不起訴処分の種類

刑事|刑訴法第259条|事件事務規程76条(平成25年3月19日法務省刑総訓第1号)

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は地方公務員です。先日、マッチングアプリで知り合った女性と飲食店で飲酒をし、良い雰囲気になったことからホテルに行く流れとなり性交を行いました。

翌朝、女性を車で最寄駅まで送り届け、何事もなく帰宅したのですが、数日後にいきなり警察から出頭要請を受けました。警察の話では、該当の女性が酩酊状態を利用して私が女性に対して意に反する性交を強要したと供述しており、準強制性交等罪で被害届が出ているとのことでした。

しかし、女性はレモンサワーを2杯飲んだ程度で、酩酊状態とは到底言えない状況でしたし、ホテルに入室する際も女性は自分で歩いており、入室後も楽しそうに裸でツーショット写真を撮影しており、その写真を見ても、女性が意識朦朧としているような状態では全くないことが分かります。

そのため、私は事情を説明し、何かの間違いであると伝えたのですが、担当の警察官からは、既に私の所属部署の上司に本件事案の報告をしたと言われ、とても焦っています。また、私の弁解を踏まえて再度女性の話を聞いた上で、必要に応じて再度私の事情聴取をするかもしれないとの説明を受け、釈然としないまま帰宅しました。

万が一、私に準強制性行等罪が成立するという前提のもと事件が進んでしまうと、刑事罰は勿論のこと、公務員としての地位にも影響が生じるのではないかと、とても不安に思っています。また、仮に女性の供述に信憑性がないという理由で不起訴処分となったとしても、勤務先が本件事案を把握しているために、事実上、懲戒処分の対象となるのではないか、という点も心配です。

私は今後どのように本件の対応を行うべきでしょうか。

回答:

1 ご事情をお伺いする限り、あなたの行為に準強制性行等罪が成立する余地はないと考えられます。そのため、警察に対し、ホテル入室後の写真を示すと共に、飲食店でのオーダー履歴や、ホテルへの移動中の防犯カメラの映像等を確認するよう申入れを行い、準強制性交等罪が成立しないことを説明し、刑事事件として立件しないよう要請すべきです。また、万が一警察が刑事事件として立件し、検察庁に書類送検を行うことを予定している場合は、「罪とならず」「嫌疑なし」といった意見を付して事件送致を行うよう、早期段階から申入れを実施しておくべきでしょう。

2 これらの活動を通じて、最終的に刑事事件として立件されずに済むか(認知せずとして終結)、あるいは立件されても、最終的に送致先の検察庁が「罪とならず」「嫌疑なし」といった理由で不起訴処分の裁定を行うことを目指すべきです。

その上で、ご勤務先との関係では、あくまでも「起訴猶予」ではなく、「罪とならず」「嫌疑なし」を理由とする不起訴処分であったことを明確に説明し、理解を得ることが肝要です。検察庁が発行する不起訴処分告知書には、通常、裁定区分が掲載されることはないのですが、特別な事情がある場合は、裁定区分を記載してもらえる場合があります。担当検察官との交渉で、不起訴の理由が分かるような材料の提供を受けることができれば、ご勤務先との関係で、少なくとも、準強制性行等罪に該当する行為を行なったことを前提とした重い懲戒処分が科される危険は低くなると考えられます。

3 以上の活動について、ご自身で行うのは現実的に困難と思われ、弁護士に刑事弁護人として活動してもらうと共に、ご勤務先との交渉も委任されるのが宜しいかと思います。

4 不起訴処分に関する関連事例集参照。

解説:

第1 本件における刑事処分の可能性について

準強制性行等罪は、人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をすることで成立する犯罪です(刑法178条2項)。13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交等(性交、肛門性交又は口腔性交)をした場合に成立する強制性交等罪と同様の刑、すなわち5年以上の有期懲役に処せられることとなります(刑法177条参照)。

