新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1186、2011/11/24 16:03 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・借地上の建物所有者は建物新築に際し、地主所有の土地に関して建築基準法上の道路通行権(道路提供)を要求できるか・東京地裁平成6年1月20日判決、判例タイムズ870号−186頁参照】

質問:私は建物を所有する目的で土地を借り、家を建てて住んでいましたが、かなり古くなったので建て替えをしようと考えています。そこで建築会社に相談したところ、この土地は地主が所有する一筆の土地の一部で、建築基準法上家を建築するには2メートル幅の通路の確保が義務付けられているということでした。このような通路を確保するためには、地主の土地を通るしかありませんが、この点に関して何も取り決めをしていません。そこで地主に相談したところ、建て替えは承諾するが現在の通路は1.5メートルしかないので、2メートル幅の通路(公道への接道)は認められないということでした。建築会社の話では、地主の承諾がない限り新築は無理だと言われてしまいました。地主に通路を承諾するように請求する権利は私にはないのでしょうか?

回答:
1.このような場合、借地人は地主に対して建築基準法で要求される接道義務(建築基準法43条 4メートル幅の道路に2メートル以上接道が必要。)を満たすように敷地を提供する義務があるとする地裁レベルの判例があります。反対の見解もあり判例が確定している訳ではありませんが、地主が拒否している場合は地主に対して建築基準法の定める幅員の通路の提供を承諾するよう求める権利があり、承諾せよという判決を求めること、又通行権を確認する訴訟を提起することも可能と考えられます。
2.建築基準法の接道道路については、当事務所事例集検索891番811番810番699番99番参照。

解説:
1(問題点の指摘、建物を所有する借地権者が建築基準法上の道路利用権がない場合について)
  道路に面している一筆の土地の所有者が、道路に面している部分を自ら使用しながら、道路に面していない部分を有効活用するために賃貸に出すことは多いです。このような場合には、道路への通行が問題になることが明白ですので、借地契約の締結の際に、所有者と賃借人との間で道路に面した土地の通行に関して取り決めをするのが通常です。しかし、何らかの事情により通行に関する取り決めがないことも考えられます。本来は、建築確認申請の段階で通路の問題が解決されている必要があるのですが(通路部分にも借地契約をするか、あるいは通路について無償で使用することができる使用貸借契約を締結する。)、従前は安易に建築確認が許可されていたため通路の部分について問題が残るような状況で家が建ってしまうというのが現実でした。相談者の現在の建物も本来は建築が認められないのに、建築業者が無理をして建ててしまったというのが実情でしょう。

  しかし、現在は火災等緊急事態に対する対応要請という公共的理由から、建築基準法が厳格に適用されているので、通路部分について権利関係を明確にしておかないと建築確認許可は得られません。相談者が依頼した建築業者もこのような点から地主の承諾が必要と言っているのであり、このような扱いは正しい扱いです。借地上の建物ですから、通常は借地契約において建て替えの場合は地主の承諾が必要とされていますから、この承諾を得る際に通路についても契約をする必要があります。そこで、通路について地主が契約の締結を拒否し、通路について承諾しない場合建替えをするにはどうしたら良いのか検討が必要です。この点については、建築基準法上の通路の設置まで要求できるのか、単なる公道に出るまでの通行を請求できるのかという2つの段階に分けての議論が必要です。

2 (建物所有する借地権者の公道への通行権)
  まず、公道に出るまでの通行という意味での通行権は、認められることになっています。判例は、「公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し、その残余地を自ら使用している場合には、所有者と賃借人との間において通行に関する別段の特約をしていなかったときでも、所有者は、賃借人に対し賃貸借契約に基づく賃貸義務の一内容として、右残余地を当該賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務がある。」と判示しています(最高裁昭和44年11月13日判決、民集97―259)。建物所有を目的として土地を賃貸した以上、道路に出ることができなければ、建物の有効利用はできずその目的は達成できないのは明白ですから、地主はかかる土地に借地権を設定した以上道路への通行権を当然覚悟せねばならず、信義則上(民法1条)当然の帰結として、道路に面している土地の通行はできると考えられています。

3 (借地権者は、建築基準法上の道路利用権を地主に要求できるか)
  このように通行権が認められるとして、次に問題となるのは、通路の幅です。建築基準法上、要求される幅員の通路の設置まで要求できるのかという問題です。どの程度の幅の通路の開設を要求できるかという問題です。最低限として人が通れれば良いのか、あるいは自動車まで通行できるような幅員まで認められるのかという問題です。
  この点、争いがあり、建築基準法において要求される通路幅に関する問題と通行権として要求できる通路幅の問題は、別次元の問題であるとして、当然に土地所有者に建築基準法上の制限に応じた通路幅の確保の協力義務を認めない考え方もあります。近代市民法の大原則である所有権絶対、契約自由の原則からすれば、契約もしていない自分の土地に、他人のための通路を設ける必要はないということは当然の結論ともいえます。
  しかし、借地権は建物の建築・所有を目的として設定しているものであり、建築基準法上の要件が確保できなければ、借地人は借地上に建物を建築することはできず、借地権設定の意味がなくなり、借地権者に不当に酷な結果となります。土地所有者としても、土地の有効活用として賃料収入を得ている以上、当事者の信義則からも借地権設定の目的に応じた協力義務は負うべきでしょう。借地権を設定する段階で、建物の建築が前提であることは土地所有者も認識しているのですから、かかる協力義務を課しても土地所有者に特に酷とはいえず、想定の範囲内であるといえます。

