新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1226、2012/2/2 10:17

【民事・布団のモニター商法と支払停止の抗弁・広島高等裁判所岡山支部平成18年1月31日判決】

質問:私は,知人から,いわゆるモニター商法(布団を購入し、購入した布団についてモニター料を支払ってもらうという、売買契約とモニターの業務委託契約を組み合わせたもの)に勧誘され,「人数と期限を限定してのもので,もうすぐ締め切られるから急いだほうがよい」「商品である布団はアトピーにも効く」「この会社(布団販売業者)は今伸びている会社で,絶対採算が取れるから大丈夫」「モニター料は確実に入ってくるから決して損をすることはない」などと言われ,結局,自分のお金を使わず布団が手に入るうえに小遣い稼ぎになるということで,布団の値段をあまり気にすることなく,布団販売業者との間で売買契約とモニター契約を締結し,布団の売買契約については,信販会社との立替払い契約を利用しました。その後,数ヵ月後に布団の販売業者は破産してしまいました。私は,信販会社との間で残った立替払契約に基づいて,同社に立替金を返済しなければならないのでしょうか。

回答:
1.販売業者に対する「抗弁事由」がある場合には,その抗弁事由をもって,信販会社にも抗弁することでクレジットの支払請求を拒否することができ(割賦販売法第30条の4),これを支払停止の抗弁(抗弁の接続)といいます。本件では、販売業者との契約は公序良俗違反により無効である、あるいは債務の不履行を理由に解除するなどの抗弁事由が考えられ、この抗弁はクレジット会社に対する支払い停止の抗弁に当たると考え、分割払いの請求を拒否できると考えられます。
2.割賦販売法に関連し事務所事例集事務所事例集907番885番767番751番719番590番350番327番302番262番228番227番149番140番120番も参考にしてください。

解説:
1 (支払停止の抗弁(抗弁の接続)とは)
  クレジット契約で商品を購入する場合、販売業者との売買契約とクレジット会社とのクレジット契約の二つの契約が存在します。この二つの契約は別個のものですから、本来は売買契約について販売業者に主張できることも、クレジット会社には請求できないことになります。クレジット会社は消費者から依頼されて立替払いをしただけですので、賞品等の問題は販売業者と消費者の間の問題で、立て替え払いしたお金は返して下さい、ということになるはずです。しかし、それでは、消費者の保護にかけることになってしまいます。消費者とすればクレジットで分割払いができるということで購入するわけですから、購入した商品に問題があった場合は代金の支払いを拒否できないと商品に問題があるが、他方で代金は支払わなければならないことになってしまうからです。
  そこで、購入した商品が引渡されない,商品が見本とは違っている,商品に欠陥があったなどのように,販売業者に対する「抗弁事由」がある場合には,その抗弁事由をもって,信販会社にも抗弁することでクレジットの支払請求を拒否することができ(割賦販売法第30条の4),これを支払停止の抗弁(抗弁の接続)といいます。販売業者とクレジット会社は法的に別個の存在としても、消費者に対しては利益共同体であり、消費者と経済力、情報力を豊富に有する販売者側は一体的にとらえ、常に対等の関係になるよう解釈しなければなりません。私的自治の原則による私法関係は、常に契約関係の形式にとらわれることなく、実質的公正、公平、信義則、権利濫用禁止の原理により支配されています(民法1条、憲法12条)。

2(支払い停止の抗弁の要件)
支払停止抗弁が認められる要件は,割賦販売法により次のように定められています。
・割賦購入あっせん契約(クレジット契約)であること
・指定商品・指定権利・指定役務であること
・2カ月以上の期間にわたる3回以上の分割払いであること
・販売業者に対し抗弁事由があること
・支払総額が4万円以上であること(クレジット契約がリボルビング方式の場合は,3万8000円以上であること)
・購入者(契約者)にとって商行為とならないこと(事業者の契約や商行為の場合は適用されません)

