新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:先日,父が亡くなりました。亡くなった時の父の財産は300万円相当で,債務は特になく,母は既に他界しており,兄と私と弟と妹の4人兄弟です。父の晩年は,妹が父の介護をしており,父の公正証書遺言では,300万円相当の財産をすべて妹に遺贈するとされていました。父は生前,5年ほど前に,仕事で世話になったという友人のAさんに300万円をあげていたほか,10年ほど前には,自宅購入資金として兄に700万円の支援をし,また,15年ほど前には,失業した弟の生活費の援助(年間150万円程度で4年間)もしていました。ただ,私は特に父から経済的援助を受けたことはありませんでした。私は父に疎まれていたのかもわかりませんが,それなりに親孝行もしてきたつもりです。私は,父の財産は一切受け取れないのでしょうか。 解説: 2.(遺言) 3.(遺留分減殺請求) なお,被相続人がした生前の贈与の中には,法定相続人に対し,婚姻又は養子縁組のため又は生計の資本としてなした贈与がある場合もあろうと思います。これは,特別受益といって,遺産分割がなされるケースでは,当該法定相続人が予め財産的恩恵にあずかっていたことに鑑み,被相続人の推定的意思及び公平の見地から相続分の算定の際に考慮され,贈与について金額評価して相続財産に組み入れるものです(同法903条,1044条)。ですから,相続財産として遺留分権利者の遺留分の計算においては当然に相続財産に入れて計算されます。しかし,遺留分減殺の対象となるか,という点については必ずしも明らかではないため問題となります。1030条では相続開始前1年間の贈与について限って価格に計算するとしており,1年以上前の特別受益に当たる贈与は遺留弁減殺請求の対象にならないのではという問題です。 判例では,遺留分減殺請求のケースにおいても,この特別受益については,1年間より前にしたものであっても,特段の事情がない限り,遺留分減殺の対象となるとされています(最高裁判決平成10年3月24日判時1638−82。なお,ここにいう「特段の事情」とは,贈与(当該特別受益)が相続開始よりも相当以前になされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることがその相続人に酷であるなどの事情を指します)。 判例の見解に対し,生前贈与の減殺については,民法1030条所定の贈与時期や当事者の認識等についての瑕疵の存在こそが遺留分減殺の正当化の根拠であって,特別受益性のみ重視するというのはその正当化の根拠に欠けるから,特別受益についても民法1030条の要件をみたすものに限って減殺請求の対象となる,という見解もあります。もっとも,遺留分減殺の正当化根拠については,この見解の指摘するところに求めるか,共同相続人間の公平の確保という点に求めるか,議論があるところでしょうし,正当化根拠を後者に求めるのであれば,特別受益については民法1030条の要件とは関わりなく遺留分減殺を認めるという方向になるでしょう。その意味で,この見解の根拠は決定的なものとはいえないのではないかと思います。 特別受益は,相続人以外への通常の生前贈与とは異なり,遺留分算定に影響する贈与であるという性質を有し(民法1044条・903条1項),それが時的に制限されていないことも考慮すれば,減殺対象としての側面のみ特別受益を通常の生前贈与と同列に論じ,時的制限に関する民法1030条を適用することは不合理であると考えられ,最高裁判決の指摘する理由は合理的な判断理由であろうと思います。又,1030条は取引の安全(贈与と受けた相手方の利益)という見地から減殺の対象を制限したものですが,遺留分減殺請求権の基礎財産に入れるかどうかは公平の見地,被相続人の推定的意思を根拠にしており,後者が優先されることになるでしょう。そうすると,1030条の意味は何かということになりますが,相続人以外の第三者への贈与の時にのみの規定ということになります。第三者への贈与は,特別受益にならず,減殺対象も1年の期間制限を受けることになります。 本件では,お兄様の自宅購入の際の購入資金としての700万円,弟様の失業時の生活費の援助としての600万円については,いずれも生活をしていくための経済的な原資となるものですので,生計の資本としての贈与に該当し,特別受益であると評価され遺産分割の対象となる相続財産に含まれます。他方,A氏への贈与300万円については,1年より前にされた(特別受益でない)贈与ですので,お父様とA氏双方が遺留分権者に損害を加えることを知って贈与をしたのでない限り,遺留分算定の基礎となる財産には含まれないことになります。 お父様には特に債務はなかったとのことですから,@お父様が相続開始時において有していた300万円(妹様に遺贈した財産)に,A特別受益に該当する合計1300万円を加え,B債務の全額0円を控除した1600万円が,本件における遺留分算定の基礎となる相続財産ということになります。 (2)遺留分減殺の順序,(減殺の対象額は,遺贈全額か,法定相続分,又は,遺留分額を超える部分か。最高裁平成10年2月26日判決。) @遺贈内では,価額の割合に応じた按分での減殺(ただし,遺言に別段の意思表示があればそれに従います。同法1034条。),A生前贈与については,後の贈与(すなわち,被相続人死亡時に近い贈与)から順に減殺されます(同法1035条)。 ちなみに,本件では問題とはならないものの,特別受益者の遺留分が問題となる場合には,特別受益について持ち戻しをして一応の遺留分を算出したうえ,そこから特別受益を控除した残額が遺留分とされます(同法1044条・903条1項)。