新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1203、2011/12/20 12:24

【民事・死亡退職金と生命保険契約・会社が締結した社員を被保険者、保険金受取人を会社とする生命保険契約により会社に支払われた保険金を遺族は請求することができるか・東京地裁平成7年11月27日判決参照】

質問:私の夫は甲会社に勤めていましたが、先日がんにより死亡しました。甲社には、死亡退職金についての規定はありません。しかし、甲社は、保険会社との間で、労働者である夫を被保険者、使用者である甲を保険金受取人とする保険契約を締結して、その保険契約には、保険金の全部又は相当部分を死亡退職金又は弔慰金に充当する旨の付保規定があります。この保険契約に基づいて、甲社には保険金2000万円が支払われたようですが、遺族である私には何も支払われていません。私は甲社に対して保険金を請求することが出来るでしょうか。請求できるとして保険金の金額全部を請求できるのでしょうか。

回答:
1.死亡退職金に関する規定が無くても、遺族は、保険金として会社に支払われた金員について請求することができます。これは、現在の判例、実務の考え方です。ただし、保険契約書に記載された「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部又は相当部分は、死亡退職金または弔慰金に充当するものとする」と言う文言(いわゆる付保規定)がその根拠となります。
2.但し、請求できる金額は会社が受領した保険金から会社が契約から現在まで支払った保険料、保険金についての税金等を控除した残金になります。
3.東京地裁平成7年11月27日判決、広島高裁平成10年12月14日判決参照。

解説:
1 (問題点の指摘)
  労働者を被保険者とし、使用者を保険金受取人とする生命保険契約は、近時多く締結されています。そしてこのような生命保険契約には、保険金の全部又は相当部分を死亡退職金又は弔慰金に充当する旨の付保規定があります。会社が従業員の死亡によって保険金を受け取ることの合理性は、保険金の全部又は相当部分を死亡退職金又は弔慰金に充当ことにあり、そのような趣旨からこの様な付保規定が定められています。しかし、経営上の理由からか、現実には保険金を受け取った使用者会社が、その全額又は一部を死亡退職金・弔慰金として支払わないことが多く、遺族が使用者に対し受け取った保険金の支払を請求する事例が増えてきています。
  退職金に関する規定あれば、それに基づいて労働者の遺族が使用者に対して、受け取った保険金を死亡退職金又は弔慰金として支払うように請求することができることにありますが、そのような根拠が無い場合、遺族の請求が、どのような根拠で認められるか問題となります。

2 (生命保険契約の基本的構造)
  商法において、他人の死亡によって保険金を支払うことを定めた保険契約においては、その者の同意を得ることを要すると規定されています(保険法38条、改正前商法674条1項)。この制度趣旨は、賭博的行為又は不労利得を目的とする保険契約締結の防止、被保険者の生命侵害の誘発の防止などの観点から被保険者の同意を効力要件としたのです。
  保険契約に労働者の同意があったとしても、保険契約の当事者は使用者と保険会社ですから、労働者の遺族は、契約の当事者ではなく、保険契約により直ちに保険会社に対して保険金の支払いを請求できるわけではありません。また、当然に使用者に対して受領した死亡退職金・弔慰金の請求権を取得するわけではありません(同意は不正な保険契約を防止するための意味しかなく、保険金について請求できるか否かは別の問題です)。
  しかしながら、初めに説明したとおり、このような保険契約の基本的な趣旨は保険金を労働者の死亡退職金等に充てることにあると考えられており、このことから遺族の請求権を何らかの形で認められないか議論されています。又、会社が労働者の同意を得たとしても、労働者は使用者の指揮命令に服する従属的関係にあるので、事実上合意を強制される危険もあり、生命保険契約の合理的理由が必要になります。そのため、「死亡退職金または弔慰金への充当」と言う規定が設けられることになっており、会社と労働者の合理的意思解釈が問題となります。

