新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1040、2010/7/14 15:29 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、執行猶予中の犯罪、再度の執行猶予、ダブル執行猶予、起訴前の対応】


再度の執行猶予(ダブル執行猶予)の条件

質問:私は窃盗罪で懲役1年執行猶予3年に処せられ現在執行猶予中なのですが、スーパーでレジを通らず1000円程度の日用品の万引容疑で警察署に逮捕されました。執行猶予期間はまだ1年2カ月程残っています。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1.貴方は重大な場面に直面しています。弁護人と直ちに協議し対策を立てなければいけません。
2.本件では、弁護人が、直ちに担当警察官に面会して被害者側とは示談するので送検しないように協議することが必要です。
3.検察庁に送検された場合、勾留請求(刑訴207条、208条、60条。刑訴207条により刑訴60条以下の被告人の法廷への出頭、刑の執行確保のための勾留が被疑者の捜査取り調べ確保のために準用されています。裁判所または裁判長と同一の権限を有するという文言は解釈上準用の意味です。)しないように担当検察官と面談し意見書を提出して要請する必要があります。
4.検察官が勾留請求した場合、勾留質問(刑訴61条)で裁判所に勾留却下を求めて裁判官と面接し意見書を提出する必要があります。
5.次に、勾留が認められたら起訴前に何としても示談して不起訴処分(刑訴248条)を要請する必要があります。
6.最終的に、略式手続(刑訴461条)により罰金に処せられた場合、執行猶予の任意的取消を避けるため、異議の申立(刑訴615条)をして罰金の確定を回避して正式裁判を求め控訴、上告手続きを取り勾留期間満了後に、最高裁で判決が確定(刑訴418条、415条、最短で言渡し後10日経過後。)するように手続きして、懲役1年6月の執行猶予の取り消しを回避することが必要になるでしょう。略式手続による罰金ではなく、正式の公判を請求(懲役刑の求刑)された場合も同様です。
7.正式裁判を求め起訴された場合、再度の執行猶予は特別の事情がない限り認められません(刑法25条1項、2項)。1000円の万引きで、示談をしても特別の事情とは認定されないと思われます。特別の事情とは、過失犯、道交法違反事件等の情状等において違法性、責任が少ない軽微な罪を犯した場合に限られるでしょう。
8.但し、裁判期日が重なり控訴審の判決日より前に執行猶予期間が満了していれば、事情により執行猶予が付される可能性が大きいと思います。本件では、逮捕の日時から1年2カ月も執行猶予の期間が残されており、事実上控訴審での執行猶予付き判決は困難です。
9.執行猶予期間内に今回の罪の懲役刑が確定すると、前回の執行猶予は取り消されますので(刑法26条、罰金の場合は任意的取り消しです。刑法26条の2)、今回の懲役刑と併せて刑に服することになります。従って、起訴前の弁護、対策如何が貴方の今後を左右することになります。


解説: 
1.(執行猶予期間中に罪を犯した場合の原則)
 執行猶予期間中に罪を犯した場合には、執行猶予期間中裁判所は被告人に対して再度の執行猶予を付けることは原則としてできません(刑法25条1項1号、2項)。執行猶予期間中ですから、裁判所が、判決を言い渡す時に執行猶予期間が経過していれば理論上執行猶予付き判決を言い渡すことができるわけです。以上が原則であり、現在、貴方は執行猶予期間中であっても前回禁固以上の刑に処せられたものですから、刑法25条1項1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に該当しませんので、再度執行猶予付き判決を言い渡すことができないわけです。25条の文言は難解な点がありますので注意して読んでください。
 勿論、裁判所が判決を言い渡す時に、執行猶予の期間が経過していれば、期間経過の効果として当該判決の言い渡しは効力を失い「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」ということになり、貴方に執行猶予付き判決を言い渡すことができますが、執行猶予期間満了まであと1年2カ月も残っており、第一審は争点がなければ起訴から3か月程度で終了しますので、再度の執行猶予付き判決は期待できません。控訴審も争点がなければ控訴提起後3か月前後で終了しますので、やはり執行猶予の判決はできません。控訴審までが事実上の事実審(理論的には法律審)ですから(上告審は事後審制で法律審ですから控訴審時点での判断となります。)、上告後上告審の裁判が言い渡されるときに執行猶予の期間が経過していても(経過していなければ勿論執行猶予は問題になりません。上告審も争点がなければ3か月程度で裁判が行われます。)、もはやこれを破棄して執行猶予の判決(執行猶予の期間が経過していますので再度の執行猶予の判決とは異なります。)を言い渡すことはできません。

