行政処分・教育職員免許法,教員免許の取上げに関する行政処分手続の流れ

行政|公立学校の教員|教員免許の剥奪|最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

質問:私は私立学校の教員です。実はとある非違行為をしてしまい,教員免許を剥奪されてしまうのではないかと心配しています。詳しい相談の前に教員免許の剥奪に関する手続の流れを教えていただけませんか。

回答:

1.私立学校の教員の教育職員の免許状の剥奪を「免許状の取上げ」といい,取上げが認められる場合については,教育職員免許法11条1項と同条2項1号に規定されています。11条1項が規定するのは,公立学校の教員(地方公務員,国家公務員は含まれません。)であれば懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときです。11条2項1号が規定するのは,公立学校の教員であれば勤務実績不良またはその職に必要な適格性の欠如によって分限免職とされるに相当する事由によって解雇されたと認められるときです。

2.教育職員の免許状の取上げをする権限があるのは,免許管理者である都道府県の教育委員会です。教育委員会の処分に先立って,処分対象者(あなた)の言い分を聞く機会が与えられます。聴聞手続の実施については,実施日の30日前までにされますが,教育委員会教育長の作成名義による文書の郵送による方法が通常です。聴聞実施後,聴聞主催者(行政庁の職員等です。)が調書・報告書を作成し,これを教育委員会に提出します。教育委員会は,聴聞主催者の意見を参酌して処分を決定し,その決定をあなたに対して通知します。この決定通知も教育委員会教育長の作成名義による文書の郵送によってされるのが通常です。

3.聴聞期日は,都道府県庁の庁舎内等で開催されるのが通常です。あなたは,聴聞期日に出頭して意見を述べ,証拠書類等を提出することができます。また,期日へ出頭しないで書面(陳述書)で意見を述べ,証拠書類等を提出することもできます。出頭するかどうかはあなたの自由ですが,正当な理由なく欠席したり,書類提出をしなかったりした場合には,あなたの意見を聴くことなく手続を終結されてしまうことがあります。

4.聴聞期日への対応は,弁護士に代理人を依頼することができます。あなたは欠席して代理出席してもらうことも,あなたと一緒に同行してもらうことも可能です。あなたの教員免許が剥奪されるか否かの重要な手続であるため,一日も早く,この手続に詳しい弁護士に具体的な相談と依頼をなさるべきです。

5.本件の私立学校職員の教員免許の取り上げの判断基準ですが,直接の判例はありませんが,教育職員免許法11条1項,10条1項2号の趣旨から以下のように解釈されます。教育委員会は,当該非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該非違行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,処分が他の教師及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して判断することになります。教育委員会は,国民から信託を受けた行政機関として適正で迅速な行政サービスを遂行するために合理的な範囲で広い裁量権を有することになり,右裁量権は,恣意にわたることはできませんし,教育委員会が裁量権の行使として行った懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用することは許されません。従って,最終的に裁判所の判断も懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断することになります。(最高裁判所昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。上記最高裁判決に基づいた公立中学校の教師免職事件,宮崎地方裁判所平成22年2月5日判決も本件の参考になります。従って,貴方は弁護人と協議し具体的対策を立て,まず,私立学校における懲戒解雇(免職)の段階において,上記の基準に基づき解雇自体を争い,さらに,免許取り上げの手続きにおいても同様に争っていくことが重要になります。

6.事務所事例集1247番「教育職員免許法,免許状の失効と取上げの違い」を参照してください。

7.教員免許に関する関連事例集参照。

解説:

1.私立学校の教員に対する教員免許取上げの法律上の根拠

あなたは私立学校の教員とのことです。

私立学校の教員が教員免許(教育職員の免許状)を取り上げられてしまう場合については,教育職員免許法11条1項と同条2項1号に規定されています。条文は,本稿末尾に引用しますのでそちらを参照していただきたいと思いますが,要約すると次のとおりです。

11条1項が規定するのは,公立学校の教員であれば懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときです。

11条2項1号が規定するのは,公立学校の教員であれば勤務実績不良またはその職に必要な適格性の欠如によって分限免職とされるに相当する事由によって解雇されたと認められるときです。

