新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース Q: A: 解説 質問1について、 2、そもそも期日指定権は訴訟の迅速、低廉性から訴訟の進行については裁判所に権限を認めるという職権進行主義の内容をなすものであり、原則的に裁判長の権限とされるものです(民訴93条。訴訟資料を提出する当事者主義が適用される領域ではありません)。一度当事者の意見等を聴き指定された期日は当事者として遵守しなければならず、これを変更するには主張する当事者に変更しなければ当事者の弁論権が侵害され適正公平な裁判ができないという、具体的で、正当な理由が必要です。従って、貴方の現在までの主張、立証の態度、程度、具体的理由と立証、第一回目の期日ではないので要件ではありませんが(民訴93条3項但し書き)、相手方の同意の有無、出廷できない理由に関する当事者の責任の有無という観点から、総合的に判断されることになります。 3、本件では、準備書面が書けない、証拠が集まらないという理由は、貴方が誠実に訴訟追行をしてきたとしても、貴方の証拠収集能力の問題であり貴方に帰責性が認められますし、単に主張立証ができないというのは具体的正当な理由もみあたりません。たとえ相手方の同意があったとしても変更は難しいと思います。最高裁の判例上、期日の2日前の訴訟委任による準備期間の不足について変更を認めませんでしたが、それまでの当事者の訴訟追行に不誠実な対応が認められる事案です。その他、単に「東京出張」「名古屋出張」という単純な理由だけでは具体性に欠けるので変更は認められていません。では具体的にどのような場合かといえば、貴方が公的な立場にあり業務上の仕事関係上貴方の責任とは無関係な理由により期日当日どうしても出廷できず、それまでの訴訟追行も適正であるような資料提出がある場合、また、訴訟行為不能な急病であり診断書が提出された場合(この場合は民訴93条4項の「やむを得ない事由」にもあたると思います)等です。 4、尚、準備手続の経ている期日の変更は、顕著なる事実よりもなお厳しい「やむを得ない事由」が必要となります(民訴93条4項)。本人に帰責性がなく出廷できない事由、急病等です。争点が整理されており迅速、訴訟経済が優先するからです。 5、裁判所は、休止にもせず、結審もしないで職権進行主義、期日指定権により次回期日指定し、延期して再度呼び出すことも理論上可能です(期日延期と言います。呼び出し状等による)。しかし、当事者双方に訴訟追行に熱意がないのに期日指定を行うことは迅速低廉な裁判の趣旨に反しますので、実務上は当事者の期日指定を待つのが通常のようです。 質問2について 2、このように裁判の公正を担保する制度として忌避のほかに除斥と回避という制度があります。除斥とは裁判の公正、信用を害すると法が認め規定する理由により職務の執行が禁じられる制度です(民訴23条、27条)。 【書式 期日変更の申立書】 期日変更の申立書 東京地方裁判所民事 部御中 原 告 氏 名 被 告 氏 名 上記当事者間御庁平成19年(ワ)第3445号貸金請求事件について期日指定された平成20年5月10日は、下記の理由により変更されたく申し立てる。 理由(具体的に記載) 疎明方法 ≪条文参照≫ 第二節 裁判所職員の除斥及び忌避 民事訴訟規則
No.972、2010/1/26 11:49 https://www.shinginza.com/jitsumu.htm
法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年8月21日改訂)
【総論16、期日変更、期日延期、期日続行、裁判官の忌避、除斥、回避。】
1. 私は知人に500万円の貸金請求訴訟を提起し何度か口頭弁論期日が開かれ被告から答弁書、準備書面を受け取りました。裁判官から次回期日の意見を聞かれ1ヶ月後の期日指定に同意しました。しかし、被告の準備書面に対する反論、証拠の提出が次回期日までにどうしても間に合いません、この様な場合期日の変更、延期することができるでしょうか。出廷しないとどうなるでしょうか。
2. 担当の裁判官が、500万円の借用書がないので消費貸借の事実を否認する被告の主張、反証に好意的な発言が多く最初から私のほうが敗訴するような雰囲気です。裁判官を変えてもらうことができるのでしょうか。
1. 準備書面、証拠の提出が間に合わないという理由は民訴93条の「顕著な事由」に該当しませんので期日の変更はできません。期日に出頭して、当日までに準備した書面、証拠を提出し、そのうえでさらに次回期日を指定の申し立てを行うことになります(期日の続行と言います)。出頭しないと口頭弁論は開かれますが主張立証がありませんので次回期日を指定されることが多いと思いますが(期日の延期と言います。指定されれば呼び出し状等連絡が来ます。民訴94条)、貴方が裁判者に無断で欠席等して裁判を継続する意思をみせず終結も相当であり被告側から終結の申し出があれば、次回期日を指定せず口頭弁論終結宣言、次回判決言い渡しとなる場合もありますから注意が必要です(民訴243条1項、244条1項後段)。