ここで,販売業者に対する支払停止の「抗弁事由」については,消費者保護の観点から「可能な限り広く解釈するべき」という通達が出ており,例えば,以下のような場合が「抗弁事由に該当します」
・売買契約が成立していない場合
・商品の引渡しが無い
・商品に欠陥がある,あるいは見本やカタログと明らかに異なっている
・商品の販売条件となっている役務の提供がなされない
・販売業者側に債務不履行がある
・売買契約が取消しできる場合(詐欺・脅迫・未成年者など)
・売買契約が無効となる場合(錯誤など)
・特定継続的役務の中途解約による支払停止の場合
・クーリングオフで売買契約を解除できる場合 

3 (本件における争点、モニター契約を締結したことについての消費者の責任)
  本件においては,布団モニター契約は破綻必至で欺瞞(ぎまん)的なものであるから反社会的な公序良俗に反するものであり無効であること,クーリングオフ,債務不履行解除などが,抗弁事由として考えられ,これを,上記支払停止の抗弁により,信販会社に対しても対抗できるものと考えられそうです。
  しかし,モニター契約によりあなたが受領するモニター料等は不労所得である,また,あなたはいわば業者の一機関ともいうべき立場にあって割賦販売法30条の4で保護されるべき消費者ではない,と考える余地もあることから,契約の無効等を主張して,信販会社に責任を転嫁することは信義則に反し許されないとされる可能性があります。
  現に,岡山地裁平成16年12月21日判決は,本件と同様の事案で,このような理由から,消費者は,全面的に支払いを拒絶することは認められないと判断しました。
  本件における支払停止の抗弁の対抗は信義則に反するかどうかということが争点となります。

4 (判例の検討)
  本件と同様の事案で,広島高等裁判所岡山支部平成18年1月31日判決(上記地裁判決の控訴審判決)は,「割賦販売法30条の4は,(1)割賦購入あっせん業者と販売業者との間には,購入者への商品の販売に関して密接な取引関係が存在していること,(2)このような密接な関係が存在するため,購入者は,割賦販売の場合と同様に,商品の引き渡しがなされない場合等には支払い請求を拒絶できることを期待していること,(3)割賦購入あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,また,損失を分散・転嫁することができる能力を有していること,(4)これに対して,購入者は,購入に際して一時的に販売業者と接するに過ぎず,また,契約に習熟していないし,損失負担能力が低い等,割賦購入あっせん業者と比較して,不利な立場に置かれることなどの諸事情に鑑(かんが)み,消費者の利益を保護するという社会的要請に応えるために,私法上の重大な特則として規定されたものである。

  ・・・したがって,購入者が割賦購入あっせん業者に対して抗弁を主張(対抗)することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には,抗弁の対抗が許されないことは,信義則の法理から当然であるが,上記の同法30条の4の趣旨および目的に照らすと,本件認定事実の下においては,上記にいう「特段の事情」については,信販会社である被告との本件立替払い契約締結に際し,購入者である原告らに何らかの過失や不注意があるだけでは足りないというべきであり,原告らにおいて,A(=布団販売業者)の本件モニター商法が公序良俗に反するものであることを知り,かつ,クレジット契約の不正利用によって被告に損害を及ぼすことを認識しながら,自ら積極的にこれに加担したというような背信的事情がある場合をいうものと解するのが相当である。

  ・・・被告においても,Aの販売方法に疑問を感じながらも,直ちにAとの加盟店契約を打ち切らなかったことからすると,原告らがAの破綻必至性を本件売買契約等締結当時に容易に推認し得たものと直ちに認めることはできず,そのように認めるに足りる証拠もない。・・・なお,被告は,加盟店管理責任はなかった等として縷々(るる)主張するが,上記の認定,判断および前述した割賦販売法30条の4の立法趣旨からすると,仮に,被告に加盟店であるAに対する管理責任がなかったとしても,本件においては,そのことから,原告らからの抗弁対抗を否定することはできないというべきであるから,被告の上記主張については判断するまでもない。

