新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は,自己破産の申し立てをし、先日免責許可が決定しました。ところが、友人に頼まれて保証人になっていたことを忘れ、債権者名簿にこの保証債務を記載しませんでした。今回その債権者から保証債務を履行するよう請求されています。債権者名簿に記載をしていないと免責されないのでしょうか。なお詳しい経過は次の通りです。主債務者の友人と、保証人になった後、疎遠になってしまい,私もこれまで仕事や,住むところも転々として来たのですが,引っ越す際にその友人や友人が借入れをした金融業者にわざわざ連絡をしたりはしていませんでした。友人の借入れについては,きっとその友人が返済しているのだろうと思って何もせずにいたのですが,そうこうしているうちに,私自身も借入れが重なり,自分の借金の返済が滞るようになってしまいました。借金が膨らんでどうにも返しきれないことになったところで,やむなく破産手続をして,免責もされました。今は心機一転,再出発をと思っています。ところが,その破産手続の際に,先ほどの友人の借入れの保証人になっていた分を届け出るのをうっかり忘れていたことに後から気づきました。というのも,その金融業者が,私の住所を調べ上げて,保証債務を履行しろと言ってきたのです。 解説: 2(免責されない場合) ただ、債権者が債権を行使するためには、「破産者が債権の存在を知りながら債権者名簿に記載しない」ことにより免責の効果は及ばない、ということを主張立証する必要があります。しかし、破産者が故意に掲載しなかった、ということを立証することは不可能と言えるでしょう。なぜなら、破産者とすれば、わざわざ債権者名簿に記載しない理由はないわけですから、何か特別な理由が無い限り、知っていれば載せた訳で、記載しないということは債権の存在を知らなかった(忘れていた)ということになるはずだからです。しかし、破産者が債権の存在を知りながら債権者名簿に記載しなかった場合だけでなく,記載しなかったことについて破産者に過失がある場合にも,債権者を犠牲にして破産者に免責のメリットを認めるべきでないことは同じと考えられます。 したがって,今回のケースでも,債権者名簿に本件金融業者の保証債権を記載しなかったことについて過失があると判断されると,免責されず,訴訟等により請求されることになります。どのような場合に、「過失がある」として免責の効果が及ばないのか否かの判断は具体的事情によりますが、@破産申立時に近接して破産債権者から破産者に保証債務を請求する通知がある場合、A破産者が住居を転々としたり、住民票の住所に居住していないため破産債権者からの通知が届かない場合、B破産者から破産債権者に対して転居を通知していなかった場合、というような事情がある場合は、破産者に過失があると認められる可能性があります。 ≪参考判例≫ 東京地裁平成14年2月27日判決 (2)ア 被告Y1は、原告との間で、自らA社の代表取締役として本件貸付契約を締結するとともに、保証契約も締結していること(前記第2、1(1)及び(2))、同被告は、A社の代表取締役を辞任した平成二年七月頃、原告に対し、保証契約の解除を申し入れたが、原告がこれを拒否したこと(弁論の全趣旨)、原告は、同被告に対し、同年八月一日付けで来店を依頼する呼出状を送付したところ、同被告は、同月一五日頃、原告に電話を掛けてきて、同月末頃の来店することを約したが、結局来店しなかった(≪証拠省略≫)ことから、原告は、同年九月六日付けで、再度呼出状を送付したが、同呼出状は原告に返送されず、同被告からの連絡もなかった(≪証拠省略≫)ことからすれば、被告Y1は、保証契約の存在を知って債権者名簿に記載しなかったと考える余地がある。しかし、一方、被告Y1は、平成二年七月頃、A社の代表者を辞任し、その後は、同社の経営に関与していなかったことから、同社の原告に対する債務の状況については知りうる立場にはなくなったこと(≪証拠省略≫)、被告Y1の破産債権は、債権者約三八名、債務総額は約二億五〇〇〇万円(≪証拠省略≫)と多額であるが、被告Y1には、免責不許可事由はなかったこと(≪証拠省略≫)からすれば、被告Y1が、原告に対する保証債務の存在を知っていながら、あえてこれを債権者名簿に記載しない理由は認められない。 (3)ア 被告Y1の原告に対する保証債務の残元本は三八九四万円であり、同被告が破産宣告時に申し立てた債務総額二億二五一八万円(≪証拠省略≫)にこれを加えた債権総額(二億六四一二万円)に対する原告の保証債権額は、債権総額の約一五パーセントを占める金額である。 ≪参照条文≫ 破産法
No.1218、2012/1/20 10:54 https://www.shinginza.com/qa-hasan.htm
【破産・免責許可決定と過失による債権者名簿の記載漏れ・東京地裁平成14年2月27日判決】
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回答:
1.免責許可決定が確定すると,破産手続開始決定前に生じた請求権である破産債権(破産法2条5項 破産者に対する請求権)については,責任を免れることになりますが(破産法253条1項本文),破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権については免責されないことになります(同項ただし書6号)。そして,債権の存在を知りながら債権者名簿に記載しなかった場合でなくても,債権者名簿に記載しなかったことについて過失がある場合には,免責されないものと考えられています(東京地裁平成14年2月27日判決)。これにより,債権者が保証人の住民票を確認したり保証人の親族に所在を確認したりしていたのに,保証人の方が住民票上の住所地に居住していなかったり,転居を債権者に連絡しなかったりしたことにより,債権者からの通知が保証人に届かず,そのために保証人がその債権者のことを忘れて債権者名簿に記載しなかったというような場合には,債権者名簿に記載しなかったことについて保証人に過失があると考えられますので,免責の効果を主張することができなくなるかと思います。その場合には,弁護士に依頼して債権者との間で支払いについて交渉してもらうという方法もあります。過失が認められるかどうかの判断もご自身では難しいようでしたら,その分も併せて債権者との交渉を弁護士に依頼するとよいのではないでしょうか。
2.破産、免責に関連して当事務所事例集1146番,1068番,1020番,938番,843番,841番,804番,802番,717番,562番,515番,510番,463番,455番,426番,374番,323番,322番,226番,65番,34番,9番参照。
1(免責の効力)
免責許可決定が確定すると,破産者は,破産手続による配当を除いて,破産債権についての責任を免れることになります(破産法253条1項本文)。責任を免れるという免責の効果の意味については,責任は消滅するが債務そのものは消滅せず自然債務として残るという考えが一般的です。自然債務となると,債務者が任意に履行すればその給付を受け取ることはできますが,法的手段により請求することはできなくなります。そのため,免責された債権については,債権者は訴訟を提起することができなくなるのです。
破産者が免責許可を受けると,上記のように破産債権について法的に請求されないことになりますが,これは,経済的に行き詰ってしまった破産者が経済的に更生することを促すために認められたものです(破産法1条)。すなわち,破産者が支払いきれないような債務を負ってしまった場合に,不誠実でない破産者については,一度リセットさせて新たな再出発をさせようというものです。そのため,破産者には,免責のメリットを受けるだけの誠実さが求められることになります。破産法の免責は、「契約は守られなければならない」という原則の例外であり、免責の効果の条件は厳格に解釈し、債権者との利害調整が必要だからです。
他方,免責により債務者の再出発を認める一方で,債権者にはその分犠牲を強いることになります。そこで,債権者にも一定の保護を与える必要があり,債権者が破産手続にきちんと関与できることが必要になります。債権者は,破産手続に関与することで,免責に対する異議申し立ての機会を与えられるなどの保護を受けることになります。債権者は,破産者が債権者名簿に記載をすることにより裁判所にも認識され,破産手続に関与することができることになります。
このように,破産者に免責を認めることを正当化するには,債権者にも手続に関与できる機会が与えられていることが必要になりますので,破産者が債権の存在を知りながら債権者名簿に記載しない場合には,その債権について破産者に免責のメリットを与えることを正当化することができません。したがって,そのような場合には,免責されないこととされています(破産法253条1項ただし書6号)。
そこで,裁判例(東京地裁平成14年2月27日判決)も,「破産法三六六条の一二第五号[※改正後の破産法253条1項ただし書6号]は、『破産者が知りて債権者名簿に記載せざりし請求権』は、免責によって責任を逃れることはない旨規定するが、これは、債権者名簿に記載されなかった債権者は、破産手続の開始を知らず、債権の届出をしなかった債権者は、審尋期日を知ることができず、そうすれば、免責に対する異議申立ての機会が与えられないことから、債権者が、特に破産宣告の事実を知っていた場合を除き、免責されない債権として債権者を保護しようとしたものである。一方、破産免責制度は、不誠実でない破産者の更生を目的として定められたものであることを併せて考慮すれば、破産者が、債権の存在を知って債権者名簿に記載しなかった場合のみならず、記載しなかったことが過失に基づく場合にも免責されないと解すべきである。」としています。
なお、法律事務所の実務では、本件のような場合でも、訴訟手続を経ずに、各当事者の事情に応じて交渉し、和解締結し、債権額の10〜90パーセント程度を支払う合意を行うことがあります。債権者としても煩雑な訴訟手続や強制執行を経ることなく弁済を受領できるというメリットがありますので、和解成立の可能性は十分にあります。お困りの場合は一度お近くの法律事務所にご相談なさると良いでしょう。
「第3 争点に対する判断(認定に供した証拠は、認定の後の括弧内に掲示した。)
1 争点(1)(原告の被告Y1に対する保証債務履行請求権は免責されたか)について
(1) 破産法三六六条の一二第五号は、「破産者が知りて債権者名簿に記載せざりし請求権」は、免責によって責任を逃れることはない旨規定するが、これは、債権者名簿に記載されなかった債権者は、破産手続の開始を知らず、債権の届出をしなかった債権者は、審尋期日を知ることができず、そうすれば、免責に対する異議申立ての機会が与えられないことから、債権者が、特に破産宣告の事実を知っていた場合を除き、免責されない債権として債権者を保護しようとしたものである。一方、破産免責制度は、不誠実でない破産者の更生を目的として定められたものであることを併せて考慮すれば、破産者が、債権の存在を知って債権者名簿に記載しなかった場合のみならず、記載しなかったことが過失に基づく場合にも免責されないと解すべきである。