2. 裁判官が被告に好意的と思われる発言を繰り返しても民訴24条「裁判の公正を妨げるべき事情」に当たりませんから裁判官を替えてもらうこと(裁判官の忌避といいます)はできません。
1、貴方は、次回期日に被告に対する反論、証拠を提出することを約束して裁判長の期日指定に同意しています(民訴93条1項)。しかし、理由はどうあれ被告に対する反論、証拠の提出ができないのに口頭弁論期日を開いても無意味なように思います。そこで、主張立証が間に合わないという理由が民訴93条3項の期日変更の要件である「顕著な事実」に該当するかどうかが問題になります。顕著な事実とは、抽象的で分かりにくい文言ですが期日変更を認めないと適正、公平な紛争解決という理想から見て当事者の主張立証を不当に制限することになる場合であり、それまでの当事者の訴訟追行態度、程度、具体的理由の検討、相手方の同意、当事者の帰責性を総合的に判断されることになります。
貴方としては、変更が認められない以上期日に出廷して、それまでに準備できた主張、証拠を誠実に提出して次回期日の申し立て(期日の続行)を行うのが筋です。相手方の反論も考えられ、裁判長としては弁論の必要性が認められる限り期日指定が期待できると思います。変更の申し立てをしての欠席、無断欠席はいけません。期日が開かれても相手方が訴訟行為をしない以上今回の期日が無駄になり、当事者の主張立証が、いまだ不十分であり終局判決をする状況でなければ1カ月以内(改正前の3カ月を短縮しています)に当事者が期日指定の申し立てをしなければ訴えは取り下げと看做されてしまいます(民訴263条)。当事者が紛争解決の意思がないのですから私的自治の、当事者主義から訴訟は打ち切られることになります。ただ、「審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当と認めるとき」裁判所は相手方の申し立てにより口頭弁論の終結を宣言し、次回判決になる場合があります(民訴244条但し書き)。「相当と認めるとき」とは民訴243条の「訴訟が裁判をするに熟したとき」とほぼ同じ意味であり、当事者の主張立証を聞かないで終結できるという趣旨です。当事者主義から訴訟資料収集提出の責任者である欠席者の意見を聞かないで弁論終結を行うことはできないはずですが、出廷もしない当事者に主張立証の意欲材料も乏しいものと推測できるので、私的自治の原則に立ち返り不誠実な当事者の意見を考慮せずに迅速性、低廉性を考え審理を打ち切るというものです。但し、出席した相手方の訴訟資料提出の利益も考え相手方の申し出を要件にしています。
1、担当の裁判官に、裁判の公正を妨げるような事情がある場合は「裁判官の忌避」といって、裁判官の交代を申し立てることができます(民訴34)。「裁判官の忌避」が認められるための要件は、裁判官に「裁判の公正を妨げるべき事情があるとき」です。公正を妨げる事情とは、担当事件と担当裁判官の間に不公正な裁判がおこなわれる恐れがあると当事者が思わざるをえないような、事件についての客観的事情の存在を意味します。例えば、裁判官と当事者が恋人、親友、内縁の関係等です。裁判官の一般的思想、信条、行動指針は当該具体的事件についての事情ではありませんし、訴訟における訴訟指揮の内容、主張証拠の判断内容などは、客観性とは無関係ですからいずれも該当しません。
そもそも裁判の公正は、司法権の独立、裁判官の独立により守られるべきであり、それにより裁判官は自己の良心、法律にしか拘束されませんから、それが疑われるような特に客観的な事情がある場合に限り裁判の公正のため忌避の制度が適用されることになるのです。ご質問のように裁判官に「被告の主張、反証に好意的な発言が多く最初から私のほうが敗訴するような雰囲気」が感じられたとしても、それは具体的な事件についての裁判官の態度を理由とするもので、司法権の独立、裁判官の独立を侵害するような客観性のある事項とは無関係なことです。従って、そのような理由では裁判官の忌避は認められません。
回避とは裁判官が自ら除斥、忌避の理由により職務を辞することをいいます(規則12条)。
忌避制度は、法が定める公正な裁判を侵害する理由を規定した除斥制度(民訴23条)を補充するものであり23条に準じた客観性が求められることになります。
平成20年5月1日
原告 氏 名 印
急性腹膜炎による手術
診断書 1通
(裁判官の除斥)
第二十三条 裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。
一 裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。
二 裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。
三 裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。
四 裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。
五 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。
