新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は名古屋でサラリーマンをしているものですが,前日スナックに遊びに行き勤める26歳の女性と知り合いになりました。気があったので仕事が終わってからラーメン屋に行きその後自分のマンションに遊びに来たので音楽を聴きながらダンスなどをして,お酒をかなり飲み互いに酔ってしまい,同じ布団で寝てしまいました。途中から目が覚めた私は,同意していると思いぐっすり眠っている彼女と男女関係を結んでしまいました。ところが,翌日会社に刑事さんが5−6名来て警察署に同行を求められ強姦罪で逮捕され勾留されてしまったのです。いくら説明言い訳しても聞いてくれません。どうしたらいいでしょうか。 解説: 2.(被害者の同意について) 3.(錯誤について) 4.(否認について) 5.(自白について) 6.(告訴取消しによる不起訴について) 7.(結論) ≪参考条文≫ 刑事訴訟法 検察庁法 刑法
No.1010、2010/3/12 15:07
【刑事・起訴前・事実の錯誤と法律の錯誤・親告罪と示談による告訴取消し】
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回答:
1.まず,無実を主張し,全面的に争っていくという対処法が考えられます。その場合,無罪の主張ができますが,ただ,本件の事実関係においては,裁判で実際に無罪と判断される見通しは低いといわざるを得ません。
2.次に,事実を認め,被害者との間で示談交渉を進めていくという対処法も考えられます。その場合,示談がまとまる可能性は高くなりますが,罪を認めることになり,一度捜査機関に対して事実を認めて供述調書が作られてしまえば,のちにやはり無実だったという主張をしても,それが採用される見込みは極めて低くなります。
3.また,無実を主張しつつ,被害者との間では示談交渉を進めていくという対処法も考えられます。その場合,前述1と同様に無罪主張が可能ですが,示談としては,女性が「同意はなかった」と主張している事実が偽りであるという前提での示談にならざるをえず,示談がまとまる可能性としては低くなります。
4.以上の3通りが主な対処法として考えられますが,いずれが最善という決まった答えがあるわけではありません。各方針の長短それぞれの側面を十分考慮した上,あなたの場合において,どういった方針をとるのかを決めてください。弁護士との協議が必要不可欠です。
5.法律相談事例集キーワード検索817番参照。
1.(起訴前刑事手続の概観)
あなたは,お酒で昏睡している女性を姦淫したということで(準)強姦罪(刑法177条,178条)で逮捕(刑訴199条,令状による通常逮捕の他に同法212条,現行犯逮捕があります。)されていますので,その後裁判所の判断により勾留(刑訴60条,同207条で解釈上被疑者に準用されています。)され,警察署及び検察庁内で捜査機関によるあなたの取調べが行われます。逮捕の期間は3日間以内であり(刑訴203条,同205条),勾留の期間は10日間以内でさらにやむを得ない場合10日間までの延長が認められるため(刑訴208条1,2項),逮捕勾留期間は最長23日間となります。この期間内に,警察官の取り調べをもとに公益の代表として公訴権を独占する検察官(刑訴247条,検察庁法4条)が,あなたの法的な言い分を聞いてどのような処分をするかの法的判断をすることになります。従って,当事者主義の大原則からあなたに法的助言を行い被疑者の権利,利益を擁護する弁護人との協議は必要不可欠です。
ところで,強姦罪は,条文には書いてありませんが財産罪と同じように憲法13条,自由恋愛,性交渉自由,性交渉権という法益処分の自由の関係から被害者の同意がないことが当然の前提条件になっていますので,女性の同意があれば犯罪はそもそも強姦罪という規定自体に該当せず問題なく不成立です(これに対して生命身体の自由について処分の自由は当然に認められませんから同意があっても処罰されることがあります。)。本件で女性は,深夜にもかかわらずあなたのマンションを訪問し,さらにダンスなどして深酒し,その上不用意にもあなたと同じ布団に寝ていますので,性交渉について被害者の同意があるかどうかが問題となります。被害者の同意とは,事前の自由意思による真意に基づく承諾を意味します。被害者の同意は,自ら元々有する利益(刑法上保護法益という。)を相手方に対して放棄処分することであり,私的自治の大原則(契約自由の原則)から,自由で,明確な(事前の),真意に基づく意思表示が必要とされるからです。状況的には,男性として女性が同意しているように感じても,それだけでは不十分であり,事前の,自由な,真意に基づく了解が必要とされます。本件では,酒に酔い,昏睡中であり,自由で真意に基づく意思表示もなく,以前の承諾も明らかでありませんから承諾を認めること非常に困難と思われます。
しかし,あなたは,女性が性交渉に同意していると勘違いしていますから,犯罪結果が生じているのに自分の行為は違法ではないと考えています。そこで,自らの行為が適法である,すなわち違法性を意識していない場合,犯罪は成立するかという問題が生じます。犯罪の結果が生じたとしても自分の行為が違法ではないと思っている場合処罰しなくてもいいのではないかと思うかもしれませんが,刑法は,処罰する場合と処罰しない場合を分けて規定しています。刑法38条は短く抽象的ですがこの点を明らかにしており,犯罪者の(刑法上の)責任を定める重要な規定です。1項本文では,「罪を犯す意思がない行為は,罰しない。」と規定されています。犯罪結果が生じても行為者に罪を犯す意思すなわち,犯意(刑法上故意と言います。)がなければそもそも刑法の規定(学問上構成要件という言います)にも該当しないことを明らかにしています。故意とは構成要件に記載されている事実関係を認識して是認することです。殺人罪でいえば,人を殺すという事実を認識して殺してもよいと思うことです。なぜ犯罪成立に故意が必要かといえば,刑法上の責任は,生まれながらに自由である個人の生命身体の自由を強制的に剥奪するものなので,その個人自体に,責められるべき理由がなければならず,その根拠とは犯罪事実を認識して犯行を止めなければならないのに,あえて犯行を敢行し(是認,認容して行う故意犯),又は不注意で犯行を犯してしまったという(過失犯)所に求められるのです(各個人の道義的責任)。
