新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1271、2012/5/17 16:22 https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-konnpi.htm

【親族・会社経営者の婚姻費用分担・那覇家庭裁判所平成16年9月21日審判】

質問:私は、夫と現在別居中です。婚姻費用を請求しました。相手方は、給与明細と源泉徴収票を提示し、婚姻費用算定表による支払いを提案してきました。しかし、夫は会社の代表取締役であり、会社の経営は順調です。夫婦仲が良いときは、提示の給与ではとてもできないような生活をしてきました。このような場合でも、給与明細に従わなければならないのでしょうか?

回答:
1.夫が自営業者の場合、裁判所では原則として会社の申告書を基準に婚姻費用の金額を計算し、給与所得者の場合は源泉徴収票、給与明細を基準に計算することになります。しかし、これはあくまで実際の収入の資料にすぎませんから、現実の収入がこれらの資料と異なっているということであれば、実際の収入によって計算すべきです。現実の収入を何らかの資料により証明できる場合には、これを考慮して婚姻費用を算定する審判例もあります。
2.関連事例集論文1193番1168番1132番1056番1043番983番981番790番684番427番345番参照。

解説:
1 (婚姻費用とは)
  婚姻費用とは、衣食住の費用、子供の養育費など、結婚生活に必要な費用の事であり、民法760条で、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定されていることから、離婚が成立するまでは、双方の収入状況に照らして適切な額の婚姻費用を支払わなければならないと考えられています。家庭裁判所では、調停を経て、審判により、婚姻費用の支払いを命じています。

2 (婚姻費用の計算の根拠、資料)
  婚姻費用の算定は、計算式を図式化した婚姻費用算定表(当事務所のHPにリンクがあります)に基づいて算出されており、表では、双方の収入を基礎としています。
  本来、婚姻費用は、夫婦の生活において必要な経費ですから、個別的な事情により具体的に決定されるべきものです。しかし、円満な夫婦と異なり、離婚を前提とする利害の対立する夫婦間では、考慮すべき具体的な事情についても意見が食い違い、判断の前提となる夫婦間の一切の事情について考慮することは現実として不可能です。また、公平という見地からもある程度の普遍性、蓋然性をもった計算が必要となります。そこで、裁判実務では前述の算定表を設け客観的な基準を明らかにしています。しかし、もちろん原則は夫婦間の具体的な事情を考慮すべきですから、特殊な事情があればその点について主張してその主張を裏付ける資料を提出する必要があります。そして、収入についても、サラリーマンの場合、源泉徴収票の提出を受け、それを元に算定し、自営業者の場合、確定申告書の提出を受けて算定するのが通常ですが、実際の収入がこれらの資料と異なるということであれば、実際の収入に基づいて計算すべきことになります。

3 (経営者の特殊性、審判例の紹介)
  給与所得者でも、夫の両親が経営している会社から給料をもらっている場合や、自分が経営している会社から給料を支払っているという場合など源泉徴収票に現れる金額以上の金額が支払われていたり、税法上の関係で会社の経費になっているが現実は経営者の収入に当たるというという場合が考えられ得ます。すでに述べたとおり、婚姻費用の計算においては税務上の扱いとは違い、現実に相手方の収入と認められる金額は婚姻費用の分担の対象となるべき収入です。
  審判例では、医療法人の理事長である相手方について、相手方は医療法人の唯一の理事であり、その医療法人の利益は最終的には相手方に帰属するとかんがえることができるので、医療法人の利益と相手方の収入をある程度同視してもかまわない、という判断をしている審判例があります(那覇家庭裁判所平成16年9月21日審判)。
  (判旨抜粋)「この専従者給与額に相当する利益は,平成16年5月以降,医療法人に帰属しているところ,同医療法人は,相手方により設立され,自ら理事長となって業務を総理していることからすると,医療法人の財産は,現在,実質的に相手方に帰属し,最終的にも相手方が取得する可能性が高いと評価できること,その上,これまで専従者給与は婚姻費用として費消されてきたことも考慮すると,これを婚姻費用の分担額を定める収入とするのが相当と考えられるためである」

