新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:借地上に建物を所有して居住していますが、このたびの震災で建物が全壊してしまいました。借地権はどうなりますか。借地権は親の代に設定されたもので、50年以上経っているはずです。契約書はありません。 現在、旧借地法と新しい借地借家法が併存している状態ですが、どうして借地借家法が新たに作られたのでしょうか。借地人の生活権の保護と、地主の土地利用の活性化の調和を図り、最終的に土地という不動産価値を生かして適正な社会経済秩序を実現するためです。簡単に言うと借地供給の促進ということになります。借地人の生活権も重要ですが、旧借地法では一旦土地を賃貸するとこれを地主が取り戻すことは事実上不可能であり、底地権の価値の喪失により地主側は土地の賃貸を控えるようになりました。その結果土地の経済的再利用という観点から見ると、不動産価値を社会的に活用することができず、経済的成長の面から問題が生じました。他方、居住家屋の提供は借地法制定当時より大幅に改善され、借地人の居住権保護も借地権の強化、(賃借権の)物権化という方法により行う必要性が減少しています。そこで、従来の借地法の他に、新借地借家法を制定し地主の所有権の保護も考慮しながら不動産価値の再利用を促進しています。具体的には、借地存続期間の変更(借地借家法3条以下)、借地権解消の正当事由の明文化(6条)、定期借地権(22条以下)、自己借地権(15条、土地所有者とデベロッパーとの借地権形式による共同ビル建設等)の新設が挙げられます。 2.建物滅失の効果 どうして、法定期間中に限定して朽廃による借地権消滅が規定されたのでしょうか。本来の趣旨は地主側の利益保護です。旧借地法の「朽廃」の概念は以上のように借地人保護のため狭く解釈されています。借地権の存続期間は、契約自由の原則により自由に決めることができるはずです。しかし、借地権は建物所有を目的としており人間として生きる権利を実質的に保障する趣旨(憲法13条)から社会生活の基本となる建物利用、居住権を長期間にわたり保護しなければならず借地法は例外を大幅に認めました。当事者が生活権保護に値する期間を定めればいいのですが、地主の要望により勝手に短期間を定めてもその約定は認められません。最低でも30年(堅固な建物なら60年)に自動的に延長されます。これは借地権者の所有する建物利用を保護するために法が特に認めた期間ですから、この期間中に自然現象で建物が利用できないような状態になった場合には、保護の必要性の前提がなくなり、法が認めた借地権は消滅することになるはずです。そこで、法定更新という制度を認めながら自然現象による自然倒壊に限り借地権消滅を認め地主側を保護しました(借地法2条1項但し書き)。 しかし、解釈上は、借地権者保護の必要性が高いことから補修可能であれば(家が建ってさえあれば)、いかなる場合でも朽廃を認めていません。次に法が要請する期間以上の約定をした賃借権者が期間満了により終了しても、建物がある限り賃借権者の生活権を保護するため、20年以上の単位で法は自動的に更新(法定更新と言います。自動更新後法が期間を定めるという意味です。)を認めています。この場合も期間中に建物の自然倒壊、利用不能が問題になりますが、同様の理屈により、完全倒壊にならない限り朽廃を認めず、借地権者を保護しています(借地法6条1項、2条1項但し書き)。勿論、法が認めた期間以上を定めた適正な借地権は、建物利用を目的としている以上、期間中土地利用権があり、建物の自然倒壊でも借地権消滅の問題にはなりません(2条2項)。この規定の反対解釈から、自然倒壊以外の滅失は、法定更新中でも借地権消滅の理由にはなりません。唯、再建築ができるかどうかは基本的に当事者の合意によることになります。 すなわち、「朽廃」以外の滅失(火災による全焼、震災による倒壊のほか、故意に取り壊した場合も含む。最高裁昭和38年5月21日判決。)の場合、借地権が直ちに消滅することはありません。この点は、借地法も借地借家法も変わりません。建物所有を目的として借地権設定がなされた以上、当該建物が自然朽廃以外の滅失原因によって消滅した場合、依然として借地人の建物利用、生活権保護が必要ですから約定の期間中は勿論、法が定めた期間中も借地権自体は存続することになるわけです。但し、建物を再建築できるかどうかは別問題ですから当事者の再建築禁止の特約があるかどうかにより定まることになります。借地の場合借地権が存続するかという問題と、再建築できるかという問題を別々に考える必要があります。 3.再築の効果 (1)借地借家法の場合 (法定期間中の滅失) (2)借地法の場合 (法定期間中の滅失) 4.罹災都市法 ≪参照条文≫ 借地法 借地借家法 罹災都市法 ≪参考判例≫ 最高裁昭和37年7月19日判決 最高裁昭和38年5月21日判決
