新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1230、2012/2/8 13:55

【刑事・インターネット掲示板への書き込みと犯罪成立・削除の方法・最高裁判所平成22年3月15日判決 】

質問:インターネットの掲示板に書き込みをしたところ、他の掲示板参加者から、「貴方の行為は犯罪行為なので警察に告訴する」と警告されました。心配で夜も眠れません。本当に、掲示板に書き込みしただけで犯罪成立してしまうのでしょうか。掲示板の書き込みに関して、どのような犯罪が成立する可能性がありますか。書き込みをしてしまった場合は、どうしたらよいですか。

回答:
1、インターネットの掲示板に記載する行為も、一般社会での「言いふらし行為」「掲示行為」「落書き行為」も、媒体が異なるだけで、刑罰法規の保護法益を侵害する行為であれば、刑事処分の可能性があります。
2、犯罪成立する可能性のある罪名は、「名誉毀損罪」、「信用毀損罪」、「業務妨害罪」、「脅迫罪」、「強要罪」、「侮辱罪」、「軽犯罪法違反」などです。
3、刑罰法規に違反する行為をしてしまった場合は、被害者に対して真摯に謝罪し、民事上の被害弁償を行い、和解成立させることが原則になります。和解合意書において、「刑事告訴権の放棄」について合意することができれば、刑事事件として立件されることも事実上無くなると言えるでしょう。当事者間では感情の対立もあり、協議が困難な場合もあります。そのような場合には、代理人弁護士を介して和解交渉を行うのも一つの方法です。
4、関連問題として事務所事例集1170番1169番1035番755番732番216番参照。

解説:

1、(インターネット掲示板に記載する行為の問題点)

情報通信機器の発達や、インターネット通信技術の進歩により、インターネット掲示板の書き込み行為は、何時でも、何処でも、気軽に行うことができるようになりました。パソコンを使わなくても、携帯電話からでも、簡単に、書き込みをすることができてしまいます。キーボードで文章を入力し、「送信ボタン」をクリックすれば、瞬時に、書き込みが世界中、日本中に対してネット公開されてしまいます。たとえば、立て看板にペンキで文章を記載し、路上に掲出するような行為をする場合には、看板やペンキを用意したり、ペンキで文章を記載したり、路上に看板を持参したり、道路に固定したり、様々な行為を必要としますが、インターネットの書き込みは、キーボードによるテキスト入力とクリックだけで、あまりにも簡単に掲出行為が完結してしまいます。

このため、規範意識が未成熟な未成年者や、インターネットの利用を開始したばかりの初心者を中心に、「ネットの書き込みは何をやっても自由だ」という誤解を生じているケースが多く、また、そのような誤解に乗じてアクセス数(広告収入)を稼ごうとする掲示板開設者も増えてきており、思いがけず刑罰法規違反の書き込みをしてしまう事例が多い様です。

しかしながら、インターネットの掲示板への書き込み行為であっても、記事は日本中に公開されてしまいますので、社会生活上の行為であることには変りはありません。インターネットの書き込みも、一般社会での「言いふらし行為」「掲示行為」「落書き行為」も、媒体が異なるだけで、刑罰法規の保護法益を侵害する行為であれば、刑事処分の可能性があります。十分に注意して掲示板等への参加をする必要があるでしょう。書き込みをする前に、他の参加者や、相手の気持を思い遣って、本当にそれを書き込みするべきか、考え直す必要があるでしょう。

インターネットの通信は、現在、IP(インターネットプロトコル)という通信技術を用いて通信が行われています。この技術では、発信元と発信先に、かならず、4文字(32ビット)のIPアドレスが割り振られており、通信会社や、掲示板管理者のアクセスログに、このIPアドレスが記録されていますので、違法な書き込みがあった場合は、このアクセスログを解析することにより、書き込みがされた日時と場所が必ず特定できるのです。場所の特定は、自宅PCや自分の携帯電話だけでなく、職場やネットカフェの端末でも特定できますので、ネット掲示板に匿名で書き込みしたとしても、捜査機関の調査により必ず判明することになるのです。

2、(具体的な罪名の解説)

(1)「名誉毀損罪」・・・刑法230条です。条文を引用します。

刑法第230条(名誉毀損)公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2項 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
第230条の2(公共の利害に関する場合の特例) 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
第232条(親告罪)この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