あなたからはまだ具体的なご事情を伺っていませんが,11条1項の方,つまり,典型的には私立学校から懲戒解雇をされてしまったという事例が多いように思います。もっとも,懲戒解雇された私立学校教員のすべてが教育職員免許状も取り上げられなければならないわけではなく,公立学校の教育職員であれば懲戒免職になるというような事由による場合に限られるとするのが11条1項の規定するところです。

すなわち,懲戒解雇とは,雇用契約上の使用者が服務規律違反や企業秩序維持違反を行った労働者に対して制裁として行う懲戒処分として,一方的に雇用契約を終了させることをいいます。この点,私立学校における解雇権は,その学校の設置者である学校法人にあるため,当該学校法人の方針によって懲戒解雇されるということもありえます。しかし,仮にその懲戒解雇自体が有効だとしても,公立学校であればそこまでの事情ではないというような場合にまで免許状が取り上げられてしまうということは不公平,不相当であるため,公立学校における教育職員であれば懲戒免職に相当するような事由による場合に限定されているものと解されます。

こうしたことから,もし,あなたが学校法人から懲戒解雇されたために今回のご相談をなさったのであれば,まずその解雇の経緯からご相談なさるべきです。事情によっては,そもそも懲戒解雇自体の有効性を争う余地があるかもしれず,仮にそこで敗れても公立学校の教育職員における懲戒免職処分相当の事由によるものではないとして教育職員免許状の取上げを争うという二段構えの対応がありえるからです。

2.聴聞の通知

教育職員免許法上の教育委員会による教育職員免許状の取上げは,行政庁が当該免許者に対してその資格または地位を直接に剥奪する不利益処分にあたり,行政庁がその不利益処分をしようとするときは,行政手続法15条以下に規定する聴聞の手続を経なければなりません(行政手続法13条1項1号ロ)。

行政手続法15条1項は,行政庁が聴聞を行うに当たっては,期日までの相当な期間をおいて本人に通知せよということを規定しています。そして,教育職員免許法12条1項は,この行政手続法15条1項による手続の特例として,教育職員免許状の取上げの処分に係る聴聞を行おうとするときは,聴聞の期日の30日前までにこの通知をしなければならないと規定しています。「相当な期間」ではなく,「30日前までに」としているところが特例ということになります。

この通知は,免許取上げ処分の理由となる事実が生じた勤務先である私立学校の所在する都道府県の教育委員会教育長名義の文書でなされます。その通知書には,(1)予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項,(2)不利益処分の原因となる事実,(3)聴聞の期日及び場所,(4)聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地が記載されています(行政手続法15条1項)。さらに,聴聞についての留意事項として,(1)聴聞の期日に出頭して意見を述べ,及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し,又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること,(2)聴聞が終結する時までの間,当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができることを教示する記載があります(行政手続法15条2項)。そのほか,代理人を選任して出頭させてもよいことや,正当な理由があれば期日の変更を申し出ることができることなども記載されているでしょう。

3.聴聞の実施

聴聞の期日は,変更の申出が受け入れられない限り,聴聞通知書記載の日時に実施されます。場所も聴聞通知書記載のとおりです。都道府県庁の庁舎内の会議室などで行われることが多いかと思います。

聴聞の主催者は,行政手続法19条によって「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」とされており,実際は,当該都道府県教育局の職員が担当することが多いかと思います。主催者のほかにその補助者(当該都道府県の教育局の職員)が数名同席するのが普通です。

聴聞の期日における審理の方式については,行政手続法20条の規定に従って進行されます。すなわち,最初の期日の冒頭において,主催者またはその補助職員からあなたに対して,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実の説明がされます。その後,あなたは,それらに対して意見を述べ,証拠書類等を提出し,主催者の許可を得て質問をすることができます。また,主催者は,必要に応じてあなたに質問をしたり,証拠書類等の提出を促したり,当該行政庁の職員に説明を求めたりすることがあります。

聴聞の期日は,1回で終わる(行政庁側が終わらせてしまう)ことが多いでしょうが,初回期日の審理の結果,主催者がその必要を認めるときは続行期日を定めることもあります(行政手続法22条1項)。