この場合,控除してゼロまたはマイナスとなるようであれば,その受益者は遺留分を有しないことになります。 (3)(遺留分減殺請求に対する寄与分の主張について,最高裁平成11年12月16日判決) この点,判例においては,遺留分減殺請求をされた場合には寄与分の主張をすることはできない旨判断されています(最高裁判決平成11年12月16日判時1702−61。)。この最高裁判決は,寄与分を遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されないという原審の判断を,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認できるとしたものです。被相続人の財産形成に寄与した相続人の立場からすれば,その寄与が遺留分減殺において抗弁とできないことは公平を欠くようにも思われますが,遺留分について民法1044条が特別受益に関する903条・904条を準用している一方で,同条が寄与分に関する904条の2を準用していないことからすれば,現在の法制度上は最高裁判決の結論を否定する論理を組むことは難しいように思います。 又,最高裁の判決は,寄与分の非訟手続きと遺留分減殺請求権の特質から理論的に当然の判断です。寄与分は,裁判所が遺産分割(家事審判法9条乙類 10号)と同じように裁判の勝ち負けではなく遺族の実質的公平を図り合目的裁量的に判断する家事審判事項(非訟事件手続き,家裁管轄 家事審判法9条乙類9号の2,同法7条,9条)です。これに対して遺留分請求事件は単に相続人の生活保護の財産的救済からみとめられた一般の財産的請求事件(訴訟事件,地栽,簡裁管轄)であり,寄与分の主張を理論的に組み入れることができません(合目的判断がされない以上通常の一般訴訟事件手続きで抗弁として主張できないことになります。合目的審判がなされていないので)。寄与分とは,相続人間の実質的公平を図るため厳密に言えば財産的評価が困難なものを,あえて合目的に評価したもので,計算が明確な特別受益と異なり正確な財産的請求(遺留分減殺請求)計算の基礎とすることはできないからです。そのため,介護に手を割かれた妹様からすれば不本意かもしれませんが,妹様は,寄与分があることを理由にあなたからの遺留分減殺請求を拒むことはできません。 4.結論 ≪参照条文≫ 民法 家事審判法 第一章 総則 非訟事件 手続法 ≪参考判例≫ 最高裁判決平成10年3月24日判例時報1638−82より抜粋 最高裁判決平成10年2月26日民集52−1−274より抜粋 最高裁判決平成11年12月16日判例時報1702−61より抜粋 ≪参考文献≫
No.1236、2012/2/23 10:59 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm
【家事・遺言・遺留分減殺請求の具体的内容・特別受益・寄与分との関係・最高裁平成10年3月24日判決・最高裁平成10年2月26日判決・最高裁平成11年12月16日判決】
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回答:
1.遺産の分割は,共同相続人の遺産分割協議によって行い,相続人間での協議が調わない場合,家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができます。もっとも,被相続人の遺言があれば,その遺言の内容どおりの相続財産の処理がなされます。ただし,この遺言が執行された場合でも,遺留分権利者は,遺留分減殺請求をすることができます。
2.本件では,@お父様が相続開始時において有していた300万円(妹様に遺贈した財産)に,A特別受益に該当する合計1300万円(お兄様の自宅購入の際の購入資金としての700万円及び弟様の失業時の生活費の援助としての600万円)を加え,B債務の全額0円を控除した1600万円が,本件における遺留分算定の基礎となる財産になります。あなたの遺留分は相続財産1600万円の8分の1,すなわち200万円で,その分が侵害されています。そこで,まずは妹様に対して300万円の遺贈について減額請求をすることになります。金額は妹様も200万円の遺留分権利者ですから,100万円の減殺請求をし,残りの100万円の遺留分については,時期の新しい10年ほど前のお兄様への贈与700万円に対して減殺を請求し,100万円の請求をしていくこととなります。なお,妹様がお父様の介護をされていたことに関連して,妹様は,寄与分の主張をして遺留分の減額を主張することはできません。遺留分請求事件は,裁判所が遺産分割と同じように実質的公平を図り合目的裁量的に判断する家事審判事項(非訟事件)ではなく,単に相続人の財産的救済からみとめられた一般の財産的請求事件(訴訟事件)であり、 寄与分の判断要素を理論的に組み入れることができないからです。又寄与分の条文を遺留分請求権は準用していませんから,対象となる相続財産は寄与分を含めない遺産ということになります。
3.本件は,単純化されたケースであり,比較的簡潔・明確に結論が導き出せるケースでした。もっとも,事実関係の詳細は事案によってすべて異なりますし,より複雑であるケースも多いでしょう。また,法理論上こうなるという結論はわかっても,それを実現する方法・手続が一筋縄ではいかないケースもあります。そういったすべての点を含めて,問題となる点や今後の見通しを確認する意味でも,一度弁護士にご相談されるべきであろうと思います。
