保険金請求事件
最高裁判所第三小法廷平成18年(受)第1026号
平成19年4月17日判決
「3 原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
本件保険契約に基づき保険金を請求する者は,被保険自動車の盗難その他偶然な事故の発生を主張,立証すべき責任を負担するものと解される。本件の具体的事情を総合すれば,本件車両を持ち去った人物が被保険者である上告人と全く無関係の第三者としてこれを窃取したものではなく,上告人と意を通じていたのではないかとの疑念を払拭することができない。したがって,上告人は,本件車両持ち去りが盗難その他偶然な事故によるものであることを証明するに至っていない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。
本件条項1は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故を「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。そして,本件条項2は,保険契約者,被保険者等が故意によって保険事故を発生させたことを,同法641条と同様に免責事由として規定したものというべきである(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事220号391頁参照)。本件条項1では「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているが,「被保険自動車の盗難」についても他の保険事故と同じく本件条項2が適用されるのであるから,「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているのは,本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり,少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故と異なる主張立証責任を定めたものと解することはできない。
そして,一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転であると解することができるが,上記のとおり,被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者,被保険者等の意思に基づいて発生したことは,本件条項2により保険者において免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべきである。
(2)原審は,本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることにつき主張立証責任を負うと解した上,本件においてはその証明がないとして,上告人の被上告人に対する請求を棄却したものである。しかし,前記事実関係によれば,被保険者である上告人以外の者が本件車両をその所在場所から持ち去ったことは明らかになっているというべきであるから,保険事故の発生が立証されていないとして上告人の請求を棄却することはできない。」
保険金請求事件
最高裁判所第一小法廷平成17年(受)第1841号
平成19年4月23日判決
「3 原審は,次のとおり判示して,被上告人の請求を認容した。
(1)本件約款によれば,被保険自動車の盗難は保険金請求権の成立要件であり,したがって,保険金請求者において,被保険自動車に盗難事故が発生したことを主張,立証すべき責任がある。しかし,車両の盗難は,通例,所有者の不知の間に秘密裡に行われ,多くの場合,その痕跡を残さないものであるから,その立証の程度については,当該事故前後の状況や所有者,使用者の行動,とりわけ車両の管理使用状況等に照らし,外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況が立証されれば,盗難事故であることが事実上推定されるというべきであり,これに対し,その推定を覆すには,保険者の側で,その事故が保険金請求者の意思に基づき発生したと疑うべき事情を立証しなければならない。
(2)本件において,本件事故前後の状況や被上告人の行動,とりわけ本件車両の駐車状況に照らし,外形的・客観的にみて第三者による本件車両の持ち去りとみて矛盾のない状況が立証されているということができる一方,本件事故が被上告人の意思に基づき発生したと疑うべき事情は立証されていないから,本件事故は,盗難に該当する。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)商法629条が損害保険契約の保険事故として規定する「偶然ナル一定ノ事故」とは,保険契約成立時において発生するかどうかが不確定な事故をいうものと解される。また,同法641条が,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害について保険者はてん補責任を負わない旨規定しているのは,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。
本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故を「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。本件条項にいう保険事故を,商法の上記規定にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において被保険者の意思に基づかない事故であること(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事220号391頁参照)。もっとも,本件条項では「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているが,これは,本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり,少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故の場合と異なる主張立証責任を定めたものと解することはできない。
