新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:47歳の上場企業の会社員で妻と子供がおり関西方面に住んでいます。ある会合を通じて知り合った女性から結婚を要求され、拒否したところ多額の慰謝料を請求されました。更にその女性は、インターネットの掲示板に私の実名や連絡先を記載して強姦されたなど、と書き込みをしたり職場に電話をしてきたりといういやがらせをしています。この様な行為を止めさせる法律的な手続きはありますか。女性との関係は妻子にわかってしまうのでしょうか。なお、女性の嫌がらせの詳細は次の通りです。 解説: もっとも、あなたの場合、相手から要求されている金額が高額であれば(例えば一生涯毎月10万円を支払った場合、仮に男性の平均寿命を80歳として計算しても、合計で約4000万円になります。)、このような合意は、明らかに公の財産的秩序を著しく害することになるでしょう。このような高額な手切れ金の合意は公序良俗に反するものとして無効であると考えられます(民法90条)。したがって、仮に一生涯毎月10万円を支払うという内容で合意書が作成されていたとしても、あなたは支払いを拒否することができますし、そのような内容の合意書が公正証書化されていたとしても、強制執行を阻止することができます(民事執行法35条1項、22条5号、36条1項、39条1項6号・7号)。通常は、明らかな公序良俗違反の内容の合意書を公正証書化しようとしても、公証役場、公証人に断られることになるでしょう。 2.(相手女性の行為の犯罪該当性) (2)名誉毀損 (3)ストーカー規制法違反 あなたの場合、相手の女性は結婚を断られたことを契機に高額な慰謝料を執拗に請求してきていることからすれば、あなたに対する「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」であると考えられ、さらに支払義務のない金銭の支払いを要求されていることは、ストーカー規制法2条1項3号の「義務のないことを行うことを要求すること」に該当すると考えられます。そして、また、メールや電話の内容もあなたの家族や職場関係者に危害を加える旨が明らかであれば、あなたやあなたの家族、職場関係者らの「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」であることは間違いないでしょう。したがって、金銭の支払いを要求するメールや電話を多数回にわたり「反復」して行っている以上、相手女性の当該行為は「ストーカー行為」に該当すると考えられます。 3.(本件における対応) (2)ストーカー規制法上の警告手続 この警告を受けた者が当該警告に違反してさらについまとい等を繰り返す場合、公安委員会は禁止命令等を行うことができるとされており、禁止命令等に違反してさらにストーカー行為をした者に対しては、単にストーカー行為をした者に対するよりも重い刑罰が科されることになっているので(同法14条1項)、相手女性の迷惑行為に対して一定の抑止効果があるといえます。 (3)被害届の提出、刑事告訴 告訴が受理された場合、本件では相手女性の犯行態様が極めて悪質であることから、捜査機関の方で相手女性を逮捕する可能性が相当程度あると思われます。特に恐喝未遂のような法定刑に罰金が含まれない重い犯罪の場合、逮捕に引き続き勾留されるのが通常であり、刑事手続上、逮捕と合わせて最長で23日間身柄が拘束される事になり(刑事訴訟法203条1項,205条1項、208条1項・2項)、当該期間内に検察官において相手女性を起訴するかどうかを決定することになります(同法248条)。もっとも、恐喝罪の場合、告訴があり、犯情悪質となると、検察官が不起訴の処分を行うとは考えにくいところです。 合意の内容としては、相手女性のあなたに対する謝罪、あなたやあなたの家族、職場関係者らに対して二度と迷惑行為を行わないこと、相手女性があなたや関係人に対して二度と連絡をとらないこと、相手女性があなたの慰謝料支払義務がないことを認めること(場合によっては、あなたが相手女性の迷惑行為によって被った損害の賠償責任を認めること)、インターネット掲示板の書き込みやあなたの職場に送りつけた怪文書の記載内容が虚偽であることを認めて謝罪すること、インターネット掲示板の書き込みの削除や場合によっては当該掲示板のホームページの削除に協力すること等が必須の事柄となるでしょう。 (4)インターネット掲示板のサイト削除 4.(最後に) ≪参照条文≫ 民法 民事執行法 刑法 ストーカー行為等の規制等に関する法律 ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則 刑事訴訟法 犯罪捜査規範 判例参照 高裁判決抜粋
No.1253、2012/4/10 12:26
【交際女性による過大な金銭要求・ストーカー行為に対する対処法・最高裁平成17年11月25日決定】
1 高額な慰謝料の請求、その旨(一定額を長期間にわたり支払えとの内容)の合意書の作成の要求
