13歳少年の刑事手続き・事件への対応
刑事|少年法|東京家庭裁判所平成20年6月26日決定
目次
質問:
息子の携帯電話に連絡をし,問いただしたところ,万引きなどやってないの一点張りです。警察からは事情を聞きたいから,息子と一緒に警察署へ来てほしいと言われており,なんとか息子を説得して警察署へ事情説明に行くつもりなのですが,今後どのような手続きになるのでしょうか。
息子は,以前何度も警察のお世話になるなどしているので,少年院などに行くことになってしまうのではないかと心配です。
回答:
1.息子さんは,14歳未満なので刑事上の責任能力はなく刑事処分を受けることはありませんが(刑法41条),少年法上の触法少年に該当するものと思われます(少年法3条2号)。警察で事情を話して,息子さんが万引きをしたという事実があったと警察が判断した場合,息子さんは,児童相談所へ行くことになるのが一般的です(少年法6条の2,児童福祉法25条,少年法6条の6)。これに対し,証拠なども少なく,息子さんが万引きをしたということが明らかでない場合には,そこで手続きが終わるのが一般的です。
2.もっとも,息子さんの日常生活に一定の不良行為があり,保護の必要があると判断された場合には,虞犯少年としての手続が開始される場合がありますので注意が必要です。そして,警察からの送致先である児童相談所では,福祉的な観点から,息子さんに対して色々な質問に答えることになります。仮に児童相談所が家庭裁判所における審判を必要と判断した場合には,その後,家庭裁判所へ行くことになります(児童福祉法27条1項4号)。他方,福祉的措置(具体的には,訓戒・誓約書の提出,児童福祉司等の指導,児童福祉施設入所措置,里親委託など)で足りると判断した場合にはそのような措置を受けることになります(児童福祉法27条1項1号ないし3号)。
3.家庭裁判所においては,鑑別所という少年の資質や性格の鑑別及び行動観察などを行う施設に入所する手続きがとられる可能性があります(観護措置)。入所期間についてですが,一般的には4週間程度入所するケースが多いように思われます(少年法17条)。家庭裁判所は,鑑別所での鑑別結果や調査官などの作成した資料をもとに審判を行うか否かを決定します(少年法19条1項,同法21条)。審判が行われた場合,裁判官が,審判の結果を踏まえ,不処分,保護観察,児童自立支援施設又は児童養護施設送致,知事又は児童相談所長送致,試験観察のいずれかを選択することになります(少年法24条,同法25条)。少年院送致という手続きは,保護観察の一種ということになります。ただ,単なる万引きだけでは観護処置は取られないでしょう。
4.対策
以上が一般的手続きですが,万引きが事実であれば,以下の対応をとってください。
①被害者と直ちに示談して商品を買い取り,領収書を頂いてください。
②書面で被害届を取下げてもらってください。同時に迷惑料を支払ってその書面(示談書)を作成してください。
③被害者に対して謝罪文を本人と両親が作成し手渡してください。
④再度万引き等違法行為をしないという誓約書を本人と両親で作成し,被害者に提出してください。これは重要です。
⑤被害者,捜査機関に対して学校への連絡をしないように要請してください。公立だと連絡するようです。私立ですと退学の危険があります。
少額の万引きであれば,以上の手続きにより,警察段階で終了すると予想されます。自分でできないようであれば,選任した付添人(弁護士)と協議しましょう。
5.用語の意味や補足説明については,2.用語説明をご参照ください。ただし,本回答及び解説は一般的な事件における手続きの概略についての説明となりますので,手続きの詳細などにつきましては,お近くの法律事務所へご相談されることをお勧めいたします。
6.少年法に関する関連事例集参照。
解説:
1.少年審判手続の趣旨,刑事事件手続きとの違い
20歳未満の少年が罪を犯した場合, 少年事件 (少年保護事件)と呼ばれています。刑法41条は,「14歳に満たない者の行為は罰しない」として14歳以上はたとえ未成年者でも刑事責任能力があると明言していますが,まずどうして14歳以上の未成年者も刑事罰において特別扱いされるのか説明します。刑罰とは罪を犯した者に対して科せられる行為者が持つ法益の剥奪を内容とする強制処分ですから,行為者自身に不利益(責任)を受ける理由がなければなりません。その刑事責任の根拠とは,犯罪行為者が犯罪行為のような悪いことをしてはいけないという社会一般規範(常識)を知りながら(理解可能であるのに)あえてそれを守らず,積極的に(故意犯)又は不注意で犯罪行為自体を認識せずに(過失犯)社会規範に反し行動にでた態度,行為に求める事が出来ます(刑法38条1項)。