ところで,一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいうものと解することができるが,商法の上記各規定が適用されると解される本件保険契約においては,被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは,保険者が免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負うものではない。しかしながら,上記主張立証責任の分配によっても,上記保険金請求者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を免れるものではない。そして,その外形的な事実は,「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成されるものというべきである。
(2)原審は,本件保険契約に基づいて車両損害保険金を請求する者は保険事故の偶発性を含めて盗難が発生した事実を主張,立証すべき責任を負うとする一方,「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」が立証されれば,盗難の事実が事実上推定されるとした上,本件では,上記「矛盾のない状況」が立証されているので,盗難の事実が推定されるとしている。しかしながら,上記保険金請求者は,盗難という保険事故の発生としてその外形的な事実を立証しなければならないところ,単に上記「矛盾のない状況」を立証するだけでは,盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度にまで立証したことにならないことは明らかである。したがって,上記「矛盾のない状況」が立証されているので盗難の事実が推定されるとした原審の判断は,上記(1)の主張立証責任の分配に実質的に反するものというべきである。」
裁判年月日 平成21年 5月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平20(ワ)6523号
事件名 保険金請求事件
「第2 事案の概要
1 前提事実
(4) 本件車両乗り逃げについて
ア 原告は,平成17年2月26日午前1時10分ころ,勤務先から本件車両で帰宅する途中,東京都東大和市〈以下省略〉所在のaコンビニ店(以下「本件店舗」という。)に立ち寄った。
イ その際,原告は,本件店舗南東側に位置する駐車場入口から本件店舗の駐車場に入り,本件車両を本件店舗入口付近に駐車させた。原告は,本件車両のエンジンを切ることなく,そのまま本件店舗に入り,商品を見回っていたところ,原告以外の第三者が本件車両に乗って走り去った(以下「本件車両乗り逃げ」という。)。本件車両乗り逃げの状況は,本件店舗に設置された防犯ビデオにより撮影されていた。
ウ 本件車両乗り逃げと同時に,本件店舗の駐車場に駐車してあったトヨタ自動車株式会社製のアリスト(以下「アリスト」という。)も駐車場から走り去った。上記第三者は,アリストに乗って本件店舗に来店していた男性二人及び女性一人のグループの中の男性であった(以下,本件車両乗り逃げを行った第三者を「アリストの男」という。)。
(甲14,乙8,11)
-416.666666666667
第3 当裁判所の判断
2 争点2(本件車両についての盗難の外形的事実の有無)について
被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者,被保険者等の意思に基づいて発生したことは,本件条項2により保険者において免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべきである(最高裁平成18年(受)第1026号同19年4月17日第三小法廷判決・民集61巻3号1026頁参照)。
そして,前記第2の1(4)に認定の事実関係によれば,被保険者である原告以外の者が原告の占有に係る本件車両をその所在場所である本件店舗の駐車場から持ち去ったことという盗難の外形的な事実は明らかになっているというべきであるから,本件車両乗り逃げが原告の意思に基づいて発生したことは,被告において免責事由として主張,立証すべきである。
これに対し,被告は,「被保険者以外の者」とは「被保険者及びその意を受けた者以外の者」として捉えるべきであり,盗難の外形的事実は未だ立証されていないというべきであると主張する。しかしながら,本件車両を持ち去った第三者が原告の意を受けた者であることは,本件車両乗り逃げが原告の意思に基づいて発生したという事実として,被告において免責事由として主張,立証すべきであり,原告に対し,当該第三者が原告の意を受けた者でないことの立証を求めることは,「被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであること」の主張,立証を求めるに等しいから,被告の主張は採用することができない。
裁判年月日 平成20年12月16日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)11033号
事件名 保険金等請求事件
「第3 当裁判所の判断
1 前記「争いのない事実等」,証拠(甲9,12,証人D,証人F,証人C,後記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件車両購入の経緯
ア 本件車両は,平成15年1月24日,所有者Gとして新規登録され,Fが使用していたが,その後,車両販売業者に下取りに出され,平成17年5月ころ,原告の従業員であるEが上記販売業者から購入することになった(乙11)。
イ Cは,Eが売買代金を払えなかったため,平成17年5月ころ,同人に代わって,頭金50万円を上記販売業者に支払い,残代金200万円についてはローンを組み,同年8月9日,所有者を株式会社オリエントコーポレーション,使用者をCとして本件車両の登録を移転した(乙11,25)。
Cは,その際,別途約20万円を支払って本件車両にカーナビを装着した(乙30)。
ウ Cは,月々のローン返済を続けていたが,Eは,本件車両を使用するものの,Cに対して肩代わりしてもらったローン代金をほとんど支払わなかった。
そこで,Cは,平成17年末ころ,Eから本件車両を返してもらった。その後も,Cはローン返済を続けている。
(2) 本件保険契約締結の経緯
ア 平成17年11月ないし12月ころ,原告が本件車両とは別に所有していた自動車(メルセデスベンツE320,以下「旧車両」という。)が盗難に遭った。
原告は,旧車両については車両保険に加入していなかったため,保険で損害をてん補できなかったことから,Cは,本件車両については車両保険に加入した方がよいと考えた。
イ 原告は,平成18年2月21日,被告との間で,本件車両について,保険期間を同日から同年6月21日午後4時までとして本件保険契約を締結し,上記保険期間の保険料として7万3600円を支払った(乙27)。
なお,本件車両については,原告・被告間で,保険期間を平成17年6月21日午後4時から平成18年6月21日午後4時までとし,保険料を月額9870円とする他の種類の保険契約が締結されていたところ,これに付加して本件保険契約は締結されたものである(甲1,乙27)。