2.(例外としての再度の執行猶予、「特別の酌量すべき事情」とは何か)
 以上の原則の例外があります。それは25条2項に規定されています。すなわち、仮に執行猶予期間中であっても、今回の罪で言い渡される刑が懲役(又は禁固)1年以下であり「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という条件がそろった時に再度の執行猶予が許されます。
 貴方の場合、1000円の窃盗ですから、懲役としては1年以下になる可能性もありますが、「特別の酌量すべき事情」には該当しないと考えられます。「特別の酌量すべき事情」とは犯罪の情状が特別に軽微であり実刑を科する必要性が認められないような場合です。事情すなわち情状は、刑訴248条の記載要件「 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況」が要素になります。具体的にいえば、違法性、責任が少ない過失犯及びこれと同程度の違法性、責任が軽微な犯罪ということになります。例えば道交法違反等が考えられます。刑法の一般的故意犯には特別な情状は基本的に認定されません。
 最初の執行猶予の条件は、条文上「情状により」と規定しているのに対し「特別の」と規定しているところからその情状は最初の執行猶予の時よりさらに要件が厳格になります。執行猶予自体が例外的に刑の執行を猶予するので、その要件はさらに厳しくなるわけです。そもそも執行猶予の趣旨は、刑務所における短期自由刑執行の社会的弊害を回避し、前科というレッテルの付与を回避できるという希望を被告人に持たせることにより(執行猶予期間を経過すると刑の言い渡しが効力を失う。刑法27条。)、また、刑を執行されるかもしれないという警告により、再犯を防止して犯罪者を教育し社会秩序を維持することを目的としています。しかし、執行猶予中にさらに罪を犯したのですから、執行猶予制度の警告は当該犯罪者に対して効果がないことが明らかになったのであり、新たな法社会秩序に対する挑戦とも考えられ、再度の執行猶予は許されないのが当然です。従って、例外の例外は許されず再度の執行猶予には特別の情状が要求されることになります。

3.(判例)東京高裁平成10年4月6日判決(道路交通法違反被告事件)。懲役六月、五年間執行猶予の判決を受けていた酒気帯び運転の常習性を有する被告人が、再度同犯罪を行ったが、第一審は再度の執行猶予認め懲役3月施行猶予5年(保護観察)としたが、東京高裁で破棄され懲役2月の実刑判決となった事案です。被告人は、第一審判決前期日を延期し5カ月間社会奉仕活動(在宅福祉サービス協力会員)を行った点が第一審で評価されたが、常習性があり妥当な判断と考えられる。この判決からいえば、悪質な道交法違反でも再度の執行猶予がつかないことになります。
 高裁判決の内容です。「本件の原審審理は、平成九年四月一七日の第一回公判期日で終了し、五月一五日に判決宣告期日が指定されたところ、その直前になって弁護人から、被告人が在宅福祉サービス協力会員の登録申請をしたことを理由として期日変更の申請があり、これに異議がないとの検察官の意見を受けて、原審裁判所は、すでに指定済の判決宣告期日を変更して追って指定とした、そして、約半年後の一〇月一三日に第二回公判期日を開き、そこでその間の活動状況に関する書証の取調べと被告人質問を行い、一一月一〇日の公判期日で論告と弁論を終え、一二月一日に原判決を言い渡したのである。右にいう被告人の社会奉仕活動は、今回、弁護人らの勧めにより贖罪のために始めたものというのであるから、見方によっては一種の公判対策といえなくはない。もとより、そのような動機で始めたものであっても、被告人はその活動を現在もなお続けているから、その点は十分評価できる。しかし、刑の量定は、あくまでも犯罪行為に対する評価を中心としてなされるべきが原則であり、そのことによって各行為者に対する刑罰の公平さもある程度保たれるのである。社会奉仕活動を通じての貢献などの事情は、犯行後の被告人の態度の一つとして考慮されてよいが、その考慮にはおのずから限界があることを忘れてはならない。原審裁判所が右の事情を量刑上取上げたいあまり、通常考えられる審理期間をことさら引き延ばした点は、到底公平妥当な措置とはいえず、是認できない。そうしてみると、被告人のため斟酌できる前述の諸事情を十分考慮しても、本件は、前記のとおり、酒気帯び運転の常習者である被告人が、酒気帯び運転による執行猶予期間中に、またまた同様の酒気帯び運転をしたという事案であり、これを基本として本件全体の情状を直視するときは、到底再度の執行猶予が相当の事案といえないことは明らかで、原判決の量刑は軽きに失し、是正が必要である。論旨は理由がある。」

