新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1098、2011/4/28 14:20

【民事・地震、津波によるリース器機の被害と支払い義務・事情変更の原則と信義則・計画停電と賃金請求】

質問:このたびの震災により、宮城県沿岸部にあったオフィスが津波の被害を受け、リース物件であるコピー機が完全に使えなくなりました。リース会社に連絡したところ、津波の場合は保険の対象外で、残リースを支払い続けなければならないそうです。正直言って、とてもそんな体力はありません。なんとかならないものでしょうか。

回答:
1.経済産業省がリース業者に対して支払い猶予等の措置を申し入れたところでもあり、なんらかの対策が望まれるところですが、契約上は、通常特約が定められており、債務者(リース業者)の責任の無い理由により履行が不能になった場合を規定する危険負担に関する民法の一般原則(民法536条、リース料支払い不要)が排除され支払義務を免れないケースがほとんどのようです。しかし、契約条項の定め方によっては、その効力を争う余地があるかもしれません。
2.危険負担の規定は基本的に任意規定です。地震、津波は、天災である台風等とは異なり数十年間隔で発生するものであり、被害者の不利益が一般的に予測を超える点から、天災による被害者側の不利益受忍の特約を公序良俗に反するとまで言い切れるか問題があります。しかし、予期せぬ事態であり、信義則、事情変更の原則(民法1条)の類推により損害の公平な分担が図られるべきで個別的交渉の余地は残されていると思います。唯、事件の性質上(津波の頻度が高くないので)、被害者の不利益特約を無効としている判例はまだないようです。事情変更の原則は、第一次大戦後ドイツの急激なインフレに対応するため考えられたもので、理論的に、@契約当時全く予想できなかった事情の発生。A事情変更が当事者の責めに帰さない理由によること。B事情変更により当事者にとり社会生活上重大な事態であること。C契約を守らせることが著しく公平に反することと解釈されています。尚、民法609条、610条、地借家法11条、32条は、事情変更の原則の考え方を参考にしているといわれています。
3.自分でできなければ、お近くの弁護士に詳しい相談をされることをお勧めいたします。
4.事情変更の原則については、法律相談事例集キーワード検索で951番695番138番を参照してください。

解説:
1.リース契約
 事業に使う高価な機器等を使用する場合、賃貸借契約を締結して借りる場合、リース契約を締結する場合、あるいは自社で購入する方法が考えられます。このうち、リース会社から賃借して使用することをリース契約といいます。現在一般的に利用されているリース契約は、メーカー等のもともとの所有者から直接賃借するのではなく、リース会社が間に入っていったん目的物を買い取り、リース会社が所有権を保持した状態で利用者に目的物を使用させ、長期間にわたってリース料を受け取ることで、購入代金等の費用を回収するものです。形式的にはリース会社と利用者との賃貸借のようですが、実質的にはリース会社に購入代金を融資してもらい、その後分割返済していくのと同じ機能を果たしています。
 ファイナンシャル会社を利用して自ら購入して分割払いをするか(売買契約と割賦払い契約)、リース契約を締結してリース料を支払うか、どちらかを選ぶかは、法律の問題ではなく経営の問題になりますが、トータルでの代金の支払い額、税務上の問題等を総合的に判断する必要があります。一般的にリースを選ぶ利点は管理費や保険料等の将来のコストが確定できること、購入して減価償却するよりも短期に経費として計上できることと説明されています。

