新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1202、2011/12/19 15:24 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・居住していない区分所有者に対する管理費値上げ・最高裁平成22年1月26日判決】

相談:私は分譲マンションを所有し、賃貸に出しています。最近管理組合が、賃貸に出していて現に住んでいない区分所有者に対し、管理費を値上げする旨の規約変更を行いました。私としては、規約を変更されても納得いきません。値上げされた分の支払いを拒絶できますか。

回答:
1.当該規約の変更が、建物の区分所有に関する法律、第31条1項但し書きで定める、「変更が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当するか否かが問題となります。マンションの規模、住んでいない区分所有者の割合、値上げ幅の金額にもよりますが、合理的な範囲であれば値上げは認められると考えられます。
2.判例によれば(最高裁平成22年1月26日判決)、総戸数868戸の団地で、そのうち170戸から180戸が現に居住しておらず、管理費及び修繕積立金1万7500円に対して値上げ額が2500円という事案における値上げの規約変更を有効と判断しています。仮に、値上げが合理的な範囲を超えているのであれば、賃貸に出している区分所有者の承諾を得なければなりません。
3.マンション管理費等に関し当事務所事例集検索:1122番1108番1105番1071番1029番1023番1013番918番872番863番791番632番531番376番220番136番107番105番参照。

解説:
1.(問題点の指摘 規約変更と特別の影響(不利益)を及ぼすときの判断について)
  管理費についてはマンション管理規約で定められ、その変更(値上げ)には区分所有者、および議決権の各4分の3以上の多数による集会の議決が必要です。また、変更が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす場合は、その影響を受ける区分所有権者の承諾を得る必要があります(区分所有法31条1項但し書き)。
  今回の、マンションを賃貸に出している区分所有者(これ以降、「非居住者」といいます)に対する管理費の値上げに関する規約変更は、非居住者に対して管理規約を不利益な内容に変更するものですから、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」という場合に該当するのではないか、が問題となります

  この問題については確立した最高裁判例が存在します(平成10年10月30日判決)。これによれば、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該団地建物所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる」かどうかという観点で判断することになります。

2.(マンションの現状について)
  では、この観点からどのような判断基準をもとに考えればいいでしょうか。

 (1)まず、多くのマンションは管理規約において、理事を現にマンションに居住している組合員から選任する旨を定めています。マンション標準管理規約単棟型35条2項にも同様の規定が定められています。
  なお、マンション標準管理規約とは、管理組合がマンションを適正に管理するよう努め、国は情報提供等の措置を講ずるよう努めなければならない旨を規定した管理適正化法の規定を踏まえ、国が管理組合に対し、各マンションの実態に応じて、管理規約を制定、変更する際の参考として作成し、その周知を図ったものです。各マンションにおける管理規約はこの標準管理規約を基に作成されていますし、仮に作成されていないとしても、どの点が標準管理規約と異なっているのか、というように、管理規約の解釈における基準となるものです。
 
 (2)マンションを管理してその価値を維持するという役割を負う管理組合において、特にその運営を担うのは組合員から選出された理事により構成される理事会です。しかしながら、非居住者を理事に選出することはほとんどの場合想定されていないため、結果として、現居住者が中心となってマンションの維持管理を行うこととなります。とすると、非居住者は管理組合理事になることなく、つまりは管理組合の活動に実質的に参加することなく、現居住者により区分所有しているマンションの維持管理をしてもらっているという状態になります。
  管理組合理事の職務は多岐にわたり、また、多くの場合無償です(たとえ有償であっても十分な報酬とはいいがたいでしょう)。現居住者が非居住者に対して不満を募らせたとしても不思議はありませんし、その解決策として、管理費を値上げする、という手段を採るのも十分に考えられるところです。

 (3)区分所有法は(建物の区分所有等に関する法律)、一棟の建物内に部分的所有権を有する権利者間の所有、利用関係を整理、明らかにして権利関係を簡明化し(複数の)部分的所有者全員の権利の実効性、有益性、利便性を保障、確保するために制定されました。近代私法関係の中核は、所有権絶対の原則(所有権を中心とした個人財産は絶対不可侵であるという原則。憲法29条、私有財産制)にあり、所有権は、目的物を直接排他的に支配する事が出来ますので、目的物の範囲は明確にしなければなりません。従来、一棟の建物が単独の所有権の目的になっている場合は、所有権の及ぶ範囲が明らかであり、使用利用、処分について特に問題は生じませんでした。しかし、人口集中、住宅事情の変化、建築技術の発達により、1棟の建物に複数の独立した所有権を認める集合住宅が都市を中心に建築され種々の問題が生じてきました。集合住宅は、複数の独立した所有権の対象になり複数人が占有利用しますから、、複数所有権(区分所有権)と共有部分(共用部分)から構成されますので、1棟1個の権利関係を前提にした従来の所有権の理論、共有理論では集合住宅の権利、利用関係を適正に規律できないという不都合が生じるようになりました。
  そこで、複数の区分所有権者全員の権利を適正、公平に保障するため区分所有権(法1条、2条1項)と共用部分(法2条4項、3分類できます)の範囲を明確にし、特に共用部分(建物全体)の利用、管理、処分、及び敷地利用について従来の共有理論(民法)を変更して明確な規定をしました。以上の複雑な組織の管理運営を迅速適正公平に行うために必要不可欠な機関が管理団体、管理組合(法的には権利能力なき社団、又は法人 )です。従って、区分所有者は、構成員として管理組合の運営に協力する義務があり事実上、協力できない場合は何らかの代償処置をかせられてもその不利益を受忍しなければならない立場にあるといえるでしょう。

