新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:お金に困っている友人から、10万円貸して欲しい。3ヵ月後に倍の20万円にして必ず返す。と頼まれました。かわいそうに思ったのと、3ヶ月で倍になるのなら得だと思い、友人に10万円貸しました。3ヵ月後、約束のお金を請求しようとしたら、友人が、「出資法違反で無効だから、お金は1円も返さない」と主張してきました。貸したお金すら戻ってこないというのはどういうことでしょうか? 解説: 2 近年、不景気に伴い、ヤミ金融の活動が社会問題化しています。彼らは、信用が低くお金を借りることができない人たちに、超高金利で金銭を貸し、法外な利息を要求し、支払わなければ、何百回も電話をかけたり、大声で威圧したり、近所や職場に迷惑をかける、というような違法な取立てを繰り返す、というものです。およそ返還が不可能で、最終的に借主の生活、家庭を経済的に破壊することが明白な金利は、それ自体例え当事者が合意しても公正を旨とする法の理想から到底是認することはできません。 従って、出資法では、年利109.5%を超える消費貸借契約は刑事処罰の対象となります。このような契約をした場合、利息の支払いの必要性がないということはもちろんのこと、元本の返還さえ、不要であるといわれています。その根拠は、出資法の罰則規定に違反するような消費貸借契約は、公序良俗(民法90条)に反するもので、契約自体が無効である。従って、金銭消費貸借契約に基づいて貸した金銭について返還請求することはできないことになります。そうすると、借りたお金は法律上の原因が無いのに受領した人のところにとどまるところとなり、法律上は不当利得となります。不当利得については損失を被っている人が不当に利得をしている人にたいして返還請求できるのですが、このような契約をもとに交付された金員は、不法原因給付(民法708条)にあたり、不当利得に当たるとしても元本相当の金額すら返還する必要が無い、という判断が判例です。 3 では相談のケースではどのような結論になるでしょうか。 4 この点、東京地裁平成21年の判例は、高率の配当をうたって、元本の返還を約束して出資を集めた業者に対する返還請求訴訟(「出資」については、本来、元本の返還の約束はないので金銭消費貸借契約類似の契約といえるでしょう)において、業者が高配当の出資は不法原因給付に当たると主張したのに対し、「金銭消費貸借契約が出資法に反することを理由に直ちに無効となるものでないこと」、「契約が暴利行為として公序良俗違反となるのは,出資ないし貸付けを行う者が相手方の窮迫・軽率・無経験に乗じて過大な利益を獲得するような場合であると解される」として、この考え方に限定的な解釈を加えました。 この考え方によれば、3ヶ月で倍、という提案を、貸主側がしたのではなく、借主側からの提案であって、借主の窮迫、軽率、無経験に乗じて過大な利益を獲得するような場合、では無い、ということであれば、金銭消費貸借契約自体は無効になりません。訴訟としては貸主として、請求原因である金銭消費貸借契約について主張立証(金銭の返還することを約束して、金銭を渡した事実を主張し、借用証や送金票を証拠として提出する)することになります。これに対し借主が、金銭消費貸借契約が出資法に違反する利息が定められ、しかも出資ないし貸付けを行う者が相手方の窮迫・軽率・無経験に乗じて過大な利益を獲得するような場合であることの主張立証を行うことになります。通常はこのような高利を借主が提案することはないでしょうから、貸主としても、被告である借主の主張に対して、高利が借主からの提案であることについて十分な反論をする必要があるでしょう。 5 ご相談の場合においては、あなたも「儲かる」と思ったことはあるようですが、借主側からの提案に応じただけなので、利息の請求は当然不可能ですが、元本の返還は請求できるものと思われます。また、当初から返還するつもりが無いのに甘言を用いて金銭を受領したということであれば、相手方に刑法246条詐欺罪が成立する可能性もあるでしょう。交渉が難しい場合には、弁護士を依頼して訴訟等と検討するとよいでしょう。 <参考条文 民法> (公序良俗) <利息制限法> <出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律> (出資金の受入の制限) <参考判例> 被告は,本件の原告との間の契約につき,高利の消費貸借契約であり公序良俗に反し無効であると主張する(なお,被告の答弁書及び準備書面中には,上記消費貸借契約が出資法に反し無効であるとの記載もあるが,消費貸借契約が出資法に反することを理由に直ちに無効となるものでないことは明らかである。)。
No.1223、2012/1/27 10:42 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm
【民事・出資法違反の消費貸借契約の返還義務・元本まで返還する必要がないか・高利貸しと一般人の消費貸借の区別・東京地裁平成22年4月20日判決】
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回答:
1.違法な利率での金銭消費貸借契約は無効と考えられていますが、本件のように、相手方から提案があったような場合に、元本まで返還させないというのは不当であり、元本の10万円は返還請求できると考えます。
2.関連事務所事例集1082番,1070番,897番,768番,393番,101番参照。
1 お金の貸し借り(金銭消費貸借契約)においては、契約に「利息を支払う」という取り決めがあれば、利息を受けることができます(但し商人の場合は特に利息について支払う約束が無くても利息が発生します)。しかし、いくらでも利息を取ってよいということではありません。利息制限法により、10万円の場合、年間20パーセント以上の利息の契約は無効とみなされますから、これ以上の利息を請求することはできません。
さらに本件の場合、3ヶ月で倍になるということは、3ヶ月で利息100%、年間で400%ですから、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)が禁止している年間109.5%をも超えてしまいますので、客観的には、出資法による処罰の対象にすらなってしまいます。