4.聴聞実施後の流れ

聴聞の主催者は,期日ごとに,聴聞の審理の経過を記載した調書を作成します。その調書においては,不利益処分(免許状取上げ)の原因となる事実に対する当事者(あなた)等の陳述の要旨を明らかにしておかなければならないとされています(行政手続法24条1項,2項)。

そして聴聞が終結すると,主催者は,不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し,前述の期日ごとに作成した調書と合わせて教育委員会に提出します(行政手続法24条3項)。

なお,期日ごとの調書や,聴聞終結後の報告書に就いては閲覧の請求をすることもできます(行政事件手続法24条4項)。これらの閲覧をすることで,あなたの防御上さらに追加の書類提出や意見陳述をすべき必要性が高いことが判明する場合もあるかもしれません。その場合には,教育委員会に宛てて,主催者に対して聴聞の再開を命ずる職権発動を促すことも考えられます。行政庁は,聴聞の手続後に生じた事情に鑑み必要があると認めるときは,主催者に対し,報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができるとされています(行政手続法25条)。「命じなければならない」ではなく「命ずることができる」とする文言から,この規定は裁量規定ですが,かといって完全な自由裁量を許すものとまではいえず,個別事情の下では再開を命じないことが裁量権の逸脱になる場合もあるものと思われます。

以上を経て最終的に調書と報告書が提出されると,それを踏まえて,行政庁(ここでは教育委員会)が不利益処分の決定をします(行政手続法26条)。最終的に決定するのは教育委員会ですが,法律上も「報告書に記載された主催者の意見を十分に参酌して」と規定されているとおり,実務上は,主催者の意見のとおりの決定をしていると見てほぼ間違いないものと思われます。

教育委員会が免許取上げを決定したときは,あなたに対して,免許取上げの理由を示して通知をします。実際上は,教育委員会教育長名義の文書を郵送する方法でなされることになるかと思います。

免許状の取上げがされてしまった場合の不服申立てとしては,行政事件訴訟法の定めるところにより,裁判所へ処分取消訴訟を提起する方法が残されています。この訴訟には出訴期間の定めがあり,処分のあったことを知った日の翌日から起算して6月以内(ただし,その期間内であっても処分の日から1年を経過してはならない。)に訴えを提起しなければなりません(行政事件訴訟法14条)。

5.適正手続の保障の建前と実態,弁護士への依頼の必要性

教育職員の免許状の取上げ処分に係る手続について,以上見てきたような行政手続法上の聴聞の手続を経ることとされている目的は,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することとする点にあります(行政手続法1条1項)。

これは,究極的には,憲法上の人権保障にその源流があるといえます。すなわち,憲法31条において人権として法定手続の保障が掲げられ,この法定手続の保障が単に手続の法定だけでなく手続の適正についても要求されていると解されていること,また,この趣旨は刑事手続だけでなく行政手続にも準用ないし適用されると解されていることの表れが,行政手続法における聴聞の手続であるということです。

しかしながら,個別の行政処分手続の実態としては,本当に中身のある手続保障を受けるかどうかは,本人がそれを勝ち取ろうとするかどうかに委ねられていることも否定できない事実です。何らの準備もせずに,通知されるままに聴聞手続に出席して,自身の防御上どういった点に重きを置くかも考えずに意見を述べ,提出すべき証拠書類等の収集・選別もできないのだとすれば,適正手続の保障は形ばかりのセレモニーに過ぎなくなってしまいます。

もし,あなたに教育職員免許状の取上げ処分がされることが予想され,自己の正当な利益を自分一人の手で守ることが難しいとお考えであれば,こうした分野に精通した弁護士に速やかに依頼をなさることをお勧めします。

以上

関連事例集

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※参照条文

【教育職員免許法】

第一章 総則

(この法律の目的)

第一条  この法律は,教育職員の免許に関する基準を定め,教育職員の資質の保持と向上を図ることを目的とする。

第三章 免許状の失効及び取上げ

(失効)

