期間の定めのない継続的契約の解約の法理

民事|信頼関係破壊理論|東京地裁昭和57年10月19日判決|東京地裁平成11年2月5日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は個人で電子機器の加工・販売業を営んでいる者です。先日、得意先業者の1つから、当該機器の販売価格を20パーセント減額して欲しい旨の申し入れがありました。この業者は10年来の取引先で、毎月継続的に商品を納めていました。取引額は月あたり約60万円で、我が社の売り上げの約60パーセントを占めています。20パーセントもの減額となるとわが社の死活問題ですし、この業者の発注に対応するために高価なレーザーマーキング装置も購入していましたので、その業者に頼み込み、何とか従来の5パーセント引きの価格で発注を継続してもらえることになりました。ところが、それから1月経って、業者から「やはり20パーセント引きで合意してもらえないのであれば取引は継続できない。今月限りで取引を解約させてもらう。」という内容の通知が届きました。このような一方的な契約打ち切りが許されるのでしょうか。なお、業者への役務提供に関して、特に契約書や合意書は作成しておらず、契約期間についても特に取り決めはありませんでした。

回答:

1.契約自由の原則からすると、契約期間の定めがない限り、いつでも契約の終了を主張できることになるはずです。しかし、継続的取引関係を期待して、設備投資をしている場合や継続的な注文を前提として取引形態を築いている場合、突然契約が打ち切られてしまうと損害を被ってしまうことが予測されます。そこで、公平の原則や信義誠実の原則から、たとえ期間の定めのない契約であっても、一定の正当事由がない限り一方的な契約関係の解消は許されないと考えられており(「期間の定めのない継続的契約の解約の法理」と呼ばれています)、裁判例上も一方的な契約関係の解消を認めなかった例が少なからず見受けられます。

2.あなたとしては、契約関係を解消することはできないという法律的な根拠を十分理解した上で、得意先に対して、契約の継続について認めてもらうよう交渉する必要があります。その上で、今後のためにも契約期間や解約事由についての明確な取り決めを含んだ合意書の作成を目指して交渉を行っていく必要があると思われます。もっとも、契約継続の主張の当否の検討や事件の見通しについては具体的な事情をお聞きしなければ判断が困難であるため、一度関係資料等を持参の上、お近くの弁護士に相談に行かれることをお勧めいたします。

3.信頼関係に関する関連事例集参照。

解説:

1.(継続的契約の解約の制限)

あなたと相手方業者は、電気機器の加工、販売で毎月商品を納めているということですから売買あるいは請負という契約が成立していると考えられます。商品の納入ということだけを個別にとらえると、個々の商品の発注と受注で契約が成立し、商品の納入と代金の支払いが契約の履行ということで個別の契約は終了することになります。しかし、個々の契約を継続的に行うことで、個々の契約とは別の継続的な契約が成立している、と考えられます。個々の契約を継続的に行うという基本的な契約が成立していると考えられます。この基本的な契約も売買契約あるいは請負契約の一種なのですが、しかし、民法の定める売買や請負の規定は1回限りの取引を前提としているため、相手方業者との継続的契約関係については民法の規定をそのまま適用することはできません。

つまり、契約の自由という一般原則からすれば、継続的契約関係であっても、契約期間の定めがない場合、何時でも契約を解約できることになります(民法627条1項、651条1項、663条1項参照)。しかし、1回の商品についての契約ではなく、製品の製造・販売等を内容とする継続的取引関係においては、長期間の給付の継続を前提とした密接な信頼関係が生じることから、公平の原則や信義誠実の原則(民法1条2項)から契約継続に対する当事者の信頼を保護すべき要請が働き、たとえ期間の定めのない契約であっても、一定の正当な事由がない限り一方的な契約関係の解消は許されないと解されています。この理屈を「期間の定めのない継続的契約の解約の法理」と呼んでいます。継続的契約において、かかる事由のない一方的な解約に対しては、解約の効果の発生を否定し債務不履行又は不法行為に基づいて損害賠償請求をすることができます(民法415条、709条)。

あなたの場合、相手方業者の一方的解約が上記の正当事由に基づくものであるかどうかを検討する必要があります。もっとも、解約制限の根拠が公平の原則や信義則といった一般原則にあることから、正当事由の有無の判断にあたっては、契約の具体的内容、契約解消に至る経緯、契約関係の解消が両当事者に与える影響等の総合的判断が必要となるため、具体的な事情をより詳しくお聞きする必要があります。

2.(裁判例の紹介)

この点に関連して、裁判例をいくつか紹介しておきましょう。

(1)東京地裁昭和57年10月19日判決

本判決は、製品ラベルの大断加工を継続的に受注していた下請業者が一方的に取引を中止した元請業者に対して損害賠償を求めた事案についてのものです。

判決は、「前認定の事実によれば、原告と被告の間には、昭和四六年頃から原告が被告のハミングラベル印刷加工の加工体制に組み込まれて専属的にその一工程である大断加工を受持つ下請業者として、被告から継続的に毎月原告の売上げの八割方を占めるほぼ一定数量の発注を受け、納品するという継続的な取引関係にあったものということができ、しかも原告は、被告の発注に対応するため相当の投資をして大断加工に必要な機械設備、人員等の確保に努めてきたものということができるが、右のような取引関係に立つ当事者間においては、右のように受注者側がその受注のため相当の金銭的出捐等をなしている場合は、注文者は已むを得ない特段の事由がなければ、相当の予告期間を設けるか、または相当な損失補償をなさない限り一方的に取引を中止することは許されないと解するのが、公平の原則ないし信義誠実の原則に照らし相当である。」との判断を示した上で、具体的事情の下での特段の事由を否定し、6か月分の逸失利益の賠償を認めています。

