新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:場外馬券売り場で馬券を買おうとしてお金とマークカードを入れたところ、機械にエラーが生じてしまいました。そのせいでレースが始まってしまったのですが、私が買おうとしていた馬券が的中し、10万円以上もうけ損ないました・・・。JRA(日本中央競馬会)に支払いを求めたいと思います。可能でしょうか。 解説: 2.(馬券自働券売機の設置は契約の申し込みか。) では、馬券を自動券売機から購入する、ということはどうでしょうか。通常の売買契約というのは人と人が対面して物と金銭を交換するということを想定しますが、自動販売機が広く普及していることから、そのような理解では社会に適合しません。 3.(馬券売買契約の申し込みと承諾時期) では、現金とマークカードが投入された券売機はその後どのようにして馬券を発行するのでしょうか。言い換えれば、どの時点で購入者からの申し込みに対する承諾が認められるのでしょうか。 4.(本件の結論) 本件においては、現金とマークカードを投入したらエラーが発生したということであって、「計算機に接続しています」という画面や投票内容が表示される段階にまで至っていなかったのですから、いまだ馬券の売買契約は成立していないことになります。残念ですが、配当金相当額の支払いを求めることはできないと考えられます。類似の判例として大阪地方裁判所平平成15年7月30日部判決(損害賠償請求事件)があります。後記参照。 <参考条文> <判例参照>
No.1024、2010/5/11 16:24
【民事・馬券購入契約の契約成立時期・無記名債権の性質】
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回答:
馬券(勝馬投票券)の発行は、払戻金を受け取るという期待権を表した無記名債券であり、動産と同様に売買の対象になります。そして、馬券の購入契約は、自動発券機の画面において購入内容の確認表示がなされた時点に成立したと考えられます。したがって、エラーが生じたために購入内容の確認画面が出ていないのであれば、いまだ購入契約は成立していないということになり、的中額相当額の支払いを求めることはできません。同様の事案について、判例がありますので参照してください。大阪地方裁判所平成15年7月30日部判決(損害賠償請求事件)が類似の判例としてありますので判決の趣旨に添って説明いたします。
1.(馬券の法的性質は何か) 馬券を購入しようとしたところエラーが発生した、ということのようですが、まず、「馬券を買う」という行為が法律上どのように評価されるか、を考えてみましょう。
馬券とは正式には勝馬投票券といいますが、「これによる投票が的中した場合には所定の金額の払戻金の支払いを受けることができる権利を表章した(有価)証券」といわれます。なお証券とは、「財産法上の権利義務の記載がなされている紙片をいいます。法的効力の違いにより有価証券と証拠証券(保険証券等)に分かれ、有価証券とは「財産権を表象する証券であり、表章される権利の発生、移転または行使の全部または一部が証券の授受によってなされるもの」をいいます。
すなわち、馬券とは、「所定の払戻金の支払いを受ける権利を表しており、その権利の行使に券そのものが必ず必要な有価証券なのです。厳密に言うと、権利の発生と移転については、証券と結合しておらず、証券がなくても権利は発生しており、移転も意思表示のみで行うことはでき、証券の交付は動産と同じように譲渡の対抗要件になります。
商法上の有価証券である手形、小切手は、権利の発生(設権証券、証券に記載すると突然権利が発生する。)、移転(証券を交付しないと権利が移転しない)、行使全てに証券と結合していますが、これに対して、馬券は証券との結合が一部にとどまっています。その理由は、証券の中でも、転々流通する性質がなく予定されていないからです。すなわち、馬券、乗車券は本来転々流通することが予定されていませんが、ある程度、流通を予定し、権利行使を円滑安全にすることを主な目的としているからです。
以上より後述のように、手形等と異なり、商法ではなく民法の財産の規定に記載されています。従って、的中し購入したことを仮に何らかの方法により証明しても馬券を所持していないと権利を主張できないことにはなります。後記判例は証券との関係について発生移転も証券と一体としているように読めますが、賛成できません。