従って,狩猟家が人間を熊と勘違いして射殺し殺人の結果が生じていても人を殺すという,犯罪事実を認識,是認していませんから責任を問う理由が見当たらず,そもそも故意がなく殺人罪の構成要件にも該当しないのです。これを(犯罪)事実の錯誤と言います。事実の錯誤は,犯罪結果が生じても違法だと思っていない場合で処罰されない例となります。本件は,あなたが,彼女の承諾があると思っているので事実の錯誤のようにも思いますが,事実の錯誤ではありません。準強姦罪の犯罪事実は,被害者の自由で真意による明確な意思に基づく同意がないという事実が記載されない構成要件要素として存在し,これを誤って真意による同意があったものと認識した場合が事実の錯誤になるのですが,あなたにそのような勘違いはないからです。すなわちあなたが認識した事実は,睡眠中で自由意思がない,真意に基づかない不明瞭な承諾を認識しており,犯罪事実の認識を欠いた事実の錯誤に当たらないのです。
他方,同条3項本文は,「法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」と規定されていますが,犯罪結果が生じても違法ではないと思っている場合を規定していますが1項と異なり3項の場合,犯罪は成立する旨明らかにしています。1項は,犯罪構成要件に該当する客観的事実に関する錯誤(「事実の錯誤」)についての規定で,構成要件に該当する客観的事実について重要な錯誤があると,行為者に規範の問題が与えられず,その犯罪事実について行為者の直接的な反規範的意思活動を認めることができなくなるため,故意がないものとして罰しない旨規定したものです。これに対し,3項は,法律自体の存在や法律上の評価を認識していなくとも(「法律の錯誤」),故意は認められる旨規定したものです。これを法律の錯誤と言います。なぜ法律の錯誤は処罰されるかというと,法律の錯誤があったとしても,行為者は犯罪事実の認識,容認があり責任非難の根拠を見出すことができるからです。すなわち,自分の行為が,違法か適法かと思ったかどうかに関係なく,犯罪事実を認識,認容した以上,自らの判断により違法行為を回避して適法な行動に出るべきであったのに,これに反し違法行為をあえて行った点に刑事上の責任が課せられるのです。すなわち,行為者に規範の問題は与えられ,その犯罪事実について行為者の直接的な反規範的意思活動を認めることができるためです。したがって,行為者の認識に何らかの錯誤があった場合,その錯誤が事実の錯誤なのであれば,故意が阻却され,罪となりませんが,法律の錯誤なのであれば,故意は阻却されず,犯罪が成立することになります。
あなたの場合,女性がぐっすり眠っていたという客観的事実についての認識はあった以上,構成要件に記載されていない,自由で,真意に基づく明確な同意があるという事実を認識していませんので事実の錯誤ではなく,準強姦罪の記載されていない構成要件である「真意で,自由,明確な同意がない」という事実は認識しており,ただ,同意の意味内容を曖昧な意思でも刑法上の同意に該当するというように法律の文言を誤って解釈したにすぎませんから法律の錯誤に当たります。女性の同意をうかがわせる他の事情がない限り,法律上の規定の評価の部分の認識に誤りがあったということに過ぎず,法律の錯誤として,故意は阻却されないこととなります。ちなみに,38条2項は,事実の錯誤の場合どの範囲で行為者が責任を負うかということを規定しています。例えば,隣のうるさい犬を殺そうと思い,誤って飼い主を射殺した場合の責任の範囲を定めています。
あなたがいったん有罪判決を受けてしまうと,法的には公務員の懲戒免職,特定の国家資格等の制限などの不利益があり,事実上も,民間企業の懲戒解雇,経歴申告時,周囲の目や風評,人間関係など様々な不利益が考えられます。それゆえ,あなたが真に同意があったと認識しているならば,無実を主張し,全面的に争っていくのが刑事事件の原則で,同意がなかったと嘘を述べたり,同意がなかったとの調書に署名指印したりすると,捜査段階で自白したという証拠となってしまいます。いったん自白すると,公判段階で自白は嘘であったと主張しても,被告人に不利益な供述として証拠として採用(刑事訴訟法322条1項本文)されてしまう可能性が高く,無罪判決を得るのが極めて難しくなってしまいます。ただし,本件は親告罪であるため,後述5の告訴取消しがあれば,あなた自身の犯罪の認否に関係なく,上述のような不利益を伴う刑事責任には問われません。この可能性も視野に入れておく必要があります。ただ,被疑事実を認めていないということで,勾留理由である「罪証隠滅のおそれ」(刑事訴訟法207条1項本文・60条1項)があるとの判断に傾きやすく,身体拘束が続いてしまう可能性は極めて高くなります。また,事後的に事実の有無を認定し判断するという訴訟制度の性質上,残念ながら,真に無実の者が必ず無罪判決を得られるとも限りません。加えて本件の場合,女性の同意があったと思ったとあなたが主張するとしても,前述2のとおり,女性がぐっすり眠っていたという客観的事実についての認識はあった以上,事実の錯誤として故意は阻却されない可能性が高いですから,無罪判決の可能性は低いといわざるを得ません。
