新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1026、2010/5/13 17:44 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-hosyaku.htm

【刑事・第一審又は控訴審で実刑判決を受けた場合の保釈請求】

質問:第一審で実刑の有罪判決が言い渡された後,再保釈が認められるためには,どのような点に注意すればよいでしょうか。控訴審で実刑判決を受けた場合も同じでしょうか。

回答:
1.再保釈は,原則として許すべきではなく,特段の事由がある場合にのみ許すとの考え方(制限説)と、再保釈は原則として許すべきであるとし,特段の事由がある場合のみこれを却下するとする考え方(以下,「非制限説」といいます。)があります。
2.いずれに説によっても、特段の事由の有無は,@控訴結果の見込み,A保釈請求の理由・事情,B逃亡のおそれの大小,の相関関係によって判断されることになります。
3.近時の裁判所は、保釈一般について従来よりも認める傾向にあるようです。再保釈についても同様です。実刑判決があったからとあきらめずに、上記の点について十分説明して再保釈を申し立てると良いでしょう。
4.尚、手続きですが、判決当日、実刑であれば保釈は失効しますのでその場で検察官の指揮により収監されるのが原則です(刑訴343条、同98条、規則92条の2)。傍聴席に収監する担当警察官(私服)が待機しています。しかし、前もって、保釈申請書類(控訴又は上告の申立書も提出できるのであれば準備しましょう。)の準備をしておき直ちに刑事事件係に保釈申請を行えばその日のうちに決定が出る場合があります。最初の保釈の時に納付した保釈金は流用できますので(刑事訴訟規則91条2項)、追加の保釈金を前もって用意しておく必要があります。迅速に行えば、収監を回避することは可能です。弁護人が、収監担当警察官と協議し被告人は、裁判所内別室で待機してもらうことができます。
5.控訴審判決で実刑になった場合の再保釈も理論的には同様です。ただ、実務上控訴審では直ちに身柄拘束はせず数日後の収監の呼び出しが行われているようです。控訴審は基本的に法律審(事後審制)であり,第一審で明らかになった事実関係に基づき保釈が許可されている以上、控訴審でも許可の可能性が高く裁判所の保釈結果を待つという事情があるからです。弁護人は直ちに保釈の申立を行い、収監日程については担当検察官と協議しましょう。勿論控訴審の実刑であり,担保となる追加保釈金も必要です。
6.法律相談事例集キーワード検索598番243番183番参照。

解説:
1.(保釈の制度趣旨)
 罪を犯した場合、法治国家では必ず公正な刑事裁判を受け、裁判所の有罪判決により罪を償う事になります。裁判を行う証拠資料収集は基本的に被告人の逮捕後10日―20日間の勾留中に捜査し取り調べにより終了していますから、本来であれば起訴と同時に被告人を釈放し御自宅に帰してあげなければいけないはずです。被告人といえども判決が出るまでは無罪の推定(フランス人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約14条2項。疑わしきは被告人の利益にという検察官の挙証責任に関する大原則。)を受けるのですから、不必要な身柄拘束はできないはずです。しかし有罪の判決を受け刑務所に行く可能性がある人はその恐怖心から逃走するかもわかりません。
 そこで、裁判中法廷への出頭、及び刑の執行を確保するために身柄拘束をされて取調べを受けた勾留中の人は、取り調べが終了し起訴されてもそのまま取調べを受けた警察署、拘置所にいなければならないことになっています。それに、被告人となった人が、裁判が終了するまでの間自分に不利益な証拠を隠滅、隠匿する可能性もまだありますから(被害者のところに抗議に行く等)、捜査が終了したからといって簡単に自宅に帰してくれない訳です。
 しかし犯罪の内容、社会的身分等から見て、逃走、証拠隠滅の危険性のない人まで有罪と決まったわけでもないのに身柄を拘束しておくのは人身の自由を保障する憲法31条、33条、34条の趣旨から不当であり、もはや捜査の必要性もない以上裁判所は、弁護人の請求により(又は職権で)、検察官の意見を聞いたうえで(刑訴92条)担保となる一定の保証金納付を条件にして(刑訴93条)、決定により釈放することになっています(刑訴88条乃至90条)。これが保釈制度です。
 したがって、保釈の個々の要件も以上の趣旨から定められているのですから解釈上争いがある場合、被告人の人身の自由を基本的に保障し、適正な裁判、刑の執行の確保の利益を考量して保釈が決定されることになります。又、弁護人も、以上の趣旨を踏まえ裁判の手続き上身柄拘束の必要性がないことを立証するために、積極的に資料を収集、提出していかなければなりません。 再保釈、控訴審判決後の保釈の場合、一旦有罪の実刑判決を受けていますので、最初に認められた保釈と事情が異なりますが理論的には同様になります。
 尚保釈には、被告人の人身の自由擁護の観点と、公正な裁判手続きの保障、刑の執行の確保の必要性の度合いに応じて一定の要件が備わっていれば必ず保釈決定をしなければならない権利保釈(刑訴89条)と、権利保釈の除外事由がある場合でも裁判所の判断により認められる裁量保釈(同法90条)があり、その他、拘禁が長期間継続した場合の道義的保釈(刑訴91条)があります。

