行政処分・教育職員免許法,教員免許の取上げに関する行政処分手続の流れ
行政|公立学校の教員|教員免許の剥奪|最高裁判所昭和52年12月20日第三小法廷判決
目次
質問:
質問:私は私立学校の教員です。実はとある非違行為をしてしまい,教員免許を剥奪されてしまうのではないかと心配しています。詳しい相談の前に教員免許の剥奪に関する手続の流れを教えていただけませんか。
回答:
1.私立学校の教員の教育職員の免許状の剥奪を「免許状の取上げ」といい,取上げが認められる場合については,教育職員免許法11条1項と同条2項1号に規定されています。11条1項が規定するのは,公立学校の教員(地方公務員,国家公務員は含まれません。)であれば懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときです。11条2項1号が規定するのは,公立学校の教員であれば勤務実績不良またはその職に必要な適格性の欠如によって分限免職とされるに相当する事由によって解雇されたと認められるときです。
2.教育職員の免許状の取上げをする権限があるのは,免許管理者である都道府県の教育委員会です。教育委員会の処分に先立って,処分対象者(あなた)の言い分を聞く機会が与えられます。聴聞手続の実施については,実施日の30日前までにされますが,教育委員会教育長の作成名義による文書の郵送による方法が通常です。聴聞実施後,聴聞主催者(行政庁の職員等です。)が調書・報告書を作成し,これを教育委員会に提出します。教育委員会は,聴聞主催者の意見を参酌して処分を決定し,その決定をあなたに対して通知します。この決定通知も教育委員会教育長の作成名義による文書の郵送によってされるのが通常です。
3.聴聞期日は,都道府県庁の庁舎内等で開催されるのが通常です。あなたは,聴聞期日に出頭して意見を述べ,証拠書類等を提出することができます。また,期日へ出頭しないで書面(陳述書)で意見を述べ,証拠書類等を提出することもできます。出頭するかどうかはあなたの自由ですが,正当な理由なく欠席したり,書類提出をしなかったりした場合には,あなたの意見を聴くことなく手続を終結されてしまうことがあります。
4.聴聞期日への対応は,弁護士に代理人を依頼することができます。あなたは欠席して代理出席してもらうことも,あなたと一緒に同行してもらうことも可能です。あなたの教員免許が剥奪されるか否かの重要な手続であるため,一日も早く,この手続に詳しい弁護士に具体的な相談と依頼をなさるべきです。
5.本件の私立学校職員の教員免許の取り上げの判断基準ですが,直接の判例はありませんが,教育職員免許法11条1項,10条1項2号の趣旨から以下のように解釈されます。教育委員会は,当該非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該非違行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,処分が他の教師及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して判断することになります。教育委員会は,国民から信託を受けた行政機関として適正で迅速な行政サービスを遂行するために合理的な範囲で広い裁量権を有することになり,右裁量権は,恣意にわたることはできませんし,教育委員会が裁量権の行使として行った懲戒処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用することは許されません。従って,最終的に裁判所の判断も懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断することになります。(最高裁判所昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。上記最高裁判決に基づいた公立中学校の教師免職事件,宮崎地方裁判所平成22年2月5日判決も本件の参考になります。従って,貴方は弁護人と協議し具体的対策を立て,まず,私立学校における懲戒解雇(免職)の段階において,上記の基準に基づき解雇自体を争い,さらに,免許取り上げの手続きにおいても同様に争っていくことが重要になります。
6.事務所事例集1247番「教育職員免許法,免許状の失効と取上げの違い」を参照してください。
7.教員免許に関する関連事例集参照。
解説:
1.私立学校の教員に対する教員免許取上げの法律上の根拠
あなたは私立学校の教員とのことです。
私立学校の教員が教員免許(教育職員の免許状)を取り上げられてしまう場合については,教育職員免許法11条1項と同条2項1号に規定されています。条文は,本稿末尾に引用しますのでそちらを参照していただきたいと思いますが,要約すると次のとおりです。