ヤミ金融の違法性の高さ、社会問題化などを踏まえ、元本すら返還を求められないという扱いがされています。例えば、妾(愛人)契約による対価としての金員の交付は、愛人契約が無効であるとしても、金員の返還はできないことになります。もし返還請求を認めると,そもそも公序良俗に反するような行為を行ったものに法が結果的に助力することになり正義にかなう公正、公平の理念を実践する法の理想(法の支配)に反することになるからです(クリーンハンドの原則)。
前述の通り、10万円が3ヶ月で倍になるという契約は、年利にすると400%であり、出資法に違反します。したがって、この契約は違法であり、友人の主張するとおり、元本すら返還を求めることができないようにも見えます。
しかし本件では、この利息は、借主から、借り入れを促すために提案したものです。ヤミ金融の事案のように、貸主側が設定した利息ではありません。このような状況でも、元本の返済は不要になってしまうとしたら、借主がわざと出資法違反の金利を提案して元本を返さない、という事態が起こりかねません。
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
(利息の天引き)
第二条 利息の天引きをした場合において、天引額が債務者の受領額を元本として前条に規定する利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分は、元本の支払に充てたものとみなす。
(みなし利息)
第三条 前二条の規定の適用については、金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他いかなる名義をもってするかを問わず、利息とみなす。ただし、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。
(賠償額の予定の制限)
第四条 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
2 前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。
第一条 何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。
(預り金の禁止)
第二条 業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
一 預金、貯金又は定期積金の受入れ
二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
(浮貸し等の禁止)
第三条 金融機関(銀行、信託会社、保険会社、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫、株式会社日本政策投資銀行並びに信用協同組合及び農業協同組合、水産業協同組合その他の貯金の受入れを行う組合をいう。)の役員、職員その他の従業者は、その地位を利用し、自己又は当該金融機関以外の第三者の利益を図るため、金銭の貸付け、金銭の貸借の媒介又は債務の保証をしてはならない。
(金銭貸借等の媒介手数料の制限)
第四条 金銭の貸借の媒介を行う者は、その媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額(当該貸借の期間が一年未満であるものについては、当該貸借の金額に、その期間の日数に応じ、年五パーセントの割合を乗じて計算した金額)を超える手数料の契約をし、又はこれを超える手数料を受領してはならない。
2 金銭の貸借の保証の媒介を行う者は、その媒介に係る保証の保証料(保証の対価として主たる債務者が保証人に支払う金銭をいう。以下同じ。)の金額の百分の五に相当する金額(当該保証の期間が一年未満であるものについては、当該保証料の金額に、その期間の日数に応じ、年五パーセントの割合を乗じて計算した金額)を超える手数料の契約をし、又はこれを超える手数料を受領してはならない。
3 金銭の貸借又はその保証の媒介を行う者がその媒介に関し受ける金銭は、礼金、調査料その他いかなる名義をもつてするかを問わず、手数料とみなして前二項の規定を適用する。
(高金利の処罰)
第五条 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
3 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
(高保証料の処罰)
第五条の二 金銭の貸付け(金銭の貸付けを行う者が業として行うものに限る。以下この条及び次条において同じ。)の保証(業として行うものに限る。以下この条及び次条において同じ。)を行う者が、当該保証に係る貸付けの利息と合算して当該貸付けの金額の年二十パーセントを超える割合となる保証料の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合となる保証料を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 前項の保証に係る貸付けの利息が利息の契約時以後変動し得る利率(次条第二項において「変動利率」という。)をもつて定められる場合における前項の規定の適用については、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を貸付けの利息の割合とみなす。
一 当該保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により利息制限法 (昭和二十九年法律第百号)第八条第二項第一号 に規定する特約上限利率(以下この条及び次条において「特約上限利率」という。)の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
二 前号に掲げる場合以外の場合 年十パーセント
3 第一項の保証が、元本極度額(保証人が履行の責任を負うべき主たる債務の元本の上限の額をいう。以下この項及び次条第三項において同じ。)及び元本確定期日(主たる債務の元本の確定すべき期日(確定日に限る。)をいう。以下この項及び次条第三項において同じ。)の定めがある根保証(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証をいう。以下この項及び次条第三項において同じ。)であつて、その主たる債務者が個人(保証の業務に関して行政機関の監督を受ける者として政令で定める者が保証人である場合に限る。)又は法人である場合(債権者が法令の規定により業として貸付けを行うことができない者である場合及び利息制限法第八条第五項 に規定する場合を除く。)における第一項の規定の適用については、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を貸付けの利息の割合とみなす。この場合においては、元本極度額を貸付けの金額と、元本確定期日を返済期日としてその計算をするものとする。