2 私の職場に「私に強姦され、妊娠させられ、堕胎を強いられた」などと記載された怪文書の配布
3 インターネットの掲示板にも私の本名、勤め先、携帯電話番号等の個人情報とともに同様の書き込み
4 家族や職場関係者に危害を加える旨のメールや電話
5 職場にまで押し掛けてきて、社員の前で「私に強姦された」「私に会わせろ」などと言って騒ぐ
↓
回答:
1.相手女性主張の慰謝料については、あなたに支払い義務は一切なく、たとえ合意書等を作成していたとしても、公序良俗に反して無効であると考えられます。金銭の支払いや公正証書作成等の要求には一切応じてはいけません。
2. 相手女性の行為は恐喝未遂、名誉毀損、ストーカー規制法違反等の犯罪に該当すると思われます。
3. 話し合いによる解決が困難であれば、弁護士による警告やストーカー規制法上の警告手続、警察に対する被害届の提出、刑事告訴を検討すべきです。また、書き込みのあったインターネット掲示板についてはサイト削除の手続きを進める必要があります。
4.早期に強い態度で対応すれば、妻子に判明することも避けられる可能性はあります。但し、その点についてこだわっていると問題の解決を遅らせてしまうばかりか更に問題を大きくしてしまう危険がありますから秘密にすることにこだわらない方が良いでしょう。5.関連事例集1252番、1169番、1170番、1164番、1067番参照。
1.(慰謝料の支払義務の有無)
まず、相手女性が主張している慰謝料についてですが、伺っている事情からすれば、支払義務はないと考えられます。相手方主張の慰謝料というのはあなたの相手女性に対する不法行為に基づく損害賠償請求をする趣旨と思われますが、お互い合意の上で関係を持ったのであれば、相手女性の貞操や性的自由を何ら「侵害」していないため不法行為は成立しないからです(民法709条)。事実とは異なるとのことですが、これは仮に相手女性主張のように相手女性が妊娠していたとしても同じことであり、結局のところ、女性の自己責任として慰謝料請求が認められることはありません。
なお、相手女性は強姦を主張しているようですが、強姦があったとすれば慰謝料請求は認められますが、最終的には民事訴訟を提起して、相手女性の方で強姦の事実を立証する必要があるため、強姦の事実がないのであれば必然的に立証不能となるはずであり、やはり慰謝料請求が認められることはないでしょう。
なお、男女の交際関係の解消にあたって、いわゆる手切れ金の趣旨で金銭授受の合意がされることがあります。このような合意は、本来支払義務のない金銭の給付を目的とするものではありますが、契約自由の原則から、このような合意をすること自体は可能と考えられています。相手女性主張の慰謝料というのがいわゆる手切れ金の趣旨であれば、あなたが納得するのであれば、交際解消に伴い、ある程度の金銭負担の合意をすること自体は差し支えありません。
したがって、あなたは相手女性主張の金銭の支払いや公正証書作成の要求には一切応じる必要がありません。このような女性はきちんと関係を解消しなければ一生何らかの形で付きまとわれますので、毅然とした対応が必要です。
相手女性の行っている行為には、以下に述べるとおり、いくつか犯罪に該当すると考えられるものがあります。
(1)恐喝未遂
恐喝未遂とは、人を「恐喝」して財物を交付させようとしたものの、その目的を遂げなかった場合に成立する犯罪です(刑法250条、249条1項)。ここでの「恐喝」とは、相手方に対して、その犯行を抑圧するに至らない程度の暴行または脅迫(相手方に恐怖心を生じさせるような害悪の通知)を加え、財物の交付を要求することをいい、通知される害悪の内容、性質、通知方法の如何や、それによって実際に相手方が畏怖したかどうかは犯罪の成否に影響しません。
あなたの場合、相手女性から慰謝料を支払わなければあなたの家族や職場関係者に危害を加える旨のメールや電話がひっきりなしに来ているとのことですが、実際に送られてきたメール等を確認してみなければ確答できないところではありますが、金銭の交付を要求する趣旨がメール文面等から明らかであり、あなた自身や職場、家族など関係者の名誉,身体,自由等にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖させるに足りる内容であれば、相手女性の執拗なメール・電話等による連絡は恐喝未遂罪にあたると考えられます。
名誉毀損とは、「公然と」(不特定または多数人が知り得る状態で)「事実を摘示し」(具体的に人の評価を低下させるに足りる事実を告げて)、人の名誉を「毀損」(社会的評価を害するおそれのある状態を発生させること)した場合に成立する犯罪です(刑法230条1項)。