ウ 本件保険契約の審査を行った被告担当者は,本件車両の型式と登録年度を基にした車価表により,Cに対し,付保可能な保険金額は230万円から340万円であることを伝え,保険金額の設定を任せたところ,Cは上限である340万円に設定した(乙9,10)。
また,被告担当者は,本件保険契約の締結に際して,本件車両の現物及び自動車検査証を確認している(乙9)。
(3) 本件車両の車検更新手続
ア 本件車両の車検の有効期限は平成18年1月23日であったところ,Cは,その有効期限が過ぎた同年2月18日,車検更新の手続のために本件車両を整備工場に預けた(乙11,31)。
その時点での本件車両の走行距離は,約13万キロメートルであった(乙31)。
イ 本件車両は,平成18年2月18日午後10時ころから翌19日午前8時45分ころまでの間に,車検のため預けられた整備工場の駐車場にとめていたところ,何者かにコイン様の物で傷を付けられたため,その塗装修理のため少なくとも同年3月10日までは上記工場に預けられていた(乙31)。
ウ 本件車両については,元の所有者が自動車税を滞納していたため,車検更新の手続に時間がかかるとの理由で,車検更新ができないまま上記工場からいったん原告に返却された。
(4) 本件盗難前後の状況
ア Cは,平成18年5月8日の数日前から,本件車両を原告従業員の寮である埼玉県吉川市〈以下省略〉所在のアパート「ドムールセゾン」の駐車場である本件駐車場にとめていた(乙28)。
イ 本件駐車場は,幅員約6メートルの道路に面し,①道路に面する幅約17.6メートル,奥行き約14メートルの長方形部分と,②①の奥の幅約8.2メートルの長方形部分からなるL字の形をしている。
本件駐車場の出入口は約7.1メートルであり,本件車両は,上記①の部分の出入口に近い方にとめられていた。
本件駐車場が面している道路を挟んで,本件駐車場の向かいは別の駐車場と空き地になっている。本件駐車場の周辺には,民家や田んぼがある(甲6ないし8,乙29)。
ウ Cは,平成18年5月8日午前5時40分ころ,原告の従業員であるD及びHと本件駐車場で集合し,仕事のため建築工事現場である江北駅へ向かった。
エ Cは,Dらとともに江北駅での仕事を終えた後,平成18年5月8日午後4時ころ,本件駐車場に戻ってきた。本件駐車場から現場である江北駅まで自動車で移動するには,片道1時間ないし1時間半ほどかかる。
オ Cは,平成18年5月8日午後4時5分ころ,埼玉県吉川警察署に対し,本件車両が盗難された旨を届け出たが,その届出の内容は,以下のとおりであった(埼玉県吉川警察署に対する調査嘱託の結果)。
(ア) 被害日時 平成18年5月7日午後7時ころから翌8日午後4時ころまでの間
(イ) 被害場所 本件駐車場
(ウ) 被害発見者 C
(エ) 被害発見日時 平成18年5月8日午後4時
(オ) 被害発見の経緯 本件駐車場に鍵をかけて駐車していたが被害に気付いた。
(カ) 被害車両の時価 150万円相当
(キ) 積載物件 なし
カ 警察は,Cからの被害申告を受けてすぐに本件駐車場に到着し,実況見分を行った。
キ また,Cは,被告に対し,本件盗難被害の発生を申告した(乙30)。その際,Cは,本件車両のドアはロックし,窓も全部閉めていた旨申告している。
(5) 本件車両の性質,使用状況等
ア 本件車両は,平成11年3月ころに製造された並行輸入車である。
本件車両には,盗難防止に関する装置として,電子データ(コード)の照合による不正なエンジン始動を防ぐいわゆるイモビライザーシステムが装着されていた。本件車両のイモビライザーシステムを制御するコンピューターの数は2つであり,計器盤裏側とエンジンルーム右側に設置されていた。
本件車両には,一般的盗難防止装置と呼ばれる警報装置は装着されていなかった(メルセデス・ベンツ日本株式会社に対する調査嘱託の結果)。
イ 本件車両の鍵はもともと2本あったが,元の使用者であるFはそのうち1本を紛失し,Cには残りの1本しか渡っていなかった。
なお,Cは,Fから鍵を2本受け取り,スペアキー1本を原告事務所の机の引き出しに保管していたと認識していたものの,紛失していて見付からない旨供述するが,Fの供述に照らし採用することができない。
本件車両には,鍵の複製歴はない(メルセデス・ベンツ日本株式会社に対する調査嘱託の結果)。
ウ 原告では,旧車両のほか仕事用の車としてステップワゴン,マーチ及びカローラを所有していた。
Cは,平成17年11月ないし12月ころに旧車両が盗難に遭い,同月末ころにEから本件車両の返却を受けた後は,上記仕事用の車とともに本件車両も使用するようになった。
エ Cは,平成18年1月23日に車検期間が満了した後,その更新ができない間にも,時々は本件車両を使用し,また,盗難防止のために本件駐車場や原告事務所の駐車場等の間を何度か移動させていた。
オ Cは,平成18年7月21日には免許停止中であり,同年10月25日,同日から2年間の免許取消し処分を受けた。
(6) 原告及びCの経済状況
ア Cは,平成18年4月28日,貸金業者から50万円を借り入れたことがあったが,同年5月11日にはこれを返済している(甲15)。
また,Cにはクレジット会社との取引履歴があるが,いずれの取引においても長期にわたる支払遅延はない(甲16,17の1,2,乙25)。
イ 原告は,平成18年3月分の被告に対する保険料の支払を遅滞したが,同年4月には同月分とともに支払っている(乙14,35)。
(7) 原告による保険金請求及び被告による支払拒絶
ア 原告は,被告に対して保険金の請求をしたところ,被告の代理人弁護士からCあてに,平成18年6月16日付けで,保険金支払の可否を判断するために本件車両の盗難についての調査が必要であるとして調査の協力を依頼する旨の文書が送付された(甲3)。
イ 原告は,被告に対して必要な資料を提出して調査に協力したが,被告の代理人弁護士からCあてに,平成18年7月6日付けで,本件車両の盗難には不自然な点が多々あり,第三者によって偶然に引き起こされたという点に関する疑問を払しょくできないとして,保険金の支払を拒絶する旨の通知書が送付された(甲4)。
2 争点(1)(保険事故発生の有無)及び(2)(原告の故意による本件盗難招致の有無)の立証責任について