一 当該根保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
二 前号に掲げる場合以外の場合 年十パーセント
4 金銭の貸付けに保証を行う他の保証人がある場合における前三項の規定の適用については、第一項中「貸付けの利息」とあるのは、「貸付けの利息及び他の保証人が契約し、又は受領した保証料」とする。
(保証料がある場合の高金利の処罰)
第五条の三 金銭の貸付けを行う者が、当該貸付けに係る保証料の契約の後に当該貸付けの利息を増加する場合において、その保証料と合算して年二十パーセントを超える割合となる利息(年二十パーセントを超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合となる利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
2 金銭の貸付けを行う者が、保証があり、かつ、変動利率をもつて利息が定められる貸付けを行う場合において、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を超える割合による利息(年二十パーセントを超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
一 当該保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
二 前号に掲げる場合以外の場合 年十パーセント
3 金銭の貸付けを行う者が、根保証(元本極度額及び元本確定期日の定めのあるものに限る。)のある金銭の貸付けを行う場合において、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める割合を超える割合による利息(年二十パーセントを超える割合のものを除く。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
一 当該根保証に際し、当該貸付けの債権者と保証人の合意により特約上限利率の定めをし、かつ、債権者又は保証人が主たる債務者に当該定めを通知した場合 当該特約上限利率
二 前号に掲げる場合以外の場合 年十パーセント
(その他の罰則)
第八条 いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第一項若しくは第二項、第五条の二第一項又は第五条の三の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、第五条第三項の規定に係る禁止を免れる行為をした者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第一条、第二条第一項、第三条又は第四条第一項若しくは第二項の規定に違反した者
二 いかなる名義をもつてするかを問わず、また、いかなる方法をもつてするかを問わず、前号に掲げる規定に係る禁止を免れる行為をした者
4 前項の規定中第一条及び第三条に係る部分は、刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条がある場合には、適用しない。
第九条 法人(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項及び次項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が法人又は人の業務又は財産に関して次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第五条第一項若しくは第二項、第五条の二第一項、第五条の三又は前条第一項 三千万円以下の罰金刑
二 第五条第三項又は前条第二項 一億円以下の罰金刑
三 前条第三項(第三条に係る部分を除く。) 同項の罰金刑
2 前項の規定により第五条第一項から第三項まで、第五条の二第一項、第五条の三又は前条第一項若しくは第二項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。
3 第一項の規定により法人でない社団又は財団を処罰する場合においては、その代表者又は管理人がその訴訟行為につきその社団又は財団を代表するほか、法人を被告人とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
平成22年 4月20日 東京地裁
そして,証拠によれば,本訴請求に係る取引においては,配当率ないし利率が月22ないし25パーセントとされていたことが認められ,これは,もとより出資法に違反する高率なものである。
しかしながら,契約が暴利行為として公序良俗違反となるのは,出資ないし貸付けを行う者が相手方の窮迫・軽率・無経験に乗じて過大な利益を獲得するような場合であると解されるところ,前記のとおり,原告は,被告代表者に勧誘されて金員の運用をさせる旨の取引を行い,これに引き続き,更に被告代表者の勧誘を受けて本訴請求に係る金員の交付を行ったものであり,このほか,被告代表者が原告に差し入れた書面において原告に支払う金員を自ら「配当」と記載していることや,被告が原告以外の複数の者からも本件と同じ金銭借用証書を用いて金員の交付を受けていること(したがって,被告の主張するように金銭借用証書の差入れを原告が強要したなどと認めることはできない。)からみても,本訴請求に係る契約が被告の窮迫・軽率・無経験に乗じて行われたものであるなどということはできない(なお,上記契約を元本返還約束のある出資契約と呼ぶか消費貸借契約と呼ぶかは本質的な問題ではないが,上記各事実に照らせば,出資契約と呼ぶのが相当であろう。)。
また,証拠によれば,原告が被告に対し,配当等として8億円余りの請求をし,あるいは第三者を代理人として金員の使途等の説明を求めたことが認められるものの,これらの事実は上記契約が公序良俗に反するか否かの判断を左右するものではない。
以上によれば,上記契約が公序良俗に反するということはできない。