2.動産総合保険
 賃貸借契約では、賃貸の目的となっている物が消滅すれば賃貸借契約は終了してしまい、その後の賃料は支払う必要はありません。これは、賃貸借契約の本質に基づくものですから、当事者の合意により変更することはできません。賃貸物件が消滅した後も賃料を支払うという約束はできません。そこで賃貸人としては、損をしないように賃貸物件について保険をかけておく必要があります。
 他方、一般的なリース契約においても、リース会社は目的物に動産総合保険をかけています。リース契約においては、リース物件が消滅した場合も、リース料は支払わなければならいという特約条項が契約書に記載されています。次のような条項です。
 「甲(利用者)は、物件の引渡後返還までの間に、物件が紛失、盗難、火災、風水害等によって滅失、毀損した場合でも、その責が乙(リース会社)に帰す場合を除き、本契約上の債務を履行します。」
 リース契約が賃貸借契約とは異なる実態を有していることからこのような特約も有効とされています。従って、リース会社としては損をする心配はありません。しかし、そうすると利用者が不利益を受けてしまうことから、リース会社が目的物に動産総合保険をかけて目的物が消滅しても保険で新しいものが用意できるようにしています。
 このように、動産保険によってリース会社と利用者の利益が確保されています。しかし、保険会社によって多少の差はありますが、一般的には、火災、落雷、盗難、台風等の偶発的な事故による損害についても保険でカバーされていますが、地震、噴火、津波による損害は、通常の動産総合保険ではカバーされていません。つまり、津波でリース物件が壊れてしまった場合には、保険が下りないのです。そこで、津波でリース物件が壊れて使えない場合、保険は出ないので新しい機械は利用できないのに、リース料は特約で支払わなければならないということになってしまいます。このように、契約の目的物についての損失を契約当事者のどちらが負担するかという問題は「危険負担」として民法に規定されていますので、その点について説明します。

3.危険負担免責特約
(危険負担の原則)
 危険負担とは民法534条以下に規定されていますが、例えば労働契約のように当事者が互いに対価的債務(賃金支払いと労務の提供)を負担する双務契約において、債務履行前に一方の債務(労働者の労務提供義務)が債務者(労働者)の責めに帰さない理由(交通機関のストで会社に行けない。労働者の責任なら履行不能による債務不履行の問題。使用者の責任なら危険負担の問題となり、民法536条2項で賃金請求は可能。)で消滅した場合、他方の債務(賃金支払い債務)はどうなるかという問題です。
 危険負担の基本は、他方の債務は消滅するという原則です。これを危険発生による損害を履行不能となった債務者側が負担して債務者が持っている反対請求権(賃金請求権)も消滅することから債務者主義といいます(順序が後になっている民法536条が原則を規定しています)。
 すなわち、対立する残された債務も消滅することになります(民法536条)。債務者(労働者)の責任がないのに債務が消滅していますが、双務契約における債務の対価性を重視して公平を図る観点から対立する債務(賃金請求権)も消滅することになります。唯、仕事に就けないという履行不能が債権者の責任の場合(使用者が理由なく労働を妨害した場合)公平上反対債権(賃金債権)は消滅しません(536条2項)。労働法の特殊性から労働基準法26条(6割以上負担)がありますが、理論的には賃金を全額請求できます(最高裁判例も同趣旨、最高裁判所昭和62年7月17日判決ノースウエスト航空事件、後記判例参照。26条の存在意義は民法の責めに帰すべき事由より、広く解釈して労働者の生活を保護する点にあります。すなわち使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むもことになります。)。

 これが民法の一般原則なのですが、売買のように特定物の物権の設定、移転は例外的に、債権者主義が採用されています(民法534条)。例えば建物の売買で隣の失火で建物が焼失した場合、その危険は債権者である買主が負担し、債務者である売主は売買代金請求ができるようになっています。これは、物権変動に関する意思主義により売買の意思表示時点で、相手方に権利が移転するという民法176条に忠実な解釈を行い、権利(利益)が移転するのでそれに伴い買主(債権者)が危険も負担するので売主は代金を請求できることになります。契約だけで引き渡しを受けていないのに結果的に建物を受け取れず代金は支払うことになり、立法論的におかしいという批判があります。従って、実際上の契約では特約で排除される場合がほとんどでしょう。危険負担は、予期せぬ事態における当事者の紛争を解決する一般基準を示すもので任意規定であり、当事者の合意により変更できることになっています(民法91条)。

 以上、債務者主義の原則を、民法は次のように規定します。
 民法536条1項:前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