イ これによれば、被告Y1は、原告に対する保証債務の存在を知って債権者名簿に記載しなかったとは認められない。
イ 被告Y1は、A社の代表取締役を辞任した平成二年七月頃、原告に対し、保証契約の解除を申し入れたが、原告がこれを拒否した(前記(3))。
ウ(ア) 原告は、被告Y1に対し、同被告の保証契約書上の及び住民票上の住所地に、平成五年一月八日付け及び同年三月二日付けの内容証明郵便で、A社に対し繰上弁済の指示をした旨の通知をしたが、同通知書は、保管期間経過により原告に返送されてきた(≪証拠省略≫)。
(イ) 原告は、被告Y1の住民票を確認するなどしたところ、同被告は、同月二五日、原告に連絡することなく住民票を異動し、さらに、平成七年二月二日にも原告に連絡することなく住民票を異動したことが分かった(≪証拠省略≫)。原告は、同被告に対し、同年八月一日付けで来店を依頼する呼出状を送付したところ、同被告は、同月一五日頃、原告に電話を掛けてきて、同月末頃に来店することを約したが、結局来店しなかった(≪証拠省略≫)。そこで、原告は、同年九月六日付けで、再度呼出状を送付したが、同呼出状は原告に返送されず、同被告からの連絡もなかった(≪証拠省略≫)。
(ウ) その後、原告は、被告Y1の住民票を確認したところ、同月二八日現在では住民票の異動はなく(≪証拠省略≫)、平成一〇年一一月一七日には、職権で住民票が削除されていること(≪証拠省略≫)を確認した。さらに、原告は、同年一二月一日、同被告の兄に同被告の所在を確認したが不明であるとの回答を得た(≪証拠省略≫)。
(エ) 原告は、平成一二年一月一七日に被告Y1の住民票を確認したところ、平成一一年一月二一日に現在の住所地に住民票が回復されていることを確認した(≪証拠省略≫)。そこで、原告は、同月三一日、同住所地を尋ねたところ、同所には、同被告以外の人間が居住していた(≪証拠省略≫)。当時の同被告の居住地は、住民票上の住所地とは異なる神奈川県平塚市にあった(≪証拠省略≫)。原告は、同年二月一日及び同月七日に、同被告の兄の親族や甥に所在を確認したが、不明であるとの回答を得た(≪証拠省略≫)。原告は、同年一〇月一七日、同被告の住民票を確認し(≪証拠省略≫)、同年一〇月一八日付けで、同被告に対し、担保物件の競売手続が終了した旨の通知をしたところ(≪証拠省略≫)、同被告は、これを受領した。
(オ) これによれば、原告は、被告Y1に対し、平成五年一月頃から平成一二年一〇月頃までの間に、再三にわたり、被告Y1の住民票を確認し、また同被告の親族に所在を確認したり、さらに同被告の住民票上の住所地を訪問したりしたことが認められ、それにもかかわらず、原告から同被告に対し、通知書が送付されなかったのは、同被告が住民票上の住所地に居住していなかったり、そのことを原告に通知していないことに理由があると認められる。
エ 以上の事実が認められ、これによれば、被告Y1が、原告に対する保証債務を債権者名簿に記載をしなかったことは、被告Y1に過失があったと認められる。そうすれば、被告Y1の原告に対する保証債務は免責されないというべきである。
(目的)
第一条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは、破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは、破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは、債務者であって、第三十条第一項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
6 この法律において「破産債権者」とは、破産債権を有する債権者をいう。
7 この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
8 この法律において「財団債権者」とは、財団債権を有する債権者をいう。
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第六十五条第一項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは、別除権を有する者をいう。
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法 (平成十八年法律第百八号)第二条第九項 に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
13 この法律において「保全管理人」とは、第九十一条第一項の規定により債務者の財産に関し管理を命じられた者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは、破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条 の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条 (同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
3 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。