4.遺留分に関連して,事務所事例集1096番,986番,900番,821番,814番,812番,807番,565番を参照。その他,減殺請求と寄与分に関連して1132番,981番,790番,676番参照。
1.(遺産分割)
相続は,被相続人の死亡によって開始し(民法882条),被相続人の財産に属した一切の権利義務が相続人に承継されます(同法896条)。相続人が複数あるときには,相続財産は共同相続人の共有となり(同法898条),遺産の分割は,共同相続人の遺産分割協議によって行います(同法906条1項)。また,相続人間での協議が調わない場合,家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができます(同条2項)。
もっとも,被相続人の遺言があれば,私有財産制(憲法29条)の理論的帰結として故人の最終意思を尊重する意味で,その遺言の内容どおりの相続財産の処理がなされます(民法964条本文)。この遺言は,すでに亡くなっている方の意思であり,事後的な確認が困難でもあることから,同法所定の方式に則っている必要があります(同法967条以下)。
ただし,この遺言が執行された場合でも,遺留分(兄弟姉妹以外の相続人が最低限受けることのできる,一定の割合に相当する額のことです。同法1028条。)については,相続人が取得することができます(同法964条但書)。この場合,遺留分権利者(及びその承継人)は,遺留分減殺請求をすることができます(同法1031条)。
本件においては,相続人は被相続人であるお父様の4人のお子様であり,あなたはそのお1人ですので,法定相続分は4分の1となり(同法900条4号本文),遺留分は相続財産の2分の1のうちの4分の1に相当する8分の1になります(1028条2号)。遺留分減殺請求権を認めている趣旨ですが,簡単に言えば,相続人の生活保障,遺産への期待権から私有財産制の例外を法が認めたものです。相続の基本は遺言自由の原則です。私有財産制の理論的帰結として被相続人は,自らの遺産を自由に処分することができます。しかし,遺産によって生活してきた法定相続人の経済的保護と相続人の期待権を保護することも福祉的見地から必要です。遺産の形成には法定相続人の法的に評価できない有形無形の寄与があったことも無視できませんから,これを法的に保護し最終的に遺族の保護を図ろうというものです。従って,遺留分請求は審判事項であり,非訟事件である遺産分割と異なり単なる財産的請求の訴訟事件となります。遺言自由の大原則の例外ですから権利行使要件も厳格で制限されていますし,解釈も以上の見地からなされるべきです。
遺留分減殺の請求は,相続開始および減殺すべき贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間に行使する必要があります(民法1042条本文)。また,相続開始時から10年間が経過したときも,行使不能となります(同条但書)。
(1)遺留分算定の基礎となる財産の範囲(特別受益と1年前の贈与の関係)
遺留分算定の基礎となる財産の範囲については,@被相続人が相続開始時において有した財産の価額に,A相続開始前1年間に贈与した財産の価額(もっとも,当事者双方が遺留分権者に損害を加えることを知ってした贈与は,1年間より前のものも含まれます。同法1030条。)を加え,B債務の全額を控除して算定します(同法1029条1項)。どうして,1年という制限を加えたかというと,あまり以前の贈与まで対象とすると取引の安全を損なうことになるからです。従って,悪意の当事者は保護されません。
この最高裁判決は,特別受益がすべて遺留分算定の基礎となる財産に含まれるにもかかわらず,減殺の対象となる財産には含まれないという状況は,遺留分制度の趣旨を没却するものであることをその理由としています。
遺留分保全のために減殺する減殺対象の順序は,まず@遺贈,次にA生前贈与という順番です(民法1033条)。その理由は,生前贈与は時間が経過しており取引の安全を考慮しているからです。
本件では,あなたの遺留分は相続財産1600万円の8分の1,すなわち200万円で,その分が侵害されています。そこで,まずは妹様への遺贈300万円に対して,減殺を請求していくこととなります。もっとも,妹様も200万円の遺留分を有していますので,減殺できる対象は,その遺留分を超える100万円にとどまります(最高裁判決平成10年2月26日民集52−1−274)。そして,残りの100万円の遺留分については,贈与のうち後の贈与(特別受益)である,10年ほど前のお兄様への贈与700万円に対して減殺を請求していくこととなります。この点について,「目的物の価額」とは,法定相続分を超える額,遺贈(贈与)全額と考える立場もありますが,最高裁判決のように「遺留分の価額」と解釈すべきです。遺贈の全額と解釈すると,遺留分を有する相続人の遺留分請求権を侵害し,紛争が再燃するからです。又,法定相続分と考えると,遺贈をうけた者が法定相続人でなかった場合,当該受贈者のみが他の法定相続分よりも割合にして多く減殺請求を受けることになり(法定相続分がないので対象額が大きくなる。),法定相続人であるかないかで著しく不公平が生じるからです。この理屈は,遺留分請求の対象が現金ではなく,特定不動産(複数)等の場合でも同様になります。
なお,本件では,妹様がお父様の介護をされているようです。そのような場合,遺産分割であれば,被相続人の療養看護によって被相続人の財産の維持について特別の寄与をしたものとして,寄与分については相続財産から控除し,他の相続人よりその分だけ多くもらえるという,寄与分の制度があります(民904の2)。
