新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1188、2011/11/28 15:40 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・借家人は借家の敷地を駐車場として利用できるか・物置の設置はどうか・家庭菜園はどうか】

質問:私は一戸建ての家を借家として借りています。その借家の敷地にスペースがあるので、そこを駐車場として利用しようと思うのですが、借家人が敷地を家主の許可なく利用してよいのでしょうか?また、物置を設置することは可能でしょうか?

回答:
1.一般的には、借家の敷地の広さ、借家契約の内容、目的、敷地利用の範囲、設置するものなどの利用方法などをもとに、社会通念に従って、判断されることになります。
2.結論から言えば駐車場利用が可能と思います。物置設置も通常の簡易なものであればできると思われます。

解説:
1 (原則)
  借家契約において、借家人が借家を使用する場合、当然、借家の敷地の占有使用が伴います。特別に地主と借家人が、敷地の使用に関して合意をしている場合にはそれに従うことになりますが、そのような特約がなくても、当然借家人は一定の範囲で敷地を利用することができます。判例においても、「元来住宅に使用するための家屋の賃貸借契約において、その家屋に居住し、これを使用するため必要な限度でその敷地の通常の方法による使用が随伴することは当然であって、この場合その敷地の占有使用につきことさらに賃貸人の同意を得る必要はない。」と判示しています(東京高裁昭和34年4月23日判決下民集10−4−804)。

2 (判断基準)
  したがって、借家人は借家の敷地を利用することはできますが、問題はその利用できる範囲です。敷地の広さや設置するものによって事情が変わってきますが、一般的には、当該借家の使用のために合理的な範囲で敷地を利用できると考えられています。判例においても、「その使用占有は飽迄も賃借家屋の使用占有に伴うもの、言い換えれば本来の目的たる家屋の使用占有する上において常識上当然とされる程度に限られるものと言わなければならない。」と判示しています(東京高裁昭和34年4月23日判決下民集10−4−804)。具体的には個々の事情ごとに判断せざるを得ないのですが、一般的には、敷地の広さ、借家契約の内容、目的、敷地利用の範囲、設置するものなどの利用方法などをもとに、社会通念に従って、判断されることになります。

3 (具体例)
  以下では、具体的なケースごとに検討します。

@(駐車場の場合)
  敷地を駐車場として利用する場合、当該敷地の広さが問題となります。借家に比較して広い敷地があり、家主においてその部分を分けて借家人以外の者に利用させることが可能である場合には、借家人が借家契約だけでその敷地を駐車場として利用することは難しいでしょう。敷地が狭く、借家に付随する程度のものであれば、常識的に借家契約に伴うものとして(自家用車1台か2台程度)利用することはできるといえます。ただ、いずれにしても借家契約に駐車場に関し特約がある場合にはそれに従うことになります。

A(物置の設置の場合)
  物置の場合、設置について契約書にその旨の記載や家主の同意があれば問題ありませんが、同意がない場合あるいは契約書に物置の設置を禁止する事項があったとしても、当該物置の大きさ、設置状況によって、合理的な範囲であれば認められると考えられます。賃貸人の承諾が無い場合は、物置の設置が借主の義務に違反するか否か、違反するとしても賃貸借契約を継続しがたいほどの違反と言えるかが問題となります。

  判例において、「右被上告人らの本件改造工事について、いずれも簡易粗製の仮設的工作物を各賃借家屋の裏側にそれと接して付置したものに止まり、その機械施設等は容易に撤去移動できるものであつて、右施設のために賃借家屋の構造が変更せられたとか右家屋自体の構造に変動を生ずるとかこれに損傷を及ぼす結果を来たさずしては施設の撤去が不可能という種類のものではないこと、及び同被上告人らが賃借以来引き続き右家屋を各居住の用に供していることにはなんらの変化もないことを確定したうえ,右改造工事は賃借家屋の利用の限度をこえないものであり、賃借家屋の保管義務に違反したものというに至らず、賃借人が賃借家屋の使用収益に関連して通常有する家屋周辺の空地を使用しうべき従たる権利を濫用して本件家屋賃貸借の継続を期待し得ないまでに貸主たる上告人との間の信頼関係が破壊されたものともみられない」と判示したものがあり(最高裁昭39年7月28日判決、民集18−6−1220)、借家の構造への影響の有無、借家に付属したものと評価できるか、撤去が容易かを考慮して、合理的な範囲の利用か否か判断することになります。したがって、小さな物置であれば、借家の構造に影響はなく、また簡単に撤去が可能でありますので、問題ないと思われます。
  但し、契約書で禁止されていたり、賃貸人が物置設置に反対している場合は、これを無視して物置を設置すると紛争になることが予想されますから、事前に賃貸人の承諾を得ておくことが望ましいと言えます。

B(家庭菜園の場合)
  借家の種類と敷地の広さによって分かれると思われます。一戸建ての場合には、家屋に付随する程度の庭であれば、家庭菜園などとして借家人の自由に利用ができると思われます。しかし、敷地が広く、借家人以外の者に対しても独立して利用させることができるような場合には、借家人がすべてを当然に利用することはできず、その範囲も制限されると思われます。そして、アパートなどのような場合には、一階の部屋を庭付きで借りるような特別な場合を除いて、敷地を家庭菜園等として利用することは難しいです。

4(解除との関係)
  借家人が利用できる範囲を超えて敷地を利用した場合には、借家人は用法遵守義務違反、善管注意義務違反となり、家主から損害賠償を請求される可能性があります。また、その利用の程度が、家主との間の信頼関係を破壊する程度の違反であれば、無催告で借家契約を解除される恐れもあります。

5(本件の検討)
  ご質問の事例を検討いたしますと、前述の通り、敷地の広さ、借家契約の内容、目的、敷地利用の範囲、設置するものなどの利用方法などをもとに、社会通念に従って、判断されることになります。一戸建ての家屋ですので、借家契約の目的は居住であると思われます。そして、駐車場としての利用ですが、まず、借家契約に駐車場利用の特約があるか確認する必要があります。特約がない場合には、敷地の広さが問題となり、借家に付随する程度のものであれば、駐車場としての利用も含まれていると想定されます。しかし、独立して借家人以外のものにも利用させることが可能なほど広い場合には駐車場として利用することは難しい可能性がありますので、賃貸建物に必要な敷地と判断される土地に自家用車を1,2台駐車するスペースを利用することは問題ないと考えら得ますがそれを超えてしまう場合は貸主と協議した方がよいでしょう。自動車の車検登録や名義変更の際に必要な車庫証明の取得に際し、敷地所有者の使用承諾証明書が必要になります。具体的な手続を行う場合は借家の貸主との協議が必要となります。
  物置の設置については、撤去容易な構造のものであり、家屋や隣地に障害を与えるものでない家庭用のものであれば、合理的な範囲として設置は可能と思われます。作業用の大規模なものは、居住用の借家契約の目的からみても、認められないと思われます。

《参照条文》

民法
(特定物の引渡しの場合の注意義務)
第四百条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
(借主による使用及び収益)
第五百九十四条  借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2  借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3  借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
(使用貸借の規定の準用)
第六百十六条  第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。

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