本件保険契約においては,被保険自動車の盗難が保険事故として規定されているところ,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件保険契約に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を主張,立証すれば足り,被保険自動車の持ち去りが被保険者等の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負わないというべきであって,被保険自動車の持ち去りが被保険者等の意思に基づくものであることは保険者の側が免責事由として主張,立証すべき責任を負うというべきである(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日第1小法廷判決・民集60巻5号1887頁,最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第3小法廷判決・裁判集民事220号391頁,最高裁平成18年(受)第1026号同19年4月17日第3小法廷判決・民集61巻3号1026頁,最高裁平成17年(受)第1841号同19年4月23日第1小法廷判決・裁判所時報1434号145頁参照)。
よって,争点(1)に関する事実,すなわち保険事故の発生については,保険金請求者である原告が,争点(2)に関する事実,すなわち原告の故意によって本件盗難が招致されたことについては,保険者である被告が立証責任を負うと解するべきである。
3 争点(1)(保険事故発生の有無)について
(1) 保険金請求者である原告が立証すべき「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実は,「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」(以下「事実①」という。)及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」(以下「事実②」という。)から構成されるものというべきである(前掲最高裁平成19年4月23日第1小法廷判決参照)。
(2) 本件においては,事実①を直接認定し得る証拠として,平成18年5月8日午前5時40分ころ,本件駐車場に本件車両がとめてあったのを確認した旨のC及びDの陳述・供述がある。
そこで,その信用性について判断するに,両者の陳述・供述内容は一致しており,本件車両を確認した経緯等を含めて内容に不自然な点はない。
もっとも,上記1(4)オによれば,Cは,警察に対して,本件盗難の被害日時は平成18年5月7日午後7時以降である旨届け出ていることが認められ,それ以降は本件車両を確認していないという趣旨であるとすれば,本件車両を同月8日午前5時40分ころに確認したとのCの供述と矛盾するのではないかとの疑問も生じ得る。
しかし,他方で,乙28ないし30によれば,Cは,被告からの調査に対しては,平成18年5月8日午前5時半ないし6時ころに本件車両を確認している旨の,上記供述と一致する内容を答えていることからすれば,警察に対する上記届出内容は,必ずしも前日午後7時以降に本件車両を確認していないという趣旨のものとは認められず,直ちにCの供述が信用できないということはできない。
よって,C及びDの陳述・供述は信用できるから,平成18年5月8日午前5時40分ころ,原告の占有する本件車両が本件駐車場に置かれていたことが認められ,事実①が認められる。
(3) 次に,事実②についてはこれを直接認定し得る証拠は存在しないが,平成18年5月8日午前5時40分ころ,本件駐車場に本件車両がとめてあったのを確認した旨のC及びDの陳述・供述があり,また,同日午後4時ころに本件駐車場に戻ってきたところ,本件車両がとまっていなかった旨のC及びDの陳述・供述があることから,上記各陳述・供述が信用できるとすれば,同日午前5時40分ころ本件駐車場にとまっていた本件車両が,同日午後4時ころにはなくなっていた事実が認定でき,これと,上記1(4)ウ,エにより,本件盗難発生当時,Cは,本件駐車場から車で片道1時間ないし1時間半ほどかかる現場で仕事をしていたと認められることを合わせれば,事実②を推認することができる。
そこで,上記各陳述・供述の信用性について判断するに,平成18年5月8日午前5時40分ころに本件車両を確認した旨の陳述・供述は上記(2)のとおり信用することができるし,また,同日午後4時には本件車両がなかった旨の陳述・供述は,C及びDの陳述・供述内容が一致しており,内容に不自然な点や矛盾点はないことからすれば,やはり信用できるといえる。
よって,上記各陳述・供述により,平成18年5月8日午前5時40分ころ本件駐車場にとまっていた本件車両が,同日午後4時ころにはなくなっていた事実が認められ,本件盗難発生当時,Cは,本件駐車場から車で片道1時間ないし1時間半ほどかかる現場で仕事をしていたとの事実を合わせれば,事実②が推認されるというべきである。
(4) さらに,上記推認を覆すような事情があるかについて,以下判断する。
ア 被告は,本件盗難には実現可能性がない旨主張する。
上記1(5)アによれば,本件車両にはイモビライザーシステムが装着されていたこと,同(4)オ,キによれば,Cは,本件車両のドアをロックし,窓を全部閉めていたこと,同(5)イによれば,CはそもそもFから鍵を1本しか受け取っておらず,Cの下での鍵の紛失・盗難はなかったこと,鍵の複製はされていないことが認められる。
そうすると,イモビライザーシステムが装着され,ドア及び窓が閉まっていた本件車両を,鍵なしに盗難することが可能かが問題となる。
乙4,5,21の1によれば,本件車両の盗取方法としては,①イモビライザーシステムそのものを破壊又は無効化して車両を自走させる方法,②車両を自走させることなく運搬する方法が考えられるが,コンピュータの解析作業を行うことによってイモビライザーシステムを無効化することは不可能ではないと認められる。また,上記(5)アによれば,本件車両には警報装置が装着されていなかったことが認められるから,本件車両を運搬することは可能である。よって,①及び②のいずれの方法によることも可能であったと認められる。
そこで,本件の具体的状況下で本件盗難の実現可能性があるかについて,さらに判断する。
この点,本件盗難の行われたとされる時間帯は早朝から午後にかけてであり,上記盗取方法には一定程度時間がかかることからすれば,本件盗難を実行するのは人目に付きやすいとも思われる。
しかし,上記1(4)イによれば,本件駐車場があるのは,周辺に民家や田んぼがある地域であり,道路を挟んで向かいは駐車場や空き地となっていること,本件駐車場が面している道路は幅員約6メートルであることが認められ,これらの事実からすれば本件駐車場周辺はそれほど人通りが多い場所とはいえない。
また,上記1(4)イによれば,本件車両がとまっていた本件駐車場の状況からは,本件車両を積載・牽引して運搬することは物理的に可能であることが認められる。
さらに,上記1(5)エによれば,Cは,本件盗難の数日前に本件車両を本件駐車場に移動させたが,それ以前にも本件車両を本件駐車場にとめていたことがあったことが認められるから,たまたま一時的に駐車していた場合とは違って,本件車両が狙われて盗取された可能性も否定できない。
よって,本件盗難の実行可能性は否定できず,この点から上記推認を覆すような事情があるとは認められない。