そして、馬券上に購入者の名前が記載されないことや、馬券の交付によって的中した時の払戻金を受け取る権利を譲渡できること、その権利の移転が馬券を渡すことと一体となってのみ発生することから(対抗要件)、一種の無記名債権と考えられます。無記名債権とは、「証券上に債権者名を特定せず、証券の所持人に弁済する債権」であって、民法上は動産として扱われます(民法86条3項)。
これに類するものとして、乗車券、商品券、劇場入場券があります。例えば、乗車券等を紛失すると購入したことを立証しても証券を所持してなければ権利者として認められず再度購入しなければなりません。どうして無記名債権が動産とみなされるかというと、債権自体(例えば貸金債権)はそもそも有体性がありませんから動産と言えるはずがありません。しかし、債権の中で無記名債権は、証券という紙片なくしては行使もできないのですから証券と一体性をなすので紙片の有体性に着目して通常の一般債権と異なり動産としたのです。動産ですから、証券の引渡は対抗要件となり、取引の安全は、債権の譲渡と異なり、即時取得(民法192条)が適用になり、取引の安全確保のため抗弁の切断(民法473条、民法上の指図債権の規定準用)等が認められます。
長くなりましたが、まとめると、馬券とは「的中したときに払戻金を受け取る権利を表した無記名債権」ということになります。となると、「馬券を買う」という行為は、この動産とみなされる無記名債権を金銭により購入する、という売買契約と考えられます。
この点については、自動販売機を利用して行う売買契約も契約の一種であって、契約が申込みと承諾により成立するものであることからすれば、利用者(買主)と自動販売機の設置者(売主)との間における申込みと承諾の意思表示の合致が契約成立の要件として必要になることは明らかです。
そして、売買契約の申込みの意思表示といい得るためには、申込みの時点において目的物が(少なくともその本質的部分においては)確定していることが必要と考えられていますが、自動販売機は複数の商品を提供できるものがほとんどのため、利用者が具体的に希望する商品を選択しないと売買対象物が確定しません。このような自動販売機の特質からすれば、自動販売機を設置する行為それ自体は、売買契約の申込みには当たらず、その前段階である申込みの誘引と考えるべきです。契約成立における申し込みの誘引とは、第三者を勧誘して申し込みをさせようとする意思表示をいい、第三者の意思表示が申し込みであり、誘引をした者が承諾しなくても債務不履行にはなりません。典型的な行為は、賃貸の広告が挙げられます。
自動販売機の以上の理解は、マークカードにおけるマークに従って購入する馬券が確定するというシステムを考えれば、自動勝馬投票券売機においても妥当するものです。すなわち、JRAが自動勝馬投票券売機を設置する行為が馬券購入の申し込みの誘因であり、現金とマークカードを投入する行為が購入の申し込みなのです。マークする内容が競馬場、レース番号、投票の種類、馬番号や金額等の多岐にわたっていることからもおわかりいただけますでしょう。
これについても、まずは自動販売機の場合について考えてみると、設置者において外部的に、すなわち機械内部の動作ではなく利用者が認識し得る態様において、その意思を表示したことが必要です。現に、一般の自動販売機においても、利用者が操作を完了し、機械がその旨を認識した(正しく受け付けた)場合には、商品が供給される以前にそのことを示す何らかの表示(例えば、商品のうち選択したものに係るボタンのランプのみが点灯して他は消灯するなど)がなされています。
では、商品が現実に自動販売機の機械から出てきた時点をもって承諾の意思表示があったとは考えられないのでしょうか。この方が明確とはいえましょう。
しかしながら、自動販売機は利用者の操作を受け付けた段階で、商品を供給するための準備動作に入ります。これは自動販売機の設置者たる売主による契約の履行行為への着手にあたるものととらえざるを得ないので、この時点ではもう既に契約が成立しているのです。最終的な商品の供給それ自体は売買契約の履行行為ですので履行行為自体を承諾の意思表示とは考えない、ということです。とすると、馬券という証券を発券する場合は、用紙への印字が履行の準備行為に該当することになります。
そして、本件でもその前段階でJRAの承諾の意思表示がどの時点において認められるかと考えると、現金とマークカードを投入し、投票内容が正常に受け付けられた場合、自動販売機の画面上には、「計算機に接続しています」との表示とともに投票カードに付されたマークシートの内容を表示した画面が現れます。この段階においては、自動券売機が投票内容を受け付けているとともに、発行に向けて作動を開始し、その後は購入を撤回できない仕組みになっています。