従って,14歳以上の少年は,すでに責任の前提となる社会規範,常識を理解できる能力(判断能力)を基本的に有するので,刑事責任能力は認められることになります。しかし,刑法の最終目標は,犯罪者を再教育し適正な法社会秩序を維持することであり,未成年者は,一般的に成人と異なり,日々社会全体から教育を受け人間として未だ成長過程にあり,判断能力は未だ未成熟なので,犯罪行為の個人的責任追及を行うよりもその少年をいかにして保護成長させ社会に適応させるかという視点から犯罪行為を明らかにして処遇,処分を決めるのが刑法の目的に合致し,刑事政策的にも妥当です。
従って,刑罰を前提とした刑事訴訟法の原則である当事者主義,公開主義,厳格な証拠法則は少年事件に適用されません。又,処分内容も多様で,裁判所の裁量により合目的であり,犯罪行為時に少年であっても処遇を決定する時に成人になっていれば刑罰が適用されることになりますし,少年といえども具体的事情によっては逆送致され刑事手続により刑罰が科せられることもあるわけです。以上のように少年法の理念は,成人の刑事事件とは根本的に異なるものといえます。
少年法第1条が,その基本理念として掲げている「少年の健全育成」とは,個々の少年が社会の一員,1個の人格として成長するように,国,社会において助力することを意味しています。少年法は,非行を犯した少年について,できるだけ処罰でなく,教育的手段によってその非行性を矯正し,更生を図ることを目的としており,刑罰は,このような教育的な手段によって処遇することができないか,不適当な場合に限って科せられることになっています。
前述のように少年は,精神的に未熟,不安定で,環境の影響を受けやすく,非行を犯した場合にも必ずしも深い犯罪性を持たないものが多く,これを成人と同様に非難し,その責任を追及することは適当でないということと,少年は,たとえ罪を犯した場合にも人格の発展途上にあるものとして,成人に比べれば,なお豊かな教育的可能性(可塑性)を持っており,指導や教育によって更生させることができるのにそれを行わず前科の烙印を押してしまうことは,本人の将来のためばかりでなく,社会的損失と位置付けることができます。少年法は,この基本理念に基づいて,全ての少年事件を少年事件 の専門機関である家庭裁判所に送致することを定め(これを,「全件送致主義」,「家裁送致主義」といいます。少年法41条,42条),改善更生の可能性がある以上は,保護処分によって対処する(保護優先主義)という立場に立っています。以上の趣旨から,14歳未満であっても犯罪行為を行った少年に対し国家,社会的関与,処遇が同様に考えられ,手続きが規定されています。
2.用語説明
(1)少年法における少年とは
少年法における少年とは,二十歳に満たない者をいい(少年法2条1項),男女を問いません。女子でも「少年」と呼びます。
(2)虞犯少年とは
虞犯少年とは,少年法3条1項3号イないしニに該当する事由があり, かつ,その性格または環境に照らして,将来,罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年をいいます(少年法3条1項3号参照)。
(3)触法少年とは
触法少年とは,十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年を いいます(少年法3条2号)。
(4)犯罪少年とは
犯罪少年とは,罪を犯した少年をいいます(少年法3条1号)。
(5)鑑別所とは
鑑別所とは,少年の科学的な調査と診断を行うことを目的とした法務省管轄の専門施設をいいます(少年院法16条)。
(6)保護観察とは
保護観察とは,少年を家庭や職場に置いたまま,保護観察官や保護司が指導監督と補導援護を加え,少年の改善更生を図るものです(少年法24条1項1号)。
(7)試験観察とは
試験観察とは,裁判官が調査の結果又は審判を行った結果,少年に対していかなる処分をするか直ちに決めることが困難な場合に,おおよそ3か月から4か月間位の期間,少年を家庭裁判所調査官の観察に付する制度をいいます(少年法25条)。
試験観察には,在宅試験観察と補導委託の2種類があります。
(8)知事又は児童相談所長送致とは
知事又は児童相談所長送致とは,児童福祉法による措置に委ねるために,児童福祉期間に事件を送致する処分をいいます(少年法18条)
(9)児童自立支援施設とは
