新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私の隣に住んでいる老人が、土地と建物を残して先日亡くなりました。相続人はいないようです。私は、数十年に渡り,隣に住んでいる一人住まいの老人の身の回りのお世話や,生活の援助などをして来ました。お葬式も私が挙げさせていただきました。お隣さんは,生涯独身で,子どももいません。住んでいた家と土地は,お父さんから譲り受けた遺産だと聞いています。ここまで来たら,最後の最後まで面倒を看させていただきたいと思っているのですが,私でできることは何かないでしょうか? 解説: 2(1)被相続人が亡くなったが,相続人がいるのかどうか分からない場合,相続人不存在という状態として扱われることになります(民法第五編 相続 第六章 相続人の不存在)。そして,被相続人の死亡のときから,相続財産は法人となります(民法951条)。この法人化には,特に何の手続きもいりません。法律上,当然にそうなる,ということです。そして,この相続財産の管理などを行うのが,相続財産管理人です。 (2)相続財産管理人は,利害関係人または検察官の請求により,家庭裁判所が選任します(民法952条1項)。申立て先は,相続開始地すなわち,被相続人の死亡時の住所地の家庭裁判所です(家事審判規則99条1項,民法883条)。 3(1)家庭裁判所に対する利害関係人からの相続財産管理人選任申立てに際しては,次のような費用・書類が必要とされています。 (2)申立てが認められると,相続財産管理人が選任され、管理人により次のような経過で手続が進んでいきます。 4(1)相続人の不存在が確定したら,特別縁故者からの財産分与の請求の段階となりますので,速やかに申立てを行います。前述の通り,申立ての期間は3ヶ月です。この期間を過ぎてしまうと,特別縁故者からの財産分与請求は,もうできなくなってしまいますので注意が必要です。 5.特別縁故者として,財産分与の請求を行うことを潔しとしなければ,請求をしないというのも,一つの選択肢です。 6.(判例の検討) 2. 大阪高等裁判所平成20年10月24日決定(特別縁故者に対する相続財産分与審判に対する抗告事件) 6000万以上の遺産について、2名(被相続人の妹の孫とその配偶者)に各500万円の財産分与を認めています。老人ホームに入居後の8年間の貢献を評価しています。 3. 鳥取家庭裁判所平成20年10月20日審判(特別縁故者に対する相続財産分与申立事件)。 【参照条文】 民法 家事審判法 家事審判規則
No.1228、2012/2/7 14:36 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm
【相続・相続人不存在と特別縁故者・大阪高等裁判所平成20年10月24日決定】
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回答
1.相続人が不明の場合、相続財産管理人の選任が必要です。相談者の方も、利害関係人として相続財産管理人の選任申立てを,被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所へ行うことができます。その後,相続人の不存在が確定すれば,特別縁故者として、財産分与の申立てを上記家庭裁判所に対して行い,認められれば,財産を譲り受けることができます。
2.事務所事例集1027番,935番,670番,651番,233番,118番参照。
1.亡くなったお隣さんには,少なくとも家・土地・預金があるようですが、本来は相続財産として相続人が引き継ぐことになります。相続人がいない場合、最終的に相続財産は国庫に帰属することになりますが、その前に相続人の調査や相続財産の管理をする必要があります。
その為の制度として相続財産管理人の選任,特別縁故者による財産分与請求という制度が定められています。どうしてこのような制度があるのでしょうか。日本の私法制度は私有財産制(憲法29条)と私的自治の原則により成り立っています。従って、相続の場合も被相続人の財産処分の意思、及び推定的意思(遺志)に基づき遺言自由優先の原則(民法960条以下)、法定相続制(同900条)により遺産が分配されます。しかし、遺産の分配の時には、当の本人はこの世には存在しないので最も重要な意思確認が不可能ですから、遺言は厳格な方式が取られていますし、法定相続も利害関係人の混乱を避けるため戸籍により画一的に決定されることになります。不条理でも例えば内縁、事実上の養子、未認知の子に相続権はありませんし、厳格な遺言の方式を踏まなければ遺産を法定相続人以外に分け与えることはできません。
しかし、病気等の事情により突然お亡くなりになり遺言もなく相続人も不存在であるという不測の事態が生じることもあり得るわけです。遺言も、相続人もいなければ、権利者が存在しない以上例外的に国庫に帰属するといっても不都合はないようにも思います。しかし、私有財産制の原則を貫くのであれば、あくまで被相続人の推定的意思(遺志)を推し量りこれに基づいて財産を分配することが理論的であり、画一的に決定する法定相続制度以外に被相続人が有したであろう意思をさらに総合的に考慮し利害関係人に遺産を公平に分与することが必要です。