  ただしこの審判例は、相手方が自己の収入ではないと主張している部分(医療法人の青色申告専従者控除として妻に支払われていたことになっていた金額を相手方の所得に算入している。)についてこれを認めたものでしかなく、法人全体の利益全てを収入としたものではありません。それを追求するには、詳細な主張立証が必要になりますが、簡易迅速という要請も強い婚姻費用算定においては、そこまでの立証はできないことが多いでしょう。
  また、個人経営の有限会社の売り上げ及び経費から、給料とは別の収入を認定して婚姻費用分担の基礎収入にした審判例(東京家裁昭和40年5月10日審判)もあります。

  (判旨抜粋)「このような個人会社の代表取締役の場合その収入を明確に確定することは事の性質上殆んど不可能というべきであり、他方本件のように婚姻費用の分担額を定める場合においては必ずしもこれを確定することを要せず、相当程度幅のある認定をもつて足りるものというべきであるから、相手方が前記商店より受ける報酬は、賞与配当等一切のものを含め一ケ月平均少くとも金一〇万円を下らないものと推認し、これを婚姻費用の分担額決定の基礎となし得るものというべきである。」

4(経営者の収入についての考え方)
  上記の様に、家庭裁判所では婚姻費用分担請求事件において、経営者の収入について、提出された給与明細書の金額に従って形式的に判断するだけでなく、権利者からの主張立証の程度によっては、給与明細書の金額に加えて、会社の収入の一部を経営者の収入とみなす柔軟な判断をしているようです。
  会社の利益全てが代表者の収入である、と考えるには、(法人と個人を同一視するに足りる資料を提示した上で)法人格否認の法理を主張するなど、複雑かつ厳しい要件が認められなければなりません。それに比して、婚姻費用は直ちに支払いを開始させなければ別居中の配偶者の生活に関わります。そのため、緻密かつ迅速な証拠収集活動により、会社の利益状況、従前の生活状況(特にこれが重要)、相手方の収入の不自然さについて、できるだけ多くの資料を集め、会社の利益のうち、義務者の収入と考えることができる範囲をできるだけ広げていくことが必要でしょう(私見)。特に自営業者は、経費と生活費の境目があいまいになっていることも多いので、生活実態の立証は重要になると思われます。

5 (最後に)
  婚姻費用は、離婚紛争の最初に問題になる事項であるうえに、長期戦になることもある離婚紛争においてとても重要なポイントになります。相手方の収入状況についての立証が困難であると考えられる場合、早めに弁護士に相談し、しかるべき準備をして望んだ方が良いでしょう。

≪参照条文≫

 民法
(夫婦の氏)
第七百五十条  夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
(生存配偶者の復氏等)
第七百五十一条  夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
2  第七百六十九条の規定は、前項及び第七百二十八条第二項の場合について準用する。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条  夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
(婚姻費用の分担)
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

(参考審判例)
那覇家庭裁判所平成16年(家)第291号
平成16年9月21日審判
婚姻費用分担申立事件
1 相手方は,申立人に対し,平成16年9月から申立人と離婚又は別居状態解消に至るまで1か月金35万円を毎月末日限り支払え。
2 相手方は,申立人に対し,金85万円を支払え。