他方で,「同意があったとの当時の判断は軽率な思い込みであり,同意はなかった」とあなたが認識している場合,その旨供述すれば,罪証隠滅のおそれが軽減されたと捜査機関に判断されやすいため(刑事訴訟法207条1項本文・60条1項),身体拘束から開放される可能性は上がります。ただし,その供述は自白であるため,起訴されてしまうと,有罪認定の重要証拠となってしまい,有罪判決の可能性は極めて高くなってしまいます。
2人で寝ていた翌日の逮捕ということで,本件での捜査の端緒は被害者による通報であり,翌日にあなたの身体拘束まで行われていることからすると,被害者による告訴があったものと考えられます。ぐっすり眠って抵抗が不可能な状態にあった彼女を姦淫したという,今回の逮捕勾留のもととなった被疑事実は,準強姦罪(刑法178条2項・177条前段)に該当するものです。準強姦罪は親告罪とされていますから(刑法180条1項・178条2項),たとえば彼女に謝罪がかない,示談が成立する等して告訴が取り消されるようなことがあれば,訴訟条件が欠ける結果,あなたは起訴されません。そして,告訴取消しがあった段階で,あなたには不起訴処分がなされ,直ちに釈放されます。ただし,告訴取消しが認められるのは公訴提起までとされているため(刑事訴訟法237条1項),対応は迅速になさねばなりません。示談交渉は,被害者に対して誠実に謝罪・和解交渉するという形が筋ですが,否認をしながら示談交渉をするという手段も考え得ます。この手段をとれば,事実を認めること,被害弁償を行わないことの両リスクをさしあたって避けられるものの,このスタンスでは,被害者の目にはあなたの態度が「自己の非は認めず謝罪等はしないが金だけは払う」という態度に映るため,示談がまとまる可能性は低くならざるを得ません。さらに,あなたが不誠実だと感じた被害者が態度を硬化させてしまうと,その後の示談も決定的に困難となり,有罪判決が出される場合の情状も悪くなるというリスクもあります。
以上のような長短それぞれの側面を十分考慮した上,弁護人と協議して,どういった方針をとるのかを慎重に決めてください。
第六十条 裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
第百九十九条 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは,裁判官のあらかじめ発する逮捕状により,これを逮捕することができる。ただし,三十万円(刑法 ,暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については,当分の間,二万円)以下の罰金,拘留又は科料に当たる罪については,被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については,国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により,前項の逮捕状を発する。但し,明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りでない。
○3 検察官又は司法警察員は,第一項の逮捕状を請求する場合において,同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは,その旨を裁判所に通知しなければならない。
第二百条 逮捕状には,被疑者の氏名及び住居,罪名,被疑事実の要旨,引致すべき官公署その他の場所,有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し,裁判官が,これに記名押印しなければならない。
○2 第六十四条第二項及び第三項の規定は,逮捕状についてこれを準用する。
第二百一条 逮捕状により被疑者を逮捕するには,逮捕状を被疑者に示さなければならない。
○2 第七十三条第三項の規定は,逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
第二百二条 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは,直ちに,検察事務官はこれを検察官に,司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。
第二百三条 司法警察員は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2 前項の場合において,被疑者に弁護人の有無を尋ね,弁護人があるときは,弁護人を選任することができる旨は,これを告げることを要しない。
○3 司法警察員は,第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては,被疑者に対し,引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第二百四条 検察官は,逮捕状により被疑者を逮捕したとき,又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し,その時間の制限内に公訴を提起したときは,勾留の請求をすることを要しない。
○2 検察官は,第三十七条の二第一項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては,被疑者に対し,引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3 第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4 前条第二項の規定は,第一項の場合にこれを準用する。