11条1項が規定するのは,公立学校の教員であれば懲戒免職の事由に相当する事由により解雇されたと認められるときです。
11条2項1号が規定するのは,公立学校の教員であれば勤務実績不良またはその職に必要な適格性の欠如によって分限免職とされるに相当する事由によって解雇されたと認められるときです。
あなたからはまだ具体的なご事情を伺っていませんが,11条1項の方,つまり,典型的には私立学校から懲戒解雇をされてしまったという事例が多いように思います。もっとも,懲戒解雇された私立学校教員のすべてが教育職員免許状も取り上げられなければならないわけではなく,公立学校の教育職員であれば懲戒免職になるというような事由による場合に限られるとするのが11条1項の規定するところです。
すなわち,懲戒解雇とは,雇用契約上の使用者が服務規律違反や企業秩序維持違反を行った労働者に対して制裁として行う懲戒処分として,一方的に雇用契約を終了させることをいいます。この点,私立学校における解雇権は,その学校の設置者である学校法人にあるため,当該学校法人の方針によって懲戒解雇されるということもありえます。しかし,仮にその懲戒解雇自体が有効だとしても,公立学校であればそこまでの事情ではないというような場合にまで免許状が取り上げられてしまうということは不公平,不相当であるため,公立学校における教育職員であれば懲戒免職に相当するような事由による場合に限定されているものと解されます。
こうしたことから,もし,あなたが学校法人から懲戒解雇されたために今回のご相談をなさったのであれば,まずその解雇の経緯からご相談なさるべきです。事情によっては,そもそも懲戒解雇自体の有効性を争う余地があるかもしれず,仮にそこで敗れても公立学校の教育職員における懲戒免職処分相当の事由によるものではないとして教育職員免許状の取上げを争うという二段構えの対応がありえるからです。
2.聴聞の通知
教育職員免許法上の教育委員会による教育職員免許状の取上げは,行政庁が当該免許者に対してその資格または地位を直接に剥奪する不利益処分にあたり,行政庁がその不利益処分をしようとするときは,行政手続法15条以下に規定する聴聞の手続を経なければなりません(行政手続法13条1項1号ロ)。
行政手続法15条1項は,行政庁が聴聞を行うに当たっては,期日までの相当な期間をおいて本人に通知せよということを規定しています。そして,教育職員免許法12条1項は,この行政手続法15条1項による手続の特例として,教育職員免許状の取上げの処分に係る聴聞を行おうとするときは,聴聞の期日の30日前までにこの通知をしなければならないと規定しています。「相当な期間」ではなく,「30日前までに」としているところが特例ということになります。
この通知は,免許取上げ処分の理由となる事実が生じた勤務先である私立学校の所在する都道府県の教育委員会教育長名義の文書でなされます。その通知書には,(1)予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項,(2)不利益処分の原因となる事実,(3)聴聞の期日及び場所,(4)聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地が記載されています(行政手続法15条1項)。さらに,聴聞についての留意事項として,(1)聴聞の期日に出頭して意見を述べ,及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し,又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること,(2)聴聞が終結する時までの間,当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができることを教示する記載があります(行政手続法15条2項)。そのほか,代理人を選任して出頭させてもよいことや,正当な理由があれば期日の変更を申し出ることができることなども記載されているでしょう。
3.聴聞の実施
聴聞の期日は,変更の申出が受け入れられない限り,聴聞通知書記載の日時に実施されます。場所も聴聞通知書記載のとおりです。都道府県庁の庁舎内の会議室などで行われることが多いかと思います。
聴聞の主催者は,行政手続法19条によって「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」とされており,実際は,当該都道府県教育局の職員が担当することが多いかと思います。主催者のほかにその補助者(当該都道府県の教育局の職員)が数名同席するのが普通です。