あなたの場合、@相手女性があなたの職場に「あなたに強姦され、妊娠させられ、堕胎を強いられた」などの記載がされた怪文書を大量に送りつけ、Aあなたの職場にまで押し掛けてきて、職場関係者が大勢いる前で「私に強姦された」「私に会わせろ」などと言って騒ぎたて、また、Bインターネットの掲示板にもあなたの本名、勤め先、携帯電話番号等の個人情報とともに同様の書き込みを少なくとも十数件にわたって行っているようですが、これらの行為はいずれも不特定または多数人が知り得る状態でなされており、摘示された強姦の事実もあなたの評価を低下させるに十分足りるものといえますので、名誉棄損罪に該当すると考えられます。
金銭の支払いを要求する相手女性のメール・電話での連絡は、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下、「ストーカー規制法」といいます。)で禁止される「ストーカー行為」に該当すると考えられます(ストーカー規制法13条1項)。ストーカー行為とは、ストーカー規制法2条1項各号に定められている「つきまとい行為等」(特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,当該特定の者または当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,各号のいずれかに掲げる行為をすること)を身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により、反復して行うことをいいます(同法2条2項)。
この法律は、被害者の、行動、身体の自由、私生活の平穏、名誉、プライバシー等の保護法益を保全し個人の尊厳を実質的に保障する観点から、恋愛感情等を原因とするいわゆる「つきまとい行為」に関し、従来の刑法等では被害の防止が十分できないような事態に備えて制定されています。従って、他の事件よりも捜査機関の対応は迅速性があると思います。
判例は法律の趣旨から、ストーカー行為の反復行為の概念(法2条2項)を広く解釈しており(2条1項各号に規定するどの行為でも反復すれば足り、特定の行為を反復する必要はない。)、本件行為もストーカー行為に該当することになります。後記東京高等裁判所平成16年10月20日判決。最高裁平成17年11月25日決定。
(1)慰謝料の減額および迷惑行為の停止を要請する交渉
あなたに対する不当な慰謝料請求の点とあなたや職場に対する迷惑行為の点をまとめて解決する必要があります。当事者同士の話し合いで解決するのが一番良いのですが、自分で手に負えないようであれば、本件のような女性を相手にする場合は弁護士に依頼して代理人として相手女性と交渉してもらうしかないといって良いでしょう。
依頼された弁護士の対応は次のようなものになります。
あなたに対する脅迫メール、電話、職場への押し掛け等の迷惑行為については、代理人を通じて口頭及び内容証明郵便等の手段により警告してもらうことが必要と思われます。また、併せてストーカー規制法上の警告申出の手続きを行い、警察から相手女性に対し警告を発してもらうことを検討すべきでしょう。
この警告手続きというのは、ストーカー規制法4条1項の規定に根拠を置くものであり、@恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、A同法2条1項に列挙される事由のいずれかに該当する行為が行われたこと(本件では3号該当性が問題となることは前述のとおりです。)、Bその行為によりあなたに身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせたこと、C相手女性が更に反復して同様の行為をするおそれがある場合に、警察本部長等からつきまとい等をする者に対して、さらに反復して当該行為をしてはならない旨書面で警告してもらうことのできる制度です(ストーカー規制法4条1項、3条、2条1項)。
本件では、前述のとおり@乃至Cのいずれの要件も満たすと考えられるので、それらを明らかにする資料さえあれば警察から警告を発してもらえるものと思われます。具体的には相手女性より送られてきたメールの画面や着信履歴の画像や相手女性から渡された合意書等が主だったものになるでしょう。実際に警告を出してもらうまでには何度か警告申出人の事情聴取が行われるのが通例ですので、事情聴取の際の対応や警告を出してもらうにあたってポイントとなる点等についても併せて弁護士の指導を受けると良いと思います。以上の資料に基づき、担当警察官が警告書、口頭(急を要する場合)で警告することになります(ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則2条)。被害が拡大するようであれば、まず口頭でも相手方に警告するように要請してください。管轄の警察署でなくても(例えば、被害者の住所地を管轄する警察署が原則ですが、職場でも被害が発生した場合の職場を管轄する警察署)資料があれば、口頭で注意してくれる場合があります。