第二百五条 検察官は,第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは,弁解の機会を与え,留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し,留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2 前項の時間の制限は,被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
○3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは,勾留の請求をすることを要しない。
○4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5 前条第二項の規定は,検察官が,第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され,第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し,第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
○2 前項の裁判官は,第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に,被疑者に対し,弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし,被疑者に弁護人があるときは,この限りでない。
○3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては,弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは,あらかじめ,弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4 裁判官は,第一項の勾留の請求を受けたときは,速やかに勾留状を発しなければならない。ただし,勾留の理由がないと認めるとき,及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは,勾留状を発しないで,直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき,勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,前項の期間を延長することができる。この期間の延長は,通じて十日を超えることができない。
第二百十二条 現に罪を行い,又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
○2 左の各号の一にあたる者が,罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは,これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十三条 現行犯人は,何人でも,逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。 第二百三十七条 告訴は,公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
○2 告訴の取消をした者は,更に告訴をすることができない。
第三百二十二条 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは,その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき,又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り,これを証拠とすることができる。但し,被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は,その承認が自白でない場合においても,第三百十九条の規定に準じ,任意にされたものでない疑があると認めるときは,これを証拠とすることができない。
第四条 検察官は,刑事について,公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し,且つ,裁判の執行を監督し,又,裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べ,又,公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は,罰しない。ただし,法律に特別の規定がある場合は,この限りでない。
○2 重い罪に当たるべき行為をしたのに,行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は,その重い罪によって処断することはできない。
○3 法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし,情状により,その刑を減軽することができる。
(強姦)
第百七十七条 暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は,強姦の罪とし,三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も,同様とする。
(準強制わいせつ及び準強姦)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,わいせつな行為をした者は,第百七十六条の例による。
○2 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,姦淫した者は,前条の例による。
(親告罪)
第百八十条 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。