イ 次に,被告は,プロによる犯行だとすれば,価値の低い本件車両はねらわないはずである旨主張する。
しかし,上記1(1)イによれば,原告による本件車両の購入金額は合計約270万円であったことが認められ,また,乙2,29によれば,盗難当時の本件車両の市場価格は,189万円から249万円程度であったことが認められ,本件車両には上記購入金額又は市場価格程度の価値があったものといえるから,本件車両が窃取対象とはされないとは一概には認められない。
よって,この点からも上記推認を覆すような事情があるとは認められない。
ウ そして,上記ア,イで検討したほか,本件において上記推認を覆すと認めるに足りる事情は認められない。
(5) 以上より,本件においては事実①及び②が認められ,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実が認められることから,本件盗難という保険事故が発生したものと認めることができる。」
裁判年月日 平成22年 7月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)11935号
事件名 保険金等請求事件
「第3 当裁判所の判断
2 以上の立証責任の分配を前提として,保険金請求者である原告が立証すべき「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実が認められるか(争点1)について検討する。
本件においては,本件事故当日の午後7時ころから7時20分ころにかけて本件駐車場所に本件車両が駐車していたこと及びその後7時30分ころまでの間に原告以外の者が本件駐車場所から本件車両を持ち去ったことを裏付けるに足りる第三者の目撃証言や客観的証拠は全くなく,盗難の事実に関する原告の主張は,専ら,原告の供述に依拠するものである。
(1)ア そこで,まず,本件事故当日の本件車両の使用状況について検討するに,この点に関する原告の主張は,上記第2,3,(1)アに記載のとおりであり,原告は,本人尋問において,要旨次のとおり供述し,同旨の陳述書(甲30)を提出する。
① 午前中,銀行へ入金するための現金と通帳を取りに,本件車両を運転して,新宿区西落合1丁目にある自宅から駒込にある原告の経営する店舗に行き,昼ころ自宅に戻った。
② 午後3時ころ,商品の仕入れのため,本件車両を運転して,中野区上高田5丁目所在の三友商事に行ったが,仕入れたかった商品が売り切れていたため商品の仕入れができなかった。
③ 午後4時ないし5時ころ,JR新宿駅西口前にある中央三井信託銀行新宿西口支店に赴き,本件車両を京王百貨店前路上に停車させて,同支店のATMで自宅のローン代金を入金した。
④ トイレを使用するため,JR新宿駅南口前にあるマクドナルド南新宿店前路上に本件車両を停車して,同店のトイレで用を足した。
⑤ 午後6時ころ,バイクのタイヤを購入するため,新宿区上落合2丁目所在のYSP店に行き,同店前に駐車して,タイヤを注文した。
⑥ その後,修理を依頼していた財布を引き取るため,新宿区新宿3丁目所在の伊勢丹新宿店内に出店しているシャネルショップに向かおうとして大久保通りを新大久保方面から神楽坂方面に向かい走行中,吐き気と便意を催したので,トイレを探したが,大久保通り沿いに本件公衆便所があったことを思い出したため,明治通りを越えて直進して,本件公衆便所に向かった。
⑦ 本件公衆便所付近路上には駐車車両が多数あったため,やむなく本件公衆便所から約30メートル通過した本件駐車場所に,本件車両を駐車した。
イ しかしながら,証拠(乙1,8)によれば,原告は,平成19年11月29日,被告会社の依頼を受けて,本件盗難について調査を行った株式会社アチーブメント(以下「アチーブメント」という。)のC調査員(以下「C調査員」という)に対し,本件事故当日の本件車両の使用状況を次のとおり説明した事実が認められる。
① 午前11時ころ,自宅を出て,本件車両を運転して,駒込にある原告の経営する店舗に行き,店舗内で仕事をしていた。
② ローンの支払を思い出し,現金と通帳を取るため,本件車両を運転して,午後3時30分ころ,自宅に戻り,現金と通帳をもって,中央三井信託銀行に入金に行った。
③ 午後4時ころ,仕入状況の確認のため,三友商事に行き,午後6時ころまでいた。
④ その後,修理を依頼していた財布を引き取るため,伊勢丹新宿店に行くことにしたが,途中,高田馬場付近にあるマクドナルドかファミリーレストランで食事をした。
⑤ 食事後,伊勢丹新宿店に向かったが,トイレに行きたくなったため,記憶にあった本件公衆便所に向かい,本件駐車場所に,本件車両を駐車した。
ウ また,証拠(乙2,3,9)によれば,原告は,平成20年2月11日,被告会社の依頼を受けて,本件盗難について調査を行ったアチーブメントのD調査員(以下「D調査員」という)に対し,本件事故当日の本件車両の使用状況を次のとおり説明した事実が認められる。
① 本件事故当日の午前中は,本件車両を運転して,駒込にある原告の経営する店舗に行き,店舗内で仕事をしていた。
② 本件車両を運転して,午後3時30分ころ,自宅に戻った。
③ 午後4時ころ,仕入状況の確認のため,三友商事に行き,午後5時ころまでいた。
④ 住宅ローン等の支払のため,JR新宿駅西口前にある中央三井信託銀行新宿西口支店に赴き,本件車両を京王百貨店前路上に停車させて,午後6時前には,同支店のATMで自宅のローン代金を入金した。
⑤ 入金後,修理を依頼していた財布を引き取るため,伊勢丹新宿店に行くことにしたが,途中,トイレに行きたくなったので,JR新宿駅南口前にあるマクドナルド南新宿店前路上に本件車両を停車して,同店のトイレで用を足し,ハンバーガーのセット等を店内で食べた。
⑥ その後,バイクのタイヤを交換しなければならないことを思い出し,YSP店に向かい,午後6時から6時30分ころ,YSP店に着いた。
⑦ YSP店ではバイクのタイヤを注文して,2,3分ほどで出て,伊勢丹新宿店に向かったが,トイレに行きたくなったため,記憶にあった本件公衆便所に向かい,午後7時20分ころ,本件駐車場所に,本件車両を駐車した。
エ 原告は,上記イ,ウの認定に関して,本件事故当日の本件車両の使用状況が記載され,末尾に原告の署名押印のある平成19年11月29日付け覚書(乙1)及び平成20年2月21日付け覚書(乙2)につき,変造文書であると主張し,前者については,C調査員が原告が説明していない内容を記載した部分があり,それを見落として署名押印した,後者については,白紙の紙に署名押印させられたが,乙2号証のようなワープロ打ちされた書面に署名押印した記憶はないとの記載がある陳述書(甲43)を提出し,本人尋問においても,同旨の供述をする。
