新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:数日前,地方裁判所から郵便物が届きました。怖くてまだ開封していないため,中身はわからないのですが,数ヶ月前から,騒音問題で近所とトラブルになっており,弁護士に相談して訴えるというようなことを言われておりましたので,その関係の書類かも知れません。もし本当に訴えられていた場合,このまま開封せずに放っておいても大丈夫なものでしょうか?不在を装って,郵便物を受け取らないでいた方が良かったでしょうか? 解説: 1 訴状の送達について (1) 送達の実施主体 (2) 交付送達の原則 ア 補充送達 イ 差置送達 (3) 特別の送達方法 ア 付郵便送達 イ 公示送達 現実的には公示送達により被告が訴えを起こされていることを知ることはないのですから,公示送達は例外的な最終的手段とされています。しかし,所在不明のため送達ができないとすると裁判ができなくなってしまい,逃げ隠れしている被告を保護することになってしまうことになるため,必要な制度であることは否定できません。そのため,公示送達は他の送達の方法で送達ができないやむを得ない場合で,被告の所在の調査に手を尽くしたがそれでも不明ということを裁判所に説明報告して初めて認められることになっています。 2 今回のケースについて (2) なお,不在を装って訴状を受け取らなかったとしても,あなたがその住所に現に居住していることが確認されれば,上記1(3)アの付郵便送達がなされます。付郵便送達がなされれば,例えあなたが郵便物を受け取らなかったとしても,発送の時点で送達がされたものとみなされますから,結論は上記(1)と異なりません(なお,公示送達の場合には,159条3項但書で擬制自白は成立しないものとされていますが,付郵便送達の場合にはそのような規定はありません)。公示送達の場合は,被告人側の落ち度が少なく,擬制自白の不利益を科していませんから,勝訴のために原告は裁判所を納得させる証拠を提出することになります。 (3) このように,裁判所からの郵便物を無視しても,あなたにとって利益になることは何一つありません。郵便物を開封して,中身が訴状であった場合には,お近くの弁護士にご相談のうえ,必ず答弁書を提出するようにしてください。 <参考条文> (職権送達の原則等)
No.1147、2011/8/24 17:38
【民事訴訟・訴状の送達・受け取り拒否】
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回答:
1.もし,その郵便物の中身が訴状であった場合,このまま開封せずに放っておけば,相手方の言い分がすべて認められ,あなたは敗訴することになります。速やかに中身を確認して,訴状であれば,お近くの弁護士に相談なさってください。
2.なお,不在を装って訴状を受け取らない場合には,付郵便送達(民訴法107条1項)という方法により,あなたに訴状が送達されたものとみなされますので,例え郵便物を受け取らないままでいても,そのまま放っておけば,あなたが敗訴することに変わりはありません。
3.参考法律相談事例集キーワード検索:965番,964番,911番,910番,909番,666番,478番参照。
以下,詳しく説明します。
民事訴訟は,原告が「訴状」を裁判所に提出することにより提起されますが,訴訟は公平,公正の原則により裁判所,原告及び被告が揃って成立するものですから,裁判所が審理を進め判決を下すためには,訴状が被告に「送達」されることが必要と考えられています(そして,訴状の送達ができない場合には,裁判長により,訴状が却下されることになります。民訴法138条2項)。すなわち,訴状の送達は訴訟開始継続の要件です。現代の裁判は,「当事者主義の訴訟」といって原告と被告がそれぞれ,自分の権利が認められるように,具体的な事実や法律上の主張を法廷で行い,その過程から裁判所が真実を発見して判決をするという仕組みをとっていますので,被告に対して,裁判が提起されているので,言いたいことがあれば裁判所に来て主張立証する機会を十分に与える必要があり,それが,訴状の送達により実現すると考えられています。
以下では,訴状の送達について説明します。
民事訴訟法は,送達に関する事務(書類作成等)は,裁判所書記官が取り扱うものとしていますが(民訴法98条2項),送達を実際に行うものは,原則として,郵便業務従事者または執行官としています(民訴法99条1項及び2項。)。裁判所近くの弁護士会等への送達は執行官によって行われることもありますし,また,裁判所の窓口に来た当事者に対し,書記官が書類を交付することによって送達することも認められていますが(民訴法100条),基本的には,送達は郵便によって行われ,これを「郵便による送達」といいます。執行官より地理に詳しい郵便局を利用する方が訴状の送達が確実に行われるからです。
そして,執行官や郵便業務従事者は,原則として,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下,「住所等」といいます)で,送達すべき書類を直接交付しなければならないとされています(民訴法101条及び103条)。
ただし,住所等で送達を受けるべき者に出会わないときは,使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができるとされています(民訴法106条1項。これを「補充送達」といいます)。例えば,本人が不在にしているが同居の家族がいて,その家族から書類が本人に渡されることが期待できる場合には,本人に直接交付しなくても,同居の家族に渡せばよいということになります。
