法の支配と民事訴訟実務入門総論9訴状の送達。送達とは何ですか。
民事|本人訴訟|付郵便送達|公示送達
目次
質問:
知人に対する貸し金請求(500万円)の訴状を裁判所に提出したところ、書記官に、「送達は大丈夫ですか?」と聞かれました。一応「ハイ!」と答えましたが、どうしてそんなことを聞くのですか。「送達」とはどういう意味ですか?
回答:
1. 貴方が聞かれた送達とは訴状の送達のことで、貴方の提出した貸し金請求の訴状が記載されている被告の住所地に届く可能性がありますかということです。
2. どうしてそんなことを聞いたかといいますと、訴状が裁判所に提出されても知人である被告に送達されなければ何時までたっても民事訴訟は開始されないからです(訴訟開始の要件です)。ここでつまずくと訴訟進行上時間がかかってしまいます。
3. 送達とは、定義は訴訟手続きを行うために必要な書類を法定の方式に従い訴訟の当事者や関係人に対し交付し、または交付を受ける機会を与える行為です(民訴98条以下)。送達は、訴状(判決書)の交付のように特に重要な内容が記載している書面およびその書面により重要な訴訟上の効果がある書面についてのみ当事者等に主張、立証、異議、反論の機会を与えるため法律上「送達」と明記して認められています。
4. 送達という制度は、法の支配の理念により紛争を適正、公平、迅速、低廉に解決して国民の裁判を受ける権利を手続き進行の面から実質的に保障するためにあります。
5. 送達に関する関連事例集参照。
解説:
1.「送達」という特別な方式
国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するには、私的紛争が民事訴訟、執行により適正、公平、迅速、低廉に解決されなければいけません。訴訟、執行は、裁判所が当事者の主張立証をよく聞いて法律を解釈適用し訴訟物の存否を判断しその判断に基づき紛争を強制的に解決するのですから、三当事者の間で長期間、主張、連絡が当然必要となります。訴訟の審理は口頭弁論において口頭主義が建前ですが、実質的には主張立証の整理のため裏付ける書面のやり取りが必要とされていますし、訴訟の進行についても迅速、低廉性を確保するため書面による連絡が不可欠です。当事者は渡された書面により自らの主張、異議等の機会が与えられることになります。しかし、重要な書面を当事者、関係者に確実に渡さなければ主張立証の機会を失いますし、交付しても証拠となるものがなければ証明が出来ず事実関係の存否が紛糾し迅速な解決が出来ない危険があります。そこで訴訟等の審理、進行について特に重要な内容、効果を持つ書面の交付については「送達」という特別な方式が採られています。例えば、貴方の提出した訴状は被告に対し送達しなければいけません(民訴138条)。送達されなければ手続きに違法となり上訴で取り消し理由となります(民訴306条)。訴状には原告の基本的主張が記載され被告に送達されることにより訴訟が開始される重要な効果があるからです。すべての書面が送達になっているのではなく、訴訟開始後の答弁書、準備書面は当事者が送達により確定しましたから当事者間で手渡し交付、FAX送信が出来ますし、相手方が裁判所に書面を受け取ったという申し出、確認をすればいいことになっています(規則47条、同83条1項、2項)。
2.送達における職権主義
送達は、直接訴訟物、事実主張、立証の内容に直接かかわることではなく、主張の機会を与えるという手続きの進行に関することであり私的自治の原則が適用されず職権主義を採用し裁判所の権限と責任になっています(民訴98条)。
3.適正・公平な裁判における送達の役割
送達の役目は、当事者に訴訟(執行も)の進行上、主張、立証、反論、異議、反論を申し立てる機会を与えるという意味で適正、公平な裁判の前提となる手続き行為であり裁判を受ける権利を手続き面から保障しようとするものですから方式が特別に決まっています。
送達の事務は裁判所書記官が取り扱うべきことが法定され(民事訴訟法98条2項)、送達の実施機関は裁判所の執行官または郵便とされています(民事訴訟法99条1項)。被送達者本人に対する交付送達の原則が法定され(民事訴訟法101条)、送達場所も送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所においてすると法定されています(民事訴訟法103条1項)。