しかし,乙1,2号証の原本には署名押印部分を加工した形跡は全くうかがわれないし,乙2号証の本文中には,原告が自己の印章によるものであることを自認する末尾に押印された印影と酷似する印影の訂正印が押印されていることなど,乙1,2号証の体裁から,変造文書とは到底認められず,原告の上記供述内容は信用できない。そして,他に上記イ,ウの認定を左右するに足りる証拠はない。
オ 上記アないしウのとおり,原告の供述する本件事故当日の本件車両の使用状況は大きな変遷が認められる。
とりわけ,本件事故当日の約3週間後であり最も記憶が新鮮であるはずの平成19年11月29日の調査(上記イ)の際の供述と,その後の供述(上記ア,ウ)では,(ア)中野区上高田5丁目所在の三友商事と新宿駅西口前にある中央三井信託銀行新宿西口支店に行った時間的先後,(イ)トイレを使用するために新宿駅南口前のマクドナルドに立ち寄ったのか,高田馬場付近にあるマクドナルドかファミリーレストランで食事をしたのかという点,(ウ)新宿区上落合2丁目所在のYSP店に行ったか否かという点で食い違っており,これらの相違は,およそ記憶違いや勘違いで説明することのできない相違といわざるを得ない。この点,原告は,平成19年11月29日の調査が長時間に及んだので疲れてしまい誤りに気が付かなかったなどと弁解するが(甲38),採用の余地はない。
そして,原告が本人尋問において供述する本件事故当日の本件車両の使用状況(上記ア)についても,原告は,裏付ける証拠として甲24ないし28(枝番号を含む。)を提出するが,これらの証拠によっても,本件事故当日,中央三井信託銀行新宿西口支店のATMで入金があった事実は裏付けられるものの,その余の供述内容を裏付けるに足りるものではない。他方,証拠(乙9,原告本人)によれば,駒込にある店舗を原告が代表者を務める有限会社オフィスドリームが賃借していたのは平成19年10月10日までであったと認められるのであって,本件事故当日の午前中に,駒込にある原告の経営する店舗に立ち寄ったという原告の供述内容自体,その信用性に疑問を抱かざるを得ないし,午後5時ころにJR新宿駅西口前におり,新宿3丁目所在の伊勢丹新宿店に行く用事があったにもかかわらず,一旦,タイヤの注文を告げにYSP店に行くため,新宿から上落合2丁目まで往復しようとしたというのは,不可解・不合理な行動といわざるを得ないといえる。
カ 確かに,ある日に,ある場所に自動車を駐車したという事実について,それを裏付けるに足りる客観的証拠を収集することが困難であることは否定できず,専ら,駐車した本人の供述に依拠することもやむを得ないものとはいえる。しかしながら,上記説示のとおり,原告の供述自体およそ記憶違いや勘違いで説明することのできない変遷をみせ,本人尋問における供述内容自体も,他の証拠から認められる事実と相容れなかったり,不可解・不合理な行動といわざるを得ない部分を含むものである。
そして,原告は,本件訴訟提起の約2か月前の平成21年2月13日には,代理人弁護士を通じて,調査に関する同意を撤回する意思を表明し(甲15の1・2),本件事故当日における中央三井信託銀行新宿西口支店のATMからの入金時刻についても,被告会社代理人弁護士が行った弁護士法23条の2に基づく照会に対し,原告の了解が得られないことを理由に上記銀行が拒んだこと(乙7)によれば,原告からの照会ないし同意があれば容易に入金時刻が判明することが明らかであるのに,原告は照会に同意せず自ら照会もせず,原告の供述を裏付け得る入金時刻に関する証拠を提出しようとしないのである。
キ 以上説示したところによれば,本件事故当日の午後7時ころから7時20分ころにかけて本件駐車場所に本件車両が駐車していたという原告主張事実が依拠する原告の供述自体,その信用性に多大な疑問を抱かざるを得ない。
(2)ア また,原告は,原告が本件車両を駐車していた15分ないし20分程度の間に,第三者が本件車両を持ち去ったと主張し,その本人尋問において,本件車両の施錠の有無等につき,要旨次のとおり供述し,同旨の陳述書(甲30)を提出する。
(ア) 本件車両を停車した後,エンジンを停止させ,鍵を抜き,ルイ・ヴィトンのバックから手荷物用の小さなバックを取りだし,ルイ・ヴィトンのバックは,人目に付かぬよう助手席の足下に隠した。
(イ) 本件車両の鍵を置いた場所は覚えていない。
(ウ) 本件車両から降りて,本件公衆便所に入り,用を足した。本件公衆便所に入っていた時間は数分程度である。本件公衆便所から出た後,本件公衆便所の先に本件スーパーがあることに気づき,牛乳などの食料品の買物をするため,本件スーパーに立ち寄り,15分ないし20分程度かけて1490円分の買物をし,本件駐車場所に戻ったところ,本件車両がなくなっていた。
イ しかしながら,原告が本件車両を停車させた後ルイ・ヴィトンのバックから手荷物用の小さなバックを取りだし,ルイ・ヴィトンを人目に付かぬよう助手席の足下に隠す余裕がありながら,抜いた鍵を手荷物用のバックに入れなかったというのは不自然であるし,本件公衆便所を使用するために路上駐車をしながら,本件公衆便所で用を足した後に,突如,日用品の買物のために本件スーパーに立ち寄ったという行動自体,車の鍵を持っており施錠したものと誤信していたとしても,不自然といわざるを得ないのであり,原告の上記供述自体の信用性に疑問を抱かざるを得ない。
ウ 一方,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によると,(ア) 本件車両には,盗難防止装置の一種であるイモビライザーが搭載されており,電子チップの搭載された専用鍵でなければ,エンジンは始動できない仕組みとなっていたこと(乙5),(イ) 本件車両の鍵は2本あり,1本は本件事故当日の運転に使用したものであり,もう1本は原告が自宅で保管していたこと(乙8),(ウ) 本件駐車場所は大久保通りの路肩の路上であり,通り沿いの街灯で夜間でも明るさは確保されていたこと(乙4,8,9),(エ) 本件駐車場所付近には大きなスーパーマーケットが2軒,戸山公園,飲食店,都営地下鉄東新宿駅の入口などがあり,午後7時ころでも恒常的な人の往来があり,大久保通りの交通量も少なくなく,上記店舗や本件公衆便所を使用する目的等による路上駐車車両も多くあったこと(乙4,8,9),(オ) 本件車両が松戸市内の空き地で発見されたときには,車室内はゴミが散乱した状態で原告のルイ・ヴィトンのバックは見当たらず,ルーフ・パネルや低い位置も含めた全パネルにわたる多数の線状痕が付けられていたこと(甲6,7,13,乙8,9)の各事実が認められるのであって,上記イ(ア),(イ)の各事実によれば,盗難があったとすれば,犯人は,原告が本件車両内に放置した鍵を利用して,本件駐車場所から自走して本件車両を盗んだものと考えざるを得ないが,明るさが確保されており,交通量や人通りも少なくなく,また,路上駐車でいつ運転者が戻ってくるのか予想し得ない状況の下で,車両盗ないし車上荒らしが敢行され,自動車に施錠がされず,かつ,その鍵が自動車内に放置されているという状況に遭遇して,自走して本件車両を盗むのに成功としたというのは,全くあり得ないとまでは断ずることはできないものの,あまりにも偶然が重なりすぎているとの疑問を抱かざるを得ない。