勿論、遺産には債権者でなくても実質的に見て財産的精神的に遺産の形成に貢献した者もありますから遺産の清算という側面も考慮しなければいけません。以上が 特別縁故者への財産分与の根拠です。従って、縁故者の解釈に当たっては、被相続人の財産分配意思が推定されるような関係があるかどうかと、遺産の実質的清算という面から判断されることになります。そのような観点から申立の証拠資料を収集し、書面にて主張することが必要となるでしょう。
利害関係人とは,相続財産の管理・清算・帰属について,法律上の利害関係を有する者をいいます。相続債権者,受遺者,特別縁故者などが,利害関係人に当たるとされています。
特別縁故者とは、亡くなった被相続人と特別な関係があった者ですが、被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養介護に努めた者が例示として挙げられています(民法958条の3)。
判例において,「例示に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で,相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者」(大阪高決昭和46年5月18日家月24巻5号47頁)との基準が立てられています。
具体的には,内縁配偶者,事実上の養子,報酬以上に献身的に看護に尽くした付添看護婦などが挙げられます。
特別縁故者と認められるかは,親族関係の遠近ではなく,具体的な縁故の濃淡が判断基準であるといえ,全くの赤の他人であっても特別縁故者と認められ得るということです。
相談者は数十年に渡り,誰も寄り付かなかった被相続人の看護や,生活のための援助をし,お葬式まで挙げているということですから,少なくとも特別縁故予定者であるといって良いでしょう。援助を,どう見るのかの問題はあるかと思いますが,これを被相続人に対する債権と見ることができるのであれば,相続債権者であるともいえます。この点がどちらとなるにしても,相続財産についての利害関係人には当たると思われます。
なお、特別縁故者として認められるためには家庭裁判所の審判が必要ですので、特別縁故者に該当すると思われる予定者が、相続財産管理人の選任を申し立てることができる利害関係人に該当するのか疑問もあります。しかし、特別縁故者として分与の申立てをするには,相続財産管理人によって管理・清算が行われなければならないので,特別縁故「予定」者にも相続財産管理人選任の申立てを認める必要があることから,実務上、利害関係人に認められて来ています。
ア 申立てに必要な費用
@収入印紙800円
A予納郵券2000円程度
B官報公告料3670円
予納郵券については,申立て先の家庭裁判所によって要求される郵券の種類・枚数が異なりますので,申立てる前に確認が必要です。
イ 申立てに必要な書類
@申立書
家庭裁判所に備え付けの用紙を利用するのが一番良いと思いますが,様式はそれでなければいけない,ということはありません。どのような申立書でも同様ですが、順序はどうあれ必要な事項が記載されていればいいわけです。
A申立人の資格証明書
申立人の戸籍謄本及び住民票を添付します。
B相続人の不存在を証する資料
具体的には,被相続人と相続人全員の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍の各謄本が必要です。相続人全員とは,被相続人の直系卑属,直系尊属,兄弟姉妹のことで,これらの人たちに子がいれば,さらに,その子の分まで必要となります。各人について出生から死亡までのものを,それぞれ1通ずつ用意する必要はなく,重なっている部分については,兼ねることができます。戸籍の詳しい取寄せ方については,事務所事例集935番【相続・相続人の確定のための戸籍取り寄せの手続き】をご覧下さい。戸籍謄本等は相続人であれば、特に理由を説明することなく取り寄せることができますが、相続人以外の人が取り寄せることは、法律上は可能ですが(戸籍法10条)、個人情報保護の見地から実務上は大変困難ですので、司法書士や弁護士に依頼したほうが良いでしょう。
調査の結果、相続人となる者が存命であっても,その全員が相続放棄を行い,相続人が不存在となった場合は,相続放棄申述受理証明書を添付します。
C被相続人の住民票の除票
一応の注意点として,除票の保存期間は5年間である点です。
D申立人の利害関係を証する資料
例えば,相続債権者であれば,借用証書の写しがこれに当たります。特別縁故者の場合には,被相続人と生計を同じくしていたのであれば住民票を添付します。住民票が別になっていたり同居はしていない,という場合は何らかの方法で相続人と関係があったことを示す書類等の証拠が必要です。例えば,被相続人の意思を推測させるもの,手紙や日記などがこれに当たると思われます。先に紹介した判例に照らして,用意できる資料を添付することになるかと思います。
E相続関係図
F相続財産目録
申立時に判明している相続財産を全て記載します。不動産がある場合は,登記簿謄本を添付します。預貯金については,通帳の写しを添付します。