No.1105、2011/5/18 16:35
【民事・地震による借地上の建物倒壊・再建築は認められるか・旧借地法と新借地借家法の手続き】
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回答:借地権は消滅しません。地主から明渡しを求めることもできないので、残存している借地期間中、そのまま継続します。特約で禁止されていなければ、再建築もできます。再築した場合、地主が遅滞なく異議を述べなければ、借地期間そのものが伸びる場合もあります(建物滅失から20年)。また、借地権の対抗力については(地主が借地を第三者に譲渡した場合の問題)、罹災都市法の保護が受けられる可能性が高く、そうなれば建物が滅失していても5年間は対抗力を維持することができます。
解説:
1.借地法と借地借家法
建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約には、民法の賃貸借に関する規定(601条〜621条)のほか、特別法として借地借家法(平成3年10月4日法律第90号)または借地法(大正10年4月8日法律第49号)が適用されます。借地法と借地借家法のどちらが適用されるかは、借地権の設定時期により異なります。詳しくは借地借家法の附則に定めてありますが、借地契約の更新や地上建物滅失後の再築に関しては、基本的に、平成4年8月1日(新法施行日)より前に設定された借地権については借地法、同日以降は借地借家法が適用されると理解してよいです。
本件では、50年以上前に設定された借地権が更新を重ねて継続していると考えられますので、古い借地法が適用されます。新法施行後に更新があっても、それで新法が適用されることにはなりません。但し平成4年8月1日以降、古い契約を一度破棄して、新たに借地権を設定し直したような場合は、借地借家法の適用があると考えられます。
借地期間や更新について、別段の合意をしていない場合、借地法の法定存続期間(2条)と法定更新(6条、5条)の適用により、木造建物であれば契約のときから30年経過時に最初の更新、さらに20年経過時に2度目の更新がされ、現在は2度目の更新から20年の存続期間の途中と思われます。
(朽廃の意味)
建物が全壊したとのことですが、借地法の適用がある借地権の場合、「朽廃」による借地権消滅の制度があるので(2条1項但書)、注意が必要です。判例によれば、朽廃とは「建物に自然に生じた腐食損傷等により、建物としての利用に耐えず、全体として建物としての社会経済上の効果効用を喪失した状態をいうものであり、部分的な廃損があるだけでは朽廃とはいえないし、通常の修繕によって従前の効用を全うし得る場合にも朽廃にはあたらない。」と解釈されています(東京地裁平成21年5月7日判決)。自然に生じた腐食損害が原因として限定されていますから、地震による建物の倒壊は該当しません。現実に、法が予定している建物がその期間内に「朽廃」に該当する場合はないと言っても良いでしょう。但し、法定存続期間により30年ないし60年という借地期間があっても、その途中で建物が朽廃すれば、借地権は消滅します(最高裁昭和37年7月19日判決。)なお、有効な約定存続期間がある場合には、適用はありません。2条2項で、「前項の規定に拘わらず」に契約上の期間の満了によって消滅すると規定されています。
本件では法定更新中であり、朽廃ではありませんから借地権は消滅しませんが、再建築できるかは又別の問題になります。当事者でどのような契約をしていたかということがポイントになります。再建築禁止の規定がなければ、再建築は可能ですが、再建築後は以下のような取り扱いになります。
民法、借地法、借地借家法には、借地上の建物が滅失した場合に再築を禁止する規定はありませんが、当事者間で別段の合意(特約)をすれば、それは契約自由の原則から有効です。したがって、特約で再築が禁止されていないかどうかは、確認の必要があります。特約で禁止されていない場合、借地人は建物を再築することができます。借地権の残存期間がどのくらいかに関わらず、残存期間を超えて存続するような建物であっても、再築することは一応自由です。
ただし、残存期間を超えて存続するような建物を再築されると、借地人保護の要請が高まり更新拒絶が認められにくくなるなど、地主側にとっては負担が大きくなります。そこで、この利害調整のための規定が置かれていますが、借地法と借地借家法とで異なります。
(約定期間中の滅失)
