養育費の請求・成人大学生の授業料・家のローンは婚姻費用となるか

民事|別居の婚姻費用|養育費|婚姻費用分担義務

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私には,夫,大学4年生(22歳)の長男,私立高校2年生(17歳)の長女,小学6年生(12歳)の次女がいます。私は不動産会社に勤務しており,年収300万円ほどあります。私の夫は,大手メーカーに勤務しており,年収は1500万円ほどあります。

先般,夫の浮気が発覚し,それを私が問い質したところ,夫は家を出ていってしまいました。私が現在子どもたちと居住しているマンションは3年前に購入したもので,夫と私の共有名義になっていますが,そのローンは夫名義になっています。

これまでは,夫から渡される生活費の中から私がローンの支払を続けてきました。夫は,家を出て行ったきり,生活費を渡してくれなかったので,生活費を入れるよう頼んだところ,夫には,これまで私が家事を怠ってきたことや私の過去の異性関係を理由にそれを拒まれてしまいました。

私としては,現段階では夫と離婚することは考えておりませんが,夫には何としても生活費を支払ってほしいと思っています。私が保有している預貯金の中だけからは長男の学費を支払うことはできませんので,父親である夫に長男の学費を負担してほしいと思っています。また,子どもたちの環境を変えることは避けたいので,これまでどおり夫にローン分も含めて生活費を入れてもらい,現在のマンションに引き続き居住したいと思っています。

私は夫に対し,どれくらいの生活費を請求できますか。

回答:

1.長男は成人ですが,大学生で生活能力がないですし,夫が了解のうえ入学していますので,両親の学歴等経歴にもよりますが生活費,学費を婚姻費用として基本的に請求可能でしょう。

2.家事を怠っていたこと,過去の異性関係を理由に婚姻費用の支払いを拒否することはできませんし,別居を理由に支払いを拒めません。

3.夫名義の銀行ローンは,夫独自の負債ですから,妻の生活費に含まれないので婚姻費用(生活費)の一部として請求はできません。唯,夫のローン支払いにより居住費がかからないので,居住費相当分は婚姻費用から控除されることになるでしょう。

4.具体的計算は事務所ホームページ「婚姻費用分担請求について(最終改訂令和2年11月10日)」,参照してください。

5.養育費に関する関連事例集参照。

解説:

1.婚姻費用分担義務(民法760条)について

 婚姻費用は,夫婦と未成熟子を中心とする婚姻家族が,その財産,収入,社会的地位に応じて通常の生活を保持するために必要な費用をいい,その内容は,当該配偶者自身の生活費と未成熟子の養育費を中心として構成されます。夫婦は,互いに協力し扶助しなければなりません(民法752条)が,これは夫婦が別居した場合でも同様で,別居後も互いに婚姻費用分担義務を免れるわけではなく,義務者は自己の生活を保持するのと同程度の生活を権利者に保持させる義務(生活保持義務といわれています。)を負っています。婚姻の本質は,精神的,肉体的,経済的に一体となって家庭共同生活を支えあい,互いの個人の尊厳を充実させ高めあうことにありますから当然の義務といえるでしょう。法的には私有財産制(憲法29条)により,夫婦でも財産関係では基本的に各々独自の財産所有が認められる夫婦別産制(民法762条)が取られていますので,夫に対して妻が婚姻関係を根拠に権利として婚姻費用を請求するということになります。

 もっとも,義務の内容については,民法760条は「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定するのみであって,具体的な義務内容については家庭裁判所の合理的裁量に委ねられています。最近では,東京・大阪養育費等研究会の提案にかかる養育費・婚姻費用の算定方式及び算定表(以下「標準算定方式及び標準算定表」といいます。)が実務上定着したことにより,算定の簡易迅速化が図られていますが,なお当事者の収入認定等,判断に当たって個別の検討が必要な事例も少なくありません。

 本件においては,あなたが3人の子と同居し,あなたの夫が単身で生活しており,夫の基礎収入の方があなたの基礎収入よりも大きいので,あなたには夫に対し婚姻費用の分担を請求する権利があります。