第十条  免許状を有する者が,次の各号のいずれかに該当する場合には,その免許状はその効力を失う。

一  第五条第一項第三号,第四号又は第七号に該当するに至つたとき。

二  公立学校の教員であつて懲戒免職の処分を受けたとき。

三  公立学校の教員(地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第二十九条の二第一項 各号に掲げる者に該当する者を除く。)であつて同法第二十八条第一項第一号 又は第三号 に該当するとして分限免職の処分を受けたとき。

2  前項の規定により免許状が失効した者は,速やかに,その免許状を免許管理者に返納しなければならない。

(取上げ)

第十一条  国立学校又は私立学校の教員が,前条第一項第二号に規定する者の場合における懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときは,免許管理者は,その免許状を取り上げなければならない。

2  免許状を有する者が,次の各号のいずれかに該当する場合には,免許管理者は,その免許状を取り上げなければならない。

一  国立学校又は私立学校の教員(地方公務員法第二十九条の二第一項 各号に掲げる者に相当する者を含む。)であつて,前条第一項第三号に規定する者の場合における同法第二十八条第一項第一号 又は第三号 に掲げる分限免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるとき。

二  地方公務員法第二十九条の二第一項 各号に掲げる者に該当する公立学校の教員であつて,前条第一項第三号に規定する者の場合における同法第二十八条第一項第一号 又は第三号 に掲げる分限免職の事由に相当する事由により免職の処分を受けたと認められるとき。

3  免許状を有する者(教育職員以外の者に限る。)が,法令の規定に故意に違反し,又は教育職員たるにふさわしくない非行があつて,その情状が重いと認められるときは,免許管理者は,その免許状を取り上げることができる。

4  前三項の規定により免許状取上げの処分を行つたときは,免許管理者は,その旨を直ちにその者に通知しなければならない。この場合において,当該免許状は,その通知を受けた日に効力を失うものとする。

5  前条第二項の規定は,前項の規定により免許状が失効した者について準用する。

(聴聞の方法の特例)

第十二条  免許管理者は,前条の規定による免許状取上げの処分に係る聴聞を行おうとするときは,聴聞の期日の三十日前までに,行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第十五条第一項 の規定による通知をしなければならない。

2  前項の聴聞の期日における審理は,当該聴聞の当事者から請求があつたときは,公開により行わなければならない。

3  第一項の聴聞に際しては,利害関係人(同項の聴聞の参加人を除く。)は,当該聴聞の主宰者に対し,当該聴聞の期日までに証拠書類又は証拠物を提出することができる。4  第一項の聴聞の主宰者は,当該聴聞の期日における証人の出席について,当該聴聞の当事者から請求があつたときは,これを認めなければならない。

(失効等の場合の公告等)

第十三条  免許管理者は,この章の規定により免許状が失効したとき,又は免許状取上げの処分を行つたときは,その免許状の種類及び失効又は取上げの事由並びにその者の氏名及び本籍地を官報に公告するとともに,その旨をその者の所轄庁及びその免許状を授与した授与権者に通知しなければならない。

2  この章の規定により免許状が失効し,若しくは免許状取上げの処分を行い,又はその旨の通知を受けたときは,その免許状を授与した授与権者は,この旨を第八条第一項の原簿に記入しなければならない。

(通知)

第十四条  所轄庁(免許管理者を除く。)は,教育職員が,次の各号のいずれかに該当すると認めたときは,速やかにその旨を免許管理者に通知しなければならない。

一  第五条第一項第三号,第四号又は第七号に該当するとき。

二  第十条第一項第二号又は第三号に該当するとき(懲戒免職又は分限免職の処分を行つた者が免許管理者である場合を除く。)。

三  第十一条第一項又は第二項に該当する事実があると思料するとき(同項第二号に規定する免職の処分を行つた者が免許管理者である場合を除く。)。

(報告)

第十四条の二  学校法人は,その設置する私立学校の教員について,第五条第一項第三号,第四号若しくは第七号に該当すると認めたとき,又は当該教員を解雇した場合において,当該解雇の事由が第十一条第一項若しくは第二項第一号に定める事由に該当すると思料するときは,速やかにその旨を所轄庁に報告しなければならない。

【行政手続法】

(目的等)

第一条  この法律は,処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

2  処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について,他の法律に特別の定めがある場合は,その定めるところによる。(処分の基準)第十二条  行政庁は,処分基準を定め,かつ,これを公にしておくよう努めなければならない。