この条文の「名誉」とは、「人の社会生活上の地位または価値」を言うとされ(大審院判決大正5年5月25日など)、「公然」とは、「不特定多数の人の視聴に達することの可能な状況」を言う(大審院判決大正12年6月4日など)とされます。インターネット上の名誉毀損事案について、裁判所は、他の事例と基本的に同様の基準で犯罪の成否を検討すべきであると判示しています。最高裁判所平成22年3月15日判決は、「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」としています。名誉の典型は、犯罪行為です、「○○は人殺しだ」「○○は盗人だ」などという言動が、名誉を侵害する行為となります。過去の刑事事件については、最高裁判決昭和56年4月14日で「前科及び犯罪経歴は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示されておりますとおり、合理的な必要性もないのに不特定多数に情報を流布することは、違法性を阻却せず、刑事上も民事上も違法性を帯びる行為と解釈されています。従って、事件直後の新聞報道等には一定の合理性があるとしても、事件から何年も経過した場合には、合理的な理由もなくこのような情報を流布することは法律上認められる行為ではありません。
なお、名誉毀損罪は親告罪となっておりますので、被害者から警察署・検察庁に対する、正式な「刑事告訴」の手続(刑事訴訟法230条)が、起訴されるために必要な条件になっています。

また、名誉毀損罪については、公益性のある報道の自由との関係で、処罰条件が定められており、「公共の利害に関する事実」に関して、「専ら公益を図る目的」で事実摘示した場合であって、事実が真実であることの証明がある場合は、刑罰が科されない規定となっております(刑法230条の2)。また、「起訴前の犯罪行為に関する事実」は、「公共の利害に関する事実」であると看做されますし、「公務員又は公選による公務員の候補者」については、真実であることの証明があれば、刑罰が科されない規定となっております(刑法230条の2第3項)。しかし、起訴前の犯罪行為を知っていたとしても「○○は人殺しだから気をつけて下さい」、などという書き込みをすることは控えた方が良いでしょう。後日真実であることを証明する必要がありますし、その目的においても「専ら公益を図る」ことが必要だからです。犯罪の事実を知っていたのであれば、書き込みをするよりまず警察に届け出るなり相談すべきです。また、法律に従って行政を担当する公務員に関し、又は公職の選挙の候補者に関して、何か違法なことがあるというような場合には、当然、これを不特定多数人との間で議論し、解決していかなければなりませんので、注意を喚起する書き込みを行った場合でも、名誉毀損罪は成立しないことになります。但し、その場合も職務と関係のある事実に限られていますから、書き込む事実については注意が必要です。もちろん真実を証明できるだけの資料、証拠を準備しておく必要がありますから、安易な気持ちでの書き込みは慎むべきです。むしろ新聞社等マスコミや警察に相談すべきでしょう。

(2)「侮辱罪」・・・刑法231条です。条文を引用します。

刑法第231条(侮辱)事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
第232条(親告罪)この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

侮辱罪は、名誉毀損罪の要件である「事実摘示」を欠く場合でも、人の社会的評価を低下させるような軽蔑するような自己の判断を発表することにより成立します(大審院判決大正15年7月5日)。この場合「人」には、株式会社などの「法人」も含まれると解釈されています(最高裁昭和58年11月1日判決)。侮辱罪では、「事実摘示」がありませんので、抽象的な表現行為を対象としておりますので、警察・検察当局、及び裁判所も、非常に抑制的に運用しており、侮辱罪の判例は少なくなっております。例えば、「この間抜け野郎」、「青二才のくせに生意気な口をきくな」、「破廉恥な男」、「売国奴」などの表現が、侮辱罪の成立する可能性があります。

(3)「信用毀損罪」、「業務妨害罪」・・・刑法233条です。条文を引用します。

刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

「信用」とは、「経済的な側面における人の社会的な評価」を意味します(最高裁平成15年3月11日判決など)。「業務」とは、「公務を除くほか、精神的であると経済的であるとを問わず、広く職業その他継続して従事する事務または事業」を言うとされています(大審院大正10年10月24日判決など)。「妨害」は、「業務の執行自体を妨げる場合に限らず、広く業務の経営を阻害する一切の行為を指す」とされており、実際に業務が不能になったことまでは必要ではありません(大審院昭和8年4月12日判決)。例えば、「○○という会社は資金繰りが厳しく来月あたり倒産するらしいので、取引は控えた方が良いのではないか」というような書き込みが根拠も無く、虚偽でなされた場合には、本罪が成立する可能性があります。

(4)「脅迫罪」・・・刑法222条です。条文を引用します。

刑法第222条(脅迫)生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

他人又はその親族の、「生命、身体、自由、名誉、財産」に対する害悪の告知をする行為が脅迫罪の成立する可能性のある行為です。相手が精神的に強靭であって、害悪の告知に対して一切動じなかったとしても、他人を畏怖させるおそれのある害悪を告知すれば、脅迫罪が成立すると解釈されています(大審院大正6年11月12日)。例えば、「お前を殺す」、「お前の子供を殺す」などというネット書き込みを、相手が掲示板に参加している事を知っている状態で行った場合には、相手の面前で告知した場合や、手紙やメールで相手に直接告知した場合と同様に、本罪が成立することになります。「名誉や自由」に対する害悪の告知は、「刑事告訴すべきことの通知」を含みます(大審院大正3年12月1日判決)。告訴するような事実が無いのに、また、告訴する意思もないのに、「○○でお前を刑事告訴する。警察に相談した。被害届を出してきた。警察が逮捕しに行くから待ってろ。」などと書き込みして相手を畏怖させることは、本罪を成立させる可能性があることになります。