4.送達される文書の内容
裁判所から送達される文書は、だいたい次のような意味、内容の文書です。
① 相手方から裁判が起こされました。添付の訴状に記載された通りの主張が来ていますが、認めますか?反論しないと不利な判決がでる場合がありますよ。」(民訴138条)
② 判決が添付した通りに出ました。反論があれば、上級審の裁判所に不服を申し立てて下さい。放置すると判決確定して争う機会を失いますよ。」(民訴255条)
③ 「相手方から強制執行の申立がありました。不服があれば、言い分を書面に書いて出してください。放置するとあなたの財産が奪われてしまいますよ。」(民事執行法29条)
5.交付送達の原則
民事訴訟法では、「送達」は、原則として「郵便又は執行官」によって行われることとされています(民訴99条)。交付送達の原則と言って、どのような方法でも、相手に書類を手渡すことが基本になります(民事訴訟法101条)。実際に手渡さなければ反論の機会が十分ではないからです。例外として、後述するように補充、差し置き送達、書留郵便に付する送達、公示送達があります。
6.特別送達の方式
民事訴訟法における「送達」は、「特別送達」と言って、郵便配達人が配達交付してその事実関係について郵便認証司(郵便会社の管理職、資格者で郵便局の中にいます)の認証を受けて送達報告書を作成し裁判所に提出することになります。勿論執行官でも手続きは可能です(郵便法49条、民事訴訟法109条)。郵便配達のほうが執行官より費用も安ですし担当者が地理に詳しく受け取る人の事情に詳しいので通常郵便による方法が利用されています。上記の通り、送達は、当事者の裁判を受ける権利、適正公平な裁判に影響する可能性を持つ重大な手続ですので、毎回、このように、確認・証明され、報告書が記録として保管されることになっているのです。
7.直接手渡しによる送達ができない場合
前記の通り、送達は、名義人に対して直接手渡しすることが原則ですが、相手が不在だったり、名義人である事を隠したり、居留守を使われた場合、やむを得ず郵便配達人は、同居者等に交付することも出来ますし、理由なく受領しなければそこに置いてくることも出来ます(民訴106条1項。補充送達、差し置き送達。その事情は報告書に記載します)。但し、差し置き送達は後に責任問題になる可能性があり行われていないようです。
8.送達場所に誰も居ない場合の取り扱い
送達場所に誰もいなければ不在票を郵便ポストに置いて、戻って行ってしまいます。被告が、不在票と運転免許証と印鑑を持参して、郵便会社で訴状の送達を受けるかもしれません。しかし、保管期間を経過しても、郵便会社に対して連絡をせず、郵便会社に受け取りに出頭しない場合は、裁判所に「・・・・の経緯で送達できませんでした」という報告書を提出することになります。
9.送達が不調な場合の裁判所からの連絡
そうなると、裁判所から、原告である貴方に電話など連絡が来ることになります。裁判所と協議し「休日送達」「就業場所に対する送達」を試みることになります(民訴103条2項)。さらに就業場所に被告がいなくても、その従業員等に交付し、従業員がこれを理由もなく拒むときはおいてくることも出来ます(民訴106条2項。補充送達、差し置き送達)。
10.付郵便送達
それでも訴状を渡せない場合、すなわち相手方が住所地に住んでいることは間違い無いのに、ずるい人で訴訟ができないように居留守を使い、受取を拒否していることが明らかな場合は「付郵便送達の上申書」(上申書を出さないでいると訴状を取り下げるよう催促されます)を提出して、書留郵便による送達を行ってもらうことになります。この場合は、差し出した時点で、送達されたものとみなされます(民事訴訟法107条)。国家が、私的紛争の解決権限を独占している以上当事者に書類を渡せなくても最低限書類を当事者が受け取る機会を与え訴訟を開始しなければならないからです。
11.付郵便送達の上申書書式
平成○年○第○号○○事件
原告
被告
付郵便送達の上申書
○○簡易裁判所 民事部 御中
平成○年○月○日