これらの警告によっても慰謝料請求の脅迫行為や名誉棄損行為等をやめない場合、警察に対する被害届の提出や相手女性の刑事告訴(捜査機関に対して犯罪事実を申告するとともに加害者の処罰を求める意思表示をすること。刑事訴訟法230条)を検討する必要があります。相手女性の被疑罪名は前述のとおり、恐喝未遂、名誉毀損、ストーカー規制法違反(同法13条1項違反)となります。刑事告訴については、犯罪捜査規範上は捜査機関の受領義務が明確に定められてはいるものの、殊に組織的かつ大規模に行われているような犯罪の場合は格別、一個人が被害者である犯罪の場合、捜査機関がなかなか告訴を受理してくれないことが多々あります。もっとも、本件では相手女性の犯行態様は相当悪質であるといえ、あなたが相手女性を強姦した旨の虚偽の文書が職場やインターネット掲示板に出回ったこと等によりあなたの受けた被害は甚大であるといえるため、捜査機関との折衝次第というところではあると思われます(当事務所ホームページ事例集1164番参照)。この点についても、弁護士と相談して法的な見地から証拠資料をまとめた上(具体的には脅迫メールの画面、職場に送られた怪文書、インターネット掲示板上の書き込みの画面等)、できれば弁護士に代理人として交渉してもらうと良いでしょう。特に名誉毀損およびストーカー規制法違反については、告訴がなければ公訴提起できないいわゆる親告罪であるため(刑法232条1項、ストーカー規制法13条2項)、この点の交渉が重要になってきます。
ここで、相手女性に対する勾留請求が認められた場合、相手女性には必ず弁護人が付くことになります(私選の弁護人が付かなければ、国が弁護人を付すことになります。)。相手女性の弁護人としては、起訴前か起訴後かを問わず、被害者の宥恕や告訴取消しを得て、少しでも相手女性の処分を軽くするため(不起訴処分や執行猶予付判決(刑法25条2項)の獲得)、あなたに示談交渉を持ちかけてくるでしょう。刑事告訴が受理され、相手女性が逮捕、勾留された場合、慰謝料減額や迷惑行為停止等の交渉についても、このタイミングであればあなたに有利な条件で合意を成立させることができる可能性が高まると思われます。
この点、仮にそのような合意ができたところで、また相手女性が恐喝や名誉毀損等を繰り返すのではないかと心配に思うかもしれませんが、相手女性が一度刑事手続きに乗った場合、相当程度の抑止力が働くことになると思われます。すなわち、示談交渉に乗っかって合意成立を目指す場合、そのタイミングとしては起訴前と起訴後の2通りが考えられますが、起訴前に合意(示談)を成立させた場合、仮に相手女性が不起訴になったとしても、同種前歴のある犯罪を再び行った場合、実際上初犯の場合より重く処分されることになるため、再犯抑止に相当程度の効果があるといえます。また、起訴後であれば,合意(示談)成立により、それが相手女性の良情状として斟酌される結果、執行猶予付きの有罪判決が予想されますが、執行猶予期間中に再び同様の犯罪を行った場合、執行猶予が取り消され(刑法26条1号)、執行猶予付判決に係る刑期と再び行った犯罪に係る刑期とを合わせた期間刑務所に服役することになるので、再犯抑止の見地からはかなり強い抑止力が働くといえます。
この点については、告訴受理も含めた刑事手続きの見通しや早期解決の利益との兼ね合いもあるため、弁護士とよく相談の上、方針決定することをお勧めいたします。
インターネットの掲示板にあなたの本名、勤め先、携帯電話番号等の個人情報とともに強姦等の事実が書き込まれている点については、相手女性や当該掲示板の管理者に対して当該書き込みの削除や場合によっては当該掲示板のサイト自体の削除要請を行うことが考えられます。また、掲示板の削除が難しい場合は、検索サイトの運営会社に対して検索結果削除請求を行い、当該掲示板のサイトを検索できなくする方法も考えられます。この点についての詳細は、当事務所ホームページの事例集1169番、1170番をご参照下さい。
以上のように、本件は法律的に問題となる点が多岐にわたり、折衝すべき相手方も相手女性や警察、掲示板のサイト管理者、検索サイトの運営会社など多数にわたる上、警察とも連携の上総合的な対応が必要となりますので、弁護士に依頼すべき必要性が高い事案かと思われます。関係資料等整理の上、お近くの弁護士に相談に行かれることを強くお勧めいたします。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
(請求異議の訴え)
第三十五条 債務名義(第二十二条第二号、第三号の二又は第四号に掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
(執行文付与に対する異議の訴え等に係る執行停止の裁判)
第三十六条 執行文付与に対する異議の訴え又は請求異議の訴えの提起があつた場合において、異議のため主張した事情が法律上理由があるとみえ、かつ、事実上の点について疎明があつたときは、受訴裁判所は、申立てにより、終局判決において次条第一項の裁判をするまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで強制執行の停止を命じ、又はこれとともに、担保を立てさせて強制執行の続行を命じ、若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。急迫の事情があるときは、裁判長も、これらの処分を命ずることができる。
