新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:夫と協議離婚し,子供の親権を取って母子のみで生活していましたが,この度,再婚を考えています。離婚の際,公正証書で養育費について定めをし,元夫もこれまで遅れながらも支払いを続けてくれていますが,私が再婚した場合,この養育費の取り決めはどうなるのでしょうか。 解説: 【どのような場合に養育費の減額が認められるか】 【親権者の再婚と養育費――原則】 【親権者の再婚と養育費――例外】 【子供が親権者の再婚相手と養子縁組した場合】 [1]養子縁組の効力として,養子は,縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得し(民法809条),扶養義務を負う直系血族の関係(民法877条)が生じること。 さて,話が難しくなったので元に戻しますと,要するに,元夫の扶養義務は,養子縁組によって消滅するわけではないものの,養親となる再婚相手が負う義務に劣後する第二次的なものに変化・後退することになります。 【判例――子供が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合の扶養関係】 【参照判例】 神戸家裁姫路支部平成12年9月4日審判の内容。 「以上の認定事実によれば,申立人らは,住宅ローンがなければ未成年者に対し十分な扶養義務を履行できる状況にあるものと認められる。そして,既述のとおり,住宅ローンは平成10年の再婚後に組んだもので,申立人はこれが家計に及ぼす影響を十分理解しながら,養父聡の収入をもってすれば返済可能であるとの自己判断に基づき負担したものであって,その後の経済情勢の変化,養父聡の減収等によって見込が外れたからといって,これを相手方の負担に転嫁するのは相当でない。とすれば,相手方は養親及び親権者である申立人らに劣後する扶養義務を負担するに過ぎない以上,相手方には現時点で具体的な養育費の負担義務は発生していないと言わざるを得ない。よって,本件申立ては理由がないものとして却下することとし,主文のとおり審判する。」 長崎家裁昭和51年9月30日審判の内容。 「(一)申立人両名は自己の直系卑属(孫)であり,未成熟子である事件本人を養子とし,一体的共同生活を営んでいるものであるから,このような場合,事件本人の実母も申立人らと生活を共にしながら,事実上事件本人に対する監護権を代行しているとしても,通常一般の縁組と同様,未成熟子である事件本人の福祉と利益のために,親の愛情をもつてその養育を,扶養をも含めて全面的に引受けるという意思のもとに養子縁組をしたと認めるのが相当であつて,このような当事者の意思からいつても,養子制度の本質からいつても,事件本人に対する扶養義務は先ず第一次的に養親である申立人両名に存し,養親が親としての本来の役割を果しているかぎり,実親の扶養義務は後退し,養親が資力がない等の理由によつて充分に扶養義務を履行できないときに限つて,実親である相手方は次順位で扶養義務(生活保持の義務)を負うものと解すべきである。 【参照法令】 ≪民法≫
No.1168、2011/10/12 15:55 https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-youikuhi.htm
【家事,養育費の権利者が再婚した場合,養育費の減額,養親と実親の扶養義務の順位】
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回答:
1.養育費の権利者(以下単に「親権者」といいます。)が再婚しただけで養育費の支払義務はなくならず,内容も変更されません。これまでどおりに請求し,支払いを受けて差し支えないでしょう。ただし,個別具体的な事情の下では,元夫が家庭裁判所に審判を申し立てることにより,減額が認められてしまう可能性も考えられます。
2.あなたの子が再婚相手と養子縁組をした場合には,家庭裁判所において養育費の減額が認められる可能性が高いでしょう。その場合でも,減額の幅は,権利者,義務者の生活状況を総合して決められるので,自身に有利な事情として何があるかを検討しておくべきです。
3.養育費の減額等を求める方法として,まずは裁判外での交渉によることが考えられますが,あくまで任意の話し合いを求めるものですので,あなたにはそれに応じる義務はありません。そのため,相手方としても,そのことを見越して初めから家庭裁判所に調停を申し立ててくることが予想されます。
4.事例集790番は,本件類似の事案について元夫側の立場からの相談として作成されたものです。こちらもご参照ください。
5.養育費に関しては法律相談事例集キーワード検索:1132番,1056番,1043番,983番,981番,790番,697番,684番,669番,427番,345番を参照にしてください。
家庭裁判所は,養育費について,それが当事者の協議によって取り決められたもの(公正証書化されたものを含む。)であっても,あるいは家庭裁判所の調停や審判によって認められたものであっても,審判によってこれを変更することができます。根拠条文は民法766条2項,家事審判法9条乙類4号です。この条文は,一度合意した養育費を変更できるとは書いてありませんが,養育費は未成熟の子が人間として成長していくために最低限必要不可欠な経済的要素ですから(憲法13条子供の幸福追求権)子供の環境事情変化により増額,減額を含め変更することを否定するものではありません。
かといって,どのような場合でも変更を認めるということではありません。
養育費を取り決めた当時(以下,単に「離婚時」といいます。)には予測できなかったような事情の変更が発生して,一度決めた養育費の額が現状にそぐわなくなったときであれば,養育費の減額を請求して認められることがあります。
とはいえ,将来とは元々不確定なものですから,変化の程度が小さい場合には離婚時においてある程度想定されていた範囲に過ぎないとして,減額請求を基礎付ける事実と認められないでしょう。
親権者の再婚自体が離婚時に予測されていた事実かどうかということであれば,それは予測されていなかったということになろうかと思います。しかし,離婚時に予測されていたか否かは,あくまで養育費の額を決めるうえでの基礎事情について検討されるべきものです。養育費と無関係の事情であれば,それが予測されていたか否かが養育費の額に影響しないのは当然のことです。
では,親権者の再婚という事実は養育費に関係しない事情なのでしょうか。