そうすると、勝馬投票券の購入契約においては、上記の表示が画面上に現れた時点において、JRAが購入者の馬券購入申込みに対し承諾の意思表示を行い、これにより、被告と購入者との間で勝馬投票券の購入契約が成立したことになります。
民法
第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
3 無記名債権は、動産とみなす。
大阪地方裁判所平平成15年7月30日部判決(損害賠償請求事件)判決内容抜粋。
第5 当裁判所の判断
1 争点1(勝馬投票券購入に係る契約の成否)について
(1)勝馬投票券発行に係る契約の法的性格について
争点1について判断する前提として、まず、原告が被告との間で成立したと主張する勝馬投票券発行に係る契約(以下「本件契約」という。)の法的性格がいかなるものであるかが問題となる。原告は、本件契約が勝馬投票券の売買であり、その成立により被告に勝馬投票券を交付すべき債務が生じる旨主張するのに対し、被告は、本件契約が勝馬への投票及びそれが的中した場合に被告が所定の払戻金を支払うことを内容とする契約(一種の射倖契約)であって、勝馬投票券が現実に発行されることにより成立する契約である旨主張する。
そこで判断すると、勝馬投票券は、これによる投票が的中した場合には所定の金額の払戻金の支払を受けることができる権利(競馬の結果が確定するまでは一種の期待権ということができる。)を表章した証券であって、券面に債権者名は表示されず、証券の交付により自由にその権利を譲渡することが可能であり、権利の得喪、移転の法的効果が証券と一体的にのみ発生するものであるから、一種の無記名債権であるということができる。そうすると、本件契約は、競馬の主催者である被告が勝馬投票券という無記名債権を発行し、これを原告に有償譲渡することを内容とする契約であるということができる。
そして、無記名債権は動産とみなされる(民法86条3項)のであるから、その発行を内容とする本件契約は、財産権たる動産所有権の移転を目的とする点において、物品の販売を目的とする自動販売機の場合と異なるところがないものというべきであって、その契約の成否の判断についても同様に考えることができる。
以上を前提に、本件契約の成否につき判断する。
(2)本件契約の申込みの意思表示について
ア 一般に、自動販売機による物品販売の場合、買主たる利用者が機械を正しく操作すれば、機械が自動的に作動して所定の物品の給付を行う構造となっており、その際、通常は利用者がその契約上の義務である代金を先に自動販売機に投入しない限り商品の選択ができない構造となっていることから、利用者が対価の支払を先履行することが必要とされている。したがって、自動販売機の設置者が利用者による自動販売機の利用の際、その都度商品の供給に応じるか否かを判断し、決定することは想定されていない。
しかしながら、自動販売機を利用して行う売買契約も契約の一種であり、契約が申込みと承諾により成立するものである以上、利用者(買主)と自動販売機の設置者(売主)との間における申込みと承諾の意思表示の合致が契約成立の要件として観念されなければならないというべきである。
イ 原告は、本件契約の成立につき、自動販売機による売買契約の場合、売主による機械の設置が契約の申込みに当たり、これに対し利用者が機械を操作することが承諾であり、利用者が機械の操作を完了した時点で契約が成立する旨主張する。確かに、通常は利用者が自動販売機を適切に操作すれば自動的に商品が供給されることからすると、このような理解も考えられないではない。
しかしながら、売買契約の申込みの意思表示といい得るためには、申込みの時点において目的となる商品の内容が(少なくともその本質的部分においては)確定していることが必要と解されるところ、自動販売機による販売の場合には、一般に、機械自体に多種多様な種類がある上、個々の自動販売機についてみても、複数の商品を提供できるものがほとんどであり、利用者が具体的に希望する商品を選択しない限り、売買契約の本質的要素である売買対象物が確定しない。すなわち、自動販売機が具体的な商品を提供するのは、利用者の選択に従って作動した結果であって、具体的な物品販売の契約内容は、設置者による設置行為自体というより、むしろ、利用者の選択によって初めて明らかになるものということができる。