また,これらの者が正当な理由なく書類の交付を受けることを拒んだときには,送達すべき場所に書類を置いてくることができるとされています(民訴法106条3項。これを「差置送達」といいます)。送達ができているかどうかは,手続き上重要であり後で紛争になると問題になるので(送達されていなければ判決の取り消し事由になります。民訴306条),例外的にしか利用されていません。
このように,補充送達と差置送達が認められていますが,これらの方法によっても送達ができない場合は存在します。例えば,単身者が不在にしているような場合(故意に不在にしている場合も考えられます。)には,同居者等が居ない以上補充送達はできませんし,不在で送達ができないことはやむを得ませんので,差置送達をするわけにもいきません。このような場合に,以下のような特別の送達方法による送達が認められています。
補充送達,差置送達により送達することができない場合,裁判所書記官は,一定の場所に宛てて書類を書留郵便等に付して発送することができます(民訴法107条1項)。これは「書留郵便等に付する送達」とか「付郵便送達」と呼ばれる特別の送達方法で,上記(1)の「郵便による送達」と名称は似ていますが,まったく別の送達方法です。付郵便送達の場合,発送のときに送達があったものとみなされ(民訴法107条3項),現実に到達したか,到達したとしてその時期はいつか等は問題となりません。裁判所は,自力救済を禁止し国民の紛争解決権限を独占しているので,紛争解決を遅延するとは許されず,被告の送達場所が明らかであれば,実際,被告が訴状を受け取ったかどうか,内容を確認したかどうかにかかわらず訴訟を開始します。偶然送達場所を不在にして,不注意で訴状を受け取れなくても訴訟はどんどん進行します。
さらに,送達を受けるべき者の住所,居所その他送達を受けるべき場所が不明な場合や,付郵便送達によることができない場合等には,裁判所書記官は,申立てにより「公示送達」をすることができます。この送達は,送達を受けるべき者に交付すべき書類をいつでも交付する旨を裁判所の掲示場に掲示してする送達方法で,掲示をした日から原則として二週間経過後に,その書類が送達を受けるべき者に送達がされたものとして扱われます(民訴法110ないし112条)。
(1) 今回,あなたは郵便物を受け取っているので,その中身が訴状だった場合,送達がなされていることは明らかです。訴状の送達の際には,第1回口頭弁論期日の呼出状及び答弁書の提出期限等も一緒に送達されるのが通常ですので,これらの書類も,郵便物に同封されているものと思われます。
あなたが訴状の送達を受けているということは,裁判所が審理を進め判決を下すことができるようになったこと(これを「訴訟係属」といいます)を意味します。それにもかかわらず,あなたが答弁書を提出せず,第1回口頭弁論期日に出頭しなかった場合,あなたは,原告が訴状で主張した事実を認めたものとみなされます(民事訴訟法159条3項。これを「擬制自白」といいます)。そのため,原告が,訴状において勝訴に必要十分な事実を主張している場合には,裁判所は口頭弁論を終結し,あなたを敗訴させることができるのです。被告の意見も聞かないで裁判を終結するというのは,不公平だと思うかもしれませんが,私的紛争は裁判所で当事者が主張,立証を行うことに法の支配の理念,自力救済禁止の原則から定められており,裁判所に行かない方が不利益を被ることになります。
すなわち,全ての国民に対して紛争が生じた時は裁判を受ける権利を(憲法32条)認めていますが,これを裏返すと、全ての国民は紛争当事者として裁判に出廷する義務を伴うことになります。個人主義,自由主義国家では,基本的に日常生活,経済活動も自らの責任で行わなければならず,私的紛争である民事訴訟手続きもその一環として位置付けることができます。
第九十八条 送達は,特別の定めがある場合を除き,職権でする。
2 送達に関する事務は,裁判所書記官が取り扱う。
(送達実施機関)
第九十九条 送達は,特別の定めがある場合を除き,郵便又は執行官によってする。
2 郵便による送達にあっては,郵便の業務に従事する者を送達をする者とする。
(裁判所書記官による送達)
第百条 裁判所書記官は,その所属する裁判所の事件について出頭した者に対しては,自ら送達をすることができる。
(交付送達の原則)
第百一条 送達は,特別の定めがある場合を除き,送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。
(送達場所)
第百三条 送達は,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし,法定代理人に対する送達は,本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2 前項に定める場所が知れないとき,又はその場所において送達をするのに支障があるときは,送達は,送達を受けるべき者が雇用,委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも,同様とする。
(補充送達及び差置送達)
