振込み詐欺・被害救済
民事|振り込め詐欺|詐欺罪|振り込め詐欺防止法|振り込め詐欺救済法
目次
質問:
先ほど息子から電話があり、交通事故を起こしたのでお金を振り込んで欲しいと言われたので、あわてて振り込んでしまいました。
しかし、後になって冷静に考えると、振り込め詐欺にあったと気づきました。弁護士さんに頼むと、お金を取り戻すことはできますか。
回答:
1.警察に被害届を出し、捜査を依頼することも必要ですが、弁護士がお手伝いすることにより、振り込んだ相手の口座を停止し、法の手続にのっとって、被害回復の手続ができる場合があります。
2.振り込め詐欺に関する関連事例集参照。
解説:
1.振り込み詐欺とは
各種の報道により有名になりましたが、いわゆる振り込め詐欺という犯罪が横行しています。これは、身内や公務員を装って電話をかけ、ATM(現金自動預払機)を利用させて金銭を振り込ませる、というものです。嘘の理由でお金を騙し取るもので、当然詐欺罪を構成します。
2.振り込み詐欺と被害回復
この犯罪の特徴は、犯人の特定が非常に難しいことです。犯人は、携帯電話を使って被害者に接触し、現金も銀行口座に振り込ませます。このとき使用する携帯電話と預金口座は、違法に他人から入手したものであり、この名義人から犯人を特定することもほぼ不可能です。これらの行為は犯罪ですから、警察が捜査して、犯人を検挙することもありますが、警察は犯人を捜査することが仕事ですから、被害の回復を優先してくれることはまずありません。様子を見よう、次の電話を待とう、騙されたふりをしておびきだそう、などの行動は、犯人の逮捕には有効ですが、「たったいま振り込んだお金を取り戻す」という結果にはつながりにくいといえます。
3.平成19年施行、振り込め詐欺防止法
そこで、平成19年から、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律、いわゆる振り込め詐欺防止法が施行されました。この法律により、弁護士が、ただちに振込先の口座を凍結し、被害金の流出を防ぐと共に、簡易に被害金の回復を図れるようになりました。
これまでは、振り込んだ口座の名義と番号がわかっている場合、最短、最速での処理は、民事保全法に基く、銀行預金口座の債権仮差押でしたが、この手続によっても数日のタイムラグがあり、また、保証金が必要でした。しかし、本法律では、適切な届出を行えば、ただちに、口座を凍結させることができます。振り込め詐欺の被害回復で最も重要なのは、現金の払い出しをストップさせることですから、非常に強力かつ有効な方法です。そして、この届出が、弁護士会と金融機関の申し合わせにより、弁護士が行うことができ、弁護士の届出には、金融機関もただちに対応してくれます。被害回復のためには、早めの弁護士への相談が必要と言えるでしょう。
この法律は、口座の凍結から被害者への分配までを規定したものですから、債権の仮差押を規定した民事保全法や、損害の有無を確定させる手続を規定した民事訴訟法や、確定した損害額に基いて加害者の財産を分配する手続を規定した民事執行法の手続の、例外とも言える法律となっています。裁判手続を経ずに分配(配当)まで行ってしまうこの法律の手続は、法律家の目で見ても「異例中の異例」とも言える規定です。このような手続が法定されたのは、やはり、それだけ、振り込め詐欺の被害が迅速かつ甚大であって放置した場合の社会的な影響が大きいからだと言わざるを得ません。勿論、被害者や口座の名義人は、通常の裁判手続によって権利を確定する方法を選択することもできる仕組みになっています。このように、当事者の裁判を受ける権利(日本国憲法32条)を保護しつつ、振り込め詐欺の事案の特殊性に鑑みて、例外的な手続を規定したと評価する事ができます。
4.被害回復の手続き
方法の解説をします。まず、依頼を受けた弁護士は、弁護士会で定められた方式で、金融機関に口座の凍結を申し入れます。すると、金融機関は、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺防止法)第4条第1項の、「犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由がある」ことを、比較的スムーズに認定し、口座の凍結の処置をとってくれます。実際、申し入れから数時間で口座は凍結されるようです。
5.凍結口座の公示
凍結された口座に振り込んだお金が入っていたとしても、すぐにあなたの元に戻ってくるわけではありません。まず金融機関は、この口座が犯罪利用口座か確認するため、凍結した口座の名義を公告します。現在は、インターネットで公示することとされています。
公告されているのは以下のページです。
このページに一定期間(60日)公告し、その間に、口座の名義人が、自己が利用している口座であることを申し出れば、手続は終了し、凍結も解除されます。この手続は、口座の名義人と実際に口座を管理占有している人物が異なるという振り込め詐欺の手口に着目したものであり、口座の名義人が判明すれば、その名義人に対して、返還を請求する手続(すなわち通常の訴訟)は法的に可能なので、この手続によることはできないのです(第5条から第7条)。
6.凍結口座に申し出人がいない場合の被害者分配手続き
名義人からの申出が無い場合、この口座(預金債権)は、消滅することになります(7条)。つまり、銀行は預金債務を負わないことになり、銀行は名義人のために金銭を預かり義務を免れるのです。
続いて、分配の手続が行われます。あなたは、分配金の申し出をすることになります(12条)。ここでのポイントは、被害を申し出た者が複数いる場合、預金口座に入金されていた金銭は、これらの被害者に被害額に応じて按分して分配されるということです(13条)。つまり、あなたがたった今300万円振り込んで、口座にその300万円がまるまる残っていたとしても、以前に同じ口座を利用されて被害にあった人が同じように300万円振り込んでいれば、以前の被害者とあなたは同じ300万円の被害額なので、口座のお金を150万円ずつ分け合うことになります。これは、口座内の金銭についてどの被害者が振り込んだものなのかは特定することが困難であることから、公平のためにやむを得ないのです(先の事例のようなわかりやすいケースばかりではありません)。
この点、従来の手続なら、口座を仮差押し、口座名義人に対し、詐欺ないし不当利得(口座名義人が犯人で無い場合は不当利得となる)に基づいて返還請求をして勝訴した場合は、差し押さえた口座の残高は、こちらの請求に充つるまで全て支払いを受けることができます。この点が、振り込め詐欺防止法の最も重要なデメリットであるといえるでしょう(但し、他の被害者が差押をすれば債権額に応じて按分されることになります)。つまり、相手方の情報がつかめて、直接訴訟を提起することも可能な場合、仮差押の保証金の準備ができそうな場合などは、従来の方法を利用するほうがメリットがある場合もあります。
7.やみ金対策との関連
なお、この法律の2条1項3号は、「この法律において「振込利用犯罪行為」とは、詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたものをいう。」と規定しています。すなわち、同法は、振り込め詐欺に限らず、いわゆるヤミ金融(出資法違反)にも適用が可能であり、ヤミ金融の被害の防止や撲滅にも役に立っています。この法律により、以前よりもヤミ金融に対抗する「武器」が増え、ヤミ金融対策にも一役買っているといわれています。
8.まとめ
以上のように、振り込め詐欺に遭っても、犯人が振り込んだ金を引き出す前に口座の凍結手続を取れば、お金を取り戻すチャンスがあるかもしれません。すでに説明したようにあなたの送金したお金が引き出された後でも、その口座が詐欺に利用されていた口座であれば、凍結時点での残高については、被害弁償に充てられますから、多少時間がたってしまってもあきらめずに凍結手続きをとるべきでしょう。被害にあったと思ったら、警察とあわせて、弁護士にも相談されることをお勧めいたします。
以上