  ・・・本件は,モニター商法を取り入れた販売会社が破綻(はたん)した後に,信販会社から購入代金の支払いを請求された消費者が,本件モニター商法は公序良俗に反するものであり,寝具の売買契約はモニター商法と一体であるから無効であるとし,信販会社に対して支払停止の抗弁を主張した事案である。裁判所は,抗弁の対抗が認められないのは消費者に背信的悪意があった場合に限られるとして,信販会社の加盟店管理義務違反を問うまでもなく支払停止の抗弁を認めるべき」と認定しました。

5 (本件についての検討)
  本判決は,支払停止の抗弁が制限される場合について,上記のような基準(購入者が割賦購入あっせん業者に対して抗弁を主張(対抗)することが信義に反すると認められるような「特段の事情」がある場合には,抗弁の対抗が許されない・・・「特段の事情」については,購入者に何らかの過失や不注意があるだけでは足りないというべきであり,契約が公序良俗に反するものであることを知り,かつ,クレジット契約の不正利用によってクレジット会社に損害を及ぼすことを認識しながら,自ら積極的にこれに加担したというような背信的事情がある場合をいう)を示したうえで,支払停止の抗弁事由が制限される場合を厳格に判断したものと言えます。

  あなたの場合も,安易にモニター契約を締結してただで布団を利用でき、更にモニター料まで受領できるという打算により、クレジット契約を締結したことに不注意があるとは言えますが、上記の背信的な事情とまでは言えず、信販会社に対する支払停止の抗弁が認められる可能性が高いといえますので,弁護士に相談してみることをお勧めします。
  なお、本件に関して、法的に割賦販売法における支払停止の抗弁(抗弁の接続)が認められるべき事例であるとしても、信販会社に何の事前連絡もせず、交渉もせずに、引き落とし口座の残高をゼロにするなどして支払いを停止することはお勧めいたしません。信販会社が単なる滞納事故であると認識し、遅延利息を請求してくると共に、信用情報機関(いわゆるブラックリスト)への滞納事故記録が登載されてしまうからです。法的に、支払停止の抗弁を、信販会社に認めさせ、相互に確認する必要があります。内容証明郵便を送付したり、債務不存在確認訴訟を提起する手段が考えられます。信販会社との交渉が困難であるとお考えの場合は、お近くの法律事務所にご相談なさると良いでしょう。

(参照条文)

割賦販売法
(割賦購入あつせん業者に対する抗弁)第30条の4 購入者又は役務の提供を受ける者は,第2条第3項第1号又は第2号に規定する割賦購入あつせんに係る購入又は受領の方法により購入した指定商品若しくは指定権利又は受領する指定役務に係る第30条の2第1項第2号又は第5項第2号の支払分の支払の請求を受けたときは,当該指定商品若しくは当該指定権利の販売につきそれを販売した割賦購入あつせん関係販売業者又は当該指定役務の提供につきそれを提供する割賦購入あつせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもつて,当該支払の請求をする割賦購入あつせん業者に対抗することができる。《改正》平11法0342 前項の規定に反する特約であつて購入者又は役務の提供を受ける者に不利なものは,無効とする。《改正》平11法0343 第1項の規定による対抗をする購入者又は役務の提供を受ける者は,その対抗を受けた割賦購入あつせん業者からその対抗に係る同項の事由の内容を記載した書面の提出を求められたときは,その書面を提出するよう努めなければならない。《改正》平11法0344 前3項の規定は,第1項の支払分の支払であつて次に掲げるものについては,適用しない。
1.政令で定める金額に満たない支払総額に係るもの
2.その購入が購入者のために商行為となる指定商品に係るもの(連鎖販売個人契約及び業務提供誘引販売個人契約に係るものを除く。)

民法
(基本原則)
第一条  私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は,これを許さない。

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