新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:先週,夫がスリを行ったとして逮捕されました。幸い,勾留されることなく釈放され家に戻ってきましたが,釈放される際,今回逮捕された件とは別にスリの余罪が多数あることが発覚してしまい,今後警察から再度呼出しを受けることになっています。夫は再び逮捕されてしまいますか?その場合,刑務所に行くことは避けられないのでしょうか。 解説: 2. 余罪の立件について 3. 捜査機関との折衝と示談 4. まとめ <参考条文> 刑事訴訟法
No.1101、2011/5/13 18:29 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
【刑事・スリと弁護活動・余罪の立件の可能性】
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回答:
1.逮捕の可能性は否定できません。逮捕を防ぐためにはまず,弁護人を選任し,捜査機関に対し,今後の捜査に協力することを誓約した上で,逮捕せず捜査を進めるよう弁護人を通じて働きかけるべきでしょう。
2.刑務所に行くか否かは余罪等がどの程度起訴されるかにかかっています。余罪について,すべてが立件されるとは限りません。今後の立件予定について,弁護人を通じて把握し,立件予定のものについては捜査機関と打ち合わせのうえ,積極的に示談をしていくことが必要不可欠です。示談の早期成立は、捜査機関担当者の立件意欲を殺いでしまう可能性があるからです。
立件予定の全ての件について示談が成立すれば,略式手続による罰金処分,あるいは不起訴処分となる可能性も十分にあると考えられます。以下,解説します。
1. 逮捕の可能性
(1) 逮捕とは,@被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり,かつ,A逮捕の必要がある場合になされる身体拘束の手続です(刑訴法199条等)。このうち,Aの逮捕の必要性の有無は,一般に,被疑者の年齢,境遇,犯罪の軽重・態様その他諸般の事情を考慮し,逃亡のおそれ,罪証隠滅のおそれの有無等によって判断されるものとされています。
(2) したがって,本件のように余罪の嫌疑が存在する場合でも,必ずしも逮捕されるとは限りません。例えば,被害金額が少ない件については,正式な逮捕手続を取らないことも多くみられますし,弁護人が選任されていて,弁護人が捜査機関に対し,被疑者を今後捜査に協力させることを誓約しているような場合には,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれは少ないとして,捜査機関が逮捕手続を取らずに捜査を進めることも十分あり得るところです。
もちろん,可能な限り捜査に協力する必要はありますが,そのことにより,逮捕を免れることができるのであれば,勤務先の解雇等,身柄拘束による不利益を免れることができるなど,そのメリットは少なくないでしょう
(1) また,余罪についても,これが全て立件されるとは限りません。釈放される際に余罪が発覚したということは,おそらくあなたの夫の所持品の中に,他人の物と思われる物が含まれていたのでしょうが,これらの物すべてについて被害届が出されているとは限りません。真の所有者も被害にあったこと知らなかったり、また落としたのではと考え被害届け出を出していない場合もあります。そのような場合は立件されることはないでしょう。但し、真の持ち主の住所氏名が分かれば警察は訪ねて行って確認し、被害届を出すよう勧めることもありますから、被害届が出ていないから立件されないというわけでもありません。
(2) さらにいえば,仮に被害届が提出されていたとしても,直ちにその件が立件されるとは限りません。一般に,窃盗の被害が発生した時点と,被害品の所持が発覚した時点との間に時間的な間隔が存在する場合,その間隔が広ければ広いほど,これを立件することは困難になっていきます。なぜなら,「落ちていた物を拾った」あるいは「第三者からもらった」等の弁解を排斥することが困難になるからです。さらに現場検証も刑事手続きの厳格性が求められることから、被疑者の記憶にあいまいさが残ると行われない場合があるからです。
(1) 上記の点を踏まえると,余罪全てについて立件されることは考えられません。立件されるのは,被害届が提出されており(あるいは被害者が特定できる場合),かつ,被害の日時と被害品の所持発覚時点が近接しているものに限定されるものと考えられます。
(2) また,このようなケースでは,立件予定のものでも,確実に有罪とできるかどうかしばしば微妙な判断が求められることから,捜査機関としても,これを立件するよりも示談をして不処分とすることを検討することがあります。実際に,弁護人に対し,捜査機関から,被害者と示談をするよう勧めてくることもあります。
(3) したがって,弁護人としては,捜査機関と密接に打ち合わせのうえ,立件予定のものについても積極的に示談を行っていくべきでしょう。そのためには、接見時から捜査機関との対決姿勢をむやみにとらず、真実発見のため捜査に協力し捜査機関の信頼を裏切らない態度も場合により必要となります。窃盗罪には,平成18年の法改正により「50万円以下」の罰金刑が設けられていますので(刑法235条,示談が成立すれば,正式な裁判手続ではなく,略式手続(刑訴法461条以下)により,罰金刑が科されて終了する可能性も充分あります。また,立件予定の件数によっては,罰金刑さえ科されることなく,不起訴(起訴猶予)処分により終了する可能性もあり得ます。
(4) 仮に,被害金額が多額であるなどの理由により,正式な裁判手続がとられることとなったとしても,示談が成立しているとの事実は,あなたの夫にとって有利な事情として考慮され執行猶予の判決を得ることができます。示談をしたことが無駄になることはありません。
以上の通り,弁護人を通じて捜査機関に働きかけることにより,逮捕を免れることは十分に可能ですし,示談により,より軽い処分を獲得することも可能になります。釈放されたからといって安心することなく,速やかに弁護人を選任し,捜査機関への働きかけを行うことが重要でしょう。
刑法
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第199条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
第461条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第461条の2 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。○2 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第462条 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。○2 前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第463条 前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○2 検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
○3 裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
○4 第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。
第四百六十三条の二 前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
○2 前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
○3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第464条 略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。
第465条 略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
○2 正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。
第466条 正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。第467条 第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。
第468条 正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。
○2 正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○3 前項の場合においては、略式命令に拘束されない。
第469条 正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。
第470条 略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。