条、意見は聞きますが準備の都合上約1ヶ月間隔で最終的には裁判所が決めることができます。但し和解の話し合いはいつでも可能です)、書類の送付等裁判所はどんどん進めていきます。又、訴訟の結果に利害関係を有する当事者に任せておいては訴訟遅延の原因ともなりかねませんから訴訟の進行は専門家である裁判所に任せ迅速な裁判を実現するのです。本人訴訟で仕事が忙しいのでと貴方が言い分けしても訴訟は一定の期日ごとにどんどん進んでいくのです。 7. 迅速な裁判は訴訟経済と一体をなし、職権進行主義の根拠は訴訟経済にあります。訴訟経済は2つの面があり、先ず裁判制度は国民の税金ですべて運営していますので公的財産ですから無駄使いは許されません。裁判官、職員の給料も裁判所の建物、土地の確保全てが国民の税金でまかなわれています。次に、紛争当事者の時間、費用の消費が増大すれば、結果的に勝訴しても何のために訴訟をしているか解からなくなります。私的紛争は経済的争いが中心になりますから裁判を受ける権利は有名無実のものになってしまいます。そのため裁判官も訴訟指揮権を積極的に行使して裁判を進めていくのです。無表情で訴訟を進めていく裁判官の内心は実は深く複雑なものなのです。 8. 以上のように、訴訟は裁判所、両当事者すなわち、3者の意見を出し合い都合を調整し規則に従い時間と労力を費やします。しかも三審制、最高裁まで争うことが出来るのです。更に勝訴しても権利の実現は別個に強制執行手続が必要です(民事執行法)。自分の意見にのみ固執して相手の正当な利益を認めず、中立的な裁判官の忠告にも耳を貸さないと結果的に莫大な負担を負う危険も訴訟は常に包含しています。学生時代、マージャンでよく雀荘の1人勝ちという言葉を聴きましたが、訴訟が終結して当事者の出費、弁護士費用だけが残ったという事も特別珍しい事ではありません。訴訟による強制的決着を金科玉条のように思わず自分の正当な利益を色々な人と相談して一刻も早い紛争終結、平穏な生活の回復こそが肝要です。そいう意味で訴訟による強制決着は、当事者同士がどうしても歩み寄りが出来ない場合にやむを得ず利用する手段的制度と捉える方が合理的であるという面を併せ持っているのです。 9. 個々の法律問題解説については新銀座法律事務所のホームページ事例集のYAHOO索引をご利用ください。 ≪条文参照≫ 民事訴訟法 憲法 民法
No.959、2010/1/22 16:50 https://www.shinginza.com/jitsumu.htm
法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年8月13日改訂)
【総論3、法の支配と民事訴訟の理想、構造】
1.法の支配の理念から民事訴訟の理想は私的紛争を適正、公平、迅速、低廉に解決するところに求められます(民事訴訟法2条)。
2.以上の理想を実現するために紛争の内容自体に関しては原告、被告の紛争当事者に主導権を認める当事者主義、訴訟の進行については裁判所に主導権を認める職権進行主義が採られています。
3.そして、その理論的背景は自由主義と個人の尊厳(憲法13条)に求める事が出来ます。
4.以上の観点から民事訴訟法の条文を読んでみると理解が早いと思います。
5.そして、民事訴訟による強制的決着はその理想を実現するためのあくまで最終手段でありそれ自体目的ではありませんから注意が必要です。
1. 法の支配の制度的保障とし裁判制度がある以上、民事訴訟制度本来の目的、理想は紛争を適正、公平そして迅速、低廉(あまり訴訟に費用をかけないようにすること。訴訟経済といいます)に紛争を解決するところにあります。その趣旨は、民事訴訟法2条に明確に述べられています。法の支配、自力救済禁止の原則から公的機関である裁判所が一般国民の紛争処理権限について国民から委託を受けた関係にありますから紛争の判断内容が適正でなければ当事者である国民が納得するはずがありませんし終局的紛争解決には繋がらないでしょう。また、紛争なのですから互いに言い分がありその言い分を両当事者公平に聞いてあげなければなりませんしそれでこそ真実にあった判断解決が可能となります。更に迅速性、低廉性も必要です。どんなに真実にあった解決でも、民事訴訟は経済的紛争の面が大きく時間と経費の浪費は両当事者にとり訴訟提起の実質的意味を失うことになります。当事者としても本人が訴訟を行う場合の時間の消費、代理人を依頼する場合の費用、精神的負担も長引けば甚大です。裁判所は国家機関であり国民の税金で運用されていますから裁判所に於ける人件費、維持費用は最小限に抑える必要があります。しかしながら、適正で、公平な観点を重視すると慎重な審議が必要となり時間がかかり紛争解決が遅れる危険が生じ一刻も早い解決を望む当事者の意思に反する事にもなり当事者、裁判所共に費用を費やす事になります。そいう意味で適正公平な解決と、迅速、低廉な(訴訟経済)解決は互いに相矛盾する要求を含んでいます。このような事態は刑事訴訟でも同様です。
第2条(裁判所及び当事者の責務)裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
第133条 (訴え提起の方式)訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因
第261条(訴えの取下げ)訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
第267条(和解調書等の効力)和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
第93条(期日の指定及び変更)期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定する。
2 期日は、やむを得ない場合に限り、日曜日その他の一般の休日に指定することができる。
3 口頭弁論及び弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限り許す。ただし、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許す。
4 前項の規定にかかわらず、弁論準備手続を経た口頭弁論の期日の変更は、やむを得ない事由がある場合でなければ、許すことができない。
第149条(釈明権等)裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
第29条 財産権は、これを侵してはならない。
(基本原則)
第1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(解釈の基準)
第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。