2  行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

(不利益処分をしようとする場合の手続)

第十三条  行政庁は,不利益処分をしようとする場合には,次の各号の区分に従い,この章の定めるところにより,当該不利益処分の名あて人となるべき者について,当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

一  次のいずれかに該当するとき 聴聞

イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。

ロ イに規定するもののほか,名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。

ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分,名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。

ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

二  前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

2  次の各号のいずれかに該当するときは,前項の規定は,適用しない。

一  公益上,緊急に不利益処分をする必要があるため,前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。

二  法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって,その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書,一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。

三  施設若しくは設備の設置,維持若しくは管理又は物の製造,販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において,専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測,実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。

四  納付すべき金銭の額を確定し,一定の額の金銭の納付を命じ,又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。

五  当該不利益処分の性質上,それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令で定める処分をしようとするとき。

(不利益処分の理由の提示)

第十四条  行政庁は,不利益処分をする場合には,その名あて人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし,当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は,この限りでない。

2  行政庁は,前項ただし書の場合においては,当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き,処分後相当の期間内に,同項の理由を示さなければならない。

3  不利益処分を書面でするときは,前二項の理由は,書面により示さなければならない。

(聴聞の通知の方式)

第十五条  行政庁は,聴聞を行うに当たっては,聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて,不利益処分の名あて人となるべき者に対し,次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。

一  予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項

二  不利益処分の原因となる事実

三  聴聞の期日及び場所

四  聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地

2  前項の書面においては,次に掲げる事項を教示しなければならない。

一  聴聞の期日に出頭して意見を述べ,及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し,又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること。

二  聴聞が終結する時までの間,当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。

3  行政庁は,不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合においては,第一項の規定による通知を,その者の氏名,同項第三号及び第四号に掲げる事項並びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合においては,掲示を始めた日から二週間を経過したときに,当該通知がその者に到達したものとみなす。

(代理人)

第十六条  前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は,代理人を選任することができる。

2  代理人は,各自,当事者のために,聴聞に関する一切の行為をすることができる。

3  代理人の資格は,書面で証明しなければならない。

4  代理人がその資格を失ったときは,当該代理人を選任した当事者は,書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。

(参加人)

第十七条  第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は,必要があると認めるときは,当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる法令に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号において「関係人」という。)に対し,当該聴聞に関する手続に参加することを求め,又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる。

2  前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は,代理人を選任することができる。

3  前条第二項から第四項までの規定は,前項の代理人について準用する。この場合において,同条第二項及び第四項中「当事者」とあるのは,「参加人」と読み替えるものとする。

(文書等の閲覧)

第十八条  当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人(以下この条及び第二十四条第三項において「当事者等」という。)は,聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間,行政庁に対し,当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において,行政庁は,第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ,その閲覧を拒むことができない。

2  前項の規定は,当事者等が聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることを妨げない。

3  行政庁は,前二項の閲覧について日時及び場所を指定することができる。

(聴聞の主宰)

第十九条  聴聞は,行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する。

2  次の各号のいずれかに該当する者は,聴聞を主宰することができない。

一  当該聴聞の当事者又は参加人

二  前号に規定する者の配偶者,四親等内の親族又は同居の親族

三  第一号に規定する者の代理人又は次条第三項に規定する補佐人

四  前三号に規定する者であったことのある者

五  第一号に規定する者の後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人又は補助監督人

六  参加人以外の関係人

(聴聞の期日における審理の方式)

第二十条  主宰者は,最初の聴聞の期日の冒頭において,行政庁の職員に,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければならない。

2  当事者又は参加人は,聴聞の期日に出頭して,意見を述べ,及び証拠書類等を提出し,並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。

3  前項の場合において,当事者又は参加人は,主宰者の許可を得て,補佐人とともに出頭することができる。

4  主宰者は,聴聞の期日において必要があると認めるときは,当事者若しくは参加人に対し質問を発し,意見の陳述若しくは証拠書類等の提出を促し,又は行政庁の職員に対し説明を求めることができる。

