新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1227、2012/2/5 11:25 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【法人破産申立の手続きと必要書類・予納金と少額管財事件】

質問:私は、紳士服製造業を営むX株式会社の代表取締役ですが、X社はバブル期に不動産に投資し、多額の有利子負債を抱えた上、事業の不振から資金繰りに窮し、昨年の10月末に手形不渡りを出し、銀行取引停止となってしまいました。私は、会社について、破産手続開始の申立てをしたいと思います。その手続をするにあたって、どのような書類を提出すればよいでしょうか。また弁護士に申立を依頼するメリットは何でしょうか。

回答:
1.破産手続き開始の申立てに当たっては、@破産手続開始決定申立書の他に、A報告書(陳述書)として破産手続開始の原因となる事実、主な財産等を記載し、B債権者一覧表を提出します。その他の資料としてC法人の登記事項証明書、D直前の決算書2期分、E預金通帳の写し、Fその他の会社資産についての証書等の写し(不動産登記事項証明書、自動車の車検証、保険証書、株券等)等を添付する必要があるほか、裁判所が定めるG予納金を納める必要があります(最終的に必要な書類は裁判所の指示があります。おおむね説明した書類を提出して不足分は追加で提出することができます。)。

2.破産手続は、債権者をはじめとして利害関係人が多く、法的に難しい問題や早期に対応しなければならない場面も少なくないことから、通常は、弁護士を申立代理人として選任した方がスムーズに手続きを進めることができます。特に、破産の手続きを弁護士に依頼すると弁護士から債権者に対して受任通知という書類が送られ、その後は債務者本人には連絡ができないことになるので、破産の申立て後に、管財人が選任されるまで時間的な余裕ができます。弁護士に依頼しない場合は、債権者の対応に追われ破産の申し立ての準備をするのも困難な場合が多いでしょう。

3.更に、現在の会社の破産事件のほとんどは少額管財事件といって予納金が20万円となっていますが、これは申立人代理人に弁護士がなっている場合に限られています。申立代理人が、管財人の破産事務の処理が容易なように、あらかじめ整理して申立をすることで管財人の業務を軽減し、それによって予納金を20万円に減額しているのが理由です。予納金は何に使われるかというと、裁判所が選任した公正な管財人(通常弁護士)報酬及び裁判所の事務手続き費用等に充てられます。法人破産の場合は、少額管財事件の制度が運用されるようになってからは、同時廃止ということではなく、すべて管財人が選任される運用になっていますから申立人の代理人として弁護士を依頼する方が、経済的にも有利です。

4.破産手続きは、経済的に破綻した債務者の残り少ない財産を適正公平、迅速に分配し、一刻も早く債務者の経済的再起更生を図り自由競争社会に復帰させることを目的としています(破産法1条)。裁判所は、司法権の独占(憲法76条)からこの手続きを主宰し、判断、監督しますが、自由主義経済、私的自治の原則から債務整理の手続き費用は、破綻した債務者が自ら負担しなければならないのです。これが予納金です。債務者も自らの責任において債務内容を迅速、公正に整理し、破産手続きに協力しなければ、社会への経済的早期復帰更生はできないことになります。

5.破産に関連して当事務所事例集1197番1146番1098番1020番938番843番841番835番834番833番804番802番717番562番515番510番463番455番428番426番374番323番322番226番184番170番155番65番34番9番参照。

解説:
(破産手続きの基本的考え方)
  まず破産手続きの趣旨をご説明します。破産(免責)とは,支払不能等により自分の財産,信用では総債権者に対して約束に従った弁済ができなくなった債務者の財産(又は相続財産)に関する清算手続きおよび免責手続きをいいますが(破産法2条1項),その目的は,債務者(破産者)の早期の経済的再起更生と債権者に対する残余財産の公正、平等、迅速な弁済の2つです。その目的を実現するため手続きは適正,公平,迅速,低廉に行う必要があります(破産法1条)。なぜ 破産 ,免責手続きがあるのかといえば,自由で公正な社会経済秩序を建設し,個人の尊厳保障のためです(法の支配の理念,憲法13条)。我が国は,自由主義経済体制をとり自由競争を基本としていますから構造的に勝者,敗者が生まれ,その差は資本,財力の集中拡大とともに大きくなり恒常的不公正,不平等状態が出現する可能性を常に有しています。しかし,本来自由主義体制の真の目的は,公正公平な社会秩序建設による個人の尊厳保障(法の支配の理念)にありますから,その手段である自由主義体制(法的には私的自治の原則)に内在する公平公正平等,信義誠実の原則が直ちに発動され不平等状態は解消一掃されなければなりません。