4.(判例)大阪高裁平8(う)1130号、平成9年5月27日判決(道路交通法違反被告事件)。前科9犯の被告人が懲役一年二月、四年間刑の執行猶予の判決を受け、その猶予期間中に無免許運転を行った事案ですが、第一審は 震災の被災者の訪問などのボランティア活動をしたことによる点を評価して懲役三月二年間保護観察付で刑の執行を猶予した判決を宣告したが大阪高裁は、これを破棄して懲役3月の実刑を科しています。同種前科がありやむを得ない判断でしょう。

5.(判例)東京高裁昭和31年10月30日、窃盗で懲役1年執行猶予3年を受けた被告人が再度、窃盗(4000円相当)を犯したが、被害者は実父の内縁の妻であり、被害者も宥恕しているので再度お執行猶予を認めたものです。親族相盗例(刑法244条、刑の免除。)に実質上該当している特殊事情があり特別な判決です。実父の内縁の妻でなければ再度の執行猶予は困難でしょう。

6.(判例)最高裁判例昭和32年2月6日判決。執行猶予中でも、最初の判決の罪の余罪であり一括して起訴されていれば、執行猶予が付されたような場合は法適用の公平上執行猶予も可能である旨判断しています。この場合は、刑法25条2項の再度お執行猶予の問題ではなく、25条1項「前に禁錮以上の刑に処せられ」という文言を制限的に解釈して余罪の場合は「前に禁錮以上の刑に処せられた」に該当しないと判断しています。以上のように判例上も執行猶予中の犯罪は例外、特別な場合を除き執行猶予は付されないものと考えられます。

7.(逮捕直後の対応)
 前述のように、公判請求となり刑事裁判になれば再度の執行猶予はほぼ望みがないように思います。従って、何としても起訴を阻止することが大切です。至急弁護人を依頼して何としても被害届の取り下げ、告訴取り消しの手続きを行うことです。窃盗罪は親告罪(告訴が起訴の条件となっている犯罪)ではありませんが、告訴、被害届がなければ被害者の処罰感情、意思を確認できないし証拠保全が困難なため捜査は継続しないようです。本件の被害者はスーパーですが、経営者と至急協議し手続きを取ることが肝要です。スーパーがチェーン店の場合、店長が本部の決裁を取る必要上、困難性がありますが直接店舗に行き事情を説明し被害額が低額なので店長決済で終了させる交渉が必要です。店長決済でも有効な文書であり問題はないでしょう。

8.(警察署に対する対応)
 本件の被害額が1000円ですから、本人、家族の謝罪文、貴方の家族の身元引受書、被害弁償、謝罪金(金額は高額な程有効です。例えば100万円。法治国家において法的償いは金銭賠償以外にありません。)被害者に迷惑をかけたという誓約書等をそろえ、担当捜査官と交渉することが必要です。勿論、時間的に無理な面もありますが、被害届、告訴取り消し、示談書の書類ができればこれも追加します。しかし、執行猶予中ですから捜査機関の立場からすると起訴が視野にあり送検がなされる可能性は大きいと思います。しかし、現実の謝罪、提案は不利益に作用することはありません。捜査機関担当者によっても対応が異なりますので最大限の謝罪が必要です。