原告 ○○○○
頭書事件について、被告に対する訴状等の送達が不能となっておりますが、下記の調査報告及び添付の住民票により被告の住所を確認することができますので、同被告に対する送達は書留郵便に付する方法により送達されたく上申いたします。
調査報告
調査日時 ○年○月○日
調査者 原告本人が被告住所地に被告本人を訪問した
調査方法 原告本人が被告住所地に被告本人を訪問し、呼び鈴を鳴らしたが応答は無かった。居留守を使われた可能性がある。そこで、隣家の○○○○氏(住所○県○市○町○番地、電話番号○―○―○)に、裁判を起こしている旨、訴状が送達されなくて困っている旨を説明し、住民票所在地に被告本人が居住しているか聴取したところ、「○○さんは確かに居住しています。買い物や犬の散歩で週に数回挨拶しますよ。」という回答を得ました。
12.公示送達
ほとんどの事件は、上記の「付郵便送達」で、送達の問題は解決すると思いますが、相手が夜逃げしてしまった場合など、住民票所在地に居住しておらず、転居先も不明となってしまった場合は、付郵便送達により手続を進めることができません。住居が不明な場合は、公示送達という方法(民事訴訟法110条)で送達することになります。国家として国民の裁判を受ける権利を保障し迅速な解決のたに訴訟を開始しなければなりませんから最後の手段として認められます。具体的には、裁判所建物の前の掲示板に「公示送達の公告」を行い、交付する書類を準備しているのでいつでも渡すことができると掲示して、送達の効力を発生させることになります(機会があったら一度裁判所の入り口付近にある掲示板を観察してみましょう)。この場合は掲示を始めてから2週間で送達の効力が生じます(同112条)。公示送達の要件は「当事者の住所、居所、その他送達をすべき場所が知れない場合」ですから、公示送達の上申書では、この事情を詳細に説明する必要があります(その後の欠席判決につながりますので公平上事情を証明するように裁判所は種々の書類を要求します)。公示送達により裁判が開始され被告欠席の最初の弁論では被告の答弁書等一切の書面が提出されていないので公平上「擬制自白」の規定が適用されません(民訴159条)。証拠提出により立証が不十分であると裁判所が判断すると敗訴する可能性もありますので500万円の借用書等の証拠提出が事前に必要です。また、公示送達で勝訴判決を取っても、強制執行する財産が見つからないことが多いので、裁判所に納付する印紙代が費用倒れとなってしまうリスクがあります。付郵便送達の上申書よりも調査すべき事項も多くなりますので、本人訴訟で行うのは難しいかもしれません。弁護士に相談しながら手続を進めると良いでしょう。
平成○年○第○号○○事件原告
被告
公示送達の申立書
○○簡易裁判所 民事部 御中
平成○年○月○日
原告 ○○○○
上記当事者間の上記事件について、被告の住所、居所、その他送達をなすべき場所が知れないため、通常の手続では訴訟上の書類の送達ができないので、公示送達の方法をとられるよう申し立てます。
添付書類
1、 被告の最後の住民票(法人の場合は商業登記簿謄本及び代表者の住民票)
2、 調査報告書
平成○年○第○号○○事件原告
被告
調査報告書(公示送達の申立書に添付)
○○簡易裁判所 民事部 御中
平成○年○月○日
原告 ○○○○
調査内容(詳細に記載しないと裁判所は着手してくれません)
1、 知れている最後の住所地、居所、就業場所に対する調査した内容を書きます(法人の場合は、法人の本店所在地と代表者の住所の双方について調査)。
2、 住民票添付。住所があったことの証拠として提出。職権末梢された住民票があれば証明として有効です。
3、 郵便物の転送先が分かればその調査内容。
4、 被告が生活等をしていた建物の特定。
5、 上記建物の現況。
6、 被告の転居先が知れないことについての記載(被告が上記建物で生活等をしていたときの居住状況、被告が転居した時期及び状況、被告の転居先が知れないこと等を具体的に記載する。現在の占有者、管理人、近隣の住民等に事情を尋ね、その結果を記載する。)。
7、 事情聴取した者の氏名・連絡先、原告との関係。その他必要に応じて、裁判所書記官と話し合うことになります。
以上