  そこで,法は,なるべく早く債務者が再度自由競争に参加できるように従来の債務を減額,解消,整理する権利を国民(法人)に認めています。したがって,債務整理を求める権利は法が認めた単なる恩恵ではなく,国民が経済的に個人の尊厳を守るために保持する当然の権利です。その権利内容は,債務者がその経済状態により再起更生しやすいように種々の制度が用意されているのです。大きく分けると債務者の財産をすべて一旦清算し,残余財産を分配してゼロからスタートする破産 (清算方式の内整理)と,従来の財産を解体分配せずに,従来の財産を利用して再起を図る再生型(再起型内整理,特定調停,民事再生,会社更生法)に分かれます。唯,債権の減縮,免除が安易に行われると契約は守られなければならないという自由主義経済(私的自治の原則)の根底が崩れる危険があり,債務者の残余財産の確保,管理,分配(破産財団の充実)は厳格,公正、平等、迅速低廉に行われます。但し,人間として生活維持,経済的再起更生のためには必要最小限の資産も必要であり,分配の対象である残余財産の範囲について種々の配慮がなされています(自由財産)。勿論,不法,不当な手段,活動により 破産的状態を作出し,陥った債務者は再起更生の法的保護を受ける正当な利益を有しませんので,債務の減縮免除を申し出ることはできない仕組みになっています(法252条,254条。免責不許可,取消等)。 破産 法の解釈も以上の趣旨から行われますし、必要な書類、予納金等も以上の制度趣旨に従って規定されています。

1.(申立と予納金)
  破産手続開始の申立ては、申立権者(破産法18条、19条)が当該事件を管轄する裁判所に破産規則に定める事項を記載した申立書を提出して行わなければなりません(同20条1項)。そして、申立てに際しては、破産手続の費用として裁判所が定める金額を予納しなければなりません(同22条1項)。予納金の金額は負債総額、債権者数によって変わりますが、現在の多くの事件は少額管財といって20万円の予納金になっています。予納金は、要するに破産手続きの実費ですが、私的自治の原則の理論的帰結として破産者自ら負担します。

2.(申立書)
  破産手続きを、公正、平等、迅速低廉に行うために以下の書類が必要です。

  破産手続開始の申立書には、@申立人及び債務者の氏名・名称、住所、A申立ての趣旨、B破産手続開始の原因となる事実、C任意代理人が申立てをするときは、当該代理人の氏名及び住所を記載し、申立人又は代理人が署名又は記名捺印しなければなりません(同20条1項)。

  このほか、破産手続開始の可否、手続の進行の見込みなどの判断の資料とするため、或いは、債務者の財産状態等を把握するために、申立書に報告書(陳述書)を添付することになっています。
  報告書には、以下の事項を記載するものとされています。

T 債務者の収入及び支出の状況並びに資産及び負債の状況
U 破産手続開始の原因となる事実が生ずるに至った事情
V 債務者の財産に関してなされている他の手続又は処分で申立人に知れているもの。
W 債務者について現に係属する破産事件、再生事件、更生事件があるとき は、当該事件が係属する裁判所、当該事件の表示
X 管轄の特例の対象となる関連の破産事件等があるときは、当該事件が係 属する裁判所、当該事件の表示、当該事件における破産者・債務者、再生債務者、更生会社・開始前会社の氏名・名称
Y 債務者について外国倒産処理手続があるときは、当該外国倒産処理手続の概要
Z @債務者について、使用人その他の従業員の過半数で組織する労働組合がある場合は、当該労働組合の名称、主たる事業所の所在地、組合員の数及び代表者の氏名、A使用人その他の従業者の過半数を代表する者があるときは、その氏名及び住所
[ 官庁等の許可がなければ事業を営むことができない又は設立することができない法人について、破産手続開始の決定の通知をすべき機関の名称及び所在地
\ 申立人又は代理人の郵便番号及び電話番号。