第1 申立ての趣旨
 相手方は,申立人に対し,婚姻費用の分担として月額50万円を支払え。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人は,平成6年11月22日,相手方と婚姻し,平成7年8月29日長女Cを,平成10年5月5日,二女Dをそれぞれもうけた。
 相手方は,平成16年1月中旬ころまで,申立人,長女及び二女とともに,本籍地のマンションで居住していたが,申立人との婚姻関係について悩んでいたことから,現住所にマンションを借り,それ以降,同所と本籍地のマンションとを行き来するようになり,同年3月上旬ころ,専ら現住所に居住するようになり,別居状態となった。
 申立人は,同年2月ころには,相手方と離婚することは考えていなかったが,相手方との話合いが進まないことから,同年5月1日,本籍地のマンションを退去し,長女及び二女を連れて,住所地に転居した。
 申立人は,現在,住所地において,長女(現在9歳)及び二女(現在6歳)とともに居住している。
(2)申立人は,同年6月18日,婚姻費用の分担調停事件を申し立て,同調停事件は,同年8月23日,合意が成立する見込みがないことから,不成立となり,本件審判事件に移行し,審問期日において,当事者は,調停段階での証拠を提出し主張を述べた。
(3)申立人は,住所地に転居後,アパレル関係の会社に勤務し,同年6月16日以降,毎月23万円の給与を受け,今後,同額の給与を受けることが見込まれるが,賞与が見込めないことから,総年収としては12倍をした276万円の収入が見込まれる。
 相手方は,歯科医師であり,平成7年7月ころ,歯科医院を開業し,平成10年10月ころ,医療法人を設立して,現在,同医療法人の代表者である理事長兼院長として稼働している。
 同医療法人は,申立人に対し,設立当初から理事としての報酬を支払っており(所得税法57条に規定する青色事業専従者に対する給与であり,以下,「専従者給与」という。),同専従者給与はこれまで当事者の婚姻費用として費消されてきたが,申立人が平成16年3月31日理事を辞職し,同年5月以降,申立人が転居したことを契機に支給されていない。一方でこれに対応して新たな雇用もされていないため,その利益分は医療法人に帰属している。
(4)なお,同医療法人は,相手方の両親が所有する不動産を賃借しており,相手方の両親に対し月額30万円を支払っている。また,相手方の父が代表者をつとめる有限会社は,相手方の父に対して,年間300万円の,相手方の母に対して,年間264万円の,それぞれ給与を支給している。

