新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は、建物を建てるということで土地を賃貸していましたが、先日賃借人との土地明渡を求める裁判において、あらためて期間を10年とし、期間満了と同時に土地を明け渡す旨の裁判上の和解をしました。しかし、裁判後、賃借人はかかる和解は借地法11条に違反しているので無効であると主張しています。この場合、裁判上の和解にしたがって、土地の明け渡しを求めることができるでしょうか? 解説: 2.この点に関し、同種の事案の判例があります。一審判決は、借地法2条の規定より短く定めて、右期間経過と同時に直ちに明け渡す旨の特約は、私人間においてなされたときは同法11条により無効となるが、裁判上の和解による場合は、当事者双方の事情を十分に斟酌考慮した裁判所が関与するものであるから、借地法が指向する借地権者の保護は裁判所により十分考慮され保障されているとみるべきであるとして、本件賃貸借契約に借地法11条の適用はなく、本件和解条項による明け渡し特約は有効であると判示しています。この考え方は1で述べた考え方と言ってよいでしょう。 3.以上の最高裁判所の判決は、裁判上の和解の成立の経緯、一時使用賃貸借が認められている根拠から考えても、裁判上の和解であることだけで判断するのではなく、土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間、当事者の意思等諸般の事情から考えて、賃貸借の当事者間に短期間に限り賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる場合には、裁判上の和解の賃貸借は、借地法9条にいう一時使用賃貸借に該当し、借地法11条の適用は受けないと考えるべきであるとしています。実質的に一時使用か否かの判断をすることになります。 ≪参照条文≫ 借地法 借地借家法
No.1029、2010/6/2 14:39
【民事・借地期間について借地人に不利益な裁判上の和解は、(旧)借地法2条、11条に反しないか。】
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回答:
1.借地権が消滅したことを理由に土地の明け渡しを求める裁判において、裁判上の和解により明渡の期間を猶予し、明渡までの期間の賃貸借契約を締結する和解をした場合、その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合に限り、この賃貸借が借地法9条にいう一時使用の賃貸借に該当するものと解して、かかる賃貸借については、同法11条の適用はないと解するのが、判例の立場です。そのような客観的な理由の主張立証責任は賃貸人にあることになりますが、通常裁判所においてそのような和解をする場合は、客観的な理由があると認められ、和解に従って土地の明け渡しが認められることになるでしょう。
2.ところで、平成3年に現在の借地借家法が制定され、従来の借地法、借家法、建物保護に関する法律は廃止されました。その理由は従来の法律では、借地、借家人保護に傾きすぎている点があり、これを一部是正し、借地等の経済的流動性を高めて不動産経済を円滑化しようとするものです。しかし、新法律施行前に締結された借地(借家)契約により借地人、借家人が保護されていたのに、新法によって不利益を受けることは、借地借家法の本来の趣旨に反するので借地、借家人に不利益な点については、旧借地、借家法がいまだ効力を維持している状態になっています。例えば、借地借家法では、期間は30年、更新は、10年となっていますが(借地借家法3条)、旧借地法では、堅固な建物60年とそれ以外30年、更新は堅固な建物30年とそれ以外20年です(旧借地法2条)。従って、あなたの場合も両法律が適用になります。
1.裁判上の和解によって土地の賃貸借契約を締結する際、賃貸借契約の期間を借地法2条や借地借家法3条の期間よりも短く設定した場合に、借地法11条や借地借家法9条により無効となると考えるべきか議論のあるところです。裁判上の和解の席で、とりわけ短期の期間が設定された場合、その特殊性から、これを一時使用と認定すべきであるとの考え方もあります。裁判上の和解の実務において、借地法や借地借家法の強行法規があることは十分認識された上で条項の判断がなされており、その上で現実の紛争の諸般の具体的な事情を考慮して適法かつ妥当な和解条項の設定がなされていることが一般的ですから、裁判上の和解については一時使用と認定することにも理由があります。
これに対して、最高裁判決は、より実質的な検討をして、下記のように判示しています。すなわち、「原審(第一審判決引用。以下同じ。)は、本件賃貸借は裁判上の和解によつて成立したものであるから、それによつて定められた一〇年の賃借期間は、借地法一一条の規定に違反するものでないと判断している。しかしながら、賃貸借契約が裁判上の和解により成立した一事をもつて、右契約に同条の適用がないとするのは相当ではなく、裁判上の和解により成立した賃貸借についても、その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合にかぎり、右賃貸借が借地法九条にいう一時使用の賃貸借に該当するものと解すべく、かかる賃貸借については、同法一一条の適用はないと解するのが相当である。けだし、裁判上の和解による賃貸借の場合には、それが裁判所の面前で成立するところから、単なる私法上の契約の場合に比し、双方の利害が尊重され当事者の真意にそう合意の成立をみる場合が多いであろうが、この場合同条の適用がないと解するならば、契約当事者、特に一般に経済上優位にある賃貸人が、形式上、裁判上の和解の手続をふむことによつて、前記のような客観的条件の存否にかかわりなく借地法の規定する制約から解放されることになり、借地人の保護を主たる目的とする同法の趣旨にそわない結果を招来するにいたるからである。したがつて、右の見地に立つて考察するときは、原審が、前記理由のもとに、本件賃貸借に借地法一一条の適用がないとしたことは、違法たるを免れない。
しかしながら、原審の認定するところによれば、本件賃貸借は被上告人の上告人に対する建物収去土地明渡請求事件についての裁判上の和解において成立したというのであり、また、右賃貸借において期間が一〇年と定められたのは、被上告人が右期間内に限り右土地を賃貸し、上告人がその期間内に限り、右土地を賃借し、その期間経過とともに地上建物を収去して土地を明渡すことを約したに基づくということを認めるに難くなく、右の事実、および本件賃貸借成立にいたる経緯に照らせば、本件和解当事者である上告人と被上告人は、期間の点につき借地法の規定の適用を受くべき契約を締結する意思がなかつたものと認め得るのである。しからば,本件賃貸借は一時使用のものであつたというべく、したがつて、原審が裁判上の和解を理由として、本件賃貸借に借地法一一条の適用がないとしたのは違法であるが、その違法は判決の結果に影響を及ぼすものでない。」と判示している(最判昭43・3・28民集22・3・692)。
慎重な対処の仕方と言えるでしょうが、前述のように裁判上の和解の実務においては、借地法や借地借家法の強行法規があることは十分認識された上で条項の判断がなされており、その上で現実の紛争の諸般の具体的な事情を考慮して適法かつ妥当な和解条項の設定がなされていることが一般的であることから、このような最高裁判所の立場に立ったとしても和解調書の条項は尊重される傾向にあると考えられます。よって、特殊な事情が無い限りは裁判上の和解にしたがって、期間の満了とともに賃借人に対して土地の明け渡しを求めることができると言ってよいでしょう。
第2条 借地権ノ存続期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ60年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ30年トス
但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
2 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付30年以上、其ノ他ノ建物ニ付20年以上ノ存続期間ヲ定メタルトキハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
第9条 第2条乃至前条ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
第11条 第2条、第4条乃至第8条ノ2、第9条ノ2(第9条ノ4ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)及前条ノ規定ニ反スル契約条件ニシテ借地権者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス
(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
(強行規定)
第九条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
(一時使用目的の借地権)
第二十五条 第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。