六 裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。
2 前項に規定する除斥の原因があるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、除斥の裁判をする。
(裁判官の忌避)
第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。
2 当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。
(除斥又は忌避の裁判)
第二十五条 合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が、決定で、裁判をする。
2 地方裁判所における前項の裁判は、合議体でする。
3 裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができない。
4 除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。
5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(訴訟手続の停止)
第二十六条 除斥又は忌避の申立てがあったときは、その申立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならない。ただし、急速を要する行為については、この限りでない。
(裁判所書記官への準用)
第二十七条 この節の規定は、裁判所書記官について準用する。この場合においては、裁判は、裁判所書記官の所属する裁判所がする。
第三節 期日及び期間
(期日の指定及び変更)
第九十三条 期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定する。
2 期日は、やむを得ない場合に限り、日曜日その他の一般の休日に指定することができる。
3 口頭弁論及び弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限り許す。ただし、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許す。
4 前項の規定にかかわらず、弁論準備手続を経た口頭弁論の期日の変更は、やむを得ない事由がある場合でなければ、許すことができない。
(期日の呼出し)
第九十四条 期日の呼出しは、呼出状の送達、当該事件について出頭した者に対する期日の告知その他相当と認める方法によってする。
2 呼出状の送達及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない当事者、証人又は鑑定人に対し、法律上の制裁その他期日の不遵守による不利益を帰することができない。ただし、これらの者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、この限りでない。
(終局判決)
第二百四十三条 裁判所は、訴訟が裁判をするのに熟したときは、終局判決をする。
2 裁判所は、訴訟の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について終局判決をすることができる。
3 前項の規定は、口頭弁論の併合を命じた数個の訴訟中その一が裁判をするのに熟した場合及び本訴又は反訴が裁判をするのに熟した場合について準用する。
第二百四十四条 裁判所は、当事者の双方又は一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合において、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して相当と認めるときは、終局判決をすることができる。ただし、当事者の一方が口頭弁論の期日に出頭せず、又は弁論をしないで退廷をした場合には、出頭した相手方の申出があるときに限る。
(訴えの取下げの擬制)
第二百六十三条 当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。
(裁判官の回避)
第十二条 裁判官は、法第二十三条(裁判官の除斥)第一項又は第二十四条(裁判官の忌避)第一項に規定する場合には、監督権を有する裁判所の許可を得て、回避することができる。
(期日変更の申立て・法第九十三条)
第三十六条 期日の変更の申立ては、期日の変更を必要とする事由を明らかにしてしなければならない。
(期日変更の制限・法第九十三条)
第三十七条 期日の変更は、次に掲げる事由に基づいては許してはならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。
一 当事者の一方につき訴訟代理人が数人ある場合において、その一部の代理人について変更の事由が生じたこと。
二 期日指定後にその期日と同じ日時が他の事件の期日に指定されたこと。