児童福祉法違反・再婚相手と子の性的関係
刑事|性的虐待|青少年保護育成条例違反|大阪家庭裁判所平成17年1月17日判決
目次
質問:
再婚した夫が,17歳になる私の連れ子と性的関係をもってしまいました。再婚は約半年前のことですが,それ以来ひそかに男女として親密になっていたようです。あまりのことにショックから立ち直れません。
私は専業主婦で他に小さい子供たちも抱えており,急に離婚というわけにもいきませんし,小さい子供たちの生活が何より心配です。夫は警察に逮捕されてしまうのでしょうか。
回答:
1.お嬢さんが被害届を出したり,性的虐待として相談機関(児童相談所等)に相談をすると,詳細な調査の上お嬢様の意思とは関係なく(告発)青少年保護育成条例違反や児童福祉法違反事件として捜査の対象となり,場合によっては逮捕される可能性も十分あります。事情,内容により実刑(懲役1年-3年前後)も予想されるでしょう。家庭内で,被害者と被疑者が同居することも問題があり保釈も難しい面があります。一番大事なのはお嬢さんの心のケアです。重い児童福祉法違反の罪が成立するかどうかには微妙な点もありますが,いずれにしても心の負担は大きいことを認識して,回復に努めてあげてください。家庭内の問題であり複雑な事情により,お子様と母親が対立することも考えられ慎重な対応と専門家との事前協議が不可欠です。
2.児童福祉法違反関連事例集参照。
解説:
1.児童と性交する行為の処罰
成人が同意の上児童(18歳未満の者。児童福祉法4条)と性交することそのものを処罰する法律の規定はありません。婚姻制度が16歳から結婚の自由を認めていますので(民法731条),16歳以上の児童も幸福追求権の内容として基本的に性的自由権を有しています(憲法13条)。しかし児童は未だ教育監護を受け(民法818条,820条),全人格的教育を受ける義務を有する立場であり(憲法26条),性的自由権の濫用は許されませんし,他人がその濫用を助長幇助するような行為は刑罰の対象として禁止しています。
青少年,児童は将来社会国家を形成し担ってゆく社会的財産,宝であり,三つ子の魂百までというように多感で肉体精神的に未発達,未熟な段階で受けた性的影響は将来本人が自由に生きてゆく児童個人の尊厳,基本的人権保障だけでなく公正な社会秩序維持という社会,国家的見地からも影響があまりにも大きくとても見過ごすことはできません(法の支配の理念)。そこで法は,児童(18歳未満)の健全な性的成長発達を保護するため,児童の人権(人格権を含む)が影響,侵害されやすい順に違法性,責任を判断し重罰をもって対処しています。
一定の場合には犯罪となり,処罰の対象となりますが,処罰の根拠条文として用いられるのは,第一に都道府県ごとの青少年保護育成条例の淫行処罰規定,第二に児童福祉法34条1項6号です(罰則は60条1項)。他に児童に何らかの利益を供与する児童買春防止法があります。
青少年保護育成条例の規定の仕方は都道府県によって異なりますが,たとえば東京都では「みだらな性交又は性交類似行為」が禁止されており,罰則は2年以下の懲役または100万円以下の罰金です(同条例18条の6,24条の3)。児童福祉法は,「児童に淫行をさせる行為」を禁じ,罰則は10年以下の懲役または300万円以下の罰金です(児童福祉法34条1項6号,60条)。児童買春をした者は,5年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する(児童買春防止法4条)。児童福祉法が,育成条例,児童買春より懲役刑が2倍以上になっているのは違法性,責任がさらに大きいからです。すなわち,単なる誘惑や利をもって児童の性的成長権を侵害するよりも,児童に対する社会的,職業的地位を利用して半ば性的強制を行うことは刑法の強姦罪(3年以上の懲役最長20年)とはいえなくとも,精神的に未熟な児童の弱みを利用して事実上抵抗が難しい状態を作出することから,大人の狡猾な面があり違法性,責任がさらに重いと評価されます。
2.青少年保護育成条例
同条例18条の6,24条の3は青少年の性的自由権侵害の方法,態様の程度が低く違法性が比較的軽い内容を規定しています。