それでは,妹様は,このような寄与分の主張を,遺留分減殺請求をされた場合においても主張できるのでしょうか。仮に300万円が寄与分として認められるとすれば遺留分減殺請求の計算の前提となる相続財産は1300万円となりその8分の1の162万5000円が遺留分となりますが,妹様は同額の遺留分権利者ですから妹さんは,自分の遺留分を除いた137万5000円を支払うことになります。
以上のとおり,遺留分権者であるあなたとしては,妹様に100万円,お兄様に100万円の減殺請求がそれぞれ可能です。
本件は,単純化されたケースであり,比較的簡潔・明確に結論が導き出せるケースでした。もっとも,事実関係の詳細は事案によってすべて異なりますし,より複雑であるケースも多いでしょう。また,法理論上こうなるという結論はわかっても,それを実現する方法・手続が一筋縄ではいかないケースもあります。そういったすべての点を含めて,問題となる点や今後の見通しを確認する意味でも,一度弁護士にご相談されるべきであろうと思います。
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は,死亡によって開始する。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りでない。
(共同相続の効力)
第八百九十八条 相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,三分の二とし,直系尊属の相続分は,三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,四分の三とし,兄弟姉妹の相続分は,四分の一とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が,相続分の価額に等しく,又はこれを超えるときは,受遺者又は受贈者は,その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は,受贈者の行為によって,その目的である財産が滅失し,又はその価格の増減があったときであっても,相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項に規定する寄与をした者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定める。
3 寄与分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は,第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。
(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は,自筆証書,公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし,特別の方式によることを許す場合は,この限りでない。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(遺留分の算定)
第千二十九条 遺留分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して,これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。
第千三十条 贈与は,相続開始前の一年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,一年前の日より前にしたものについても,同様とする。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するのに必要な限度で,遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(贈与と遺贈の減殺の順序)
第千三十三条 贈与は,遺贈を減殺した後でなければ,減殺することができない。
(遺贈の減殺の割合)
第千三十四条 遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
(贈与の減殺の順序)
第千三十五条 贈与の減殺は,後の贈与から順次前の贈与に対してする。
(減殺請求権の期間の制限)
第千四十二条 減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも,同様とする。
(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第千四十四条 第八百八十七条第二項及び第三項,第九百条,第九百一条,第九百三条並びに第九百四条の規定は,遺留分について準用する。
第一条 この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として,家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする。
第七条 特別の定めがある場合を除いて,審判及び調停に関しては,その性質に反しない限り, 非訟事件 手続法 (明治三十一年法律第十四号)第一編 の規定を準用する。ただし,同法第十五条 の規定は,この限りでない。
第九条 家庭裁判所は,次に掲げる事項について審判を行う。
乙類