  その他、自己破産及び準自己破産の場合は、原則として申立てと同時に、@破産債権、A租税債権、B労働債権、C再生手続、更生手続が先行している場合における再生手続ないし更生手続上の共益債権について、(イ)債権者の氏名・名称及び住所、(ロ)債権及び担保権の内容を記載した債権者一覧表を提出しなければなりません(同20条2項)。

3.(添付書類)
  破産制度の趣旨から以下の詳細な書類が要請されます。
  そのほか、申立書には、以下の書類を添付するものとされています。@債務者が法人の場合、登記事項証明書、A申立日の直近において作成された貸借対照表及び損益計算書、B財産目録、C代理人が申し立てる場合に委任状。
  更に、裁判所及び破産管財人が事件の全容を的確に把握し、効率的に事務を処理できるように、実務上様々な資料が提出されます。東京地裁(本庁)において、法人の自己破産の申立ての場合に提出を求めている疎明資料は、規則上の疎明資料を含めて、以下のとおりです。@法人登記の現在事項全部証明書、A破産申立についての議事録又は取締役全員の同意書、B委任状、C債権者一覧表、D債務者一覧表、E資産目録、F代表者の陳述書、G貸借対照表・損益計算書(直近2期分)、H清算貸借対照表(申立日現在のもの)、I税金の申告書控えのコピー(直近2期分)、J不動産登記の全部事項証明書(3か月以内のもの)、K賃貸借契約書のコピー、L預貯金通帳のコピー(2年分)、M車検証・登録事項証明書のコピー、Nゴルフ会員権証書のコピー、O有価証券のコピー、P生命保険証書・解約返戻金計算書のコピー、Q訴訟関係書類のコピー。

4.(予納金)
  申立人は、破産手続の費用として裁判所が定める金額を予納しなければなりません(同22条1項)。予納金は、破産手続開始の公告費用、各種書類の送達費用、破産財団の管理・換価費用、配当に関する費用、破産管財人の報酬などに使用されます。裁判所から予納命令を受けたにもかかわらず、開始決定までに費用を予納しない場合には、申立てが棄却ないし却下されます(同30条1項1号参照)。本来債務者が負担すべき費用ですから当然です。なお、東京地裁(本庁)では、いわゆる少額管財手続を導入していることから、代理人申立ての自己破産事件については、予納金額を最低20万円とし、管財手続をより利用しやすいものとしています。

5.破産手続は、債権者をはじめとして利害関係人が多く、法的に難しい問題や早期に対応しなければならない場面も少なくないこと、少額管財事件は申立人代理人が弁護士の場合に限定されていることから、通常は、弁護士を申立代理人として選任した方がスムーズかつ、金銭的な負担も少なく手続きを進めることができます。

≪参考条文≫

破産法
(目的)
第一条  この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
(破産手続開始の申立て)
第十八条  債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
2  債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
(法人の破産手続開始の申立て)
第十九条  次の各号に掲げる法人については、それぞれ当該各号に定める者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
一  一般社団法人又は一般財団法人 理事
二  株式会社又は相互会社(保険業法 (平成七年法律第百五号)第二条第五項 に規定する相互会社をいう。第百五十条第六項第三号において同じ。) 取締役
三  合名会社、合資会社又は合同会社 業務を執行する社員
2  前項各号に掲げる法人については、清算人も、破産手続開始の申立てをすることができる。
3  前二項の規定により第一項各号に掲げる法人について破産手続開始の申立てをする場合には、理事、取締役、業務を執行する社員又は清算人の全員が破産手続開始の申立てをするときを除き、破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
4  前三項の規定は、第一項各号に掲げる法人以外の法人について準用する。
5  法人については、その解散後であっても、残余財産の引渡し又は分配が終了するまでの間は、破産手続開始の申立てをすることができる。
(破産手続開始の申立ての方式)
第二十条  破産手続開始の申立ては、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならない。
2  債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者一覧表を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。
(費用の予納)
第二十二条  破産手続開始の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならない。
2  費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(破産手続開始の決定)
第三十条  裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
一  破産手続の費用の予納がないとき(第二十三条第一項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
二  不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
2  前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。

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