同条例では「みだらな性交又は性交類似行為」と規定されているため「みだら」とは何かを明らかにする必要があります。この点については,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔,又は困惑させるなど,その心理の未熟に乗じた不当な手段により行う性交,又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交,又は性交類似行為がこれに該当し,後者の「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交,又は性交類似行為」に当たるかどうかは,行為者の内心の事情のみならず,行為者及び青少年の年齢,性行為に至る経緯及び行為の状況等客観的事情をもとにして,健全な常識を有する一般社会人の立場で判断すべきであるという解釈が判例(最高裁昭和60年10月23日大法廷判決)により定着しています。
つまり,未成年が相手であっても,結婚を前提にした真摯な交際関係にあったような場合は処罰の対象から除く趣旨です。本件では,連れ子とはいえ家族内の出来事であって結婚目的はありえないことや,親子ほどの年齢差であること等に照らし,関係が真摯なものと評価される余地はないと思われます。この条例に違反しても,児童福祉法に違反すれば条例を評価包含する児童福祉法により処罰されることになります。
3.児童福祉法(34条1項6号)
児童が児童と関係を有する社会的地位,身分を有する第三者の支配,影響により淫行し間接的に性的自由権を侵害される場合を規定しています。児童は純粋,未成熟,無知な状態にあり,このような弱く,不利益な状態を利用していることから,児童が一部理解,同意し好意感情があったとしても最も違法性,責任が重い規定となっています。親子の地位が,児童の行為に影響できるものとして評価できるかという問題がありますが,児童福祉法の趣旨から児童の性的自由権を侵害する可能性がある社会的地位を児童との関係で有する者は,本条の主体として評価されます。例えば,学校の先生,職場の雇い主,上司等が考えられます。親子関係もその一つになります。本条の「させる」という文言の解釈から導き出されます。
児童福祉法34条1項6号では「淫行をさせる」と規定されており,言葉の意味から本来児童を使役して売春に従事させる行為などを想定しており,自己(主体)が性交の相手方になる場合は当然には含まれないとされます。しかし,本条の趣旨は,児童の性的自由権,成長権を保護することであり,自ら性交渉の相手方になることによって児童の権利を侵害する以上,自ら相手方になることも処罰の対象としていると解釈せざるを得ないでしょう。
判例は次のように述べています。
「児童福祉法34条1項6号についてみると,同規定上,単に淫行行為の相手方となる行為自体はその処罰の対象となっていないこと,法定刑が,同種の行為を処罰する趣旨の各都道府県の青少年保護育成条例等にみられる規定のそれに比べて格段に重いものとなっていることなどに照らし,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」とは,児童に対し,その立場を利用するなど事実上の影響力を行使して淫行するように働きかけ,その結果児童をして淫行するに至らせる行為をいうものと解すべきであって,淫行の相手方となる場合に通常伴う程度の行為はこれに含まれないものと解するのが相当である。」(大阪家庭裁判所平成17年1月17日判決)。
つまり,単に児童と性交しただけでは「淫行をさせる」に該当しないが,児童に物理的ないし心理的にプレッシャーをかけて,児童が自分と性交するように仕向けた場合には,「淫行をさせる」に当たるということになります。プレッシャーとなりうるのは,たとえば,日ごろから強圧的にふるまって逆らえない状態を作り出していたとか,暗に経済的な脅しを告げたりすることです。