女性の飲酒量がレモンサワー2杯程度であり、ホテルに一人で歩ける状態で入室し、その後楽しそうな様子で撮影されたツーショット写真が存在することを踏まえ、女性が心神喪失状態ないし抗拒不能状態にあったとは言い難く、準強制性交等罪は成立し得ないことになります。

また、女性が当初の言い分を変更して、あなたから暴行・脅迫を受けて性交に応じざるを得なかったなどと供述したとしても、上記ツーショット写真の存在から、強制性交等罪が成立するとも言い難いです。そもそも、女性が供述を変遷させていること自体から女性の供述の信用性が乏しいと判断されるはずです。

警察が被害届を受理しているので、警察の対応としては原則として捜査のうえ事件として検察庁に送致することになります。捜査が進んで、起訴すべき事案と判断され、あなたが否認していると逮捕勾留ということになる可能性もあります。しかし、質問に記載された事実関係からは犯罪は成立しないと考えられますから、その場合は警察としては、被害者と称している女性に対して被害届け出を取り下げさせるか、どうしても取り下げない場合は「罪とならず」「嫌疑なし」といった意見を付して検察官に事件を送致することになります。

第2 不起訴の裁定について

1 裁定主文の区分

事件が検察官に送致されると、検察官が捜査資料を検討し起訴するか不起訴とするか処分を決めることになります。ところで、不起訴処分といっても、様々なケースが考えられることはご存知でしょうか。事件事務規程(平成25年3月19日法務省刑総訓第1号)の75条1項は、「検察官は、事件を不起訴処分に付するときは、不起訴・中止裁定書(様式第117号)により不起訴の裁定をする。」と定め、同条2項に具体的な裁定主文の区分が列挙されています。不起訴の裁定主文の種類は以下のとおりです。

(1) 被疑者死亡

(2) 法人等消滅

(3) 裁判権なし

(4) 第1次裁判権なし・不行使

(5) 親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

(6) 通告欠如

(7) 反則金納付済み

(8) 確定判決あり 同一事実につき既に既判力のある判決があるとき。

(9) 保護処分済み

(10) 起訴済み

(11) 刑の廃止

(12) 大赦

(13) 時効完成

(14) 刑事未成年

(15) 心神喪失 被疑者が犯罪時心神喪失であったとき。

(16) 罪とならず

※被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき、又は犯罪の成立を阻却する事由のあることが証拠上明確なとき。ただし、前2号に該当する場合を除く。

(17) 嫌疑なし

※被疑事実につき、被疑者がその行為者でないことが明白なとき、又 は犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なとき。

(18) 嫌疑不十分

※被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なとき。

(19) 刑の免除

※被疑事実が明白な場合において、法律上刑が免除されるできとき。

(20) 起訴猶予

※被疑事実が明白な場合において、被疑者の性格、年齢及び境遇、犯 罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき。

※参照文書、法務省事件事務規程 https://www.moj.go.jp/content/001400166.pdf

2 不起訴処分の告知

事件事務規程76条は、検察官が刑訴法第259条の規定による不起訴処分の告知を書面でするときは、不起訴処分告知書(様式第118号)によると定めております。口頭で通知されることもありますが、検察官が不起訴処分とした場合、検察庁に不起訴処分告知書の発行を依頼することができます。但し、実務上、不起訴処分とすることが記載されているにすぎず、裁定主文の区分が記載されることは基本的にありません。そこで、弁護人を通じて不起訴通知書に区分の記載を要望し、特別に区分を記載してもらうようにする必要があります。勤務先等に刑事事件の被疑者となっていることが明らかとなっていることを説明し、懲戒処分を避けるために必要であることを説明して検察官と交渉する必要があります。

第3 本件で推奨される対応

1 警察への働きかけ

上記のとおり、本件であなたに準強制性交等罪が成立するとは考え難いです。そのため、警察に対し、本件で刑事事件化をすることが不適切であることを早急に伝えなければなりません。