2.本件における問題点

 まず,本件において問題となる点は次のとおりです。

 (1)長男は22歳で成人であるが,養育費が発生するのか。発生するとして大学の授業料も養育費として負担させられるのか。

 (2)婚姻費用の算定にあたり,別居の理由は考慮されるのか。

 (3)婚姻費用から住宅ローン支払額は控除されるのか。

 それでは,問題点を個別に検討していきましょう。

3.長男についても養育費は発生するのか

 養育費とは,未成熟子が社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用をいいます。養育費支払義務の終期については,一般的には未成熟子が成年に達したときとする扱いが多くなっていますが,未成熟子がその家庭の生活レベルに相応した自立した社会人として成長するために必要な費用の多くが養育費に含まれますので,父母の学歴,生活レベルなどから,子に大学教育などの高等教育を受けさせることが親の生活水準と同等の生活水準を維持させるために必要といえる場合には,子が大学を卒業するまでは社会的に独立していない未成熟子とされ,成年以後に必要な授業料なども教育費として請求しうるとされています。また,既に成年に達し,現在医科大学に在学中の長男の学費について,進学に関して夫の了承を得ておりかつ夫の資力に照らしその就学が当然と認められる場合には養育費に含まれるとした裁判例もあります(大阪家決昭和47年12月13日)。

 従って,現在大学に在学中の御長男の学費については,進学に関して夫の了承を得ており,あなたやその夫の学歴や生活レベルなどと照らして大学教育を受けさせることが親の生活水準と同等の生活水準を維持させるために必要といえる場合には,その学費は養育費に含まれるといえます。また,この場合,大学へ通学している以上自己の資産又は労力で生活をすることができる能力がないので,日常の生活費等についても養育費に含まれるといえます。

4.婚姻費用の算定にあたり,別居の理由は考慮されるのか

 義務者に別居ないし婚姻破綻の主たる責任がある場合には,自己と同程度の生活を保持するに足る婚姻費用分担義務を認める一方,権利者が自ら不貞をして家を出た場合のように,別居に至った原因が専ら又は主として権利者のみに存する場合には,分担額は権利者が現に監護している未成熟子の養育費相当分に限られ,権利者の分については分担義務がないと扱われているのが大勢のようです。その際には,別居に至った経緯,破綻の原因,回復への努力など,その有責性の度合,資産,収入,職業能力などが考慮され,これらの諸般の事情を総合考慮の上,分担額が決定されます。

 従って,あなたの過去の異性関係に関する事情が別居理由に影響を与えているのであれば,婚姻費用の算定の際に考慮されてしまうことになります。しかし,過去の異性関係が別居に影響を与えているとは通常考えられませんから,特別な事情がある場合を除いては婚姻費用の減額される事情とは言えないでしょう。

5.婚姻費用から住宅ローンは控除されるのか

 標準的な住居関係費については,当然に婚姻費用に含まれ,標準算定方式及び標準算定表においては,特別経費として既に考慮されています。しかしながら,実際の住宅ローンの支払額は,標準算定表において考慮されている標準的な住居関係費と比較して高額であることが多いため,義務者の負担が過大となる場合もあります。また,義務者が自宅を出て別居又は離婚をした後も,権利者の居住する自宅の住宅ローンを支払っている場合には,権利者は自らの住居関係費の負担を免れる一方,義務者は自らの住居関係費とともに権利者世帯の住居関係費を二重に支払っていることになってしまいます。権利者が自宅での居住を希望しているために,義務者が高額の住宅ローンの負担を余儀なくされている場合もあります。

 このような場合には,婚姻費用の算定にあたって住宅ローンを考慮しますが,住宅ローン支払額全額が控除されることは通常はありません。なぜなら,住宅ローンの支払には,義務者の資産を形成するという側面もありますので,算定表による算定結果から住宅ローンの支払額全額を控除することは,生活保持義務よりも資産形成を優先させる結果にもなってしまいますので,妥当ではないからです。具体的な控除額は,個々のケースによって様々です。

 ご質問では,住宅ローンを含めて婚姻費用を定めて欲しいということですが,住宅ローンは債務の名義人である夫が支払うべきもので,これを婚姻費用に含めて妻が支払うようにすることは,話し合い(調停)であれば可能でしょうが,審判となった場合はそのような扱いはできないでしょう。審判であればあくまでローン会社に対する支払義務者は夫ですのでそれは婚姻費用とは別に扱われることになります。

6.請求額の算定

 上記標準算定方式及び標準算定表によれば,御長男も養育費分担の対象となる子に含めると月額30万~32万となりますので,この金額から,大学生となっている子供の学費を加算し,また住宅ローン支払額の一定割合を控除(住宅ローンは夫が生活費とは別に支払う)した金額が,あなたが夫に対し分担を請求することができることになります。

 請求の方法ですが,夫との間で話し合いができないのであれば,家庭裁判所へ調停を申立てる方法があります。詳しくはお近くの弁護士に相談するとよいでしょう。

以上

関連事例集

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※参照条文

民法

(同居,協力及び扶助の義務)

752条 夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。

(婚姻費用の分担)

760条 夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。

(夫婦間における財産の帰属)

762条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。