このような自動販売機の特質からすれば、自動販売機を設置したのみでは、具体的に特定された売買契約締結に向けての設置者の効果意思が外部に表示されているものとは認め難い。したがって、設置者が自動販売機を設置する行為それ自体は、売買契約の申込みには当たらず、申込みの誘引と解するのが相当である。
これを被告の設置した勝馬投票券の自動販売機についてみると、投票券の購入者の側で予め投票カードにマークを付すことが要求され、それにより、購入者が競馬場、レース番号、投票券の種類、投票に係る勝馬の馬番号又は枠番号及び投票額の購入内容を決定することとされている上、発行される勝馬投票券の種類も極めて多様である。したがって、一般の自動販売機における上記解釈は、勝馬投票券の自動販売機についても十分に妥当するものといえる。
ウ 原告は、自動販売機の設置をもって申込みと解しなければ自動販売機が諾否の自由を有するという奇妙な事態が生じる旨主張する。確かに、自動販売機は機械的処理により自動的に商品の供給(本件の場合は勝馬投票券の発行)を行うものであり、それ自体が諾否の判断をするものでないことは原告主張のとおりであるが、かかる機械的処理は、自動販売機の設置者が予め与えた指示の内容に従ったものであり、設置者による効果意思の発現であると捉えることができる。そうすると、契約締結の主体はあくまで設置者であり、設置者が自動販売機の動作を通じて意思表示を行っているものと観念することが可能である。したがって、上記解釈は何ら不合理なものではない。
エ 以上のとおり、被告による勝馬投票券の自動販売機の設置は申込みの誘引であり、原告がこれに現金と投票カードを投入した時点で、原告による本件契約の申込みの意思表示があったと認められる。
(3)本件契約の承諾の意思表示について
ア そこで、次に、原告による本件契約の申込みに対し、被告による承諾の意思表示があったか否かにつき判断する。
自動販売機による売買契約の場合、一般に、利用者たる買主が金銭を投入し、希望する商品のボタンを押すなどの操作により商品を選択するものとされ、それと同時に、機械が利用者の選択した商品の供給に向け作動し、他方、利用者はこの時点で操作を取消して自動販売機に投入された金銭の返却を要求することができなくなるのが通例である。そして、ほどなくして自動販売機から利用者の選択した商品が供給されることになる。
このような自動販売機による商品販売の実情に照らせば、利用者が自動販売機の操作を完了し、もはやそれによる契約の申込みの撤回や申込み内容の変更が不可能となった時点において、利用者と自動販売機の設置者との間における売買契約が成立したと解することも考えられるところである。
イ しかしながら、上記のとおり、自動販売機による売買契約の場合においても、契約成立の要件として申込みと承諾の意思表示を観念できる必要があるところ、その設置者による承諾の意思表示(これにより利用者と設置者との間で契約が成立する。)があったといい得るためには、やはり設置者において外部的に、すなわち機械内部の動作ではなく利用者が認識し得る態様において、その意思を表示したことが必要である。
そうすると、自動販売機の作動を通じて、利用者に対しそのような表示がなされた時点をもって契約が成立すると解するのが契約法理に照らしても相当というべきである。
現に、一般の自動販売機においても、利用者が操作を完了し、機械がその旨を認識した(正しく受け付けた)場合には、商品が供給される以前にそのことを示す何らかの表示(例えば、商品のうち選択したものに係るボタンのランプのみが点灯して他は消灯するなど)がなされるのが通例である。
ウ これに対し、商品が現実に自動販売機の機械から排出された時点をもって承諾の意思表示がなされると解することも考えられるところである。
しかしながら、自動販売機は利用者の操作を受け付けた段階でその内部において商品を供給するための準備動作を行うのが通例である(例えば、自動販売機内において物品の調理を行った上で購入者に提供するものにおいては、商品の加熱等がそれに当たる。また、本件のように証券を発券する場合は、用紙への印字などがそれに当たる。)ところ、これらは自動販売機の設置者たる売主による契約上の債務の履行行為への着手にあたるものというべきであり、この時点では既に契約が成立しているものと解するほかない。最終的な商品の供給それ自体は売買契約の履行行為であって、それ自体をもって承諾の意思表示とは解されないというべきである。
エ そこで、以上を前提に本件契約の承諾の意思表示の存否を判断する。