事案によっては,家庭裁判所より,この他にも資料を要求される場合があります。
@家庭裁判所による相続財産管理人選任の公告(2ヶ月)(民法952条2項,957条1項)
A相続財産管理人による相続債権者・受遺者に対する公告(2ヶ月以上)(民法957条1項)
B家庭裁判所による相続人捜索公告(6ヶ月以上)(民法958条)
C公告期間の満了をもって相続人不存在の確定(民法958条の2)
D特別縁故者からの財産分与請求(3ヶ月以内)(民法958条の3)
E相続財産管理人に対する報酬付与(民法953条,29条2項)
F残余財産の国庫への帰属(民法959条)
Dの段階となって初めて,特別縁故者からの財産分与の請求ができるようになります。最低でも13ヶ月を要します。
もし,Cの相続人の不存在が確定する前に相続人が現れると,特別縁故者からの財産分与請求はできなくなってしまいます。
(2)家庭裁判所に対する特別縁故者からの財産分与請求の申立てに際しては,次のような費用・書類が必要とされています。
ア 申立てに必要な費用
@収入印紙800円
A予納郵券2000円程度
相続財産管理人選任の申立ての際と同様に,予納郵券については,裁判所への確認が必要です。
イ 申立てに必要な書類
@申立書
A申立人の戸籍謄本
B被相続人の戸籍(除籍)謄本
事案によって,他の資料を要求され得る場合がある点は,相続財産管理人選任の申立ての時と同様です。
(3)相続財産の分与の申立てを受けた家庭裁判所は,特別縁故者に対して,相続財産を全部分与するか,一部分与とするか,何を分与するかは,裁判所の裁量によって決められます。
分与の審判が確定したら,相続財産管理人から特別縁故者に対して審判で定められた財産が引き渡されることになります(家事審判法16条,民法644条,646条,647条,650条)。
そして,なお財産に残余がある場合は,相続財産管理人により,国庫帰属の手続が行われます(民法959条)。
その前提としての相続財産管理人選任の申立ても義務ではありませんが,可能であれば行っていただければと思います。それは,相続人不存在の状態となっても,外形からは,どういう状況なのかが分からないことが多く,特に,相続財産に家屋がある場合には,放置され,荒廃し,周りに影響を及ぼしたり,子どもの危険な遊び場になってしまうケースもあるからです。
申立ててしまえば,あとは,相続財産管理人へ任せておけば良いのですが,それまでの必要書類の収集がなかなか難しいこともあるかと思いますので,一度,お近くの法律事務所へご相談なさってみても良いと思います。
1. さいたま家庭裁判所川越支部平成21年3月24日審判(特別縁故者に対する相続財産分与申立事件、差戻第一審)1200万円程度不当に被相続人(学校の教員であった)の預貯金から引きだした「いとこ」の申し立てを認めていません。被相続人の意思がうかがえないし、財産的、精神的寄与の清算の認める証拠がなかったと思われます。
判旨抜粋
「第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判中,被相続人の相続財産から,Aに対し本件遺産動産を分与した点は相当であるが,A及びBに対しそれぞれ300万円を分与するとした点は,やや低額であるので,これを変更し,A及びBに対し,それぞれ500万円を分与するのが相当であると判断する。
その理由は,次のとおりである。
2 記録によれば,原審判2頁7行目から3頁23行目までの事実が認められる。
3 以上の事実関係によると,被相続人が高齢及び認知症状により一人暮らしが困難となって老人ホームに入所するまでの間は,A及びBと被相続人は,遠隔地に居住していたこともあって,その関係は,精神的な交流を中心とするもので,親しい親戚関係の範囲内にあるものと評価することはできるが,相続財産の分与を相当とする関係に達しているとまでみることは困難というべきである。
しかし,被相続人が平成11年に老人ホームに入所してからは,Bが,入所時の身元保証人や成年後見人となったほか,AとBは,多数回にわたって,遠距離の旅程をものともせず,老人ホームや入院先を訪れて,親身になって被相続人の療養看護や財産管理に尽くした上,相当額の費用を負担して,被相続人の葬儀を主宰したり,その供養も行っているものである。
このような関係をみると,AとBは,被相続人と通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり,被相続人からも信頼を寄せられていたものと評価することができるから、民法958条の3所定の,いわゆる特別縁故者に該当するものと認めるのが相当である。
4 そこで,被相続人の相続財産からどの程度の財産をAとBに分与すべきかについてみるに,上記のA及びBと被相続人の特別の縁故関係,相続財産管理人保管に係る相続財産が,本件遺産動産のほか預金約6283万円であること,その他,本件に表れた一切の事情を考慮すると,原審の定めた金額はやや低額とみることができ,被相続人の相続財産からAに対し本件遺産動産及び500万円を,Bに対し500万円を,それぞれ分与するのが相当というべきである。