第百六条 就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは,使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が郵便事業株式会社の営業所において書類を交付すべきときも,同様とする。
2 就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において,第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは,これらの者に書類を交付することができる。
3 送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは,送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。
(書留郵便等に付する送達)
第百七条 前条の規定により送達をすることができない場合には,裁判所書記官は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める場所にあてて,書類を書留郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成十四年法律第九十九号)第二条第六項 に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項 に規定する特定信書便事業者の提供する同条第二項 に規定する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして最高裁判所規則で定めるもの(次項及び第三項において「書留郵便等」という。)に付して発送することができる。
一 第百三条の規定による送達をすべき場合
同条第一項に定める場所
二 第百四条第二項の規定による送達をすべき場合
同項の場所
三 第百四条第三項の規定による送達をすべき場合
同項の場所(その場所が就業場所である場合にあっては,訴訟記録に表れたその者の住所等)
2 前項第二号又は第三号の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には,その後に送達すべき書類は,同項第二号又は第三号に定める場所にあてて,書留郵便等に付して発送することができる。
3 前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には,その発送の時に,送達があったものとみなす。
(公示送達の要件)
第百十条 次に掲げる場合には,裁判所書記官は,申立てにより,公示送達をすることができる。
一 当事者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三 外国においてすべき送達について,第百八条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において,裁判所は,訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは,申立てがないときであっても,裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は,職権でする。ただし,第一項第四号に掲げる場合は,この限りでない。
(公示送達の方法)
第百十一条 公示送達は,裁判所書記官が送達すべき書類を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条 公示送達は,前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって,その効力を生ずる。ただし,第百十条第三項の公示送達は,掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては,前項の期間は,六週間とする。
3 前二項の期間は,短縮することができない。
(裁判長の訴状審査権)
第百三十七条 訴状が第百三十三条第二項の規定に違反する場合には,裁判長は,相当の期間を定め,その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。民事訴訟費用等に関する法律 (昭和四十六年法律第四十号)の規定に従い訴えの提起の手数料を納付しない場合も,同様とする。
2 前項の場合において,原告が不備を補正しないときは,裁判長は,命令で,訴状を却下しなければならない。
3 前項の命令に対しては,即時抗告をすることができる。
(訴状の送達)
第百三十八条 訴状は,被告に送達しなければならない。
2 前条の規定は,訴状の送達をすることができない場合(訴状の送達に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。
(自白の擬制)
第百五十九条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。
2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。
3 第一項の規定は,当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし,その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは,この限りでない。第三百六条 第一審の判決の手続が法律に違反したときは,控訴裁判所は,第一審判決を取り消さなければならない。