そして,本件車両の発見後の状態も,ルーフ・パネルや低い位置も含めた全パネルにわたる多数の線状痕が付けられていたというのであって,本件駐車場所から自走によって本件車両の盗難に成功した第三者が,本件車両を放置する際,あたかも全損とすることを目的とするかのような多数の傷を全パネルにわたって付ける動機は考え難いのである。
(3) 以上説示したところを総合すると,本件においては,事実A(本件車両が原告の主張する所在場所に置かれていた事実,争点1ア)及び事実B(原告以外の者がその場所から本件車両を持ち去った事実の有無,争点1イ)のいずれの事実についても,通常人が疑いを差し挟まない程度に確信ができる程度まで立証されたものとはいえず,結局のところ,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実が認めるに足りないというべきであり,本件盗難という保険事故が発生したものと認めることができないことに帰する。
原告が,これまで同種の保険金請求をしたことがなく(原告本人),虚偽の事実を述べて保険金を請求するだけの確たる動機をうかがうに足りないことも,上記認定判断を左右するものではない。
したがって,その余の点を判断するまでもなく,被告会社に対して,本件契約に基づく保険金の支払を求める原告の請求は理由がない。
(4) なお,本件においては,第1回口頭弁論期日から5回の口頭弁論期日を重ね,3回の弁論準備期日を経て,証人尋問及び原告本人尋問を行ったが,最終準備書面の提出が予定されていた第7回口頭弁論期日の前になって,原告代理人から,警察に対する送付嘱託,調査嘱託及び警察官の証人尋問の申出があったものである。当裁判所が,捜査記録全般に関する送付嘱託については採用し,警察から送付に応じられないとの回答を受けた後,原告代理人に対して,調査嘱託等の理由について改めて確認したところ,原告代理人は,本件車両が発見された場所において,その発見者が,本件車両の様子をうかがっていた2名の不審者を目撃したという事実が捜査記録に顕れていることが最近になって判明したから,その発見者を証人尋問する前提として発見者の住所氏名を明らかにしたいと,その申出の理由を説明した。しかし,仮に,本件車両の発見者がそのような2名の不審者を目撃した事実があったとしても,上記(1)ないし(3)で認定説示した事実と総合すれば,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的な事実を認めるに足りる事情とは到底いえないのであって,調査嘱託等の必要性は認められない。」
裁判年月日 平成20年 6月13日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平18(ワ)29920号
事件名 保険金請求事件
「第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告以外の者が原告の占有に係る本件被保険車をその所在場所から持ち去ったか。)について
(1) 争点(1)についての原告主張に沿う証拠としては,証人Bの証言及び原告本人尋問の結果があるのみである。
しかし,証人B及び原告本人の供述には,不自然な点や客観的な裏付けのない点があり,信用性に乏しい。
すなわち,証人B及び原告は,原告が,大型の外車に乗ってみたいとの気持ちから,Bの勧めに従って本件被保険車を購入したと供述する一方,原告は,その購入手続や保険加入手続を全てBに任せ,原告自身はこれを行っていないことを認めているところ,上記のような動機から本件被保険車を購入しようとした原告が,購入する自動車の選定の段階からすべての手続をBに任せ切りにしたというのは,不自然である。
また,Bと原告は,原告が本件被保険車の代金1600万円余りを現金で支払ったと供述しているが,そのような供述は,原告が本件被保険車の盗難の有無について被告から依頼を受けた調査会社の調査員に対してした供述(郵便貯金から350万円を払い戻して支払に充てたなどとするもの。乙13)から変遷しているばかりか,そのように多額の代金の支払をしたにもかかわらず,領収書は受け取っていないとか,その現金を調達した方法について,原告の自宅にいわゆる箪笥預金として保管していたものを充てたとするなど,通常の取引観念からすると,不自然,不合理なものといわざるを得ないところ,そのような多額の現金が原告の自宅に保管されていたことやそれが上記代金の支払に充てられたことの裏付けとなる客観的な証拠は,存在しない。
しかも,Bと原告は,本件被保険車が原告名義で登録された平成17年3月からそれが盗難に遭ったとされる同年12月までの間において,原告が本件被保険車に乗ったのは,せいぜい4,5回であり,本件被保険車のエンジンキー等の鍵は,予備のものも含めて,すべてBが保管していたと供述しており,原告のこのような本件被保険車の利用,保管の態様は,原告が前記のような動機から本件被保険車を購入したことが事実であるとすると,不可解というほかない。
加えて,原告本人尋問の結果によれば,本件被保険車のシフトレバーの位置等,本件被保険車の構造や操作の仕方について,曖昧な知識,記憶しか有していないことがうかがわれ,また,Bも,その証人尋問において,同人は,当時本件被保険車以外にも高級外車といわれる自動車を保有しており,本件被保険車については,1週間に1回程度利用することがある程度であり,本件被保険車購入後も平成17年8月21日の本件保険契約締結までは,本件被保険車を被保険自動車とする任意保険に加入していなかったことを認める趣旨の供述をしていることからすると,原告において,真実,本件被保険車を自分で使用し,又は,Bに使用させるために,これを購入する意思があったといえるのか極めて疑わしいといわざるを得ない。
そして,証拠(乙7,証人C)によれば,Bと原告は,調査会社の調査員に対し,本件被保険車が本件駐車場から持ち去られたのを発見したのが誰か,それを発見したのがいつか等の重要な点について,相互に異なる説明をしていたことが認められ,本件訴訟において,この点を被告から指摘されると,原告は,その本人尋問において,上記調査段階の説明と異なる供述をするに至っている。
以上のとおり,原告が本件被保険車を原告やBが供述するとおりの正常な売買に基づいて購入したとするには,不自然,不可解な点が少なくなく,また,Bと原告の上記調査の際の供述と本件訴訟での尋問における供述との間には,相互の矛盾や変遷がみられることからすると,それらの供述を直ちに信用することはできず,それらの供述に基づいて本件被保険車が本件駐車場に駐車されていたとの事実やそれが第三者によって持ち去られたとの事実を認定することはできない。