9.(検察庁に対する対応)
 勾留請求を阻止すべく、基本的に警察署に対する方法と同じになります。必ず前記書類を添付した意見書が必要です。高額な被害弁償(例えば100万円以上)、告訴取り消し、被害届取り消しがあれば考慮してくれるはずです。諦めてはいけません。検察官の裁量は担当者個人により意外と広い場合があります。

10.(勾留質問に対する裁判所に対する対応)
 勾留請求されても裁判所に対しては勾留却下を求め書類を添付して意見書を提出します。執行猶予中の犯罪であれば、必ず勾留請求が認められるという決まりは勾留の要件を定める刑訴60条にありません。ここで釈放されれば起訴まで時間がありますので示談に集中することになります。勾留請求が認められた場合、諦めず準抗告も考えましょう。起訴されたら実刑を覚悟しなければいけませんし、執行猶予も取り消され併せて刑の執行を受けることになるからです。

11.(起訴された場合の対応)
 執行猶予期間満了まで1年2カ月ありますが、勾留延長されていれば残り1年1カ月強です。第一審審理、控訴高裁審理、上告最高裁審理について各4カ月経過すれば執行猶予の取り消しを回避できる可能性が残されています。刑事訴訟法第1条で「刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現する」目的が定められておりますので、刑事裁判を故意に引き伸ばすことは認められませんが、証拠調べを詳細に行うよう求めることは可能です。例えば、被害者が弁護士からの示談提案に対して全く連絡を拒否しているような場合は、被害者の意思が確認できないとして検察官提出の甲号証のうち被害者の調書を不同意にして文書成立の真正を争う方法が考えられます。それでも、一般的に、各審理を4カ月以上かけることは困難と思われます。

12.(控訴審での対応)
 控訴審は事後審制ですからその性格は法律審になります。事後審制 は原審の記録を基にして原則的に第一審の判決の当否を事後的に判断するので、基本的に新たな事実主張を許さず、法律の解釈適用は裁判所の専権に属しますから(憲法76条)控訴審で弁護人(又は検察官)の主張は原審判決の当否に関する単なる意見にすぎないわけです。しかし、原審判決後に生じた事情(又、原審で主張できなかった事情)も適正、公平な判断のため例外的に主張を許しています(すなわち刑訴382条の2は 事後審制 の例外であり続審制との折衷を図っています)。事後的に、第一審の判決が法律の適用解釈上誤りがないかという点から判断することになるので法律審とも呼ばれ期間も争点がなければ3カ月程度で終了さることになります。提出の通知送達日の翌日から計算して21日以上と規定されている(刑事訴訟規則236条3項、上告趣意書は28日以上。規則252条)控訴趣意書の提出期限を延長してもらう方法がありますが、例えば、法律的争点があること、被害者と示談できない特別の事情(被害者が弁護人事務所から遠方におり面会が困難)、被告人と協議できない事情(遠方の住所にお住まい、仕事が海外等。)等考えられますが、本件では困難と思われます。

13.(上告審での対応)
 基本的に上告審は、事後審制、法律審であり、検察官、弁護人の新たな事実関係の主張は許されません。上告趣意書は、控訴趣意書と異なり1週間ほど長い28日以後の日が提出期限となりますが、すなわち趣意書提出の通知送達日の翌日から計算して28日以上と規定されていますが(刑事訴訟規則252条2項)、特別争点がなければ通常1カ月が提出期限となるでしょう。上告趣意書提出期限の延長が特に認められなければ上告後3か月程度で上告審も終了します。尚上告審の確定は判決後、判決に関する誤記訂正の申立期間経過後になります(刑訴418条、415条、最短で判決宣告の日後10日経過後。勿論言い渡しの日は含まれません。刑訴55条1項)。最終審なので、事実認定、法律の解釈、適用の権限は裁判所にありますが、判決の内容の適正を保全するため当事者である検察官、被告人、弁護人に申立権(意見)を認めています。本条の趣旨から誤記、書き損じ、計算違い等でも申立が認められるでしょう。