上記第3の2(3)摘示のとおり、勝馬投票券の自動販売機に現金及び投票カードが投入され、投票内容が正常に受け付けられた場合、自動販売機の画面上には、「計算機に接続しています」との表示とともに投票カードに付されたマークシートの内容を表示した画面が現れる。同表示が現れた場合、自動販売機が投票内容を受け付けると同時に、発行に向けて作動を開始し、その後は購入者において購入を撤回できない仕組みとなっている。 また、残金が存する場合も、精算するか追加購入するかの選択画面が表示されるものの、その前段階で上記表示が現れ、これにより、購入者において購入を撤回し得ない状態となる点で相違はない。
そうすると、勝馬投票券の購入契約においては、上記表示が画面上に現れた時点において、被告が購入者の購入申込みに対し承諾の意思表示を行い、これにより、被告と購入者との間で勝馬投票券の購入契約が成立すると解するのが相当である。
なお,被告は、勝馬投票券の自動販売機においては、通常の自動販売機の場合と異なり、勝馬投票券の売得金の集計、払戻金の計算等のためどのような内容の投票がいくらあったのかを画一的かつ一律に確定することが制度上必要不可欠であることや、不特定、大量の的中者との間の大量決済処理という制度上の特質からすれば、発券によって初めて契約関係が発生すると主張する。しかし、前示のとおり、勝馬投票券は動産とみなされる無記名債権であり、その発行に関する契約は自動販売機によるものであるか否かを問わず売買契約と何ら異なるところがないのであるから、売主である自動販売機の設置者と買主である利用者との意思表示の合致をもって契約が成立するといわざるを得ない。したがって、被告の主張する上記制度上の特質を考慮しても、かかる意思表示の合致とは別に、発券自体が本件契約の成立要件になると解すべき根拠はない(なお、前示のとおり、自動販売機が利用者の操作を受け付けて機械的に勝馬投票券の発行の準備を始め、その旨を外部的に表示したことをもって、売主である自動販売機の設置者の承諾の意思表示があったとすれば、勝馬投票券の発行の有無にかかわらず自動販売機が利用者の操作を受け付けた時点で勝馬投票券の売得金の集計、払戻金の計算が機械的には可能ということになるから、勝馬投票券の発行を契約成立の要件とする必要はない。また、無記名債権である勝馬投票券の呈示なしに払戻金の支払請求を認めることはできないと解され、それを認めると、不特定、大量の的中者との間の大量決済処理上も望ましくない。しかし、本件において、原告は、自らが的中者として勝馬投票券の呈示なしに払戻金の支払を求めているのではなく、本件契約が成立したにもかかわらず勝馬投票券の発行がされなかったことが被告の債務不履行として損害賠償を求めているのであるから、被告の上記主張は採用できない。)。
オ ところが、本件においては、上記のような投票の受付表示が自動販売機の画面上に現れたと認めるに足りる証拠はない。
かえって、被告が設置した自動販売機の機械的構造に照らせば、自動販売機が上記受付表示をするのは、自動販売機が購入者の投入した現金及び投票カードの双方を正常に認識することが前提とされているということができるところ、本件では、上記第3の4摘示のとおり、原告が投票カードを投入するのとほぼ同時に、自動販売機が紙幣識別部の異常エラーを生じたものである。そうすると、自動販売機において、未だ上記投票の受付表示をするのに必要な条件が充足されていなかったのであるから、上記表示は現れていなかったものと推認される。
(4)したがって、本件においては、原告と被告の間で本件契約が成立するに必要な被告による承諾の意思表示があったものと認めるに足りず、本件契約は未だ成立したものとは認定できないところである。
2 結論
以上によれば、原告と被告との間の本件契約(勝馬投票券購入契約)は未だ成立していないから、本件契約の成立を前提とする被告の債務不履行は認められない(なお、自動販売機による商品購入の場合には、利用者としては、自らの操作を正常に完了すれば、機械的に商品の供給を受けられるという期待を有するのが通常であり、本件のように自動販売機の異常動作が生じたために契約が成立するに至らなかった場合において、仮にそれが機械の設置者に当該機械の保守点検に関する何らかの落度があったことに由来するとすれば、契約締結上の過失又はそれに類する法理による請求権の成立する可能性が考えられないではない。しかしながら、原告は、本件口頭弁論期日において、本件契約の成立を前提とする債務不履行に基づく損害賠償請求権以外の請求権を主張するものでない旨述べているところである。)。