 リース契約に即して考えると、履行することができなくなった債務とは、リース会社が利用者に目的物を使用させる債務です。それに対する反対給付とは、リース料です。したがって、民法の原則に従えば、津波によってコピー機が使えなくなった場合には以後のリース料の支払義務を免れることになるはずです。
 しかし、この規定は任意規定で、契約当事者が合意により別の定めをすることは認められています。民法上は契約自由の原則から、契約の内容は当事者が自由に定めることができることになっています。そこで、リース契約では、リース会社が有利になるように民法の規定の適用が特約により排除されているのです。たとえば、次のような条項です。
 「甲(利用者)は、物件の引渡後返還までの間に、物件が紛失、盗難、火災、風水害等によって滅失、毀損した場合でも、その責が乙(リース会社)に帰す場合を除き、本契約上の債務を履行します。」
 このように、民法の危険負担の原則を排除する特約を締結しつつ、動産総合保険を利用することで利用者の過大な負担を抑えてはいるものの、津波の場合はそれも利用できないので結局利用者が負担を負わざるを得ないということになっているのです。

4.判例
 リース契約における危険負担免責特約の効力が争われたケースで、その効力を肯定した裁判例があります。
 事案は、利用者がリース料の支払いを遅滞したため、リース会社から一括支払いを請求されたというものでしたが、一括支払いを拒絶する理由の一つとして、リース物件が既に機能を滅失しているということが主張されました。しかし、リース契約には「物件の返還までに生じた、物件の滅失、毀損についてのすべての危険は、借主が負担する。」との危険負担免責特約があったため、その効力が争点になったのです。
 大阪地裁昭和51年3月26日判決は、まずリース契約の性質について次のように判示しました。「本件契約は 借主において貸主に先んじて目的物件の売主との間で同物件を選択、特定し、それを購入する場合の価格、納期、保守等の諸条件を決定し、その決定されたところに従い 貸主が借主に代わつて右物件を購入して借主に貸与するものであつて、右趣旨に従い貸主は右購入代金、金利その他を貸与期間中に借主から回収するものとし、右物件の使用、又は借主の更替を予定しておらず、実質的には、借主が借受物件を買受けるのであつて、貸主は、借主に貸与物件の購入資金を融資して、借主に同物件を購入したのと同一の経済的効果を与えることを意図するものと認められる。
 従つて本件契約は民法上の賃貸借契約とは、その外形が類似するものの、制度的には右法概念のみではすべて律しきれない新しい経済的制度であつて、長期にわたつて借主に支信をあたえ、機械、設備を占有、使用させることを目的とする金融的性格を有するものであり、(原告は本件契約を「リース(フアイナンシヤル・リース)契約」と呼称するので同名称に従えば、本件契約は、リース契約である。)」
 
 そして、危険負担免責特約については、「目的物件の滅失(物理的なそれのみならず、利用価値の喪失を含む)による危険負担を借主に負わせる規定についても、さきに説明したような本件契約のもつ経済的制度としての性格に即して考えねばならない。さきに認定したようなリース料金算定の方法によれば本件契約のリース料は物の使用収益の対価ではなく、貸主が借主に融資したものと考えられる本件会計機の購入代金、金利その他の経費を貸与期間で分割した返済金と考えられ、借主は目的物件の利用を買い切り、終始それを現実に支配するものである。そうして、前記甲第一号証によれば本件契約書一四条一、二項、一五条一ないし四項(なお、一四条三項は別表(12)の付随条項で排除され、保険料は、貸主が負担する。)では、貸主は借主に目的物件に保険を付すことを約していることが認められるので、借主が右物件の滅失により被る損害は右保険金で填補する措置が講じられていることが明らかである。このようにみてくると通常の賃貸借契約のように目的物件の滅失により賃貸借契約が終了し賃料支払義務が消滅するのと異り、目的物件の滅失により当然、本件契約が消滅し、借主がリース料支払義務を免れると解するのは相当でない。そうだとすると目的物件の滅失による危険負担を借主に負わせる規定が必ずしも当事者間の公平を著しく欠くものというに当らない。」と判示して、その効力を肯定しました。

5.(まとめ) 
 この判例のように、リース契約の金融的性格を強調すれば、危険負担免責特約の効力は肯定せざるを得ないものと思われます。しかし、一方でリース契約には賃貸的性格も皆無ではなく、だからこそリース会社は自ら目的物に動産総合保険を付保しているのだとも考えられます。上記判例が、危険負担免責特約の有効性判断の根拠として、「保険により損害が填補される措置が講じられている」という点を挙げていることも注目されます。保険のきかない津波被害の場合にも、危険負担免責特約が有効といえるのかどうか、改めて検討する余地はあるように思います。認めた判例はありませんが、事情変更の原則の類推適用も交渉の一方法として考えることはできると思います。
 リース物件が滅失する被害に遭われた方は、建物その他の資産にも甚大な被害を被っているのが通常と思われます。その中で、失われたリース物件のリース料を支払い続けるというのは大変に酷なことです。この問題については、国主導による抜本的な対策が必要ではないかと思います。