  この点、地裁レベルですが判例においてですが、「本件におけるように、公道に面する一筆の土地の所有者が右土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し、残余地を自ら使用しているような場合には、残余地の通行に関して格別の合意をしなかったときにおいても、賃貸人は、賃貸借契約に基づく債務の一内容として、賃借人に対して、当該賃貸借契約の目的に応じて残余地を通行させる義務を負うものというべきであり、この場合において、当該賃貸借契約が建物所有を目的とするものであるときには、賃貸人は特段の事情のない限り、賃借人が目的地に建築基準法令に従って適法に建物を建築し維持するに足りる幅員の通路を供すべき義務を負うものと解するのが相当である。」と判示しているものがあります(東京地裁平6年1月20日判決判タ870−186)。これは同趣旨の判例であるといえます。
  借地権の保護を重視して、土地所有者としても借地人の建物の建築所有を全うさせるべきであるから、土地所有者が建物所有目的で道路に面していない自らの土地に借地権を設定した場合には、当事者間には建築基準法にしたがった通路幅の通路を設定する「黙示の合意」があったものと考えるべきでしょう。 

4(本件の検討 具体的手続き)
  ご質問の事例を検討いたしますと、本件は、公道に面する一筆の土地の所有者がこの土地のうち公道に面しない部分を他に賃貸し、残余地を自ら使用している場合ですから、土地所有者は、残余地を通行させる義務があるといえます。そして、本件では建物所有目的の借地権の設定ですから、建築基準法により建物建築に必要な範囲での通路幅の通行権が認められるといえます。本件の場合、建築基準法上家を建築するには公道に接道する2メートル幅の通路の確保が義務付けられていることから、土地所有者に対して2メートル幅の通路の確保を要求することができます。
  地主が承諾を拒否する場合の具体的な対策ですが、借地契約に増改築禁止特約がある場合は、建替新築は改築に該当することになっていますから、まず借地非訟事件として借地の存在する場所を管轄する地方裁判所に増改築建築許可の申し立てをすることになります。増改築禁止特約がない場合は、建替えに地主の承諾は不要ですからこのような申し立ては必要ありません(この場合は更新の時点で、地主の承諾なく更新後も存在する建物を建築したことを理由に地主が更新を拒絶することにより争いになる可能性があります)。増改築建築許可申立事件においては、当然公道への接道義務が問題となり、承諾するよう裁判所から地主側に事実上和解の勧告がありますから、その際に通路の問題も提案して一挙に解決することが可能になります。

  しかし、地主側が和解を拒否する場合は裁判所としては承諾に代わる許可をする以上のことはできません。借地人としては一度改築する許可をもらって、再度通路の点について承諾する旨の裁判をする必要があります。通路についての通行権があることの確認判決をもらうことも可能でしょうが、この点は建築確認を許可する役所と事前に打ち合わせてどのような判決があれば地主の承諾に代わることができるのか確認しておいた方が良いでしょう。
  なお、借地借家法が適用される借地権の場合は、増改築禁止の特約が無くても更新後の再建築には建物再建築許可の申し立てができることになっていますので(借地借家法18条)、まず、この申し立てをして再建築許可を得ることになります。
  また、このような土地について抵当権を設定して住宅ローンを建築資金とすることは、金融機関の了承が必要ですので、地主の任意の承諾ではなくこれに代わる判決でも融資ができるのかは事前に確認しておく必要があります。実情は金融機関としては担保価値に疑問があるとしてローンは実行されないと考えていた方が良いでしょう。

≪参照条文≫

借地借家法
第三節 借地条件の変更等
(借地条件の変更及び増改築の許可)
第十七条  建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
2  増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
3  裁判所は、前二項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
4  裁判所は、前三項の裁判をするには、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。
5  転借地権が設定されている場合において、必要があるときは、裁判所は、転借地権者の申立てにより、転借地権とともに借地権につき第一項から第三項までの裁判をすることができる。
6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項から第三項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。
(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
第十八条  契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、延長すべき借地権の期間として第七条第一項の規定による期間と異なる期間を定め、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
2  裁判所は、前項の裁判をするには、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3  前条第五項及び第六項の規定は、第一項の裁判をする場合に準用する。

建築基準法
(目的)
第一条  この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
 第二節 建築物又はその敷地と道路又は壁面線との関係等
(敷地等と道路との関係)
第四十三条  建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。
一  自動車のみの交通の用に供する道路
二  高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第四十四条第一項第三号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一 の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの
2  地方公共団体は、特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。

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