3 (判例、実務の動向、検討)
  この点に関し、裁判、実務では請求を認めることで一致しています。
  東京地裁の裁判例を紹介します。「本件付保規定の書面は、平成二年七月二四日頃、明治生命の外交員大谷が、被告会社において、春美専務及び亡輝和に対し、本件生命保険契約締結に必要な書面として示し、署名・捺印を求めたものであるが、その際、大谷は、亡輝和から、同書面中の「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部またはその相当部分は、死亡退職金または弔慰金の支払に充当するものとする。」との文言の意味内容について質問を受け、「亡輝和と被告会社との関係だから自分が答えることはできない。」旨返答しており、その場に春美専務も居あわせていること、本件付保規定の書面は、本来いわゆる「他人の生命の保険契約」について商法六七四条一項本文により必要とされる被保険者の同意を証する書面であるが、右文言の内容は合理的なものであって、被保険者である亡輝和と被告会社の内心の意思が、そのようなものであることを推測させるに足りるものであること、同書面の記載事項は、右文言を含め、わずか三項(八行)にすぎず、記名捺印する際に十分一覧可能であったと認められることからすると、亡輝和と被告会社との間に、暗黙のうちに本件付保規定の文言に沿った本件合意が成立したと認めるのが相当である。」と判示しています(東京地裁平成7・11・27判タ911−121)。
  すなわち、かかる生命保険契約が締結された際、労働者が、「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部又は相当部分は、死亡退職金または弔慰金に充当するものとする」と記載された書面(いわゆる付保規定)の説明を受けてこれに署名捺印していた事実を根拠に、労働者と使用者との間において、生命保険金の相当部分を死亡退職金または弔慰金に充当する旨の合意が成立したものと認められると判断し、労働者の遺族の会社への請求権を肯定しています。このように労働者が付保規定に署名捺印していることを重視して使用者と労働者との合意があったと理論構成し、労働者の遺族の請求権を認めている裁判例は多数あります(名古屋地判平成7・1・24判タ891−117、東京高判平成7・12・15労旬1381−47、山口地宇部支判平成9・2・25労判713−52等)。
  判例の傾向は、付保規定の署名捺印を重要な根拠として、労働者と使用者との間に生命保険金の全部または相当部分を死亡退職金または弔慰金として労働者の遺族に支払う旨の合意の成立という法律的理論構成により、労働者の遺族の会社への請求権を肯定しています。このような理論構成により、労働者の遺族の保護、社会的妥当性を図っているものであり、妥当であると考えます。

その他の判例
  広島高裁平成10年12月14日判決 (保険金引渡請求控訴事件 生命保険契約の趣旨、付保規定の解釈から、当事者の意思(被保険者は会社のオーナーの非嫡出子)を合理的に解釈し生命保険金の半額(4000万円、第一審山口地裁宇部支部は7000万の請求を認めています。)の請求を認めています。後記参照。
  判旨抜粋
  「本件付保規定規定の趣旨目的、支払を受けた保険金額、本件各契約の保険料及び保険金についての税務上の処理、本件各契約が締結された経緯、控訴人が支払った保険料、太郎(被保険者)の死亡当時の収入その他諸般の事情を考慮し、社会通念上相当と認められる額を決定するほかないと解される。」

4 (本件の検討)
  以上を踏まえて、本件相談者の事例を検討します。本件保険契約には、保険金の全部又は相当部分を死亡退職金又は弔慰金に充当する旨の付保規定があり、ご主人が署名捺印をしていた場合、労働者であるご主人と使用者である甲社との間に生命保険金の全部または相当部分を死亡退職金または弔慰金として労働者であるご主人の遺族に支払う旨の合意が成立していると考えられます。よって、あなたは甲社に対して受け取った保険金を死亡退職金・弔慰金として支払うよう請求が出来ると考えられます。

5 (遺族が請求できる金額について)
  次に請求できる金額ですが、あくまで、死亡退職金、弔慰金としての請求ですから保険金の全額を請求できるわけではありません。判例では、退職金名目で支払われた既払い金、既払い保険料、保険金に対する税金(法人税等)を控除した残金の範囲内で、退職金として相当な金額の請求が認められています。相当な金額とは何か問題となりますが、会社の規模、勤務形態、生命保険契約締結の事情等諸般の事情を考慮して決定するとされています。前項で説明した、東京地裁の判決では、勤続33年、月給40万円弱の従業員の死亡について、保険金が3000万円、退職金規定がないが任意に1000万円の退職金が支払われていた事案について、会社が負担した保険料、税金等が約2000万円であることから、会社の受け取ったお金を1000万円とし、その半額の500万円を退職金と認めています。