約定期間中の建物滅失に関し残存期間を超えて存続すべき建物建築については承諾を条件にしてさらに期間制限があります。通常再築建物のほとんどが構造上残存期間を超えて存続すべき建物に該当することになると思いますので重要です。すなわち約定期間内の滅失による再建築の場合は旧借地法7条の規定と比較すると地主の承諾が要件となり借地権者に不利益になっていますが、地主が再築を承諾した場合には、借地権の存続期間が再築(または承諾)の日から20年に延長されます(7条)。
新借地借家法では、朽廃という規定を廃止し、滅失という概念で統一しましたが、承諾を要件として地主の保護を厚くして借地権者との利益を調整しています。
借地借家法8条は、旧借地法に規定がなかったもので、法定更新後の建物滅失における再建築を特別に規定し旧借地法より地主側を保護しています(旧借地法の解釈では再建築は禁止条項がない以上自由ですが後述のように借地法7条の制限は受けることになります。)。@更新後の滅失であること、A残存期間を超えて存続するような建物が再築されたこと、B再築につき地主の承諾がなかったことを条件に、地主からの解約請求権を認めています。解約を申し入れると3か月で借地権が消滅するので、かなり強力な対抗手段といえます。
すなわち、一度でも更新があった後(法定更新中)に建物が滅失し残存期間を超えて存続すべき建物建築については、借地権者からの解約権(賃料支払い義務回避)、及び地主の解約権を認めています。借地借家法は地主の利益を旧借地法よりも保護する形で当事者の利益を調整し借地の供給を促進しようとしています(借地借家法8条)。
(約定期間中の滅失)
約定期間中の建物滅失については7条が規定します。すなわち約定期間中の建物滅失後、残存期間を超える建物建築について借地権の存続についてのみ規定し、地主の承諾は不要で地主が異議を述べないと新たな期間(物建滅失から20年)が設定され借地権者に有利になっています。借地期間の延長の効果も、地主が承諾した場合ではなく、遅滞なく異議を述べなかった場合に発生するので(7条)、より借地人の保護が厚いといえます。
次に、法定期間中の建物滅失については、残存期間を超える建物を再建築しても借地法には、借地借家法8条のような規定がありませんから、地主からの解約権、借地権者の放棄解約権の制度はありません。約定期間中と同様に地主が異議を述べなければ、再築から20年の延長が認められることになります。すなわち、法定更新後に建物が滅失し残存更新期間を超える建物を建築した場合については、借地借家法のように明確に規定していませんが、解釈上、約定期間中と同様に取り扱われることになります。借地権者保護のためには約定期間中の滅失と法定更新中の滅失を区別する必要がないからです。
以上借地借家法の規定は、借地法よりも、借地権者に不利益ですが、借地借家法は、借地法の規定が借地権者の保護に傾きすぎており借地の利用促進、土地の有効活用という観点から修正を加え調整しました。
本件では契約書がないので再建築の禁止特約はないようです。また、法定更新中ですから、再築に対して地主が遅滞なく異議を述べない場合、木造建物であれば再築から20年の存続期間の延長が認められることになります。
これは、地主が借地を第三者に譲渡した場合等に問題になります。いわゆる対抗力の問題です。罹災都市借地借家臨時処理法(罹災都市法)は、戦災復興対策の一環として昭和21年に制定された法律ですが、大規模な震災による被災者について、政令で準用されることがあります。平成7年の阪神淡路大震災と平成16年の新潟県中越地震の際には、準用が行われました。東北地方太平洋沖地震についても、同様の措置が取られる可能性が高いと思われます。
通常、建物が滅失すると借地権の対抗力が失われ(借地借家法10条1項、旧借地権につては建物保護に関する法律第1条。借地権の登記ができるのですが、これは地主が通常協力しないので、借地人だけでできる建物の登記があれば対抗力が認められています。しかし建物が滅失すると登記された建物がないことになってしまい、第三者に借地権を対抗できなくなってしまいます)、地主が土地を第三者に譲渡した場合に、譲り受けた第三者に対して借地権を主張できず、土地を譲り受けた第三者からの明渡し請求に応じざるをえなくなる事態が考えられます。対抗力を維持するためには、土地の上の見やすい場所に再築予定等の事項を掲示するという方法をとる必要があります(借地借家法10条2項)。しかし、罹災都市法の準用があると、準用を認めた政令の施行日から5年間は、滅失したままの状態でも対抗力を維持できます(罹災都市法10条、25条の2)。
2条1項 借地権の存続期間は石造、土造、煉瓦造又は之に類する堅固の建物の所有を目的とするものに付ては60年、其の他の建物の所有を目的とするものに付ては30年とす。但し建物が此の期間満了前朽廃したるときは借地権は之に因りて消滅す。