(5)「強要罪」・・・刑法223条です。条文を引用します。

刑法第223条(強要)生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3項 前二項の罪の未遂は、罰する。

「義務なき事を行わしめる」とは、自分に何らの権利なく相手方にその義務がないのに、作為、不作為または受忍をさせることをいう、とされています(大審院大正8年6月30日判決など)。具体的には、交際を強要したり、刑事事件において告訴取り消しを強要したり、被害届取り下げを強要したり、インターネット掲示板であれば、削除依頼を強要したりすることが考えられます。

(6)「軽犯罪法違反」・・・軽犯罪法1条31号です。条文を引用します。

軽犯罪法第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
31号 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

軽犯罪法も抑制的に運用されており、警察などでは、「正式な被害届を出す前に、民事の話し合いをしてみて下さい」などと指導を受けることもあるようですが、インターネット掲示板への書き込みであっても、例えば、「○月○日のコンサートは中止になったらしい」などと虚偽の事実を書き込みした場合には犯罪成立する可能性があります。

3、(問題解決方法)

(1)インターネット掲示板などで違法な書き込みしてしまった場合、非を認めて掲示板管理者に対して書き込みをした本人から削除を求めるのが第一に取るべき手段です。しかし、あなたが自分自身で開設したホームページやブログなど、あなたが自由に削除できる場合を除いて、削除請求は、被害者である相手方本人からしかできないと考えて良いでしょう。ですから、書き込みをしたことについて、被害者の方に謝罪して、掲示板管理者に対して一緒に削除を請求してもらう必要があります。

インターネットの掲示板では通常、参加者による自由な記事削除を認めない規約を掲げているものが多く、その場合、掲示板管理者は、「規約に同意したのだから削除は一切認めない」という態度を取ることが一般的です。掲示板の書き込み行為と、インターネットへの掲出行為をひとつの契約行為と解釈すれば、他人の権利を侵害するような、違法な公序良俗違反の書き込みを目的とする行為は無効(民法90条)であり、加害者であるあなたからも管理者に対して契約無効に基づいて原状回復を請求、つまり記事の削除を請求することが、法律上は認められますが、現実論、一般論として、任意の交渉段階では書き込みをした人の依頼による削除についての合意成立は困難であると言わざるを得ません。

(2)他方、権利を侵害されている被害者の立場では、民法709条に基いて、書き込みをした加害者や、掲出行為を続けている掲示板管理者に対して、損害賠償請求権や、不法行為の差止請求権がありますし、上記解説の通り刑法230条名誉毀損罪など各種の刑罰法規に違反しているということであれば、刑事告訴や告発を行い、行為者を刑事処分するよう求めることもできますので、掲示板管理者としても、被害者からの削除要請には真摯に対応せざるを得ません。任意の交渉段階でも記事削除について合意できる可能性が相対的に高いと言えます。

(3)従って、あなたが取るべき態度は、まず、被害者本人に連絡を取り、謝罪し、削除依頼の手続を共同で行い、その費用負担は自分が行う事を提案する事になります。できれば、合意書、示談書を作成してから、手続すると良いでしょう。

合意書の内容は次の通りです。

@事件の特定(インターネットURL、書き込み内容)
A加害者が謝罪し、被害者がこれを許す。
B加害者は、被害者に賠償金を○○円支払う。
C加害者と被害者は、今後協力して、インターネット記事の削除手続を行う。弁護士費用など必要経費は全て加害者が負担する。
D示談が成立したので、被害者は刑事告訴など刑事手続はしない。
E合意書に定める他、被害者と加害者の間には債権債務は一切存在しない。
   
(4)名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪(刑法232条)となっておりますので、被害者の刑事告訴が無ければ刑事訴追を受けることはありません。当然、前科となることもありません。合意書締結後に、共同して削除請求の手続を進めると良いでしょう。また、非親告罪である、他の犯罪行為であっても、当事者間で示談が成立している場合は、後日、万一刑事告訴されたとしても、検察官は通常は起訴せず、不起訴処分となる可能性が高いと言えます。検察官が起訴する場合には、実務上被害者の供述調書が必要となりますが、被害者の協力が得られない場合は供述調書を作成することができませんし、既に示談が成立して告訴取り下げの合意をしている場合には、供述調書を作成できたとしてもその信用性が問題となってしまうおそれがあるためです。

(5)被害者との示談交渉や話し合いがうまく行かない場合には、弁護士を介して交渉することもできます。お困りの場合は、一度お近くの法律事務所にご相談なさってみて下さい。

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