5  主宰者は,当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても,聴聞の期日における審理を行うことができる。

6  聴聞の期日における審理は,行政庁が公開することを相当と認めるときを除き,公開しない。

(陳述書等の提出)

第二十一条  当事者又は参加人は,聴聞の期日への出頭に代えて,主宰者に対し,聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。

2  主宰者は,聴聞の期日に出頭した者に対し,その求めに応じて,前項の陳述書及び証拠書類等を示すことができる。

(続行期日の指定)

第二十二条  主宰者は,聴聞の期日における審理の結果,なお聴聞を続行する必要があると認めるときは,さらに新たな期日を定めることができる。

2  前項の場合においては,当事者及び参加人に対し,あらかじめ,次回の聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければならない。ただし,聴聞の期日に出頭した当事者及び参加人に対しては,当該聴聞の期日においてこれを告知すれば足りる。

3  第十五条第三項の規定は,前項本文の場合において,当事者又は参加人の所在が判明しないときにおける通知の方法について準用する。この場合において,同条第三項中「不利益処分の名あて人となるべき者」とあるのは「当事者又は参加人」と,「掲示を始めた日から二週間を経過したとき」とあるのは「掲示を始めた日から二週間を経過したとき(同一の当事者又は参加人に対する二回目以降の通知にあっては,掲示を始めた日の翌日)」と読み替えるものとする。

(当事者の不出頭等の場合における聴聞の終結)

第二十三条  主宰者は,当事者の全部若しくは一部が正当な理由なく聴聞の期日に出頭せず,かつ,第二十

一条第一項に規定する陳述書若しくは証拠書類等を提出しない場合,又は参加人の全部若しくは一部が聴聞の期日に出頭しない場合には,これらの者に対し改めて意見を述べ,及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく,聴聞を終結することができる。

2  主宰者は,前項に規定する場合のほか,当事者の全部又は一部が聴聞の期日に出頭せず,かつ,第二十一条第一項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合において,これらの者の聴聞の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは,これらの者に対し,期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め,当該期限が到来したときに聴聞を終結することとすることができる。

(聴聞調書及び報告書)

第二十四条  主宰者は,聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し,当該調書において,不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければならない。

2  前項の調書は,聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに,当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。

3  主宰者は,聴聞の終結後速やかに,不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し,第一項の調書とともに行政庁に提出しなければならない。

4  当事者又は参加人は,第一項の調書及び前項の報告書の閲覧を求めることができる。

(聴聞の再開)

第二十五条  行政庁は,聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは,主宰者に対し,前条第三項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる。第二十二条第二項本文及び第三項の規定は,この場合について準用する。

(聴聞を経てされる不利益処分の決定)

第二十六条  行政庁は,不利益処分の決定をするときは,第二十四条第一項の調書の内容及び同条第三項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。

(不服申立ての制限)

第二十七条  行政庁又は主宰者がこの節の規定に基づいてした処分については,行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。

2  聴聞を経てされた不利益処分については,当事者及び参加人は,行政不服審査法 による異議申立てをすることができない。ただし,第十五条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる結果当事者の地位を取得した者であって同項に規定する同条第一項第三号(第二十二条第三項において準用する場合を含む。)に掲げる聴聞の期日のいずれにも出頭しなかった者については,この限りでない。

【行政事件訴訟法】

(出訴期間)

第十四条  取消訴訟は,処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。

2  取消訴訟は,処分又は裁決の日から一年を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。

3  処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において,審査請求があつたときは,処分又は裁決に係る取消訴訟は,その審査請求をした者については,前二項の規定にかかわらず,これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは,提起することができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない。

【憲法】

第三十一条  何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。

≪判例参照≫

最高裁判所昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁

裁量権の範囲の逸脱について

 公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他,単なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するため,科される制裁である。ところで,国公法は,同法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒権者が,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては,公正であるべきこと(七四条一項)を定め,平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に,具体的な基準を設けていない。したがつて,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の右行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか,を決定することができるものと考えられるのであるが,その判断は,右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上,平素から庁内の事情に通暁し,部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ,とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故,公務員につき,国公法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより,右の裁量は,恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが,懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。したがつて,裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては,懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。