《参照条文》

保険法
(被保険者の同意)
  第三十八条  生命保険契約の当事者以外の者を被保険者とする死亡保険契約(保険者が被保険者の死亡に関し保険給付を行うことを約する生命保険契約をいう。以下この章において同じ。)は、当該被保険者の同意がなければ、その効力を生じない。 改正前商法674条1項
(他人の生命の保険)
他人ノ死亡ニ因リテ保険金額ノ支払ヲ為スへキコトヲ定ムル保険契約ニハ其者ノ同意アルコトヲ要ス 但被保険者カ保険金額ヲ受取ルヘキ者ナルトキハ此限ニ在ラス
(2) 前項ノ保険契約ニ因リテ生シタル権利ノ譲渡ニハ被保険者ノ同意アルコトヲ要ス
(3) 保険契約者カ被保険者ナル場合ニ於イテ保険金額ヲ受取ルヘキ者カ其権利ヲ譲渡スルトキ又ハ第一項但書ノ場合ニ於テ権利ヲ譲受ケタル者カ更ニ之ヲ譲渡ストキ亦同シ

《判例参照》

広島高裁平成10年12月14日判決
    第四 当裁判所の判断
一 当裁判所は、被控訴人らの本訴請求は、控訴人が取得した死亡保険金のうち四〇〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日(平成八年一月一〇日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、被控訴人らの相続分に応じて支払うよう求める限度で理由があるものと判断する。
 その理由は次のとおり付加訂正するほか、原判決三の「当裁判所の判断」欄(原判決五枚目裏三行目から一二枚目表六行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