2項 契約を以て堅固の建物に付30年以上、其の他の建物に付20年以上の存続期間を定めたるときは借地権は前項の規定に拘らず其の期間満了に因りて消滅す。
5条1項 当事者が契約を更新する場合に於ては借地権の存続期間は更新の時より起さんし堅固の建物に付ては30年、其の他の建物に付ては20年とす。此の場合に於ては第2条第1項但書の規定を準用す。
2項 当事者が前項に規定する期間より長き期間を定めたるときは其の定に従ふ。
6条1項 借地権者借地権の消滅後土地の使用を継続する場合に於て土地所有者が遅滞なく異議を述べざりしときは前契約と同一の条件を以て更に借地権を設定したるものと看做す。此の場合に於ては前条第1項の規定を準用す。
2項 前項の場合に於て建物あるときは土地所有者は第4条第1項但書に規定する自由あるに非ざれば異議を述ぶることを得ず。
7条 借地権の消滅前建物が滅失したる場合に於て残存期間を超えて存続すべき建物の築造に対し土地所有者が遅滞なく異議を述べざりしときは借地権は建物滅失の日より起算し堅固の建物に付ては30年間、其の他の建物に付ては20年間存続す。但し残存期間之より長きときは其の期間による。
(建物の再築による借地権の期間の延長)
第七条 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。
2 借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第一項の規定を適用する。
(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)
第八条 契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては、借地権者は、地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
2 前項に規定する場合において、借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、借地権設定者は、地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
3 前二項の場合においては、借地権は、地上権の放棄若しくは消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れがあった日から三月を経過することによって消滅する。
4 第一項に規定する地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利は、第二項に規定する地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利を制限する場合に限り、制限することができる。
5 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第二項の規定を適用する。
(借地権の対抗力等)
第十条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
第十条 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時から、引き続き、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和二十一年七月一日から五箇年以内に、その土地について権利を取得した第三者に、対抗することができる。
第二十五条の二 第二条乃至第八条、第十条乃至前条及び第三十五条の規定は、政令で定める火災、震災、風水害その他の災害のため滅失した建物がある場合にこれを準用する。この場合において、第二条第一項中「この法律施行の日」及び第十条中「昭和二十一年七月一日」を「第二十五条の二の政令施行の日」と第十一条中「この法律施行の際」を「第二十五条の二の政令施行の際」と、第十二条中「この法律施行の日」を「第二十五条の二の政令施行の日」と、読み替えるものとする。
契約をもつて堅固でない建物の所有を目的とする借地権の存続期間を二〇年と定めたときは、借地権は、借地法二条一項の規定にかかわらずその期間の満了により消滅することは同条二項の規定するところであるから、右期間の満了前に地上建物が朽廃した場合でも、借地権はそのことにより消滅するものではない。
借地法第七条は建物の滅失原因についてなんら制限を加えていないこと、同条は滅失後築造された建物の利用をできるだけ全うさせようとする趣旨であることにかんがみれば、同条にいう建物の滅失した場合とは、建物滅失の原因が自然的であると人工的であると、借地権者の任意の取毀しであると否とを問わず、建物が滅失した一切の場合を指すものと解するのが相当である。