(2)仙台地裁平成6年9月30日決定

本決定は、自動更新条項付きの期間の定めのある本件冷菓製品等の運送委託契約を結んでいた運送業者が相手方の冷菓製造業者より契約の解約通知を受けたことから、契約上の権利を有する地位を仮に定めること等を求めた事案についてのものです。

決定は、「本件契約は、期間の満了ごとに当然更新を重ねて、あたかも期間の定めのない継続的契約と実質的に異ならない状態で存続していたものというべきであり、債務者が債権者に対し平成五年一二月二〇日にした前記広域運送に関する契約を終了させる意思表示(広域運送契約終了の意思表示)は、右のような契約の一部を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、その実質において解約の意思表示に当たり、その効力を判断するに当たっては、期間の定めのない継続的契約の解約の法理を類推するのが相当である。」とした上で、具体的事情の下自動更新条項に基づく更新拒絶の効力を否定しました。もっとも、事案判断としては、予告期間の経過による契約終了は認めており、解約のための予告期間としては6か月が相当であるとした上で、同期間の経過により契約関係は解消されたとして、運送業者の申立てを却下しています。

(3)東京地裁平成11年2月5日判決

本判決は、自社ブランドのカミソリ製品の継続的な売買を一方的に解消する旨通知してきた米国法人に対してカミソリ製品の卸売業者が損害賠償請求等を行った事案についてのものです。

判決は、「継続的な取引契約が長期間にわたって更新が繰り返されて継続し、それに基づき、製品の供給関係も相当長期間続いてきたような場合において、製品の供給を受ける者が、契約の存在を前提として製品の販売のための人的・物的な投資をしているときには、その者の投資等を保護するため契約の継続性が要請されるから、公平の原則ないし信義誠実の原則に照らして、製品を供給する者の契約の更新拒絶について一定の制限を加え、継続的契約を期間満了によって解消させることについて合理的な理由を必要とすると解すべき場合があると考えられる。」とした上で、契約解消のための合理的理由の有無については、「本件契約における被告と原告との関係は、一方が他方を支配するというような関係ではなく、対等な取引関係にあったということができる。また、原告が本件契約の終了により多大の先行投資の回収ができなくなるとまでは認められない」などと述べてこれを肯定し、契約解消を認めています。

3.(本件における対応)

あなたの場合に、継続的な契約の解消が制限されるか否か、については①契約の期間が長期であること。②当該契約が占める事業の割合が高いこと。③継続的契約を前提に物的、人的な設備投資をしていること。等の点から、突然の契約の中止により、予期せぬ不当な損害が生じてしまうことが正義公平の見地から許されるか否か、を判断する必要があります。

そして、契約の解消が不当なもので許されないと考えられうる場合は、まずは契約期間や契約解約の事由についての明確な取り決めを含んだ合意書の作成を目指して、相手方業者との交渉を試みる必要があるでしょう。契約書も作成しないで取引を続けていれば、いずれ本件のようなトラブルが発生することが目に見えています。また、具体的な交渉に入っていく前段階として、内容証明等の手段であなたの法的主張を正確に相手方業者に伝えることも必須でしょう。あなたの場合、10年間もの長期にわたって取引関係が継続しており、売上額も大きく、多額の先行投資もしており、解約された場合の影響が甚大であるため、具体的事情如何によっては契約関係の継続を主張できる可能性も十分あると思われます。相手方業者が任意の和解に応じない場合、債務不履行に基づく損害賠償請求等の法的手段をとることが考えられますが、取引継続の合意が可能であれば多少の金額的妥協も必要かもしれません。

「期間の定めのない継続的契約の解約の法理」は、民法の一般原則である、信義誠実原則(民法1条2項、権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。)や、権利濫用禁止原則(民法1条3項、権利の濫用は、これを許さない。)、公序良俗原則(民法90条、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。)、公平の原則(日本国憲法14条1項、すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。)に基づいています。これらの法原則は、契約関係に至らない(契約関係の無い)当事者間の法律関係にも及び得るものです。例えば、いわゆる「契約締結上の過失」の問題は、取引関係に入る前であっても、契約締結交渉を通じて信頼関係が形成され、相手方に過度の期待を抱かせ、それによって損害を与えた場合は賠償責任を問い得るとするものですが、同様の観点から法解釈されています。契約書に定めていないからと言って、契約書を取り交わしていないからと言って、相手方の損失を省みず、どんなことでも主張できると考えるのは間違いなのです。このような法的なバランス感覚が法律解釈にはとても大切です。裁判官も弁護士も、皆これを学び、毎日鍛えています。

適切な方針選択や具体的な見通しについては、継続的取引関係の立証に足りる証拠資料の有無や相手方業者側の事情にも拠ってきますので、一度関係資料等を持参の上、お近くの弁護士に相談に行き、アドバイスを受けると良いでしょう。

以上

関連事例集

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※参照条文

民法

(基本原則)

第一条

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

(請負)

第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。(注文者による契約の解除)

第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

(委任の解除)

第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

(寄託物の返還の時期)

第六百六十三条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。