新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:先日,交通事故に巻き込まれて,怪我をしました。幸い通院治療のみで済んだのですが,数日間仕事ができない状態にあったため,加害者に対し治療費のほかに休業損害を請求したいと思います。休業損害の額は,どのように算定したらよいのでしょうか。なお,私の休業損害証明書,前年の源泉徴収票,課税証明書を取り寄せたところ,これらの記載は以下のとおりでした。 ●休業損害証明書 回答: 解説: (2)そして,給与所得者については,事故前の給与額を基礎収入とし,欠勤のために喪失した給与額を算定します。実務的には,事故前3か月間の平均給与(本給のほか住宅手当,超過勤務手当,通勤手当等の付加給を含む。)を基に90で除した数字に休業日数を乗じて算定されます。 事故前3か月間の給与額÷90日×休業日数 この計算方法は、民法で具体的に規定されたものではありませんが、自動車損害賠償保障法及び施行令(昭和30年政令第286号)の規定に基き、平成13年国土交通省告示1号として「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」として規定されており、裁判実務において、自賠責保険以外の賠償請求の場面においても踏襲されている計算方法です。 http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf なお,税金等についてですが,損害賠償金は非課税であるため(所税9条1項16号,所税令30条),休業損害の算定においても,所得税,住民税は控除しないで基礎収入額を算定します(本人分の社会保険料もこれに準じて控除しません。賠償額について社会保険料は科せられないからです。)。 (3)「事故前3か月間の給与額」は,次の書類を用いて把握します。 2 本件について (参照条文) 民法
No.1184、2011/11/18 13:47 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm
【民事・交通事故による休業損害の計算の方法・税金、社会保険料控除前の給料額を基準とするかどうか】
「 1.上記の者は,自動車事故により,平成21年×月×日から平成21年×月×日までの期間仕事を休んだ(遅刻・早退した日を含む。)。
2.上記期間の内訳は,
欠勤16日 年次有給休暇0日 遅刻0回 早退0回
3.上記について休んだ日は下表のとおり
(省略)
4.上記休んだ期間の給与は,
全額支給しなかった。
5.事故前3か月間に支給した月例給与(賞与は除く。)は下表のとおり
稼働日数 支給金額 社会保険料 所得税 差引支給額
本給 付加給
21年×月分(省略) 180、000 22、200 34、673 3、830 163、697
21年×月分(省略) 180、000 18、400 29、650 3、690 165、060
21年×月分(省略) 180、000 17、400 29、290 3、690 164、420
計 (省略) 540、000 58、000 93、613 11、210 493、177
6.社会保険(労災保険,健康保険等で,公務員共済組合を含む。)から傷病手当金・休業補償費の給付を
受けない 」
●源泉徴収票
「支払金額」欄 2、835、742円
●課税証明書
「支払給与の総額」欄 2、835、742円
1.休業損害の額は,3カ月分の給料をもとに1日の給与を計算し、それと実際に休んだ日数の積となります。つまり59万8000円(3カ月分の給与合計)÷90日(3カ月を90日として)×16日(実際に休んだ日数)=10万6311円となります。
交通事故に関して、事務所事例集1118番、1050番、991番、914番、902番、832番、831番、776番、761番、729番、701番、645番、566番、522番、493番、422番、238番、225番、167番、130番、80番参照。
1 休業損害とは
(1)休業損害とは,傷害事故において,傷害が治癒し,又は,症状が固定した時期までの間に被害者に生じた収入減(経済的利益の喪失)をいいます。民法709条を根拠として、故意過失による事故の被害者が、加害者に対して実損害の賠償請求をすることができるのが、根拠規定になっています。
*実際の3か月間の日数に関係なく90日を用います。
もっとも,税金等は控除すべきであるとの見解も有力です。
ア 休業損害証明書
給与支払者が作成したもので,事故による欠勤期間,欠勤期間中の給与の支払状況,事故直前3か月間の給与の支払状況が記載されます。
イ 給与所得の源泉徴収票(事故の前年分)
給与支払者が作成したもので,事故の前年分の給与の支払金額,天引きされた所得税額等が記載されます。
ウ 住民税の課税証明書(事故の当年分)
給与支払者は,毎年1月31日までに,給与受給者ごとに前年分の給与支払報告書を作成し,受給者の住所地を管轄する市区町村に提出します。市区町村では,これを基に源泉徴収票に記載された年の翌年を当年分として住民税を課税します。
(1)本件では,
事故前3か月間の給与額・・・59万8000円(本給+付加給)
休業日数・・・16日
ですから,
休業損害の額は,
59万8000円÷90日×16日=10万6311円
となります。
(2)なお,「事故前3か月間の給与額」が正しいものであることは,前項の(3)に記載した3種類の書類を検討して、以下のようにチェックします。
まず,課税証明書は役所が発行するものであるから,信用性が認められるところ,同書によると「支払給与の総額」は283万5742円です。
次に,源泉徴収票の「支払金額」は283万5742円であるところ,この額は課税証明書の「支払給与の総額」と一致することから,源泉徴収票の「支払金額」は正しいことになります。
最後に,休業損害証明書から導き出される事故直前1か月当たりの給与は19万9333円(59万8000円÷3か月)であるところ,この額は源泉徴収票「支払金額」の月割額23万6312円をやや下回ることから(源泉徴収票に記載された前年1年間の支払金額には賞与等が含まれています。),休業損害証明書記載の月例給与は正しいものと推測されます。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。