この点,親権者が子供を連れて再婚した場合でも,元配偶者の扶養義務が当然になくなるわけではありません。引き続き元配偶者が第一次的な扶養義務を負い続けることになります。親権者が再婚したとしても,その再婚相手と連れ子(あなたの子供)の間には親子関係はなく,民法上の扶養義務を負う直系血族の関係にはあたらないからです。
また,親権者と再婚しただけでは,連れ子の親権者にはなりません。離婚後の単独親権の状態が続くことになります。親権には権利と義務の二面性がありますが,親権者でない再婚相手は,親権者の義務としての側面についても負わないことになります。
したがって,あなたは,仮に再婚したとしても,元夫に対してこれまでどおり養育費を支払ってもらう権利を失わないことになります。
ただし,再婚相手はあなたと夫婦になるので,夫婦間の婚姻費用分担義務(結婚生活に必要な費用を分担する義務)を負うことになります。私見ですが,再婚相手が負う婚姻費用分担義務の内容を勘案するにあたって,妻に扶養義務・養育義務を負う連れ子がいるときには,個別具体的な事情によるものの,夫婦間の生活扶助義務の一環として,または条理上,妻に連れ子がいることをある程度織り込んで算定することと解する余地もあるでしょう。
例えば,再婚相手の経済力にかなりの余裕があり,連れ子の養育費相当額を含めた生活費全般を負担するようになった場合には,離婚時に予測できなかった事情変更があるとして,養育費の減額を基礎付ける事実と認められる可能性も有りうるものと考えます。養子縁組の届出さえしなければ減額請求は絶対に認められないから大丈夫と高を括ることはできないというわけです。
子供が再婚相手の養子になった場合,養親が第一次的な養育費の支払義務になります。理由としては次のものが考えられます。
[2]養子縁組をしても実親との親子関係は消滅しないものの,未成年の子供が養子であるときは養親の親権に服する(民法818条2項)とされ,親権者は,子供の生活・教育の面倒を見る義務を負うこと(民法820条)。
ここで少し理論的な話をしますと,養育費と扶養料とは,厳密には別の概念であるといえます。前者は,両親の間での子供の監護に必要な費用分担としての性格(民法766条),後者は,未成熟子等一定の要扶養者が扶養義務者に対して有する固有の権利としての性格を有します。しかしながら,養育費の根底ないし背景には,未成熟子が生活をし,社会の中で育っていくための費用(まさしく扶養料であると解すべきでしょう。)の確保という目的があるものと考えられます。こうしたことから,養子縁組が実親の養育費支払義務に影響を及ぼしうる根拠として,扶養に関する規定を挙げた次第です。
そうすると,子供が親権者の再婚相手と養子縁組した事実があれば,特段の事情がない限り,離婚時において予測できなかった事情の変更があったと認められると考えてよいでしょう。
したがって,元夫が養育費減額を求める調停を申し立てた場合,調停委員会としては,養親による扶養がされるべきことを考慮してあなたに対して減額に応じることを勧め,合意ができずに審判がされるときは,減額を認める内容となる可能性が高くなります。
扶養義務者が複数いる場合で,扶養をすべき者の順序について当事者の協議が調わないときは,家庭裁判所がこれを定めることとされています(民法878条)。
前述の養子に対する実親・養親の扶養義務の順位に関しては,長崎家裁昭和51年9月30日審判,神戸家裁姫路支部平成12年9月4日審判がいずれも上記とほぼ同様の判断をしています。
また,家庭裁判所の許可を要せずして養子縁組をすることができるような場合に,もし養親たるべき者の養子縁組の意思が,未成熟子の親権者となつていない実親からの扶養料を目当てにし,或いは実親の資力如何によつて左右されることがあるとすれば,それは養子縁組の本質に反するものであるのみならず,親権者でない実親にとつても,資力が充分あつて家庭的,人格的諸事情にも欠けるところがなく,しかも子を引取る意思を有しているのにかかわらず,養子縁組につきその意思を何ら問われることもないままに縁組が結ばれて,養親と同順位で生活保持の義務を負うに至ることは不合理であつて,この点からも,実親の扶養義務は第二次的なものとするのが妥当といわなければならない。」
いずれも当然の判断です。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条
1項 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は,その協議で定める。協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。
2項 子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の監護をすべき者を変更し,その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3項 前二項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。(嫡出子の身分の取得)
第809条
養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の身分を取得する。
(親権者)
第818条
1項 成年に達しない子は,父母の親権に服する。
2項 子が養子であるときは,養親の親権に服する。
3項 親権は,父母の婚姻中は,父母が共同して行う。ただし,父母の一方が親権を行うことができないときは,他の一方が行う。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第819条
1項 父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者と定めなければならない。
2項 裁判上の離婚の場合には,裁判所は,父母の一方を親権者と定める。
3〜6項 略
(監護及び教育の権利義務)
第820条
親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。
(扶養義務者)
第877条
1項 直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。
2項・3項 略
(扶養の順位)
第878条
扶養をする義務のある者が数人ある場合において,扶養をすべき者の順序について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において,扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても,同様とする。