2 判断
(1)相手方の収入について
 申立人は,相手方の収入が年収3204万円であると主張し,その理由として,ア 平成14年度,平成15年度市民税・県民税特別徴収税額の通知書によれば,1800万円の給与所得があり,別居以降の資料は信用できないこと,イ 申立人は,平成14年度,平成15年度市民税・県民税特別徴収税額の通知書によれば,医療法人から年間840万円の給与を受けていたことになっていたが,これは税務対策のために専従者給与を計上していたのであり,今後,専従者給与として計上しなくとも,相手方は代表権を有する理事長であるから,なんらかの別の名目で相手方の実質的な収入とすることが可能であること,
ウ 医療法人は,相手方の両親に対し,相手方の両親の所有する不動産を賃借しているとして賃料月額30万円を支払っていることとなっているが,これらの賃料の振込先の預金通帳は相手方が管理をしているから,実質的には相手方の収入となっていること,エ 相手方の父が代表者をつとめる有限会社は,医療法人の税務対策用のトンネル会社であるが,同有限会社は,相手方の両親に対し,これまで年間300万円及び年間264万円をそれぞれ支給したこととなっているが,現実には相手方の両親は稼働しておらず,かつ,給与振込先の預金通帳は,いずれも相手方が管理しているから,実質的には相手方の収入となっていることなどを挙げる。
 これに対し,相手方は,ア 平成16年1月1日以降の医療法人からの理事長の報酬額は月額110万円であり,賞与がないことから,理事長報酬の年間総収入としては12倍をした1320万円であること,イ 申立人に対して支給していた専従者給与は医療法人における人件費の減少となるのみであり,相手方の収入とはならないこと,ウ 医療法人が支払う賃料は,相手方の両親の収入であって,相手方の収入ではないこと,エ 有限会社が支給する給料は,相手方の両親の収入であって,相手方の収入ではないなどと反論する。
 そこで検討するに,まず,医療法人から受ける報酬額については,年間1320万円であると認める。なぜなら,医療法人の議事録によれば,別居前の平成15年12月25日に,相手方にとって不利となる従来の月額100万円から月額110万円に引き上げられていることから,信用できると考えられるからである。
 次に,申立人が平成16年5月まで受給していた月額60万円(年額720万円)の専従者給与相当額については,その額を相手方収入に加算するのが相当と考える。なぜなら,まず,申立人がこれまで受給していた専従者給与の額については,医療法人の議事録によれば,別居前の平成15年12月25日に,相手方にとって不利となる従来の月額50万円から月額60万円に引き上げられていることから,信用できると考えられ,次に,この専従者給与額に相当する利益は,平成16年5月以降,医療法人に帰属しているところ,同医療法人は,相手方により設立され,自ら理事長となって業務を総理していることからすると,医療法人の財産は,現在,実質的に相手方に帰属し,最終的にも相手方が取得する可能性が高いと評価できること,その上,これまで専従者給与は婚姻費用として費消されてきたことも考慮すると,これを婚姻費用の分担額を定める収入とするのが相当と考えられるためである(分担義務者が個人会社の代表取締役である場合において,収入を単に源泉徴収票による報酬によるのではなく,会社の売り上げを考慮した実質的な報酬とし,その認定については,推認によった例として東京家裁昭和40年5月10日審判・家裁月報第17巻10号112頁)。もっとも,相手方は,今後,医療法人の収入を明らかにして反論することも考えられるが,専従者給与を加算した額を相手方の収入としたのは,平成16年5月時点において,当該時点の医療法人の収入がいくらであるかにかかわらないものであり,また,それ以降の医療法人の一般的な減収を理由とするのであれば,その事情は流動的であるから,数か月間の減少を示すだけでは足りないため,相手方が現在の収入を明らかにしても反論としては意味がない。
 次に,申立人は相手方の両親が受けていた収入が相手方の収入となると主張するが、現在の資料によっては,これを認めることができない。なぜなら,これが認められるかどうかについては,相手方及び相手方の両親の説明について審理し,客観的な証拠を踏まえた上,説明の合理性,整合性を吟味する必要があるところ,申立人において,早期の支払いを求めるため,これ以上の立証を希望せず,相手方も自ら証拠を提出しないというのであるから,結局,証拠が十分ではないといわざるをえない。
(2)申立人の収入については,年収276万円と認められる。 
(3)以上の年収を前提にして,当事者間の未成年子の数及び年齢並びに現在の監護者を前提にして,現実の婚姻費用の分担額を定めるために,目安となる標準的な婚姻費用の分担額を求めることとし,それについては,基礎収入の認定について,税法等で理論的に算出された標準的な割合と統計資料に基づいて推計された標準的な割合をもって推計することとし(家裁月報55巻7号155頁),標準的な割合を,申立人について40パーセント(概ねの数値として採用する。),相手方について34パーセント(給与所得者の最も高額者の場合の値として研究が本文中に掲げる数値)として,基礎収入は,申立人について,約110万円(276万円×0.4),相手方について約694万円(2040万円×0.34)であり,申立人世帯に振り分けられる婚姻費用は,(110万円+694万円)×(100+55+55)÷(100+100+55+55)=約545万円であり,義務者から権利者に支払うべき婚姻費用の分担額は435万円(545万円−110万円)である(月額36万円)。
(4)申立人及び相手方の主張する特に考慮すべき事情について
 申立人は,平成16年4月から6月の月額支出平均として約66万円の支出があり,今後も同額が必要であると主張し,相手方は,月額支出として同年5月に約105万円の支出が必要であったと主張している。しかしながら,世帯を別にすることにより発生する収入に応じた公租公課,職業費及び特別経費は既に考慮しているところであり,特にそれを超えて支出する必要性は見あたらない。特に申立人において主張する多額の子の補習教育費については,子の監護に関する事柄であって,相手方の了承がなく,このままその必要性を認めることができない。もっとも,相手方が本籍地所在のマンションの費用を支払っていることについて,そのいく分かは申立人においても負担すべきものとも考えられるが,相手方の現住所が本籍地マンションに近く転居が可能であることや,相手方と申立人との収入に著しい差違があることからすれば,特に考慮すべき事情には至らないと考える。また,当事者双方が互いに主張している子の保険掛金については,当事者双方が任意に支払っているものと評価され確実性が認められないから,斟酌することができない。なお,相手方は面接交渉の実施がされていないことをも減額の理由にするようであるが,この面接交渉の実施の可否,方法は別途の申立てによって審理されるべきであり,何ら定まっていない状況では特に考慮すべき事情とはいえない。
(5)結論
 以上のとおりであり,双方の収入に応じて求められる標準的な婚姻費用分担額を一応の目安として参考にした上,1で認定した事実その他記録上現れた申立人及び相手方の生活状況,資産その他一切の事情を考慮すると,婚姻費用分担額としては月額35万円とするのが相当であり,その始期としては,調停申立日である平成16年6月18日とするのが相当であり,平成16年6月の13日間分15万円(月額35万円の日割計算,千円以下四捨五入)と,同年7月及び8月分の合計70万円を合算した合計85万円を即時に,平成16年9月分以降については,離婚又は別居状態解消まで,毎月35万円を毎月末日限りそれぞれ支払う義務が相手方にはあるから,主文のとおり審判する。