6.(天災による計画停電と労働者の賃金請求権)
 ちなみに、今回の津波被害による計画停電により労働者の就業ができなくなった場合、賃金請求は可能かどうかという問題があります。労働者の責めに帰さない理由で労働の提供が履行不能となったのですから、民法の一般原則からは債務者主義すなわち労働者が履行不能の危険を負担し賃金請求ができなくなります。しかし、東京電力の電気供給制限により就業ができないような体制を取っていた責任が会社側にあるのではないかという問題があります。計画停電による就業不能が、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」及び、労働基準法26条「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうか、という問題です。結論から言えば、使用者に責任を認めることはできないと思います。就業不能の直接の原因は、地震、津波による電力会社の供給体制によるものであり、会社側が電力の安定供給を前提に就業体制を整備していたとしても、就業不能に関して会社側の故意・過失を認めることはできなと思われます。以下「局長通達」も同趣旨のものがあります。

(基監発0315第1号 平成23年3月15日)(昭和26年10月11日付け基発第696号。
基監発0315第1号
平成23年3月15日
都道府県労働局労働基準部監督課長 殿
厚生労働省労働基準局監督課長
計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて
休電による休業の場合の労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第26条の取扱いについては、「電力不足に伴う労働基準法の運用について」(昭和26年10月11日付け基発第696号。以下「局長通達」という。)の第1の1において示されているところである。
今般、平成23年東北地方太平洋沖地震により電力会社の電力供給設備に大きな被害が出ていること等から、不測の大規模停電を防止するため、電力会社において地域ごとの計画停電が行われている。この場合における局長通達の取扱いは下記のとおりであるので、了知されたい。
      記
1 計画停電の時間帯における事業場に電力が供給されないことを理由とする休業については、原則として法第26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当しないこと。
2 計画停電の時間帯以外の時間帯の休業は、原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すること。ただし、計画停電が実施される日において、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて休業とする場合であって、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないこと。
3 計画停電が予定されていたため休業としたが、実際には計画停電が実施されなかった場合については、計画停電の予定、その変更の内容やそれが公表された時期を踏まえ、上記1及び2に基づき判断すること。

基発第696号
昭和26年10月11日
都道府県労働基準局長 殿
労働省労働基準局長
電力不足に伴う労働基準法の運用について
最近電力事情の悪化は、全国的問題となり、各方面に深刻な影響を与えつつあるのであるが、労働基準法の適用についても、幾多の困難な問題が生じている。然して、電力問題は、根本的には、電力の確保増強と、その需給調整により左右されるところが大きいことに鑑み、本省においては、公益事業委員会宛別紙の通り申入れを行い電力の確保と需給調整の合理化と計画化について要望したのであるが、貴局においても電力事情の実態を不断に把握し、左記要領により行政運営上万全の措置を講ぜられたい。
第1 労働基準法の運用について
1 法第26条関係
休電による休業については、原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当しないから休業手当を支払わなくとも法第26条違反とはならない。なお、休電があっても、必ずしも作業を休止する必要のないような作業部門例えば作業現場と直接関係のない事務労働部門の如きについてまで作業を休止することはこの限りでないのであるが、現場が休業することによつて、事務労働部門の労働者のみを就業せしめることが企業の経営上著しく不適当と認められるような場合に事務労働部門について作業を休止せしめた場合休業手当を支払わなくても法第26条違反とはならない。

≪参照条文≫

民法
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
(任意規定と異なる意思表示)
第九十一条  法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
(物権の設定及び移転)
第百七十六条  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条  前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(減収による賃料の減額請求)
第六百九条  収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。
(減収による解除)
第六百十条  前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。

借地借家法
(地代等増減請求権)
第十一条  地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2  地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3  地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
(借賃増減請求権)
第三十二条  建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2  建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3  建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