聴聞の期日における審理の方式については,行政手続法20条の規定に従って進行されます。すなわち,最初の期日の冒頭において,主催者またはその補助職員からあなたに対して,予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実の説明がされます。その後,あなたは,それらに対して意見を述べ,証拠書類等を提出し,主催者の許可を得て質問をすることができます。また,主催者は,必要に応じてあなたに質問をしたり,証拠書類等の提出を促したり,当該行政庁の職員に説明を求めたりすることがあります。
聴聞の期日は,1回で終わる(行政庁側が終わらせてしまう)ことが多いでしょうが,初回期日の審理の結果,主催者がその必要を認めるときは続行期日を定めることもあります(行政手続法22条1項)。
4.聴聞実施後の流れ
聴聞の主催者は,期日ごとに,聴聞の審理の経過を記載した調書を作成します。その調書においては,不利益処分(免許状取上げ)の原因となる事実に対する当事者(あなた)等の陳述の要旨を明らかにしておかなければならないとされています(行政手続法24条1項,2項)。
そして聴聞が終結すると,主催者は,不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し,前述の期日ごとに作成した調書と合わせて教育委員会に提出します(行政手続法24条3項)。
なお,期日ごとの調書や,聴聞終結後の報告書に就いては閲覧の請求をすることもできます(行政事件手続法24条4項)。これらの閲覧をすることで,あなたの防御上さらに追加の書類提出や意見陳述をすべき必要性が高いことが判明する場合もあるかもしれません。その場合には,教育委員会に宛てて,主催者に対して聴聞の再開を命ずる職権発動を促すことも考えられます。行政庁は,聴聞の手続後に生じた事情に鑑み必要があると認めるときは,主催者に対し,報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができるとされています(行政手続法25条)。「命じなければならない」ではなく「命ずることができる」とする文言から,この規定は裁量規定ですが,かといって完全な自由裁量を許すものとまではいえず,個別事情の下では再開を命じないことが裁量権の逸脱になる場合もあるものと思われます。
以上を経て最終的に調書と報告書が提出されると,それを踏まえて,行政庁(ここでは教育委員会)が不利益処分の決定をします(行政手続法26条)。最終的に決定するのは教育委員会ですが,法律上も「報告書に記載された主催者の意見を十分に参酌して」と規定されているとおり,実務上は,主催者の意見のとおりの決定をしていると見てほぼ間違いないものと思われます。
教育委員会が免許取上げを決定したときは,あなたに対して,免許取上げの理由を示して通知をします。実際上は,教育委員会教育長名義の文書を郵送する方法でなされることになるかと思います。
免許状の取上げがされてしまった場合の不服申立てとしては,行政事件訴訟法の定めるところにより,裁判所へ処分取消訴訟を提起する方法が残されています。この訴訟には出訴期間の定めがあり,処分のあったことを知った日の翌日から起算して6月以内(ただし,その期間内であっても処分の日から1年を経過してはならない。)に訴えを提起しなければなりません(行政事件訴訟法14条)。
5.適正手続の保障の建前と実態,弁護士への依頼の必要性
教育職員の免許状の取上げ処分に係る手続について,以上見てきたような行政手続法上の聴聞の手続を経ることとされている目的は,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することとする点にあります(行政手続法1条1項)。
これは,究極的には,憲法上の人権保障にその源流があるといえます。すなわち,憲法31条において人権として法定手続の保障が掲げられ,この法定手続の保障が単に手続の法定だけでなく手続の適正についても要求されていると解されていること,また,この趣旨は刑事手続だけでなく行政手続にも準用ないし適用されると解されていることの表れが,行政手続法における聴聞の手続であるということです。
しかしながら,個別の行政処分手続の実態としては,本当に中身のある手続保障を受けるかどうかは,本人がそれを勝ち取ろうとするかどうかに委ねられていることも否定できない事実です。何らの準備もせずに,通知されるままに聴聞手続に出席して,自身の防御上どういった点に重きを置くかも考えずに意見を述べ,提出すべき証拠書類等の収集・選別もできないのだとすれば,適正手続の保障は形ばかりのセレモニーに過ぎなくなってしまいます。
もし,あなたに教育職員免許状の取上げ処分がされることが予想され,自己の正当な利益を自分一人の手で守ることが難しいとお考えであれば,こうした分野に精通した弁護士に速やかに依頼をなさることをお勧めします。
以上