東京家裁 昭39(家)5300号
昭和40年5月10日審判(婚姻費用分担審判事件)
判旨抜粋
個人経営の有限会社の売り上げ、経費から、給料とは別の収入を認定して婚姻費用分担の基礎収入にした例で、公平上妥当性がある判断です。
「三) 相手方の収入について
 相手方本人の各審問の結果並びに前掲調査官伊藤よねの調査報告書、相手方の昭和三九年分所得税源泉徴収簿兼賃金台帳および同じく給与所得の源泉徴収票、有限会社○○○○商店第一〇期決算報告書、および前記別件記録添付の当庁家庭裁判所調査官新田慶作成の調査報告書によれば相手方は海産物卸売業を目的とする有限会社○○○○商店の代表取締役として一応月額金七万円の報酬を受け、所得税等を控除した手取額は一応約六万二、〇〇〇円とされているが、相手方が右七万円の報酬を受けるようになつたのは昭和三六年七月であり、爾来現在に至るまでの約三年八ケ月の間一度も増額されていないこと、他方右商店の第七決算期(昭和三五年三月一日から昭和三六年二月二八日に至るもの)においては、同商店の一年間の総売上高は金八、六二八万七、六九三円であつたのに比べ、第一〇決算期(昭和三八年三月一日から昭和三九年二月二九日に至るもの)においては、これが一億四、九一二万九、三五四円にものぼりその為売上総利益は右第七期の六五三万〇、八九〇円に対し一、三九七万二、七八七円と約二倍になつており、他方経費である一般管理販売費は第七期に比べ人件費(給料)が約二倍になつている外は多少の増加をみせてはいるが著るしい変動はないこと、第一〇期の決算書類上は右商店の年間の純利益がわずか金五二万九、三九五円となつていることおよび右商店は実質上相手方の個人会社ともいうべきものであること、以上の事実が認められる。これらの事実に徴すれば、相手方が右商店から報酬として受けている金七万円というものは経常的ないわば社員の給料と類似するものとして受けている額であつて、賞与利益の配当等を含めた実質的な報酬は右金額を相当額上回り、一ケ月平均少くとも金一〇万円を下らないものと推認するを相当とする。けだし年間の総売上高が約一億五千万円に達するものである以上いかに卸売業であるとはいえ、一般経費を差引いた純利益がわずか約五三万円弱であるとはとうてい措信できず、かかる決算書類上の数字と会社の実際における数字との間には若干の距りがあること、特に個人会社の場合それが著るしいことは、前記証拠に照らし推認しうるところというべく、その個人会社の実権者である代表取締役の収入は単に決算書類上の数字をもつて律することができないというべきだからである。もつとも、このような個人会社の代表取締役の場合その収入を明確に確定することは事の性質上殆んど不可能というべきであり、他方本件のように婚姻費用の分担額を定める場合においては必ずしもこれを確定することを要せず、相当程度幅のある認定をもつて足りるものというべきであるから、相手方が前記商店より受ける報酬は、賞与配当等一切のものを含め一ケ月平均少くとも金一〇万円を下らないものと推認し、これを婚姻費用の分担額決定の基礎となし得るものというべきである。」

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