供託通知書とは
民事|供託の意義|供託通知書を受領した場合の対応|供託を受け取ることによるメリットとデメリット
目次
質問
法務局から「供託通知書」というものが送られてきました。これはどういう意味の書類で、どのように対応したらよいですか。供託金を受領すると何か不利になってしまうこともあるのですか。
回答
不利になってしまう場合もありますので、供託通知書の内容をよく確認して対応を決めましょう。
解説
1 供託の意義
供託とは、債権者が何らかの事情で受領できない、または受領を拒んでいる時でも、法務局が債権者の代わりに債務の弁済を受け取り、法律上の支払義務を消滅させ、遅延損害金や債務不履行責任を回避することができる手続き(民法494条)です。債権債務関係のスムーズな弁済処理を促進させる一種の行政サービスです。各地の法務省法務局で管轄しています。
債務者が必要事項を記載した供託書に供託金額の金銭を添えて申請し、受理されると、供託書正本が債務者に交付されます。
2 供託通知書とは
供託通知書は、供託書正本の写しを添付して、被供託者に供託された事実を通知するための書類です。供託通知書を被供託者に送付することにより、供託金の還付(受領)を促すことになります。
供託通知書を受領した被供託者は、「供託受諾」又は「供託金払渡(還付)請求」をすることができます。
供託受諾(民法496条1項)とは、被供託者が供託所に対して供託された事実を認め、供託の対象となった債務を消滅させることを確定させる意思表示です。供託金還付請求とは、被供託者が供託金を受領する権利があることを法務局に対して証明して、受託金を受領する手続き(供託法8条1項)です。
3 供託通知書を受け取った場合の対応
供託者は、法務局に金銭を供託した後でも、被供託者が供託受諾の意思表示を行うまでは、いつでも「供託不受諾」を理由として供託の取下げ(供託金取り戻し請求)をすることができます(民法496条1項)。
そのため、今すぐ受領しないということでも、供託金を受領する意思があるのであれば、法務局に対して「供託受諾の意思表示」を行っておくとよいでしょう。具体的には供託所に備え付けられた供託受諾用紙に記入して書面提出することになります。供託受諾をしたあとは供託者からの取り下げ(供託金取り戻し請求)はできなくなります。
供託金の払渡手続の概要は『供託物の払渡しの請求(法務省)』を御覧ください。
(1) 供託を受け取るメリット
貴方に供託された原因が何であるか不明ですが、不法行為(民法709条)による慰謝料等損害賠償請求に関するものであれば、損害の一部としてとりあえず、賠償金を確保することができる利点があります。
特に、不法行為が刑事事件と関連し被疑者、被告人が弁護人を通じて金額特定が難しい慰謝料等を供託してきた場合、供託が何時まで行われるか(取り戻しを何時するか)刑事事件の進行状況により決まりますので、受諾の意思表示(又は供託金払戻)の時期が重要です。なぜならば、起訴前であれば、起訴不起訴の決定の時期により弁護人が供託不要として供託金を取り戻してしまうからです。
例えば、不起訴決定後は刑事事件との関連で供託する意味が失われますから、通常供託金の取り戻しが行われるでしょう。そうすると、被疑者側が不起訴を要請して用意した多額の供託金の受領の機会を失うことにもなりかねませんし、結果的に不起訴となっているので被疑者側は再度交渉提案をしてきませんから、被害者側は自ら弁護士を依頼して民事上の損害賠償請求等を起こすことになってしまいます。
起訴後も被告人側の供託について論告、弁論、判決の時期により同様の問題が生じます。一般的結論から言えば、被疑者、被告人を宥恕するつもりがなくても被害弁償確保という観点からは起訴決定の直前、判決の直前に供託金受領の意思表示又は、受領(還付)することが必要と思われます。この点は専門家と相談してみましょう。
(2) 供託を受け取るデメリット
但し、供託受諾をすることにより、法的に不利な結果を招く場合もあります。供託は「本旨弁済」と言って、債権債務が発生した契約内容に従って弁済することを、国(法務局)が媒介する手続きですので、供託を受諾又は還付請求することは、相手方の主張する「支払名目」の金銭を相手方から直接受領することと、同じ法的効果を生じる事になります。
例えば、あなたが大家さんとして、賃料不払いの借家人との賃貸借契約を解除する手紙を送ったとしても、その後、解除をした後の家賃について「賃料供託」された金銭を受領してしまうと、賃料として金銭を受領したと見ることもでき、賃貸借契約が継続していることを前提として家賃を受領したとして契約解除の主張は一旦取り下げたと判断されことになってしまう危険性があり、注意が必要です。
判断に際しては、供託通知書の「供託の原因たる事実」の欄を見てみましょう。
「受領拒否」、「受領不能」という記載があれば、「契約内容」「賃借の目的物」「賃料」「支払日」「支払場所」という項目を見てみましょう。ご自分でお持ちの「賃貸借契約書」の記載内容と異なるところが無いか、確認してみましょう。
また、賃貸物件を解除して明渡を求めている最中であれば、賃料として供託された供託金を、「賃貸契約解除後の不法占拠による損害賠償金として」受領することはできません(昭和39年7月20日民事局長回答、東京地方裁判所昭和60年9月30日供託金払渡請求却下処分取消請求事件判決など、判例タイムス570号49ページ参照)。従って、賃料として受領したと評価され建物等明け渡し請求訴訟において賃料不払いという債務不履行の要件が治癒され明け渡しができない危険が生じます。
「債権者を確知できない」という記載があれば、債権者不覚知供託です。権利者が死亡して相続人が不明な場合や、権利を主張する者が複数居て不明な場合に用いられる供託です。この場合の払渡には、「還付を受ける権利を有することを証する書面」が必要になります。具体的には、相続人であることを証明する戸籍謄本や、被供託者全員の協議により全員の同意書(印鑑証明書付き)を用意するか、自分以外の被供託者全員を被告とした供託金還付請求権確認訴訟をする必要があります。
複雑な場合は、供託通知書をお近くの法律事務所に持参し弁護士さんに見てもらうとよいでしょう。
以上