さらに、本件では、既にご勤務先に事案の報告がなされており、地方公務員としての地位を有するあなたは、まさに懲戒処分を受ける危険に晒されているという事態を受け入れなければなりません。公務員が罪を犯した場合、原則として、警察は所属庁に対し、事案を報告することになっており、本件も同様の判断のもと、報告されてしまったと考えられます。しかし、本件のように、本人の言い分を聞いて一通りの裏付け捜査を行えば、犯罪が成立しないことが容易に判別できるにもかかわらず、いわば見切り発車の形で所属庁に報告を行うことが適切であるのか、疑問を感じるところです。

とはいえ、既に連絡されてしまった以上は、犯罪が成立しないことを所属庁に理解してもらうための準備をしておかなければなりません。

その準備としてまず考えられるのが、警察が事件化すること自体を断念させる交渉です。警察としても、被害届を受理した以上は、嫌疑が不十分と考えても、原則は検察庁に事件を送致しなければなりません。そのため、警察が事件化を断念すること自体容易なことではありませんが、万が一、まだ被害届を正式に受理していないなどの事情があれば、事件として認知していないという扱いをして送検を防ぐことが出来る場合もあります。また、警察が再度被害者を読んで事情を聞き被害届を取り下げるよう指導する場合もあります。

また、仮に事件化を断念することが難しいとしても、犯罪が成立しないことを説明し、送検の際に、上記の裁定区分のうち(20)起訴猶予ではなく、(16)「罪とならず」又は(17)「嫌疑なし」が相当との意見を付して記録を回付することを要請するべきです。なお、(18)「嫌疑不十分」は、被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分である場合、すなわち犯罪が成立するかもしれないし、そうではないかもしれない、という状態を意味するため、犯罪が成立しないことを明確に示す根拠とまでは言い難く、後に想定される懲戒手続きへの対応を考えた場合、不十分と考えられます。そのためには、ホテル入室後の写真を示すと共に、飲食店でのオーダー履歴や、ホテルへの移動中の防犯カメラの映像等を確認するよう申入れを行い、客観的に女性の供述が信用性を欠く(虚偽供述に近い)ことを理解してもらうことが不可欠です。

2 検察庁への働きかけ

検察庁に事件送致された場合は、同様に、本件事案のもとで犯罪が成立し得ないことを説明し、(16)「罪とならず」又は(17)「嫌疑なし」を理由とする不起訴処分で処理するよう、要請するべきです。

万が一、犯罪が成立する前提で話が進められてしまう場合は、正式裁判の中で無罪を獲得する途を選ぶか、女性との示談を視野に入れて不起訴処分を目指す方針に切り替えるか、いずれかの方針を選択することになります。

不起訴処分となった場合は、後の勤務先からの懲戒処分に備えて、不起訴の裁定区分を記入した不起訴処分告知書の発行を申請するべきです。このような取扱いに応じてくれるか否かは、検察官の考え方次第ですが、本件のように、所属庁の懲戒手続きに付される危険が存在する事案において、犯罪が成立しないことが明らかな場合は、不起訴の裁定区分を記載することを求めることに合理的理由があり、弁護人を通じて申入れを行うことは検討すべきです。また、場合によっては、事案報告を行った警察署の方から所属庁に対して、本件事案が「罪とならず」「嫌疑なし」として不起訴の裁定が行われたことの経緯を説明してもらうよう要請することも検討すべきです。

3 勤務先への説明

最後に、不起訴処分が確定次第、所属庁の懲戒担当部署に裁定区分が記入された不起訴処分告知書を示すと共に、不起訴になった経緯を文書で説明し、懲戒処分の軽減、回避を目指すことになります。すなわち、本件で準強制性交等罪はそもそも成立しておらず、犯罪が成立することを前提とした処分量定に当てはめて懲戒処分を科すことは、裁量権の逸脱・濫用として違法な行政処分に該当することを説明することになります。少なくとも、免職、停職、減給といった不利益処分は相当でなく、戒告または訓告程度に止めるのが相当と考えられます。