児童自立支援施設とは,不良行為をなす児童などに必要な指導を行い,その自立を支援することを目的とする施設をいいます(児童福祉法44条)。
(10)児童養護施設とは
児童養護施設とは,環境上養護を要する児童を養護し,併せてその自立を支援することを目的とする施設をいいます(児童福祉法41条)。
(11)少年院とは
少年院とは,生活指導,教科教育,職業補導,情操教育,医療措置等を施すことにより,非行性の矯正を行うことを目的とする男女別の収容施設をいいます(少年院法1条)。
2 虞犯少年の手続の概略
参考資料1をご参照ください。
3 触法少年の手続の概略
参考資料2をご参照ください。
4 犯罪少年の手続の概略
参考資料3をご参照ください。
3.判例検討
東京家庭裁判所平成20年6月26日決定。本判例では,14歳未満ではありませんが虞犯少年として中等少年院に送致を決定しています。(少年法3条1項3号イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。)この決定は,東京高裁,最高裁でも維持されています。やむを得ない判断です。
決定抜粋処遇の理由
本件非行の内容は前記のとおりであるが,少年は,手許に金銭が少ないときに洋服が欲しいと感じると,Bにうそを言って金銭を引き出させて,その金銭を受け取っている。少年は,平成18年にも,Bにキャッシュカードを持ち出させて,そのキャッシュカードを使用して金銭を引き出したことがあり,今回もBなら金銭を引き出してくれるだろうとして前記行為に及んだものである。
そして,本件において,妹にも金策を要求している。これは,少年が,普段から妹に対しては自分の方が立場が上だと考えていたからだという。少年については,前件ぐ犯保護事件の時に,対人関係を上下関係で捉え,自分より弱い者を都合良く利用するところがあると指摘されていたが,本件においても,なおその傾向が残っているといわざるを得ない。
少年がこれらの金銭受取り・金策要求に出た背景には,ぐ犯事由としても一部取り上げた生活の不安定さがある。すなわち,少年は,赤城少年院を仮退院して,当初は飲食店の正社員として就職したものの,少年によれば周囲の期待に応えられない等として3か月弱で退社し,厩務員の学校を受験し仮合格したものの進学しなかった。本年2月ころには派遣会社に登録したものの,実際に仕事をしたのは週2,3日であり,5月に入ると全く働かなくなっていた。
少年は,平成16年秋ころから平成18年6月ころまでの間に,児童養護施設内での器物損壊,他児童への暴力,祖母に対する暴力,土下座の強要,妹に対する暴言,祖母からの金員の詐取,前述したBにキャッシュカードを持ち出させてお金をおろしたことなどをぐ犯事由とするぐ犯保護事件で,初等少年院送致決定を受け,平成18年7月14日から平成19年9月6日まで赤城少年院で教育を受けた。
同決定前の調査によれば,少年について,前述の弱い者を利用するところがあることのほかにも,共感性が乏しく他者の気持ちや考えを察知しにくいことから,相手のことや状況を理解できずに,不安が高まりやすいこと,問題を解決する手段として暴力を用いることも多いこと,感情の起伏が激しく,感情を統制しようとする気持ちにも乏しいことから,いったん怒りを表出すると,粗暴な振る舞いによって,気が済むまで感情を発散させることが多いことなどが指摘されていた。少年は,赤城少年院で教育を受けたことにより,感情を暴発させて暴力行為に及ぶことはなくなってきており,我慢することへの意識も幾分持つようになっている。また,母や妹の気持ちを推し量り,謝罪の言葉を述べるなど,他者の感情にも関心を向けられるようになっている。しかしながら,前述のごとく,自分よりも弱い立場の人間を利用すること,そして,その者が自己の意に従わないと,むき出しの暴力とまでは行かないまでも水たまりでの土下座という相手を服従させる行為に及ぶ傾向はなお残されており,少年の問題性は深い。
少年の保護環境を見ると,少年は,母,祖母,妹と4人暮らしであるが,今まで母の指導に従わずに問題行動をくり返しており,本件でも母の制止を聞かずに妹に対する行為に及んでいる。少年は,かつて祖母に対して激しい暴行に及んでおり,祖母に少年への指導を期待することもできない。総じて,家庭の監護力は弱い。
そうすると,少年については,今一度少年院に収容して,対人関係の結び方,就労に対する意識等について教育する必要がある。
よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。
主 文
少年を中等少年院に送致する。
以上