「このように付保規定の写しが徴されるようになったのは、企業が締結していた事業主を保険金受取人とする死亡保険金の支払に関し、その保険金が遺族に全く支払われないことに起因する紛争が発生したため、事態を重くみた主務官庁(大蔵省)が、昭和五八年ころ、保険会社各社に対し、従業員の生命に関する契約でありながら従業員の遺族に全く保険金が支払われないような保険は問題である旨を指摘したことによるものである。」
3 原判決六枚目裏一行目の「次郎の実子であった」を「昭和三〇年一〇月三一日、次郎の非嫡出子として出生し(平成七年一二月一日に死後認知の裁判確定)、以後養護施設や養父母のもとで生育したが、昭和四八年ころから次郎や三郎の仕事の手伝いをするようになった」と改め、同二行目の「太郎は、」の次に「昭和六〇年三月ころ、日向市に家族とともに移り住み、」を、同四行目から同五行目にかけての「委ねられていた。」の次に「なお、太郎の平成三年当時の年収は約一二〇〇万円であった。」をそれぞれ加える。
4 原判決七枚目裏四行目の次に改行して次のとおり加える。
「(五)三郎が事実上のオーナーである控訴人及びその関連会社(以下「控訴人等」という)の役員(取締役)は、次郎、三郎及び三郎の妻の三名である。
 右三名は、右三名を被保険者とし、控訴人等を保険契約者(兼保険金受取人)とする保険(いわゆる「キーマン保険」「VIP保険」「経営者保険」などと称されるもの)にいくつか加入しているが、保険金の全額を控訴人等が取得することに同意している。
 右三名がこのような保険に加入している主たる理由は、右三名が控訴人等の借入金について個人保証するなどしており、右三名の死亡によって控訴人等が損害を被ることが考慮されたためである。
(六)太郎は、前記のとおり控訴人の三店のうち二店の事実上の責任者を務めていた者であるが、控訴人の役員(取締役)ではなく、控訴人の借入金につき個人保証したこともなかった。」
6 原判決九枚目表四行目の「(人証略)の供述」の次に「(原審及び当審)」を加え、同八行目の「本件合意」を「前記の合意」と改める。
7 原判決九枚目裏一行目から一二枚目表六行目までを次のとおり改める。
「(一)本件付保規定の文言からすれば、保険契約者である控訴人は少なくとも太郎が死亡するまでの間に死亡退職金規程等を整備しておくべきであったというべきであるが、太郎死亡当時において控訴人の会社内で死亡退職金規程等が作成されていなかったことは前記のとおりであり、「全部またはその相当部分」という本件付保規定の文言のみでは、遺族に支給されるべき金額を具体的に確定することはできない。
 したがって、本件付保規定の趣旨目的、支払を受けた保険金額、本件各契約の保険料及び保険金についての税務上の処理、本件各契約が締結された経緯、控訴人が支払った保険料、太郎の死亡当時の収入その他諸般の事情を考慮し、社会通念上相当と認められる額を決定するほかないと解される。
(二)本件各契約は、他人を被保険者としその死亡を保険事故とする他人の生命の保険であるから、被保険者の同意がなければ効力を生じない(商法六七四条一項)。このように被保険者の同意が保険契約の効力要件とされるのは、保険が賭博的に悪用されたり、他人の死亡を期待し積極的又は消極的に保険事故を招来したりするおそれを防止するためである。このような商法六七四条一項の立法趣旨と前記認定の本件付保規定が徴されるに至った経緯を併せると、従業員の死亡によって使用者が大きな利得を得る結果となることは、商法六七四条一項及び本件付保規定の趣旨を没却することになり、許されないと考えられる。
(三)従業員を被保険者とし使用者を保険契約者(兼保険金受取人)とする保険契約(定期保険)の保険料は、全額損金として計上することができるとして、税務上優遇措置がされている。
 また、被保険者である従業員が死亡し、その死亡保険金を使用者が受け取り、これを死亡退職金として支払った場合には、その支払額が社会通念上妥当なものと認められる限度で損金として計上することができるとして、税務上優遇措置がされている。
(四)太郎が本件各契約を締結した理由は、本件全証拠によっても明確でない。
 右の点について、控訴人は、太郎が控訴人の宮崎の支店を統括する責任ある地位にあるので、同人の行動によって控訴人が損失を被るような事態が発生したときにその損害を填補することを目的として締結されたと主張する。
 しかし、控訴人の右主張事実を裏付ける確たる証拠はなく、また、仮に右のような思惑が本件各契約締結の動機のひとつとして存在していたとしても、従業員の死後に保険金で従業員が使用者に与えた損害を填補するのを肯定することは、商法六七四条一項が防止しようとした前記(二)の幣害を生じさせるおそれがあるというべきであるから、控訴人において保険金の大半を取得することを正当化するに足りる事情とは言い難い。
 もっとも、従業員の死亡それ自体によって使用者に経済的損失が生じることはありうるから(代替雇用者の採用・育成費用等)、このような経済的損失を填補するためであれば、使用者が保険金の一部を取得することにも合理性があると考えられ、右の限度で使用者の利益を考慮する限りにおいては、前記(二)の幣害も生じないと考えられる。
 また、太郎の意思についてみても、(a)太郎は、本件各契約締結当時は、未だ認知されてはいなかったものの、控訴人の代表者である次郎の実子であって、かなりの期間次郎の仕事を手伝うなどしていたこと、(b)本件各契約の死亡保険金は五〇〇〇万円ないし八〇〇〇万円とかなり高額であり、その保険料は控訴人が支払うことが予定されていたこと、(c)本件各契約当時、控訴人においては死亡退職金規程等が作成されておらず、また、従業員に退職金を支給する慣行が存在したことを認めるに足りる証拠もないこと等を併せると、本件付保規定の「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部またはその相当部分は、死亡退職金または弔慰金の支払いに充当するものとする」との文言のみから、太郎において保険金全額を太郎の遺族が取得しうると期待していた事実まで推認することはできず、その一部を控訴人が取得することは太郎においても容認していたと推認するのが相当である。