抗告理由は,この限度においては,理由がある。
5 なお,A及びBは,更に上記のとおり,同人らに相続財産の全部を分与するのが相当であると主張するが,採用できない。すなわち,
(1)被相続人が老人ホームに入所するまでのA及びBと被相続人との関係は,上記のとおりにみることが相当であるけれども,特別縁故とみるに至らない点では原審と同旨であるから,原審の認定に重大な事実誤認があるということはできない。
(2)また,A及びBの療養看護上及び財産管理上の貢献並びに被相続人の死後の供養については,これらを十分斟酌した上で,上記のとおり分与額を定めるのが相当というべきであり,これを更に増額すべき事情があると認めることはできない。」
短期間の貢献ではあるが、被相続人の生前の合理的意思を考慮し、被相続人の又従兄弟の配偶者に600万円の分与を認めています。
「以上の事実によれば,平成14年×月以降,申立人の夫が又従兄弟の関係にある被相続人の老人ホーム入所につき身元引受人となったもので,その間申立人も妻として相応の協力をしたものと推定されるし,夫が死亡した後は,短期間ではあるが,自ら身元引受人となり,衣類を届けるなど身辺の世話をしていたものであること,さらに,被相続人の依頼により,任意後見契約を結んでおり,被相続人から厚い信頼を得ており,同人の精神的支えとなっていたことが窺われること,被相続人の死亡後は,葬儀等や退寮手続を行い,身辺整理をするなどしたこと,また,かねて,C家の墓守をしており,死亡後もその墓守を続けるとともに,納骨した○×寺への墓参りも行っていること,そして,被相続人は,申立人に相続財産を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しており,有効な遺言の方式を備えていないものの,相続財産を遺贈する意向を明確に表示していることなどを考慮すると,被相続人と特別の縁故があったものと認めるのが相当である。
(3)そこで分与額につき検討すると,申立人は,一定期間被相続人の身辺監護を支援するなどし,被相続人は申立人に相続財産を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しているなどの事情が認められるが,他方,本件メモ書きは遺言書としての方式を備えず不完全なものであるところ,公証人から遺言書の作成につき示唆を受けたのに,かかる書面を作成するに止まった具体的な事情は明らかでないが,客観的,外形的に見て,被相続人の申立人に対する包括遺贈の意思が未だ確定的なものとなっていなかったといわざるを得ないこと,また,申立人は,被相続人の相続財産の形成,維持に寄与したものではないこと,その他前記認定説示の諸事情を総合考慮し,相続財産管理人の意見を聴いた上,申立人に対し,別紙財産目録記載の財産のうち600万円を分与するのを相当と認めて,主文のとおり審判する。」
(管理人の担保提供及び報酬)
第二十九条 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
(受任者の金銭の消費についての責任)
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
(相続開始の場所)
第八百八十三条 相続は、被相続人の住所において開始する。
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第九百五十三条 第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
(相続財産の管理人の報告)
第九百五十四条 相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
(相続財産法人の不成立)
第九百五十五条 相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
(相続財産の管理人の代理権の消滅)
第九百五十六条 相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、相続財産の管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
(相続人の捜索の公告)
第九百五十八条 前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条の二 前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
第十六条 民法第六百四十四条、第六百四十六条、第六百四十七条及び第六百五十条の規定は、家庭裁判所が選任した財産の管理をする者について、同法第二十七条から第二十九条までの規定は、第十五条の三第一項の規定による財産の管理者について準用する。
第九十九条 相続に関する審判事件は、被相続人の住所地又は相続開始地の家庭裁判所の管轄とする。
2 遺産の分割の申立てがあつた場合において、寄与分を定める審判の申立てをするときは、前項の規定にかかわらず、その申立ては、当該遺産の分割の審判事件が係属している家庭裁判所にしなければならない。