三 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担に関する処分
四 民法第七百六十六条第一項 又は第二項 (これらの規定を同法第七百四十九条 ,第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
第九条 家庭裁判所は,次に掲げる事項について審判を行う。
乙類
九の二 民法第九百四条の二第二項 の規定による寄与分を定める処分
十 民法第九百七条第二項 及び第三項 の規定による遺産の分割に関する処分
第十一条 裁判所ハ職権ヲ以テ事実ノ探知及ヒ必要ト認ムル証拠調ヲ為スヘシ
「二 さらに,職権をもって検討すると,民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は,右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても,遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし,民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は,すべて民法一〇四四条,九〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ,右贈与のうち民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると,遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず,減殺の対象となるべき遺贈,贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが,このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。本件についてこれをみると,相続人である被上告人隆に対する4の土地並びに2及び5の土地の持分各四分の一の贈与は,格別の事情の主張立証もない本件においては,民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与に当たるものと推定されるところ,右各土地に対する減殺請求を認めることが同被上告人に酷であるなどの特段の事情の存在を認定することなく,直ちに右各土地が遺留分減殺の対象にならないことが明らかであるとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって,原判決のうち上告人らの被上告人隆に対する本訴事件に関する部分は,この点からも破棄を免れない。」
「相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては,右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが,民法一〇三四条にいう目的の価額に当たるものというべきである。けだし,右の場合には受遺者も違留分を有するものであるところ,遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが,このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。
そして,特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても,以上と同様に解すべきである。以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。」
「二 原審は,次のとおり判断し,一審被告らの抗弁をいずれも排斥して,当事者参加人らの本訴請求を認容すべきものとした。
1 当事者参加人らの父である亡田中清が,被相続人の夫である亡田中桓から多数の不動産の贈与を受け,亡田中桓の相続に際して相続の放棄をした事実は認められるが,亡田中清ないし当事者参加人らが被相続人の相続に関して相続を放棄し,又は遺留分を主張しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく,その他,全証拠によるも,当事者参加人らの遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めることはできない。
2 寄与分は,共同相続人間の協議により定められ,協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって,遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。
3 一審被告利朗の主張事実をもってしても,吉野キヨらは,被相続人の遺産相続についての話合いの結果,相続分の放棄をし,又は共同相続人である一審被告利朗に相続分を譲渡したというのであって,これが民法一〇四〇条一項にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかである。
三 右1及び2の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって,採用することができない。したがって,一審被告利一の上告は既に理由がない。」
浦野由紀子・別冊ジュリスト193号192頁「家族法判例百選 第7版」
埼玉弁護士会編・ぎょうせい『新版 遺留分の法律と実務』
愛知県弁護士会法律研究部・新日本法規『改訂版 Q&A 遺留分の実務』