(五)控訴人が支出した本件各契約の保険料は本件(1)契約について一〇八万七九二〇円(昭和六三年六月から平成三年五月まで、三万〇二二〇円×三六月)、本件(2)契約について六六万九八二〇円(平成三年六月から平成五年一月まで、三万三四九一円×二〇月)の合計一七五万七七四〇円と認められる。
 それ以外に控訴人が支出した金員のうち、控訴人が被控訴人らに支払うべき金員の決定に際して斟酌するのが相当と考えられるものを、控訴人の主張に即して検討する。
(1)太郎の高鍋信用金庫に対する借金の返済
 証拠(〈証拠略〉)によれば、控訴人は、平成五年四月二八日、太郎の高鍋信用金庫に対する借金のうち五〇九万一一四六円を返済したことが認められる。
(2)太郎の葬儀費用、墓石代及び戒名料
 証拠(〈証拠略〉、原審の控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は太郎の葬儀費用として一〇三万〇七六一円を、墓石代として一五七万円をそれぞれ支払ったことが認められる(戒名料の五〇万円についてはこれを裏付ける確たる証拠はない)。
(3)太郎のゴルフ会員権担保借入の返済
 控訴人は、太郎のゴルフ会員権担保借入八〇〇万円を返済したと主張し、これにそう証拠として借入金額三八〇万円の借用書二通(〈証拠略〉)を提出している。
 しかし、右各借用書のうち一通(〈証拠略〉)の借用書の借主は太郎以外の第三者となっており、太郎が借主であることを裏付ける確たる証拠はない。
 また、原審の控訴人代表者本人の供述によっても、控訴人が受け戻したゴルフ会員権は控訴人代表者名義になっているのであり、右ゴルフ会員権の価値を明らかにする証拠もない。
 したがって、右の八〇〇万円については、控訴人が被控訴人らに支払うべき金員の決定に際して斟酌することはできない。
(4)被控訴人らの借家の補修費用
 証拠(〈証拠略〉)によれば、被控訴人らは、昭和六〇年三月から日向市内の借家に居住し、平成六年三月をもって同借家から退去したこと、その後控訴人は、家主から右借家の補修費用として二八万一七五六円(消費税込)を請求され、家主に差入れていた敷金九万円を控除した一九万一七五六円を支払ったことが認められる(なお、右九万円の敷金が控訴人の出捐によるものであることを認めるに足りる証拠はない)。
(5)太郎の使い込みの補填
 控訴人が(ママ)太郎の使い込みの補填として二五九万九六九六円の支払を余儀なくされた旨主張するが、右主張事実を裏付ける確たる証拠はない。
(6)被控訴人らの生活費の援助
 証拠(〈人証略〉、原審の控訴人代表者本人)によれば、控訴人は被控訴人らの生活費の援助として平成五年二月から同年六月までは一か月三〇万円を、同年七月から平成六年八月までは一か月二〇万円をそれぞれ送金したことが認められるが(三〇万円×五月+二〇万円×一四月=四三〇万円)、右金額を超える送金があったことについてはこれを裏付ける確たる証拠はない。
 なお、被控訴人らは、右金員は被控訴人らの生活費の援助ではなく、被控訴人花子名義のたばこ小売業を受託していた控訴人が右営業による利益を被控訴人花子に送金していたものである旨主張する。
 なるほど、右証拠によれば、控訴人は、パチンコ店の景品としてたばこを取り扱うため、大蔵大臣によるたばこ小売販売業の許可を受けなければならなかったが、代表者である次郎に日本国籍がなかったことから、日本国籍を有する太郎名義で右許可を受けてたばこを取り扱っていたこと、太郎が死亡した後、たばこ小売販売業者の地位は被控訴人花子が承継したことは認められるが、右事実によれば、控訴人が太郎名義でたばこ小売販売業の許可を受けたのは便宜上のことにすぎず、たばこ小売販売のための資本の投下、仕入、販売等はすべて控訴人の計算の計算(ママ)においてなされていたもので、控訴人と太郎との間では、その利益も控訴人に帰属させるとの合意があったと推認できる。
 そうすると、太郎の地位を承継した被控訴人花子が控訴人に対してたばこ小売販売による利益の支払を請求できるものとは解されないから、被控訴人花子が右のとおりたばこ小売販売業を営んでいたとの事実は、右送金にかかる金員が生活費の援助であったとの前記認定を左右するものではない。
(六)まとめ
 前記(二)(三)の観点からするならば、本件において被控訴人らに支給される額が死亡退職金ないし弔慰金として一般の死亡退職金ないし弔慰金の水準を超える高額のものとなったとしても、やむを得ないというべきであるが、他方、本件各契約締結に際し、本件各契約にかかる保険金の一部を控訴人が取得することについては太郎も了解していたと推認できることは前記(四)のとおりであり、また、控訴人が前記(五)の金員を支出している点も、控訴人が被控訴人らに支払う金額を定めるについて斟酌すべきと考えられる。 これらの事情と前記認定の太郎の控訴人における勤務状況及び収入を総合すれば、本件において控訴人が被控訴人らに引き渡すべき金員は、控訴人が取得した死亡保険金八〇〇〇万円の半額である四〇〇〇万円が相当というべきであり、これを被控訴人らの相続分に応じて按分すると、被控訴人花子が二〇〇〇万円、その余の被控訴人らが各五〇〇万円となる。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る