労働基準法
(休業手当)
第二十六条  使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

≪最高裁判例参照≫

最高裁判所昭和62年7月17日判決ノースウエスト航空事件

一 労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法五三六条二項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁、同昭和三六年(オ)第五二二号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六八四頁参照)。
 そこで、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」と民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」との異同、広狭が問題となる。休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たつては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

二 原審が適法に確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。
  (事実関係省略)

三 原審は、ストライキの発生について使用者の責に帰すべき事由があると認められ、かつ、ストライキの結果休業のやむなきに至るおそれのあることが予測されるときは、当該休業自体について使用者の責に帰すべき事由があるといわざるをえず、そして、帰責事由が使用者側と労働者側に併存している場合にも、使用者側の事由が無視しえない程度のものであれば、当該事由は使用者の責に帰すべき事由というを妨げないとしたうえで、右事実関係においては、本件ストライキはもともと上告会社がジヤスコから労働者の供給を受け、これを自己の従業員と混用していたという職業安定法四四条違反に端を発したのであるところ、上告会社としては、このようにストライキの発生を招いた点において過失があるばかりでなく、更に、本件休業の直前ジヤスコとの間で少なくとも形式的には職業安定法に抵触しない内容の業務遂行契約を締結しており、これを組合側に説明して、ストライキの早期解決を図るべきであつたのに、これを怠つた点においても過失があるというべきであり、結局これらの過失が本件休業という結果を招いたのであるから、右休業は上告会社の責に帰すべき事由によるものといわざるをえない旨判断した。これは、実質において、本件ストライキは、その経緯に照らし、一面において上告会社側に起因する事象ともいえるので、本件ストライキの結果上告会社が被上告人らに命じた休業は、上告会社の責に帰すべき事由によるものであるとするのと同旨であると解される。
 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。すなわち、上告会社が従前グラウンドホステス業務及び搭載業務にジヤスコの労働者を従事させ、自己の従業員と混用していたことが職業安定法四四条に違反する疑いがあり、このことが本件ストライキの発生を招いたことは否定できないものの、上告会社は、ジヤスコ派遣のグラウンドホステスの正社員化と搭載課業務下請導入中止という本件組合の要求の趣旨を一部受入れて、ジヤスコ派遣のグラウンドホステスの正社員採用の方針を回答し、更にジヤスコの労働者を上告会社の従業員と分離し、これらの労働者には上告会社がジヤスコに売却する機材を使用して特定の便の搭載業務を請け負わせることとする改善案を発表し、これによつて職業安定法違反はなくなると説明していたのであり、右説明自体は、一つの見解としてそれなりに首肯しえないものではない。これに対し、本件組合は、上告会社とは異なつた見解に立ち、右改善案によつても職業安定法違反の状態は除去されないとして、あくまでも搭載係員の統合撤回及び機材売却中止という要求の貫徹を目指して本件ストライキを決行し、上告会社の業務用機材を占拠して飛行便の運行スケジユールの大幅な変更を余儀なくさせたというのであるから、本件ストライキは、もつぱら被上告人らの所属する本件組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行つたものとみるべきであつて、上告会社側に起因する事象ということはできない。このことは、上告会社が本件休業の直前ジヤスコとの間で締結した業務遂行契約の内容を組合側に説明しなかつたとしても、そのことによつて左右されるものではない。そして、前記休業を命じた期間中飛行便がほとんど大阪及び沖縄を経由しなくなつたため、上告会社は管理職でない被上告人らの就労を必要としなくなつたというのであるから、その間被上告人らが労働をすることは社会観念上無価値となつたといわなければならない。そうすると、本件ストライキの結果上告会社が被上告人らに命じた休業は、上告会社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできないから、上告会社の責に帰すべき事由によるものということはできず、被上告人らは右休業につき上告会社に対し休業手当を請求することはできない。

四 以上によれば、原審が、本件ストライキによる休業が上告会社の責に帰すべき事由によるものであつて、上告会社は右休業につき休業手当を支払うべきであるとしたのは、労働基準法二六条の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した事実関係及び右に説示したところによれば、被上告人らの予備的請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、これと同旨の第一審判決は正当であり、したがつて、右の部分についての被上告人らの控訴は、これを棄却すべきである。 

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る