万が一、想定よりも重い処分が科された場合は、審査請求、取消訴訟等の事後的な解決を検討することになります。

4 終わりに

以上の活動について、ご自身で行うのは現実的に困難と思われ、弁護士に刑事弁護人としての活動を委任すると共に、ご勤務先との交渉も委任されるのが宜しいかと思います。

弊所では、刑事弁護活動は勿論のこと、公務員の懲戒処分への対応についても豊富な実績を有しております。お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

以上

関連事例集

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※参照条文

●刑法

(強制性交等)

第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)

第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。

2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

●事件事務規程(平成25年3月19日法務省刑総訓第1号)

最終改正令和6年6月19日法務省刑総訓第6号

(不起訴の裁定)

第75条 検察官は、事件を不起訴処分に付するときは、不起訴・中止裁定書(様 式第117号)により不起訴の裁定をする。検察官が少年事件を家庭裁判所に送 致しない処分に付するときも、同様とする。

2 不起訴裁定の主文は、次の各号に掲げる区分による。

(1) 被疑者死亡 被疑者が死亡したとき。

(2) 法人等消滅 被疑者である法人又は処罰の対象となるべき団体等が消滅した

とき。

(3) 裁判権なし 被疑事件が我が国の裁判管轄に属しないとき。

(4) 第1次裁判権なし・不行使 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び

安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の 地位に関する協定(昭和35年条約第7号)、日本国における国際連合の軍隊 に対する刑事裁判権の行使に関する議定書(昭和28年条約第28号)若しく は日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定(昭和29年条約第12 号)に基づき、我が国に第1次裁判権がないとき、又は前3号若しくは次号か ら第20号までのいずれかに該当する場合を除き我が国が第1次裁判権を行使 しないとき(第1次裁判権を放棄したときを含む。)。

(5) 親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し 親告罪又は告発若しくは 請求をまって論ずべき罪につき、告訴、告発若しくは請求がなかったとき、無 効であったとき又は取り消されたとき。

(6) 通告欠如 道路交通法(昭和35年法律第105号)第130条の規定によ り公訴を提起することができないとき、又は同条の規定により家庭裁判所の審 判に付することができないとき。

(7) 反則金納付済み 道路交通法第128条第2項の規定により公訴を提起する ことができないとき又は同項(第130条の2第3項において準用する場合を 含む。)の規定により家庭裁判所の審判に付することができないとき。

(8) 確定判決あり 同一事実につき既に既判力のある判決があるとき。

(9) 保護処分済み 同一事実につき既に少年法第24条第1項又は第64条第1

項の保護処分がなされているとき。

(10) 起訴済み 同一事実につき既に公訴が提起されているとき(公訴の取消し

がなされている場合を含む。)。ただし、第8号に該当する場合を除く。 (11) 刑の廃止 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。

(12) 大赦 被疑事実が大赦に係る罪であるとき。

(13) 時効完成 公訴の時効が完成したとき。

(14) 刑事未成年 被疑者が犯罪時14歳に満たないとき。 (15) 心神喪失 被疑者が犯罪時心神喪失であったとき。

(16) 罪とならず 被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき、又は犯罪の成立 を阻却する事由のあることが証拠上明確なとき。ただし、前2号に該当する場 合を除く。

(17) 嫌疑なし 被疑事実につき、被疑者がその行為者でないことが明白なと き、又は犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なとき。

(18) 嫌疑不十分 被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なと き。

(19) 刑の免除 被疑事実が明白な場合において、法律上刑が免除されるべきと き。

(20) 起訴猶予 被疑事実が明白な場合において、被疑者の性格、年齢及び境 遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき。

(不起訴処分の告知)

第76条 検察官が刑訴法第259条の規定による不起訴処分の告知を書面でする

ときは、不起訴処分告知書(様式第118号)による。

2 検察官が刑訴法第261条の規定による不起訴理由の告知を書面でするとき

は、不起訴処分理由告知書(様式第119号)による。

以上