(2)ア 他方,証拠(甲7,11ないし15,乙2,7,8,13)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 本件被保険車(長さ539cm,幅193cm,高さ151cm,車両総重量2625kg)は,イモビライザー機能(エンジンキーに埋め込まれた電子通信チップが発信するIDコードと車両本体のエレクトリック・コントロール・ユニット(ECU)にあらかじめ記録されているIDコードを電子的に照合し,一致した場合にエンジンを始動させる装置)及びアラーム機能(純正のリモコンキーを使用する方法以外の方法でドアを開錠しようとする場合,車体に対して振動・傾斜が加わった場合などに大音量の警報音を発する装置)を装備している。純正のエンジンキーによらずに本件被保険車のエンジンを始動させるためには,ダッシュボードを取り外して,その内部に取り付けられているECUを取り外し,解析・交換した上,再びダッシュボードを取り付ける必要があり,その作業は,長時間を要し,技術的にも困難であるばかりでなく,そのような作業を行う前提として車内に侵入する際に,アラーム機能が作動して警報音が鳴り出す可能性が高い。また,本件被保険車を,エンジンを始動させて自走させる以外の方法,例えばレッカー車等に積載,連結する等の方法で移動させようとして,これに振動や傾斜を加えると,やはり,アラーム機能が作動して,警報音が鳴り出す可能性が高い。
(イ) 本件駐車場は,早稲田通りと交差し,南北に走る2本の通路(側溝部分を含めた幅員は,それぞれ3,14mと3.33m)に挟まれた土地に設けられた露天の月極駐車場(駐車区画14台分)であり,住宅街の中に位置し,周囲は民家やアパートに取り囲まれていて,それらの民家やアパートの窓やベランダからは,本件駐車場の状況を容易に見通すことができる。上記通路の両側には,建物の壁や塀,電信柱等が迫っているため,上記のような大きさと重量を持つ本件被保険車をレッカー車等に積載,連結して上記通路を通行することは,それらの壁等に接触する危険性があるため,不可能とまではいえないにしても,容易ではない。
(ウ) 原告が本件被保険車が盗難に遭ったとする平成17年12月5日午前零時ころから同月7日午後7時ころまでの間において,本件被保険車が本件駐車場に駐車されている状況や本件被保険車が本件駐車場から持ち去られる状況を目撃したり,本件被保険車の警報音が鳴っているのを聞いたりした近隣住民や本件駐車場の利用者がいたことは,うかがわれない。
イ 上記認定のとおり,本件駐車場が人目に付きやすい住宅街の中にあること,本件被保険車にはイモビライザー機能やアラーム機能が装備されており,純正のエンジンキーを用いて本件被保険車のエンジンを始動させるのであれば格別,それ以外の方法でアラーム機能を作動させることなく本件被保険車を本件駐車場から持ち去ることは,容易でないこと,原告が本件被保険車が盗難に遭ったとする当時に本件駐車場に駐車中の本件被保険車やその持ち去りを目撃したり本件被保険車の警報音を聞いたりした者がいる形跡がないことが認められるのであり,これらの事実に,上記のような場所に駐車されている上記のような機能を備えた本件被保険車を純正のエンジンキーを用いる以外の方法で窃取しようとすれば犯行が目撃される可能性が高いということに容易に想到し得ることも併せ考えれば,上記当時に本件被保険車が本件駐車場に駐車されていたとは容易に認められないし,仮にその事実は認められるとしても,本件被保険車が原告以外の者によって上記のような方法で持ち去られたとの事実を認定することは困難である。
もっとも,証人Bは,本件被保険車が盗難に遭ったとする時期より前に本件被保険車のリモコンキー1本を紛失していた旨証言しているが,第三者が原告やBと意を通じないでそのリモコンキーを入手し,これを用いて本件駐車場に駐車中の本件被保険車を持ち去ったことを認めるに足りる証拠はない。
なお,原告は,ゴージャッキと称する器具を使用して本件被保険車が窃取された可能性があるとして,甲第31号証を援用するが,推測の域を出るものではなく,そのような証拠によっても,本件被保険車が本件駐車場に駐車されていたことが証明されるものではないし,そのような方法で本件被保険車を移動させることができる範囲には,自ずから限度があり,その範囲を超えて本件被保険車を持ち去ることには,前記認定のような困難があることに変わりはないから,上記証拠を考慮に入れても,前記の認定判断が左右されるものとはいえない。
(3) 以上のとおり,原告が本件被保険車を窃取されたとする当時において,本件被保険車が本件駐車場に駐車されていたこと,及びこれを原告以外の第三者が持ち去ったことを認めることはできないから,争点(1)についての原告の主張は,理由がない。」
裁判年月日 平成19年 9月27日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ネ)1062号
事件名 車両保険金等請求控訴事件
「第3 当裁判所の判断
1 争点①(本件第1事故発生の有無)について
(3) オ 上記アないしエに検討したところによれば,①本件センチュリー及び本件ベンツSが本件工場内に夜間駐車されていることを三井を含む控訴人らの関係者以外の第三者が知って車両窃盗を行う可能性は極めて低いこと,②控訴人一色及び控訴会社代表者二宮が本件センチュリー及び本件ベンツSの鍵を自宅に持ち帰らないで本件工場内の目につきやすい場所等に鍵も掛けないで保管していたということは,車両盗難等も経験している自動車販売・修理業者の行為として考えられないこと,③本件第1事故が発生したとされた後の三井の行動等は,高級車を盗難された車両所有者・使用者の対応とは考え難いこと,④三井は,暴力団組織との交遊がうかがわれること,⑤控訴人らは,保険金請求に係る盗難事故を偽装した別件事件にも関与していることがうかがわれること,⑥控訴人一色が三井に対し保険金相当額の支払をした旨の領収証の作成,盗難事故が発生したとされた直後の車載品の遺棄状況,ETCカードの利用等,一見すると,車両盗難事故が発生したことをうかがわせる徴表が作出されているが,これらがいずれも作為的で,不自然であることが認められる。
以上の検討結果を総合すると,本件第1事故の内容とされる本件センチュリー及び本件ベンツSの本件工場からの持ち去りが三井及び控訴人らの関与することなしに発生したものと考えることには余りにも多くの疑問があり,したがって,本件において,被保険者以外の者が本件工場から被保険自動車である本件センチュリー及び本件ベンツSを持ち去ったことを認めることはできない。
(4) 以上のとおりで,本件センチュリー及び本件ベンツSの盗難による車両保険金請求の要件である控訴人ら主張の本件第1事故発生の事実を認めることはできない。」