3(最高裁平成22年1月26日判決について)
 (1)本最高裁判決は、まさにこれまでに述べてきたような背景のもと、非居住者に対し「住民活動協力金」名目で月2500円の支払(実質的には管理費の値上げ)を義務付ける管理規約の変更を行ったところ、非居住者がその支払いを拒否し、区分所有法31条ただし書により、管理規約変更の有効性を争ったという事案です。
 
 (2)最高裁判所は、まず「本件マンションは、規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には上告人及びその業務を分掌する各種団体の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、本件マンションでは、不在組合員が増加し、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の所有する専有部分(である)」としてそのマンションの規模に着目し、また、管理規約上非居住者が理事に選任されえないことを挙げ、それらの結果として非居住者が現居住者の管理組合活動にマンションの維持管理を依存していることについて「実際にも、上告人の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、上告人の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる」と示しました。

  そのうえで、非居住者に対する管理費を値上げするという理事会の管理規約変更の趣旨について「いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、上告人が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたこと」にあると認定し、先の最高裁平成10年10月30日判決が示した管理規約変更における非居住者の権利に対する特別の影響に関する基準に照らしても非居住者の承諾を得る必要がある場合には該当しないと判断しました。

4(最高裁平成22年1月26日判決の評価について)
 同判決は、●当該マンションが大規模な団地であって、管理組合の活動には組合員の協力が不可欠であること●非居住者は管理組合活動をしておらず、現居住者による管理組合活動でマンションの価値が維持されていること●管理規約の変更が非居住者と現居住者の不公平を是正することを目的としていること●増額分が約15%と多額ではないこと●増額分の支払いを拒絶している非居住者がごく一部であることを理由に、非居住者の承諾を得ていなくても規約変更を有効と判断しました。

  つまりは、@マンションの規模(区分所有者の人数が多く手続き等煩雑であること)A管理組合活動の内容(非居住者が管理組合活動をしていない)B増額分の程度(居住者の負担する管理費と比較して15%程度の増加)C非居住者の割合(全体の2割程度)D反対者(支払い拒絶者)の割合が極めて少ないこと、という場合は、規約の変更に合理性が認められ、個々の区分所者の承諾は不要と判断されるということになります。

5(本件の検討)したがって、支払いを拒絶できるか(すなわち、個々の区分所有者の承諾が無いことを理由に規約変更の無効を主張できるか)@からDの点について具体的に検討が必要になります。

(参考条文)

マンション標準管理規約単棟型
第35条 管理組合に次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長  ○名
三 会計担当理事  ○名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下同じ。) ○名
五 監事  ○名
2 理事及び監事は、○○マンションに現に居住する組合員のうちから、総会で選任する。
3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事の互選により選任する。

建物の区分所有に関する法律
(区分所有者の団体)
第三条  区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2  前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
(団地建物所有者の団体)
第六十五条  一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあつては、区分所有者)の共有に属する場合には、それらの所有者(以下「団地建物所有者」という。)は、全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
(建物の区分所有に関する規定の準用)
第六十六条  第七条、第八条、第十七条から第十九条まで、第二十五条、第二十六条、第二十八条、第二十九条、第三十条第一項及び第三項から第五項まで、第三十一条第一項並びに第三十三条から第五十六条の七までの規定は、前条の場合について準用する。この場合において、これらの規定(第五十五条第一項第一号を除く。)中「区分所有者」とあるのは「第六十五条に規定する団地建物所有者」と、「管理組合法人」とあるのは「団地管理組合法人」と、第七条第一項中「共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設」とあるのは「第六十五条に規定する場合における当該土地若しくは附属施設(以下「土地等」という。)」と、「区分所有権」とあるのは「土地等に関する権利、建物又は区分所有権」と、第十七条、第十八条第一項及び第四項並びに第十九条中「共用部分」とあり、第二十六条第一項中「共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設」とあり、並びに第二十九条第一項中「建物並びにその敷地及び附属施設」とあるのは「土地等並びに第六十八条の規定による規約により管理すべきものと定められた同条第一項第一号に掲げる土地及び附属施設並びに同項第二号に掲げる建物の共用部分」と、第十七条第二項、第三十五条第二項及び第三項、第四十条並びに第四十四条第一項中「専有部分」とあるのは「建物又は専有部分」と、第二十九条第一項、第三十八条、第五十三条第一項及び第五十六条中「第十四条に定める」とあるのは「土地等(これらに関する権利を含む。)の持分の」と、第三十条第一項及び第四十六条第二項中「建物又はその敷地若しくは附属施設」とあるのは「土地等又は第六十八条第一項各号に掲げる物」と、第三十条第三項中「専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)」とあるのは「建物若しくは専有部分若しくは土地等(土地等に関する権利を含む。)又は第六十八条の規定による規約により管理すべきものと定められた同条第一項第一号に掲げる土地若しくは附属施設(これらに関する権利を含む。)若しくは同項第二号に掲げる建物の共用部分」と、第三十三条第三項、第三十五条第四項及び第四十四条第二項中「建物内」とあるのは「団地内」と、第三十五条第五項中「第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項」とあるのは「第六十九条第一項又は第七十条第一項」と、第四十六条第二項中「占有者」とあるのは「建物又は専有部分を占有する者で第六十五条に規定する団地建物所有者でないもの」と、第四十七条第一項中「第三条」とあるのは「第六十五条」と、第五十五条第一項第一号中「建物(一部共用部分を共用すべき区分所有者で構成する管理組合法人にあつては、その共用部分)」とあるのは「土地等(これらに関する権利を含む。)」と、同項第二号中「建物に専有部分が」とあるのは「土地等(これらに関する権利を含む。)が第六十五条に規定する団地建物所有者の共有で」と読み替えるものとする。

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