2.(原則) 保釈されていた被告人について、禁固以上の刑に処する判決の宣告があると保釈は、その効力を失い(刑訴法343条)、新たに保釈の決定がないと検察官の指揮により刑事施設に収容されることになっています。

3.(再保釈は裁量保釈となる。) そこで、無罪や執行猶予を求めて控訴する場合、何もしないと収容されてしまうので、新たに保釈の申請が必要となり、この場合の保釈を再保釈と呼んでいます。この再保釈については、刑訴法の条文(刑訴法344条)により、権利保釈(請求があった場合、法が認める除外事由がない限り原則として認められる保釈 刑訴法89条)は認められないので,裁量保釈(権利保釈が認められない場合に裁判所の裁量により認められる保釈 刑訴法90条)を求めることになります。その理由ですが、第一審とはいえすでに実刑判決という有罪判決が公的判断として下された以上、判決が確定していなくても無罪の推定は事実上失われ人身の自由を保護する必要性が低下し、逆に逃走の危険が増し、刑の執行の実効性を確保し身柄拘束の必要性が生じ、被告人に有利な権利保釈は認められないことになります。

4.(再保釈の基準) 再保釈が裁量保釈としても、認められる基準については,再保釈は原則として許すべきであるとし,特段の事由がある場合のみこれを却下するとする考え方(以下,「非制限説」といいます。)と,原則として許すべきではなく,特段の事由がある場合にのみ許すという考え方(以下,「制限説」といいます。)の対立があります。 非制限説は,従前の保釈中格別不都合な事態がなかったのに,ただ実刑判決を受けたというだけで,原則として再保釈を許可しないのは不合理であって,一審判決前の裁量保釈の場合の基準と特に区別する必要はない,との発想に基づきます。
 これに対して,制限説は,実刑判決の宣告により,被告人の無罪の推定に重大な疑問を生ずると同時に,被告人の逃亡のおそれが飛躍的に増大し,また,刑執行確保の必要性も増大する,との発想に基づきます。
 担当する裁判官によって,採用する説が異なり、再保釈が認められ易いか否かは裁判官次第ということになります。弁護士の発想としては非制限説が正しいと考えますが、どちらの説によるべきかを論じてみても裁判所には通じないでしょう。むしろ、最初の保釈で主張した理由に加えて、回答欄で説明した3つの要件について保釈請求書で詳しく説明し、保釈しても弊害がないことを詳しく説明する必要があります。
 
 まず、@の控訴結果の見込みについて,具体的に説明します。例えば,原判決が破棄され無罪あるいは執行猶予の可能性が未だ相当程度存する場合には,被告人の逃亡のおそれの増大もそれ程ではなく,被告人の正当な控訴権行使を不当に妨げることのないようにとの配慮から,再保釈が認められる可能性が高いといえます。従って、無罪を主張するのであればその点を詳しく、あるいは執行猶予を主張するのであれば、執行猶予が相当であること、また示談ができていないのであれば今後の示談の可能性等について詳しく説明する必要があります。
 次に,Aの保釈請求の理由・事情について,具体的に説明します。例えば,被告人が病気であるとか,病人や幼児を世話しなければならない立場にあるとか,営業上重要な地位を占め被告人がいないと多くの従業員や債権者などが著しい不利益を受けるなどの事情があれば,再保釈が認められる可能性が高いといえます。けれども,このような緊急の必要性がなく,家事整理,身辺整理を理由とする場合は,再保釈は認められないでしょう。  さらに,Bの逃亡のおそれの大小について,説明します。例えば,確実な身許引受人や家族がおり,しかも宣告刑がきわめて短期であるとか,未決拘留日数の算入等により刑がほとんど名目化しているような場合には,再保釈が認められる可能性が高いといえますから、このような点を詳しく説明することになります。保釈金の追加も逃走の危険を防ぎ身柄確保について有効な理由となるでしょう。

5.(結論) 再保釈許否の判断は,@ABの各観点から当該事案につき検討し,その有無・程度を慎重に比較考量して,その相関関係において判断されますから、保釈請求書にはこれらの点について詳しい説明が必要になります。

≪参考条文≫

憲法
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十三条  何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑事訴訟法
第343条  禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条の規定を準用する。
第344条 禁固以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第60条第2項但書及び第89条の規定は、これを適用しない。
第89条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一  被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六  被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第90条 裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
第91条  勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
○2  第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
第92条  裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
○2  検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
第93条  保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
○2  保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
○3  保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
第94条  保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
○2  裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
○3  裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
第98条  保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は刑事施設職員は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを刑事施設に収容しなければならない。
○2  前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、検察官の指揮により、被告人に対し保釈若しくは勾留の執行停止が取り消された旨又は勾留の執行停止の期間が満了した旨を告げて、これを刑事施設に収容することができる。ただし、その書面は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
○3  第七十一条の規定は、前二項の規定による収容についてこれを準用する。

刑事訴訟規則
(禁錮以上の刑に処せられた被告人の収容手続・法第九十八条)
第92条の2  法第三百四十三条において準用する法第九十八条の規定により被告人を刑事施設に収容するには、言い渡した刑並びに判決の宣告をした年月日及び裁判所を記載し、かつ、裁判長又は裁判官が相違ないことを証明する旨付記して認印した勾留状の謄本を被告人に示せば足りる。

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