(強制執行の停止)
第三十九条 強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
六 強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本
七 強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本
(執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(未遂罪)
第二百五十条 この章の罪の未遂は、罰する。
(目的)
第一条 この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
二 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
六 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八 その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2 この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。
(つきまとい等をして不安を覚えさせることの禁止)
第三条 何人も、つきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。
(警告)
第四条 警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は、つきまとい等をされたとして当該つきまとい等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において、当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。
(禁止命令等)
第五条 公安委員会は、警告を受けた者が当該警告に従わずに当該警告に係る第三条の規定に違反する行為をした場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。
一 更に反復して当該行為をしてはならないこと。
二 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
(罰則)
第十三条 ストーカー行為をした者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第十四条 禁止命令等(第五条第一項第一号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする。
第十五条 前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。
(警告の方法)
第二条 法第四条第二項に規定する警告は、別記様式第二号の警告書を交付して行うものとする。ただし、緊急を要し警告書を交付するいとまがない場合であって、当該警告の内容が複雑なものでないときは、口頭で行うことができる。
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
(告訴、告発および自首の受理)
第六十三条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
東京高等裁判所平成16年10月20日判決。
(同趣旨最高裁平成17年11月25日決定。)
「法は,個人の身体,自由及び名誉に対する危害の発生を防止し,あわせて国民の生活の安全と平穏に資するという目的を達成するため,恋愛感情その他好意の感情等を表明するなどの行為のうち,相手方の身体の安全,住居等の平穏若しくは名誉が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の行為を規制の対象とした上で,その中でも相手方に対する法益侵害が重大で,刑罰による抑制が必要な場合をストーカー行為として,相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり(最高裁平成15年12月11日第一小法廷判決・判例時報1846号153頁参照),このような法の趣旨や,ストーカー行為が様々な嫌がらせ的な行為を繰り返すという特質を有するものであることからすると,法2条1項各号に定められた行為が全体として反復されたと認められれば,各号所定の行為がそれぞれ反復されていなくても,同条2項の要件は満たされると解すべきであるから,これと同旨の判断を示した原判決に誤りはない。」