14.(まとめ)以上計算いたしますと争点がなければ、逮捕から10カ月前後で裁判は終了する可能性が高く 執行猶予の残期間が1年2カ月も残されているので、懲役刑が言い渡されれば執行猶予は取り消されることになります。本件では、起訴前に弁護人との詳細な対策、協議が必要でしょう。

《条文参照》

刑法
第四章 刑の執行猶予
(執行猶予)
第二十五条  次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

憲法
 第六章 司法
第七十六条  すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
○2  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
○3  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第六十一条  被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
第二百四条  検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2  検察官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3  第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4  前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。
第二百五条  検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2  前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
○3  前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○4  第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5  前条第二項の規定は、検察官が、第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
第二百六条  検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
○2  前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
○2  前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
○3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4  裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第四百十五条  上告裁判所は、その判決の内容に誤のあることを発見したときは、検察官、被告人又は弁護人の申立により、判決でこれを訂正することができる。
○2  前項の申立は、判決の宣告があつた日から十日以内にこれをしなければならない。
○3  上告裁判所は、適当と認めるときは、第一項に規定する者の申立により、前項の期間を延長することができる。
第四百十六条  訂正の判決は、弁論を経ないでもこれをすることができる。
第四百十七条  上告裁判所は、訂正の判決をしないときは、速やかに決定で申立を棄却しなければならない。
○2  訂正の判決に対しては、第四百十五条第一項の申立をすることはできない。
第四百十八条  上告裁判所の判決は、宣告があつた日から第四百十五条の期間を経過したとき、又はその期間内に同条第一項の申立があつた場合には訂正の判決若しくは申立を棄却する決定があつたときに、確定する。
第六編 略式手続
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第四百六十一条の二  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
○2  被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第四百六十二条  略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
○2  前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第四百六十三条  前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○2  検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
○3  裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
○4  第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。
第四百六十三条の二  前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
○2  前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
○3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第四百六十四条  略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。
第四百六十五条  略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
○2  正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。
第四百六十六条  正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。
第四百六十七条  第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。
第四百六十八条  正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。
○2  正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○3  前項の場合においては、略式命令に拘束されない。
第四百六十九条  正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。
第四百七十条  略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。

刑事訴訟規則
第二章 控訴
(訴訟記録等の送付)
第二百三十五条 控訴の申立が明らかに控訴権の消滅後にされたものである場合を除いては、第一審裁判所は、公判調書の記載の正確性についての異議申立期間の経過後、速やかに訴訟記録及び証拠物を控訴裁判所に送付しなければならない。
(控訴趣意書の差出期間・法第三百七十六条)
第二百三十六条 控訴裁判所は、訴訟記録の送付を受けたときは、速やかに控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定してこれを控訴申立人に通知しなければならない。控訴申立人に弁護人があるときは、その通知は、弁護人にもこれをしなければならない。
2 前項の通知は、通知書を送達してこれをしなければならない。
3 第一項の最終日は、控訴申立人に対する前項の送達があつた日の翌日から起算して二十一日目以後の日でなければならない。
4 第二項の通知書の送達があつた場合において第一項の最終日の指定が前項の規定に違反しているときは、第一項の規定にかかわらず、控訴申立人に対する送達があつた日の翌日から起算して二十一日目の日を最終日とみなす。
(訴訟記録到達の通知)
第二百三十七条 控訴裁判所は、前条の通知をする場合には、同時に訴訟記録の送付があつた旨を検察官又は被告人で控訴申立人でない者に通知しなければならない。被告人に弁護人があるときは、その通知は、弁護人にこれをしなければならない。
(期間経過後の控訴趣意書)
第二百三十八条 控訴裁判所は、控訴趣意書を差し出すべき期間経過後に控訴趣意書を受け取つた場合においても、その遅延がやむを得ない事情に基くものと認めるときは、これを期間内に差し出されたものとして審判をすることができる。
(上告趣意書の差出期間・法第四百十四条等)
第二百五十二条 上告趣意書を差し出すべき最終日は、その指定の通知書が上告申立人に送達された日の翌日から起算して二十八日目以後の日でなければならない。
2 前項の規定による最終日の通知書の送達があつた場合においてその指定が同項の規定に違反しているときは、その送達があつた日の翌日から起算して二十八日目の日を最終日とみなす。

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