本件では,あまり健全とはいえないかもしれませんが一応男女の感情があったということで,一方的にご主人からプレッシャーを働かせて関係に仕向けたということではないのかもしれません。このあたりの詳細な事情によっては,児童福祉法上は罪にならないということもあるでしょう。その限界ですが,児童の性的自由権保障の趣旨から,正式の結婚,婚約のような状態にない限り「淫行させる」という評価になる可能性は大きいと思います。児童の社会的立場や意思能力が十分でないことを考えると一部恋愛感情があっただけでは成立を否定できません。
その他の判例
①東京家裁平成10年4月21日判決児童福祉法違反被告事件。
被告人の愛人の17歳の養女と性的関係を結んだとして,懲役1年執行猶予3年となっています。これは,養母との関係で被害者の児童が処罰を望まない旨の証拠があり刑が軽減されたものと考えられます。
判旨
「児童福祉法34条1項6号は,児童の福祉保護を直接の目的とするもので,児童に対して事実上の影響力を行使してみずから淫行の相手方として淫行をさせた者は,直接児童の福祉を阻害する者であり,規定の文言上も,淫行の相手方が除かれると考える根拠は見当たらない,といわなければならない。」本件について参考になる判例です。
②東京家庭裁判所平成21年3月9日判決児童福祉法違反被告事件。
進路指導,身上相談等していた中学3年生の担任教師(既婚)が学校,ホテルで教え子と重ねて性的関係を結んだ事件で懲役3年4月の実刑判決がなされています。このような事件では,児童の恋愛感情,児童からの勧誘という理由は犯罪成立,及び量刑上一切採用されないと考えることができます。
判旨
「児童に淫行をさせる行為とは,児童の自発的な意思に基づく場合でも,これに直接たると間接たるとを問わず,児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をすることを助長し促進する行為があれば足りると解されるところ(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),一般に中学生は社会経験や判断力が十分に備わっていない段階にあり,その心身の発達に応じた教育を施されるべき立場にあるのに対し,教諭は思慮分別を有する社会人として,生徒から無条件の信頼を得ながら,勉学のみならず生活全般等に関し全人格的な教育指導を行うべき立場にあり,中学教諭はその生徒に対し圧倒的な影響力を有している。そして,上記のとおりの本件犯行当時の二人の関係性を踏まえれば,被告人の本児童に対する事実上の影響力は極めて高いと認められ,かかる状況の下で行われた被告人の本児童との性交は,被告人が本児童に対して事実上の影響力を及ぼして本児童が淫行をすることを助長,促進する行為をしたと評価されてもやむを得ないと解される。」
尚,本件は,財産的対価をあたえて児童と性的関係を結んでいませんから児童買春は成立しません。
4.今後の対応
以上のように,少なくとも青少年保護育成条例違反として刑事事件になりうる事案です。但し,家庭内の出来事である以上,児童本人が処罰を望まなければなかなか表に出ないことです。まずは,家庭において十分に話し合う必要があります。子供が,刑事事件になることを望むということは,それだけ本人が傷ついていると考えた方がいいでしょう。そうなれば,刑事被疑者としてよりも,まずは未成熟子の親として,心身の回復に努力することがあるべき姿です。結果的に,そのような努力こそが,良い情状となり,刑事事件の処分結果も軽くすると思われます。
ご主人についても,貴女の17才の娘さんについても,何らかのストレスや精神障害により,正常な判断能力が維持できなかった可能性があります。規則正しい生活と,バランスの良い食事と,ストレスを軽減した生活習慣を建て直す必要があるでしょう。特に娘さんは,発達途上の大事な時期ですから,男性不信になってしまったり,性依存症になってしまったりすると,今回の事件が将来に大きく影響してしまうおそれがあります。臨床心理士によるカウンセリングを受けたり,精神科医師に受診して治療を受ける必要があるかもしれません。これらの専門家に相談される事をお勧め致します。
なお,あなたの夫が犯罪事実を認めている場合は,逮捕されることはなく,情状によっては罰金で済むことになるでしょう。法律事務所にご相談なさる事をお勧め致します。
以上